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五百七十話 メルの気持ち

 鍛冶大会に劣化版ダマスカスのショートソードを出品したメルが、当然のごとく一位の座を獲得したが。当然のごとくゴルデンさんから物言いが入り、ギルドマスターを呼ぶために大会は一時中断になった。




 そもそも、大魔王ってどうすればいいのだろう?


 ゴルデンさんが勇者っぽいことを言うから、じゃあ俺は魔王、いや、大魔王だなんて思ったけど、大魔王のロールが分からない。


 フハハハハとか高笑いして、観客を巻き込んで悪辣なことをすれば大魔王っぽいのかもしれないが、普通に犯罪だ。


 さすがにこんなくだらないことで犯罪者にはなりたくない。


「なんだ急に黙って、バレるのが怖くなったのか?」


 ふむ、なんか調子に乗って偉そうに言うゴルデンさんの顔面に右ストレートをぶち込めば、大魔王ロールっぽいか?


 いや、それだと単に短気な乱暴者だな。


 それに、異世界に来て多少は荒事に慣れたとはいえ、ムカつくくらいで人を殴れるほど常識を捨てた……つもりもないこともない?


「……ふん、だがお前には助けてもらった借りがある。ちゃんと謝るなら許してやらんこともないぞ。まあ、これだけ大勢の中でしでかしたんだ、工房は諦めてもらうがな」 


 あれ? もしかしてゴルデンさんがデレた?


 別に借りを返すだけで、あんたの為なんかじゃないんだからね! ってこと?


 ……常識にとらわれていたが、今ならゴルデンさんの顔面に全力で右ストレートをぶち込めそうだ。


 ツンデレは二次元の美少女&美女にしか許されないということを教えてやる。


「ギルドマスターだ」


 右こぶしを固く握り締めていると、ギルドマスター登場の声が聞こえてきた。同時に右こぶしから力が抜ける。


 危ない、大魔王ロールとツンデレへの侮辱があいまっておかしなテンションになっていた。


 こんなくだらない理由で人を殴るのはただの馬鹿だ。ギルマス、ナイスタイミングです。


 ゴルデンさんが、さっさと罪を認めて謝っておけば的な目で見てくるが、いまだに少し殴りたい気持ちもあるから無視しておこう。


 あの人がギルマスか。


 白髪の老人なのに妙にガタイが良い。ギルマス自身も鍛冶師で、鍛冶の腕でギルマスにまで上り詰めたパターンかな?


「それで、作品に疑問があるとのことだが?」


 会場に入っていたギルマスが舞台に上がり審査員に尋ねる。


「そうだ!」


 ギルマスは審査員に尋ねたはずなのに、俺の近くに居たゴルデンさんがギルマスに駆け寄り大声で答える。とても楽しそうだ。


 あいつデレたんじゃなかったのか?


 ゴルデンさんがダマスカスなんてありえないとか、これだけの人数の前で納得がいかない評価はギルドの威信にかかわるとか、大袈裟な身振り手振りで訴えている。


 俺がギルドに手を回したと疑っていたから、ギルマスへの牽制のつもりなんだろう。手を回すどころかギルマスと会ったことすらないのにご苦労なことだ。


 おっ、ゴルデンさんのうるささに耐えかねたのか、ギルマスがこっちにやってくる。


「メルだったな。あの剣をお前が打ったというのは本当か?」


 ギルマスが俺に話しかけずにメルに話しかける。


 一瞬拍子抜けしてしまったが、メルが大会の参加者なんだから当然だな。ゴルデンさんが俺に絡んできたから俺が主役の気分だったが、本来の主役はメルだよね。


「えっと、その、ごめんユニスちゃん、降ろして」


 その本来の主役は、周囲の状況が怪しくなった時にユニスに抱きかかえられていて、締まらない状況だけどね。


「はい。あの剣は私が打ちました」


 とても不満そうなユニスから解放されたメルが、衣服を整えた後にキリッとした表情で返事をする。


「そ、そうか」


 ギルマスがとても戸惑った顔をしている。無理もない、年齢はともかく抱っこされていた少女から、製法が失われた剣を打ちましたと言われても返事に困るだろう。聞いたのはギルマスだけど。


「嘘だ! ダマスカスの剣をお前なんかが打てる訳がない。迷宮品に決まっている!」


 ここでも話に割り込んでくるゴルデンさん。正直ウザいのだが、ゴルデンさん以外の鍛冶師達も疑問を持っている様子なので排除しづらい。


「ゴルデンも納得していないし、周囲の鍛冶師達や私も疑問に思っている。お前が打ったことを私達の前で証明できるか?」


「できます」


「では、私達の前でダマスカスを打って見せろ」


 ん? なんか話がおかしな方向に向かってない? なんでみんなの前で打つことになってるんだ?


「ちょっと待った。疑問が出た時の手順は大会前に決めたでしょ。なんでみんなの前で証明することになっているんですか?」 


 無作為に素人を数名選出して確認するルールのはずだ。


「む、しかしだな、ダマスカスなんてもんを出されても、素人に判別は難しいだろ?」


「いや、ルール違反をしていないことを確認するだけで十分なんだから、ダマスカスを判別する必要はないですよね?」


「……それは……そうだな」


 ギルマスが残念そうに俺の意見を認めた。シレっとダマスカスの製造方法を確認したかったのだろうがそうはいかんぞ。


「なんだ、鍛冶師の前で打てない理由でもあるのか? まあ、素人なら誤魔化せるとでも思っているのかもしれんが、そんなことで俺達が納得すると思うなよ!」


 なんですと?


「……ねえゴルデンさん」


「な、なんだよ。脅されても俺は屈しないからな」


 そういうことじゃない。そういうことじゃないんだよゴルデン。慎重に答えろよ、今、俺は自分でも驚くくらいキレそうだからな。


 先程は我慢したが、返答次第では今度は我慢しないぞ。


「脅すとかじゃなくて……ねえゴルデンさん。鍛冶師が人前で自分の技術を晒す訳ねえだろバカがって、腹がよじれるくらい笑い倒したのを覚えてないんですか?」


「あっ」


 あっ、じゃねえよ。あの時、俺がどれだけ恥ずかしかったか分かってるの? あの屈辱に耐えてルールを制定したのに、それを忘れていただと?


「あれだけバカにしておいてその前言を撤回されるとですねえ、温厚な俺としても我慢できるかどうか微妙なんですけど、どう思います。一緒に笑い倒してくれたタブレさん」


「えっ、俺?」


 そう、自分は関係ないよねといった顔で他人面しているお前だ。


「……そうだな。たしかにゴルデンはそう言っていたな。だが、あの時はダマスカスなんてとんでもない物が出てくるとは思っていなかった訳でだな……」


「どんな物を出そうとルール内ならこちらの勝手ですよね? そもそも、この大会だってゴルデンさん達がメルに難癖をつけて嫌がらせを続けたから開くことにした大会です。そこから更に向こうの都合の良いようにルールを変更しろと? 鍛冶師ギルドは中立すら守れないんですか?」


 ゴルデンさん達を叩き潰すのはメルの腕でと思っていたが、そこまで舐められるのであれば話は違う。


 鍛冶師ギルドにもそれなりの代償を払ってもらうぞ。


「やるの? 裕太、やっちゃうの? この建物粉みじんにしちゃう? 大丈夫、人は傷つけないわ。裕太ってそういうの嫌いだものね」


 いや、粉みじんとかまでは考えていなかったんだけど……もうそれでもいいかなって気がしてきた。ギルドは粉みじんで、ゴルデンさん達は……ボコボコかな?


 間違いなくやり過ぎになるだろうけど、人が死ななければ許されるさ。だって大魔王だもの。


 それに、シルフィがとってもやる気だもん。後ろに居るから声だけしか聞こえないが、とてつもなくワクワクしているのが分かる。


 シルフィもゴルデンさん達の言い分には不快がっていたし、仕方が無いよね。


 さあ、鍛冶師ギルドよ、心して答えろ。間違えると建物粉みじんだからな。


 シルフィが気を利かせてくれたのか、室内に緩やかに風が吹き始める。


「ま、待つのだ。鍛冶師ギルドは中立だ。中立なのは間違いない。ただ、ダマスカスととんでもない物が出てきて少しだけ暴走してしまっただけだ」


 ギルマスが異常な空気に反応して言い訳をしているが、まったく言い訳になっていないと思うのは気のせいだろうか?


 これは粉みじん不可避か?


 シルフィにもう少し風を強くしてもらってもいいかもしれない。


「ん? メル、どうしたの?」 


 メルが必死な表情で俺の袖を引っ張るので尋ねたのだが返事はない。どうやら内緒話がしたいらしい。


 しゃがみこむとメルが俺の耳元に口を寄せてきた。


 ユニス、やましいことをしている訳じゃないから、犯罪者を見るような目は止めてほしい。


(お師匠様。ノモス様に公開でダマスカスを打っていいか聞いてくださいませんか?)


「えっ? なんで? もうここまでバカにされたら粉みじんでも良いと思うんだけど?」


 粉みじん! とか、待て! とか聞こえるが知ったことではない。


 これ以上メルが譲歩する必要はないよね。


 最悪逃げれば済むし、俺の立場なら逃げなくてもたぶんなんとかなると思う。


 メルは主犯じゃないし王様に頼めばなんとでもなる。なんともならなくても無理矢理何とかするから大丈夫だ。


「お師匠様、落ち着いてください。このままだと大変なことになります」


「大丈夫。大変なことになっても無理矢理何とかするから大丈夫だよ」


 大丈夫じゃないよって声が聞こえるけど無視だ。 


「えーっと、違うんです。私はこんな終わり方ではなく、しっかりと実力を示してみんなに認めてもらいたいんです」


「うーん」


 なんか鍛冶師ギルドをかばうための取ってつけた理由にも思えるけど、メルの真剣な目はそれだけじゃなく本音を語っているようにも見える。


「でも、それだとメルの技術を晒すことになっちゃうよ?」


 一応、王様の時には隠したし、技術を晒すにしてもこんなに大勢の中で晒すつもりはなかった。ルールを決めたのに今更技術を晒すのは違うのではないだろうか?


「大丈夫です、見られてもマネできるとは思えません」


 メル、庇うことに必死で気がついてないっぽいけど、それってここに居る鍛冶師達全員に喧嘩を売ってるよ。お前達には無理だって……。


 シルフィを見ると、しょうがないわねといった感じで肩をすくめている。


 ……元々メルが主役なんだし、まあいいか。メルの気持ちを優先しよう。


 ノモスに確認が必要だけど、特に秘密にしろとも言われていないし大丈夫だろう。


 あっ、どうせ技術を晒すのなら、ドルゲムさんを送り返さない方が良かったか?


 ……まああれだ、今頃牢屋だし、あとでフォローしておこう。


 それと、メルのおかげで助かったことも鍛冶師ギルドにはしっかり理解させないといけないな。


本日4/12日 コミックブースト様にて、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の42話が公開されました。

文明にたどり着いた裕太、合流したベル達、見どころ沢山ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
国王に堂々と喧嘩を売るメルさん、パネェっす! 他国より優位になるための交換条件として騎士を派遣を派遣したのに一般公開してしまうなんて…パねぇっす!
[気になる点] あーあ どんどん死体の山が出来る展開に。 少なくともギルド長、馬鹿3匹、不正をしようとしたクズ数人、馬鹿3匹の提出物を奪おうとしたゴミ数名は少なくとも逃げ場無しの死刑若しくは二度と戻れ…
[気になる点] 何故毎回、毎回いちいち話しを遠回りさせるんですか??
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