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五百八十三話 作業開始

 テロンさんの農作業のお手伝いをしたあと、開拓ツールをフル活用して開拓のお手伝いもした。その後、村を見て回って戻ってきたジーナ達から明るさゼロの報告を受け、ついに村人達とのご対面となった。前ギルマス、ブチ切れ。




「えーっと、前ギルマス、お久しぶりです?」


 そういえば前ギルマスってなんて名前だっけ? うーん、そもそも名前を聞いた覚えがないような……まあ前ギルマスでいいか。


 この状況で今更自己紹介もないだろう。


「……テロンに話を聞いた時はまさかと思ったが、本当に貴様だったとはな。落ちぶれた私を笑いに来たか、ずいぶんよい趣味をしているようだな。ボロボロになった私を見物できて満足か?」


 怒りの眼から急変、自嘲するように笑って自虐する前ギルマス。色々あったからだろう、精神が少し不安定になっているように見える。


 それにしても予想通り完璧に誤解されたな。俺も逆の立場だったら同じことを思うだろうから、気持ちは分からないでもない。


 ここで、そうです大満足ですって言ったらどうなるんだろう?


 ……追い打ちをかけたい気持ちがないわけではないが……止めておこう。対応を間違えたら勝てないと分かっていても襲い掛かってきそうな狂気を前ギルマスから感じる。


「わざわざ前ギルマスを笑いにこんなところに来るほど暇じゃありませんよ。今回は弟子達の修行と見聞を広めるために死の大地を見に来たんです。それでテロンさんから話を聞いたら、かなり大変そうだったので協力しようかと思ったのですが……」


 建前だけどね。


 俺の協力という言葉を聞いた前ギルマスの雰囲気が変わった。


 迷宮都市でギルマスにまでなったエリートだし、情緒不安定でも利益を敏感に察知したようだ。


 このぶんなら協力のメリットとデメリット、俺が途中で言葉を止めた理由も理解していそうだな。


 その敏感さを迷宮都市で俺と会った時に発揮してほしかった。そんなに精霊術師が嫌いだったの? それとも上り詰めてセンサーを曇らせちゃったのかな?


 それにしてもいきなりの険悪ムードで、村長さんとテロンさんを右往左往させてしまっているのが少し申し訳ない。


 村長さんからも人が良さそうな雰囲気を感じるし、村長さんも悪党ではなくて押し付けられた側っぽいな。


 それ以外の二人は少しガラが悪く見えるし、こっちは罪を犯した側かもしれない。この人達が開拓村の中心メンバーだとしたら村長さんの胃がとても心配だ。


「協力というのは、私やエルティナが居てもしてくれるものなのかな?」


 開拓村の村人を観察していると、ちょっと引き攣ってはいるが笑顔で前ギルマスが話しかけてきた。


 利益の為に怒りや屈辱を呑み込んだのだろう。恨み骨髄なはずなのに、怒りと屈辱が呑み込めるくらい開拓村での生活が辛いのかと思うと少し同情する。


「ええ、今更協力しないなんて言いませんから安心してください」


 元々が俺のミスの尻拭いだし、黙って前ギルマス達を助けるのがなんとなく不愉快だったから開拓村に顔を出しただけなので、元々対処するつもりだったから安心してほしい。


 完璧なマッチポンプなんだけどね。


「それはありがたい。どのような協力をしてくれるのだろうか?」


「弟子達の修行ですから俺はあまり手を出しません。弟子達にアンデッドの排除と柵の補強をしてもらうつもりです」


 あとは井戸を掘ってあげてもいいかもしれないが、水場は貴重っぽいからやりすぎになりそうで怖い。


 最後に俺がコッソリと開拓村に近いアンデッド達の巣を潰しておしまいにするつもりだ。そうすればある程度開拓村の現状も良くなるだろう。


 そういえばアンデッドの巣を探しに行ったはずのベル達が戻ってこないな。


 身の安全は心配しなくていいのだけど、少し、いや、かなり不安になってきた。


 滅茶苦茶張り切っていたから、かなり広範囲のアンデッドの巣を隅々まで探しまくっている気がする。


「おいおい弟子達ってもしかして後ろの嬢ちゃんとガキ達のことか? 俺達、本気でヤバいんだよ。あんたAランクの冒険者なんだろ、ケチケチせずに力を貸してくれよ!」


 少し憂鬱になっていると、黙っていたガラの悪い男の一人が口を挟んできた。


 ただ悪人のワガママというよりも悲痛な懇願だからか、ケチという言葉に不快よりも同情が先にくる。相当辛いんだね。


「弟子達の修行だから無料なんですが、Aランクの冒険者を雇うんですか?」


 俺の言葉にガラの悪い二人とテロンさんの視線が村長に集中する。


「む、無理だ。村にそんな金はない」


 全員ションボリしている。


「なら、タダで」


「修行は別の場所でも可能なんですが?」


 ガラの悪い男その二が図々しいことを言おうとしたので、ハッタリも兼ねて途中でカットする。


 ジーナ達の協力すらなくなるのが嫌なのか全員が押し黙った。少し可哀想だがジーナ達だけで相当良くなるはずだから安心してほしい。


「あの、食事の準備ができました」


 沈黙が支配する中、申し訳なさそうな女性の声が聞こえた。聞き覚えがある声に振り返るとエルティナさんが立っている。


 姿を見ないからどうしたのかと思っていたが、食事の準備をしていたのか。


 かなりやつれて女豹を思わせる雰囲気は薄れたが、なんか別方向に魅力が開花したのか、粗末な服を着ていても妙に色っぽい。


 俺と目が合ったエルティナさんが深々と頭を下げる。恨みで罵られる可能性も考えていたのだが、俺への嫌がらせを後悔して反省しているのかもしれない。


 ちょっと予想外だ。


「あぁ、食事ですか。あの、冒険者様方もいかがですか?」


 村長さんが俺達も誘ってくれる。


 たしかにこのタイミングなら誘うしかないだろうが、どう考えても食料事情が豊かとは思えないこの村で、四人分の食事を分けてもらうのは気まずい。


 あと、失礼だが普通に美味しくなさそうだから遠慮したい気持ちもある。


「いえ、俺達はまだ食事を食べる時間ではありませんし、食料も手持ちの物があるから大丈夫です。日があるうちに現場を確認しておきたいので、みなさんはお食事を済ませてください」

 

「それでしたら私が付き添います」


「いや、すぐに作業を始める訳ではありませんから、食事が終わってから合流していただければ十分です。みなさんも俺達のことは気にせずに食事を済ませてください」


 村長さんが付き添いを申し出てくれたが、ただでさえ食生活が厳しそうなのに一食抜かせるなんてとんでもない。


 戸惑っている全員の背中を押して食事に向かわせる。前ギルマスも拒否しないところを見ると、やっぱり食事は重要なのだろう。


 

「うわー……たしかに酷いね」


 ジーナ達に案内してもらって、柵に到着しての第一声がこれだった。


 酷いとしか表現できない。


 柵はかろうじて木材と言える程度の貧弱さだし、何度も壊されて修繕しているのかボロさがハンパじゃない。


 話に聞いていたアンデッドの残骸も想像していた以上に残されている。


 たしかに地面の汚れや埋めた跡らしき痕跡を見れば、ある程度は片付けられているのが分かるが、あきらかに間に合っていない。柵から離れれば離れるほど、アンデッドの残骸が残っている。


 この様子を見るに、柵が信用できないから柵の外に出て遊撃しているっぽいな。


 まず柵をどうにかするべきだけど、楽園みたいに石で囲うのは厳しいか。俺が居ないと石を動かす必要がある時に大変過ぎる。


 貧弱な柵を土で覆うのも悪くないが、それだと柵の内側から攻撃し辛い。土壁が壊れないなら有りだけど、土だから固めてもいずれ壊されるよね。


 そうなると木材の提供が無難だな。弱い最下級のアンデッドなら弓はもちろん投石でも倒せるし、柵の内側から攻撃できるようにしよう。


 あとは掘があったらかなり安全になりそうだけど、それはジーナ達の作業に余裕があったら考えよう。


「ジーナとマルコはアンデッドを手分けして処理してくれ。詠唱を忘れないように」


 残骸は点々と離れているしフクちゃん達は風で物を運ぶ力が弱いから、その場で燃やすか埋めるかした方が簡単だろう。 


 念のためにディーネに護衛してもらっておけば安全だな。また過保護だって言われそうだけど、もう気にしないようにしよう。


「分かった」


「うん」


 ジーナとマルコの指示出しが終わると、サラとキッカのやる気満々の視線が俺に集まる。


 私達にも仕事がありますよね! という目がベル達にソックリなのはなんでだろう?


 まあやる気があるのは良いことか。


「二人は木を出すから、枝と根を払ってくれ。二人も詠唱を忘れないようにね」


 魔法の鞄からストックしてある木を取り出し、枝払いをお願いする。


 森に行った時に間伐したほうが良い木をドリーやタマモに教えてもらってストックしたものだから、木の種類もバラバラだし乾燥も終わっていない。


 材木として扱うには不十分な物なのだが、それでもここで使われている見すぼらしい柵よりかマシだろう。


「分かりました」 


「キッカ、がんばる!」


 枝払いは二人に任せて、俺は次々に木を取り出して地面に並べる。さて、柵を造るのにどれくらいの材木が必要なんだろう?


 ……まあ余ったらこの村の人達が何かしらに利用するだろうし、多めに出しておけばいいか。



「バカな、あれは精霊術なのか? いやまさか、精霊術で風をあれほど的確に扱えるはずが……」


 声がして振り向くと、驚愕の表情の前ギルマスが立っていた。サラ達の枝払いを見て驚いたらしい。


 そういえば、俺が精霊術師の講習を開いたのは前ギルマスが居なくなってからだから、前ギルマスは精霊術師がある程度信頼できるようになったことを知らないんだったな。


 ふふ、ならば刮目して自分が貶した精霊術師に、どれほどの可能性があったのか目に焼き付けるといい。そして後悔するんだ。


 といってもここで前ギルマス達に精霊術師の素晴らしさを広めても、限定的過ぎてあまり意味がないから、自己満足でしかないんだけどね。


7/12日、comicブースト様にてコミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第45話が公開されました。裕太が固く何かを決意しますので、応援していただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公が精霊術師を名乗りながら全く精霊の力を 見せなかった事がそもそもの原因では?? 主人公が前ギルマスに精霊の力を見せたのって 最後のギルド内を植物だらけにした時だけでは?? …
[良い点] やっぱり出てきたなー 前ギルマスたちそっか聖霊術師が今どんだけ評価されてるのか知らないんだもんな いままでは抽象的なのが問題だっただけだからなー
[一言] コミカライズ拝見!このギルマスとエルティナが落ちぶれるの楽しみですね~作品序盤の見どころでしたし
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