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五百五十話 芋煮会、大成功?

 完成した焼き芋をちびっ子達に振舞った。自分でもなんだこれ、美味し過ぎるだろうと思った焼き芋の力は素晴らしく、焼き芋を食べたちびっ子達をドンドン満面の笑みに変えていく。ただ焼き芋を配っているだけなのに凄く素敵なことをしているような気分になり、自分も幸せな気持ちになる。こういう幸せって良いな。




「では、御賞味ください」


 威厳を気にしながらもソワソワしているライト様に焼き芋を渡す。他の精霊王様方にも配ろうと思ったが目線で止められた。


 どうやらライト様のリアクションを見た後でいいようだ。


 俺とシルフィ、ライト様を除いた精霊王様方の視線がライト様に集まる。


「むぅ。色が紫? 変わった芋じゃな。じゃが蜜が芋からあふれ出しておる。裕太よ、これは芋を焼いただけなのかや?」


 ライト様が焼き芋を見ながら俺に質問をしてくる。精霊王なのだからドリーよりも長く生きている可能性が高いが、そんなライト様でもサツマイモのことは知らないらしい。


 光の精霊だから植物に関係ないということはないのだろうが、本職って訳でもないのだから知らなくても当然なのかもしれない。


 そんなライト様の顔には早く焼き芋が食べたい! という感情が丸分かりで浮かんでいる。威厳を保つために頑張ってそれらしくしようとしているのだろう。


 失敗しているのに本人だけがそれに気が付いていない。よくあるパターンだな。


 ダーク様なんか、慈母のような優しい微笑みでライト様を見守っている。退廃的な雰囲気と凄まじい色気を持ったダーク様の慈母な微笑みは、色々と破壊力があり過ぎる。


「はい。芋自体はドリーに協力してもらい高品質な物を用意しました。あと、ただ焼いただけではなく、芋が最高に美味しくなる焼き方で焼いた焼き芋ですから、ご満足いただけるものになっていると思います」


 実際、信じられないくらいに美味しい焼き芋だ。


 たぶんデンプンを増やしてとか熟成させてとかの大雑把なお願いを、ドリーがちゃんと美味しくなるようにバランスを整えて成長と熟成をさせてくれたから、これだけの味になったのだと思う。


 そういうことを微塵も感じさせずに優しく微笑んでいるところがドリーの凄いところだと思う。俺だったら手柄をアピールとまではいかないけど、こうやったから美味しくなったんだよとドヤ顔で説明する場面だ。


「ほ、ほう、なるほどのう。ならば期待させてもらおうか」


 威厳を保とうとしているがもはや我慢の限界も近いようで、ライト様の声が震えている。可哀想になってきたので、早く食べられるようにきっかけを提供しよう。


「はい。ですが焼き芋は熱々の状態が最高に美味しい物だと個人的に思っております。できましたら、冷める前に味をご確認ください」


「な、なんじゃと、それを早く言うのじゃ!」


 フォローしたつもりだったのに焦らせてしまったようだ。ライト様が慌てて焼き芋を半分に割り、黄金色の実にかぶりつく。


 最高の状態を逃したくなかったのだろう。


 焼き芋を口に入れた後、ライト様の動きが止まる。そしてプルプルと震えた後、無言のまま極上の笑みを浮かべてハグハグと芋にかぶりつくライト様。


 歓喜に震えてもらおうとか考えていたけど、本当に震えるとは思わなかったな。


 でも、無言で芋に夢中になる気持ちは俺もそうだったからよく分かる。



「むぐ、うみゃい。うみゃいのじゃ」


 芋を半分平らげたあたりでようやく感想が聞けた。少し焼き芋の衝撃から抜け出せたようだ。


 まあ、本当に少しで威厳は空のかなたに飛んで行っているけど……。


「あはは、ライトは本当に美味しそうに食べるね。裕太、僕達も焼き芋を貰っても構わないかな?」


 ライト様の可愛らしい姿を確認して満足したのか、ウインド様が焼き芋を要求してきた。断る理由はないので精霊王様方全員に焼き芋を渡す。


 焼き芋を口にした他の精霊王様方も笑顔にしてしまった。


 笑顔の配達人という職業が本当に有ったなら、この焼き芋さえあればトップをねらえそうだ。


 特にダーク様の笑顔が最高です。


「ふー……裕太、これは中々の甘味じゃな。さすがの妾も驚いたのじゃ」


 ダーク様の笑顔に魅了されていると、ライト様が話しかけてきた。いつの間にか正気に戻ったらしい。


「お気に召していただけたのであれば俺も嬉しいです」


「うむ。じゃが一つではまだ全てを理解したとはいえんと思うのじゃ。妾は精霊王として、中途半端な判断は許されておらんからな」


 ライト様がチラチラとこちらを見ながらそんなことを言ってくる。なるほど、もう一つ食べたいんだな。


「ではもう一つ味見を……といいたいところなのですが、ライト様に味を見ていただきたい甘味がまだ二つ残っています。どうされますか?」


 今までのライト様を見るに、甘味なら沢山食べられるタイプのようだが、それでもアース様のように無限に食べられそうという訳ではない。


 特に芋類はお腹にたまるから、二種類の芋煮を食べたうえで更に焼き芋のお代わりまでして残りの二種類を完食できるのかは疑問だ。


「む、そういえばそうじゃったな。まだ甘味は残っておるのじゃった。そちらの確認も必要じゃな。……では細かい確認はまた次の機会ということにしておくのじゃ」


 ライト様も自分の腹具合を確認し、お代わりを諦めたようだ。


 それでも巨大な石窯を未練がましく見ているので、かなり焼き芋を気に入ってくれたのだろう。


 次の機会とか言っているし、次にライト様が来る時は忘れないように焼き芋を準備しておこう。


「分かりました。では次の焼き芋の確認をお願いできますか?」


 次はホクホクタイプの石焼き芋。スイーツとしての衝撃はネットリタイプの方が上だと思うが、こちらはこちらで凄い。


 甘いのは当然なのだが、ホクホクな食感が芋の素朴な素晴らしさを増幅させ、ホッとする気分を演出しながらもいつまでも食べ続けられそうな魅力を備えている。


 ネットリが非日常の極みであるならば、ホクホクは日常の極み、そんな感じだ。


「うむ、よかろう」


 さっきは待たせてしまったから、今回はライト様が一番だ。ホクホクな焼き芋を存分にご堪能ください。




 ***




 ライト様にも他の精霊王様方にも、集まったちびっ子達にも緊急で用意した甘味は大好評だった。


 最後の焼きリンゴも、シナモンとバターと焼けたリンゴの香りがすでに満腹気味だった精霊達の食欲を刺激し、甘い物は別腹という概念を精霊達に教えることに成功した。


 まあそのせいで満腹になり、ポッコリお腹を空に向けてプカプカと空中を漂っているちびっ子達が続出しているのだが……これはこれで幸せそうだから問題はないだろう。


「ん? なんかお腹が空いている気がする? なんでだ?」


「裕太は今日味見のお芋しか食べていないのに動き回っていたから、お腹が空くのも当然なんじゃないの?」


 なんでだと首をひねっていると、シルフィが不思議そうな顔でお腹が空いている原因を教えてくれた。


「そういえばそうだった」


 芋煮、焼き芋、焼きリンゴと常に食べ物の匂いを嗅ぎ続けていたから、いつの間にかしっかり食べた気になっていた。


 普通なら匂いで空腹を自覚するんだけど、忙しかったし長時間良い匂いを嗅ぎ続けていたから色々と麻痺していたのだろう。


「裕太、大丈夫?」


 あれ? ……シルフィ、心配してくれているんだよね? なんか頭は大丈夫? ボケたの? ってニュアンスが含まれてなかった?


「う、うん、大丈夫。でもお腹が空いたから芋煮を食べてくるよ」


 一瞬ツッコもうかと思ったが、ろくな結果にならない気がしたので止めておく。


 味見とか延々と芋煮を作る作業の手伝いをしていたから新鮮味はないが、せっかくの芋煮会で芋煮を食べないなんてありえないし、芋煮を頂くことにしよう。


「あっ、裕太の兄貴!」


 巨大鍋の前に近づくとルビー達が凄い勢いで飛んできた。なんだかとてもテンションが高い。


「芋煮の鍋、全部ルビー達に任せちゃってごめんね」


 急遽甘味を作ることになり、ジーナ達やディーネ、ヴィータを残しはしたが、全体を仕切ってくれたのはこういうことに慣れているルビー達だ。


 楽園の仲間とはいえ、契約している訳でもないのだからちゃんとお礼は言っておかなければいけない。あとで何か考えて差し入れもしておこう。


「そんなことはいいんだぞ。それよりも裕太の兄貴、あれ、あれなんだぞ、えーっと……」


 ルビーは興奮しているのか、なかなか上手く言葉が出てこないようだ。何かあったのか?


「焼き芋と焼きリンゴでしょ」


 興奮しているルビーの横でそっとサフィがルビーにアドバイスをしている。


「そうだったんだぞ。焼き芋と焼きリンゴ、凄く美味しかったんだぞ!」


「私も興味があります。特にあのお芋、存在は知っていましたがあれほどの味ではなかったはずです!」


 興奮したルビーの後に、更に興奮した様子のエメまで詰め寄ってきた。なるほど、緊急で作ったからルビー達には話を通してなかったな。


 自分で言うのもなんだが、かなりの出来だったから料理と食べることが大好きなルビー達が興奮するのも無理はない。


「後でレシピを渡すよ。芋の方はドリーに聞いたほうが確実だと思う」


 お礼の差し入れを何にするか頭を悩ませるところだったが、レシピが十分なお礼になりそうで助かる。


「やったんだぞ!」


「さっそく聞いてきます!」


 ルビーは大喜びで飛び跳ねまわり、エメはこの場から離脱した。他の子達も手を合わせて喜んでいる。甘味のレシピの力は凄いようだ。


「えーっと、芋煮が食べたいのだけど……」


 いやまあ、自分で注いでも構わないのだが、どうせなら美少女に注いでもらった方が嬉しい。


「ふふ、味噌と醤油、どちらにしますか?」


 オニキスがこちらに気がついてくれた。ダーク様もそうだけど、闇の精霊って他の属性の精霊よりも大人な気がする。


「うーん、せっかくだし両方お願い」


 お腹も空いているし、ここは贅沢に二つの味を一気食いだ。


 オニキスに両方の芋煮を注いでもらい、落ち着ける場所に移動する。


 それにしても、巨大鍋にはたっぷり芋煮を用意したはずなんだが、なんかやけに深くまで長柄のお玉を差し込んでいた気がする。


 もしかしてあれだけたっぷり用意したのに、底の方まで芋煮が減ってしまっているのだろうか? もしそうなら精霊達の食欲を甘く見ていたことになるな。


 アース様以外にも大食漢の精霊が居るのかもしれない。


 そんなことを考えながら里芋を口に運び、ネットリとした感触を楽しみ味噌味のスープをすすってホッと一息つく。


 周囲には雪の中を楽しそうに遊びまわるちびっ子精霊と、満腹でプカプカと漂うちびっ子精霊。


 とても穏やかな時間が流れている。


 誰もかれもが満足気で、芋煮会は大成功と言って良いだろう。


「忙しかったけど、頑張って良かったな。でも、しばらくはのんびりしよう」


 芋煮を口に運びながら満足感に浸るが、酷く忙しかったのも事実なのでのんびりすることを決意する。


「ええ、のんびりするのもいいわね。じゃあのんびりとお芋のお酒について聞かせてちょうだい」


「うむ。必要な道具についても詳しく頼むぞ」


「お芋ならたっぷり用意しますから任せてください」


 独り言のつもりだったのに返事が返ってきてしまった。振り返るとシルフィ、ノモス、ドリーが上機嫌な様子で微笑んでいる。


 ……あれ? これってのんびりできないパターンなんじゃ……。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
農民に精霊が作った芋を自慢してあげれば良いのに
[良い点] みんなに振る舞うのに必死になって、気が付けば自分だけ食べてなかった(試食は除く)って・・この懸命さが精霊達に愛される所以なんだろうなあ。
[一言] 芋焼酎の情報なんか渡したら米焼酎、麦焼酎、黒糖焼酎、そば焼酎、泡盛とどんどん芋づる式に蒸溜所が増殖していくぞ! 気をつけろ!(手遅れ)
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