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五百五十三話 アポイントメント

 メルが若干熱血気味に性格が改変されたり、ノモスのツンデレが発動したのか本物のダマスカスを造ってみたりとなんやかんやあったが無事……? にメルの修行が完了した。ノモスの協力がないと造れないとはいえ、本物のダマスカスを造ったことはメルにとって良い経験になっただろう。


「メル。明日迷宮都市に行く予定だったけど、その前に王都に寄りたいんだけど構わない?」


 昨日はメルがひとまず修行を終えたということで盛大にお祝いをした。


 こっそりと俺のストレス発散も兼ねた宴会だったが、全員が笑顔の良い宴会だったからなんの問題もない。


 ただ、その宴会中にメルが修行して完成させた劣化版ダマスカス鋼を見て、予定を変更することにした。


「構いません。ですがお師匠様はあまり王都が好きではありませんでしたよね?」


 メルが不思議そうな顔をしている。というか、普段一緒に居ることが少ないメルにも俺が王都を避けているのが伝わっているのか。自分の分かりやすさにビックリする。


 でも、好きじゃないというのはちょっと違う。


「王都が嫌いなんじゃなくて、なんだか面倒に巻き込まれそうだから避けているだけだよ」


 それに俺がお願いしたこととはいえ、大精霊が派手にやっちゃっているから微妙に気まずいんだ。


「あぁ、そうでしたか」


「うん。そうなんだ。それでメルを王様に会わせようと思っているから、心の準備をしておいてくれ」


「えっ? お師匠様……なんでそういうことになるんですか!」


 おお、予想通りメルが慌てている。


「本物ではない劣化ダマスカス鋼でも、今までとは比べ物にならない出来の金属ができたんだ。面倒なことになるのは目に見えているから、王様に話を通しておこうと思っているんだ。その際に劣化ダマスカス鋼を造れるメルを紹介するのは当然だよ」


 劣化ダマスカス鋼を宴会中に見るまでは気にしていなかったけど、劣化でもあの出来はヤバい。


 インゴットの状態でさえ、魂を持っていかれるような輝きを放っていた。


「で、ですがわざわざ王様に会わなくても……」


 メルがテンパって瞳をグルグルさせている。


 こういう時に熱血なメルが出てきてくれると助かるんだけど、出てきたら出てきたで心配になるだろうからどっちもどっちだろう。


「メルが俺の庇護下にあることは周知されているけど、それでも騒ぎになることは免れない。というか馬鹿な奴が絶対にちょっかいを出してくるよ。なら、この国のトップに話を通しておいて、バカを減らした方が良いよね?」


 貴族がしゃしゃり出てきたらメルは確実にテンパる。それなら貴族がしゃしゃり出てこられないようにしておくべきだ。


 幸い便利な短剣もあることだし、使える時には使わせてもらおう。


「それはそうですけど、絶対にちょっかいを掛けてくるとは限らないですし、メラル様もメリルセリオも一緒です。王様に会わなくても身は守れます!」


 よっぽど王様と会いたくないのか、俺の意見に反対することがほとんどないメルがなんとか回避しようと頑張る。


「メラルとメリルセリオが一緒なんだから、最初からメルのことは心配していないよ。バカなちょっかいを掛けられたメラルがブチ切れて、迷宮都市を灰にしないか心配しているだけ」


「メラル様はそんなことしません!」


「本当にしない? 例えばしつこく付きまとわれてメルが体を壊したりした時、メラルは黙っていられる?」


 メルにではなく直接メラルに質問すると、メラルは黙ったまま視線を逸らした。自信がないのだろう。


 精霊にはドライな一面もあって、普通の契約ならそんな事態は起こらないと聞いている。


 でも俺の弟子達は違う。毎日共に修行をし、遊び、同じ釜の飯を食ったとても絆が強いパートナーだ。


 理不尽に傷つけられたら、契約精霊は怒るだろう。


 ましてやメラルは長年メル達の一族を見守りメルと苦労を共にしてきた筋金入りだ。メルが理不尽な目に遭ったらキレる可能性は非常に高い。


 肉体的な面では守りきれるだろうが、精神的な面だと微妙だ。


 フクちゃん達は浮遊精霊でまだまだ未熟だから、迷宮都市が滅ぶなんてことはないだろう。


 でもメラルは中級精霊だ。下級精霊のベル達でさえそこら辺の冒険者では相手にならないのに、中級精霊のメラルが本気でキレたら悲しい結末しか思い浮かばない。


 打てる手は打っておくべきだ。


「ですが……」


 王様に会うのがよっぽど嫌なのか、素直なメルがかたくなに抵抗する。


 無理もない。性格的にメルが嫌がることは俺にも分かっていた。最初はいきなり王城に連れて行って王様と会わせようかと考えたが、王城で凄まじいパニックを起こしそうなので先に伝えることにした。


 メルは覚悟を決めれば度胸が据わるから、伝えた方がスムーズにいくとも計算している。まあ、覚悟を決めるまでが大変だけど……。


「残念なことにメルは若い女の子だから、周囲から舐められている。あの三人組だってメルが相手じゃなかったらそこまでしつこくなかったはずだよ。だから俺だけじゃなくて、分かりやすい後ろ盾が必要なんだ」


 いつも一緒に居るのなら俺達だけで良いけど、メルは工房があるからいつも一緒という訳にはいかない。


 俺が知らない間に迷宮都市が灰になったら洒落にならない。


「私、女の子といわれるほど若くないです」


 ……そういえばジーナよりも年上だったっけ? 見た目が見た目だからどうしても年齢を低く見積もってしまう。


「でも、必要なことだとは理解できました。お師匠様、お手数ですがよろしくお願いします」


 おっ、覚悟が決まったようだ。


 もう少し説得に苦労するかと思っていたけど、周囲に被害が出る方向で話したからか割とスムーズに説得できたな。


「うん。任せておいて」


 少し騒ぎになるだろうが、メルを守るために全力を尽くす所存だ。




 ***




(ねえシルフィ。王様との面会予約ってどうすればいいのかな?)


 メルを説得した翌日、俺はお城の前で戸惑いまくっている。


 メルに偉そうなことを言っちゃったけど、俺、王様のアポの取りかたなんて知らない。


 当然勝手にお城に入るのは許されないだろうから、貴族街に入った時のように門番に短剣を見せればOKなのかな?


「うーん、そこまで細かく人の営みを見ている訳じゃないから分からないわ」


(そっか……)


 お城の宝物庫の中身は知っていてなんで王様のアポの取り方を知らないんだよと突っ込みたくもあるが、単純に興味がなかったんだろう。


 好奇心で動く風の精霊にはそういうところがある。


 なんか帰りたくなってきたが、メルに大見得を切った手前そうはいかない。


「でも、今回の場合は問題ないから大丈夫よ」


(なんで大丈夫なの?)


「貴族街で短剣を見せたでしょ。そのあと兵士が城に走っていたから、城でも裕太が来ることは把握しているわ」


(なるほど)


 言われてみれば当たり前だな。ある意味危険人物な俺が短剣を見せて城に行くって貴族街を抜けたんだ。報告するのは当然だ。 


 よし、じゃあ門番に話しかけるか。おっとその前に身だしなみをチェックしておこう。


 前回の失敗も踏まえて、ベリル王国で用意した一張羅を着てきたから服装的には問題はない……はずだ。


 高級クラブに行くのとお城に行くのではだいぶ違う気もするが、普段着よりかはマシだろう。


 馬車も用意するべきだったが、これは面倒だったので諦めた。宿の人に聞いたら、城に行くような馬車を使うには予約が必要なのだそうだ。


 ポルリウス商会かコスタ子爵に頼めばなんとかなる気もしたが、それはそれで面倒なお願いをされそうな気がしたので止めて歩いていくことにした。


 アポを取るだけだし、勘弁してもらおう。


 城門に近づくと、俺が話しかける前に門の脇からスッと執事っぽい人が現れた。もしかしなくても報告を受けて待っていてくれたのだろう。


 一礼して俺を出迎えてくれる姿がとても美しい。これが一流の執事というやつか。テレビで見た執事喫茶とは全然違う。


「裕太様ですね。ご案内いたします」


「あっ、いえ、今日はあれです。王様に紹介したい人が居て、その、それで都合が良い日時を聞きに来ただけですから、中に入る必要はありません! あの! いつなら大丈夫ですか!」


 執事の雰囲気に呑まれて挙動不審になってしまった。あまりにも住む世界が違うと、どうしていいのかが分からなくなる。


「裕太様でしたら緊急の要件がない限り陛下が拒むことはございません」


 なんかすごくVIP扱いされていて逆に怖い。


「えーっと、それほど急ぎという訳でもないですし会わせたい人物も連れてきていません。二、三日王都に滞在するので、都合の良い時間にお会いできれば助かります」 


 自分でも一流執事のオーラに当てられてテンパっているのが自覚できるので、用件だけ一気に伝えることにした。


 間違いなく礼儀から外れているのだろうが、礼儀を守ろうとしても無理っぽいのだからどうしようもない。


 こうなったら傷が浅いうちに退散するのが吉だ。




 ***




 なんとか予定を合わせて二日後の午後に王様と会えることになった。アポを取るだけでヘトヘトだ。


「ぷふっ!」


(シルフィ。いきなり笑ってどうしたの?)


「門番が裕太のことを話していたのを聞いていたんだけど、それが面白かったの」


(どうせテンパっていて、見苦しかったとかそんな感じだよね。自分でも分かっているよ)


「違うわ。二、三日王都に居るから会わせろなんて凄い度胸だ。陛下が短剣を与えるだけのことはあるって微妙に褒めているわ」


(それ、本当に褒めてる?)


「微妙にって言ったでしょ?」


 なるほど、たしかに言っていたな。褒めているか馬鹿にしているかで、褒める割合の方が微妙に大きいってことだろう。


 俺だって偉い人にそんなに簡単に会えないのは理解している。ただ、俺にとって王様の都合よりもメルの都合の方が大切だから急ぐだけだ。


 そういうことができる短剣を与えたのは向こうの方なんだから、それくらいの無礼は許容してもらわないと困る。


 あと、一流の執事っぽい雰囲気が妙に緊張するから、次からは美人なメイドさんでお願いしたい。


 どうせ緊張するのなら、執事よりもメイドさんの方がマシだよね?


本日12/14日、『精霊達の楽園と理想の異世界生活』のコミックス版38話がコミックブースト様にて更新されました。

裕太が迷宮都市でお上りさんをやっています。

2021/12/21 12:00まで無料公開中ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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[良い点] >「私、女の子といわれるほど若くないです」 まぁ女としてどうこうってより、鍛治師として20代くらい?だと若くて舐められるよねと。多分それくらいの年齢なら男でも。
[一言] 国家権力使うなら、おっさんども排除に使っても良かったような…。 そもそもメラルが宿った状態の店でおっさんどもに鍛治仕事やらせれば良かったんだよ!! メルを追い出そうとしてる時点でメラルが鍛…
[良い点] 裕太は「軍隊より強い精霊とどこでも会話できてGOもストップも自由にかけられる」だから 心理的余裕があって適当に生きてこれたけど メルはメラルを止められないし客商売だから世捨て人みたいなこと…
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