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五百四十七話 芋煮会開催

 芋煮会を楽しむために万全の準備をしていたはずなのだが、別角度から問題が襲ってきた。ライト様が楽しみにしている甘味を用意していなかったのだ。精霊王様を招待して宴会をするのなら、当然フォローしておくべき甘味……ライト様を悲しませないために緊急ミッションが始まる。




 即座に新たな甘味に取り掛かりたいが、沢山の精霊達が始まるのを今か今かと待ち構えているので、まずは芋煮会の開催を宣言しなければいけない。


 沢山の視線を集めながら巨大な二つの竈の前に立ち、魔法の鞄から芋煮がたっぷり入った巨大鍋を取り出して設置する。


 巨大鍋を見たちびっ子精霊達から驚きの声が上がる。甘味のことも気になるが、こうやってちびっ子達が驚く姿を見ると苦労が報われた気がして嬉しい。


 二つ目の巨大鍋も竈に設置し、芋煮会開始の挨拶だ。


「みなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます」


 いかん、なんか挨拶の冒頭が堅苦しくなってしまった。精霊達のほとんどが年上とはいえ、姿と同じく精神的にはまだまだ幼い。こんなんじゃ芋煮を楽しめないよな。軌道修正しよう。


「美味しい芋煮を沢山用意したから、沢山食べて楽しんでね!」


 ……某子供番組の爽やかなお兄さんを真似してみたが、俺がやるととてつもなく似合ってない気がして恥ずかしい。


 顔に血が集まるのが自覚できるが、ちびっ子達には分かりやすかったらしく元気なお返事が返ってきた。さすが体操のお兄さん、真似しただけでもちびっ子達には好印象のようだ。


 このままなんちゃって体操のお兄さんスタイルで押し切ろう。


「じゃあ芋煮を配るからみんな並んでねー、まずは味噌味からだよー」


 俺の声にちびっ子達がワラワラと列になる。かなりの人数な上にほとんどが飛んでいるから、蛇行して東洋龍みたいになっている。


「並んだ!」


 先頭のちびっ子が俺に向かって元気に並んだことを教えてくれた。ベルに似た髪と瞳の色だし、この子も風の下級精霊かな? 


 元気いっぱいな男の子で、目をキラキラと輝かせている姿が微笑ましい。


「はい、裕太」


「ありがとうシルフィ」


 シルフィがお盆に食器と器を並べた物を手渡してくれる。人型の精霊だからオーソドックスにオボン、大きめのお椀、フォークとスプーンのセットだ。


 沢山精霊が来るから、事前に配膳のしかたを打ち合わせしておいて良かった。大精霊やルビー達、ジーナ達も補助についてくれることになっているから、手早く熟せば甘味作成の時間を確保できるだろう。


「はい、熱いから気をつけて食べるんだよ」


 お椀にたっぷりと芋煮を注ぎ、ソワソワしている幼児に渡す。精霊は火傷しないと思うが、ついつい注意してしまうのは見た目が幼児だからだろう。


「うん!」


 元気いっぱい返事をした幼児は慎重にオボンを受け取り、ふわふわと列を離れていく。食べて喜ぶ姿も見たいところだが、ワクワクした様子の次のちびっ子が待機しているので我慢だ。


 ん? そういえば先に精霊王様方に芋煮を渡さないと不味いんじゃ……精霊王様方もちびっ子達に混ざって列に並んでくれていた。


 そういう気さくで腰が軽いところがとても助かります。


 問題がなくなったので、シルフィ達の補助を受けて次々と芋煮を配る。


 受け取ったちびっ子達も様々な性格の子達が居て、良い場所に移動してゆっくり芋煮を味わう子や、少し列から離れた場所で我慢できずに食べてしまう子。


 遠くに移動した子達のリアクションは分からないが、近くで食べてくれた子達のリアクションは直接見られるから励みになる。


 熱さをどれだけ感じるかは分からないが、熱々ネットリの里芋をハフハフしながら頬張り、味噌スープをズズっとすすってニパリと笑うちびっ子達を見ると本当に頑張って良かったと思う。


 まあ、それでもあの単純作業の繰り返しをもう一度やるのはごめんだけどね。


「あっ、アース様。実はアース様用に大きな器を用意しているんですけど、使いますか?」


 アース様の食欲の前では普通のお椀では絶対に効率が悪いと思い、鍋並みの大きさのお椀を用意しておいた。


 それをアース様に見せると、コクコクと興奮した様子で頷くアース様。どうやら気に入ってくれたようだ。


 特注の器にたっぷりと芋煮を注いでアース様に渡す。


 大きな器を気に入ってくれたようで、器を見つめるアース様の雰囲気がなんだか華やいだように感じる。


 器にまで気が回る俺って有能! なんて思いたいが、それならライト様の甘味を忘れてしまっていたので有能ではないのだろう。少し悲しい。


「この料理、豚汁ってやつに似てるな。楽しみだ」


 次はファイア様か。そういえば前の宴会の時に豚汁をお気に入りだと言ってくれていたな。なら、芋煮も気に入ってくれるだろう。


「自信作ですのでご期待に応えられると思います」


 自分で作ったのならこれほどの自信はないが、味を決めたのはルビー達だから自信をもってお勧めできる。


 ホウホウと目を細めるファイア様に芋煮を渡すと、次はダーク様。


「美味しそうね。ふふ、裕太が頻繁に宴会を開いてくれるから、精霊達の楽しみも増えたわ。ありがとう」


「は、はい。いえ、俺も楽しんでいますし、みんなが喜んでくれるなら嬉しいです」


 妖しい魅力を漂わせた妖艶な美女からの突然のお褒めに、少しテンパってしまった。


 それにしても、ダーク様と芋煮……とてもミスマッチに思えるのに、まったく違和感がないのが不思議だ。ダーク様の魅力が芋煮の素朴さを覆い隠したのか?


 続いてウインド様、ウォータ様と問題なく芋煮を手渡し、最後がライト様。


「のう裕太」


 若干ソワソワ気味のライト様が話しかけてきた。


「はい、なんですか?」


 なんとなく聞かれることは分かるが、できれば違っていてほしい。


「今日の料理はこれだけなのかや?」


 やっぱりその質問か。


 ……ここで大見得を切ると後が怖いが、薩摩芋さえあれば焼き芋はほぼ確実に準備できる。


 米もコーヒーも大豆も、そしてコンニャク芋まであったんだ。薩摩芋がないとは考え辛いから、期待させても大丈夫だろう。


「もちろんこれだけではありませんよ。みんなが芋煮を十分に食べた後に、甘味の新作をお出ししますので楽しみにしていてください」


「む、そうか。では、その新作も妾がしっかり確認してやるのじゃ」


 たぶん、威厳がある顔を保とうとしているのだろうが、耳がピコピコしていて嬉しさを隠しきれていないところが可愛い。


 見えないけど多分尻尾もピコピコしているんだろうな。


「ええ、お願いします」


 さて、自分を追い込んでしまったが、期待させたからには全力で知恵を絞りだしてライト様に喜んでもらおう。


 その前に、まずは全員に芋煮を配らないとな。




 ***




「ノモス、ドリー、召喚!」


 芋煮の最初の一杯を全員に配り終わり、即座にシルフィに畑まで連れてきてもらった。ちびっこ達が喜ぶ姿を見ていたかったが、ライト様を喜ばせる為ならしょうがないだろう。


 芋煮会場はジーナ達とルビー達に任せてきた。彼女達なら上手にやってくれるだろう。


「ふむ。裕太、いきなり召喚してどうしたんじゃ?」


 ノモスの態度が柔らかいのは助かる。これが宴会でお酒を出していたら、怒りはしないが不機嫌にはなっちゃうんだよな。


「うん、悪いけどノモスには大きな石窯を作ってほしいんだ。魔法の鞄で運ぶから移動できる物をお願い」


「ふむ、それくらいなら構わんが、また大きな物を造るのか?」


 言葉には出さないが、大きな物を造って後悔したばかりじゃろとノモスの目が言っている。


「今回は焼くだけだから大丈夫。ただ、会場に居る全員に振舞うから、大きな窯が必要なんだ」


 焼いて収納してを繰り返せば数は揃うが時間が足りない。それに、チマチマと鞄から取り出して渡すよりも、巨大な窯から直接渡した方が絶対に楽しいはずだ。


 芋煮の時と同じような考えだが、焼き芋は切ったり炒めたりする行程がないから問題ない。


「ということは、私は焼く物を育てるんですね?」


「うん、そういうこと。紫色の芋が必要なんだけど、ドリーは知ってる?」  


 大丈夫だとは思うが、ここで薩摩芋がなかったら詰む。


「紫色のお芋ですか……ああ、知っています。いくつか種類がありますが、どれのことでしょう?」


 知ってくれていて良かった。これで薩摩芋の詳しい説明をする時間が省ける。


「えーっと、種類についてはよく分からないけど、デンプンが多く含まれているやつでお願い。種類は……中身がホクホクになるタイプとネットリするタイプの二種類があったら助かるよ」


 石焼でじっくり焼くことでデンプンが糖に変わって甘くなるはずだから、デンプンが多いのを用意してもらえば問題ないはずだ。


 あとはホクホクタイプとネットリタイプ。俺はネットリ派だけど、精霊が沢山居るから両方用意しておいたほうが無難だろう。


「分かりました。育てる時にデンプンを増やすことも可能ですが、どうしますか?」


 増やしてもらった方が甘くなるんだが、デンプンが増え過ぎたらどうなるんだ?


「その芋って野生? それとも一般で育てられているのかな?」


「一部地域では主食として育てられています」


「主食? ということはあまり甘くないの?」


「甘さはそれほどなかったはずです」


 あれ? 品種改良されていないと薩摩芋は甘くないのかな?


 そうなるとデンプンは増やしてもらった方がいいよね。あっ、そういえば薩摩芋って熟成させないと甘みが強くならないって聞いた覚えが……ヤバい、かなり大切なことを忘れていた。熟成させる時間なんてないぞ。


「……えーっとドリー……収穫した芋をドリーの力で短期間に熟成させたりできる?」


「熟成ですか? ええ、収穫してもお芋はまだ生きていますから、熟成させることは可能です」


 セーフ。焼き芋計画が頓挫したかと思ったが、熟成が可能なら問題ない。


 さすが森の大精霊。ドリーが契約してくれて本当に助かる。


「じゃあデンプンを多めでお願い」


「分かりました。デンプン多めの二種類ですね。では、種芋を用意しますから、植え付けをお願いします」


 ドリーは自力でできる部分は自力でやることを好む。それは大切なことだと思うのだが、時間がない今は少し辛い。


 まあ、これだけおぜん立てしてもらっていてワガママは言えないし、気合で終わらせよう。ベル達も召喚して手伝ってもらえばそれほど時間は掛からないはずだ。


 うぅ、新作の甘味を考える時間がない。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] さつまいもの甘味と言ったら大学芋っしょ♪
[一言] 次は栗とか?果物でケーキとかプリンやゼリーあたり用意しとかないとね
[一言] サツマイモに砂糖加えて芋きんとんにしたいね 芋きんとんならいろんな形にできるので目でも楽しめますしね 布できゅっと包むだけで和菓子っぽくなりますし
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