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五百四十六話 緊急ミッション

 芋煮の材料もそろい巨大鍋も完成した。想像以上に迫力がある巨大鍋にどうせなら大宴会でもするかと安直に考えた結果、調理しても、調理しても、調理しても終わらない巨大鍋を満たす作業が始まる。今思うのは、鍋の大きさは半分で良かったなということと、二つも必要ないということだ。




 艱難辛苦の果てに……というのは少し大げさだが、自分的にはそう思える単純作業の繰り返しを乗り越え、ついに宴会当日まで辿り着いた。


 その作業量は……思いだすと頭が痛くなるので考えないようにしよう。とにかく頑張ったし、みんなの協力がなかったらできなかったイベントだ。


 みんなにも楽しんでもらって、俺も精いっぱい楽しもう!


 そのためには準備もしっかりしないといけない。


 俺的には宴会は夜というイメージだが、芋煮会だし今日は昼から開催の予定。時間があまりないから急いで準備をしよう。


「シルフィ、雪島までお願い」


「ふふ、張り切っているわね」


 そりゃあ苦労したもん、張り切るよ。


 シルフィに微笑ましい物を見るような目で見られながらも、雪島に到着する。


 うん、吹雪いてないし雪もいい感じに積もっている。悪くない環境だ。雪の島のいたるところに点在する雪兎や雪ダルマは……数が多すぎて多少不気味だが宴会の飾りつけの一部と認識しよう。


 ベル達やサクラ、フクちゃん達、遊びに来た精霊達が作った物を宴会だからと壊すのはしのびない。


 ジーナ達やメル達にも雪島を楽しんでほしいのだが、クッション作りや修行が忙しくて遊べていない。仕事をお願いするにしても量は考えよう。


 ただ、布のランクは下がるが自分のクッションも作れるので、みんな割りと喜んでいるから結果オーライだ。


 布のランクが下がったのは、メルが魔術布なんて超高級品には怖くて座れないと言ったからだ。


 言われてたしかにその通りだと納得したので、布のランクを落とした。日本で言うならカシミヤ100%の超デリケートな高級素材でクッションを作るようなものだ。


 そんなの俺だって怖くて座れない。


 まあ、シルフィ達大精霊は汚さないだろうし高級素材とか気にしないから魔術布で作っている。


 ベル達ちびっ子組のクッションは、ベル達は気にしないだろうが俺達がハラハラすることになりそうなので、俺達と一緒の汚してもいい布地で作ることにした。


 まあ、その布も雪の大精霊への賄賂目的としてはランクが低そうだったので除外したが、ダンジョン中層で手に入れた割と良い布だから、座り心地に問題はないだろう。


 おっと、なんかクッションに思考が逸れてしまったが、今は芋煮会の準備の時間だった。イベント成功の為にも、今は芋煮会の準備に集中しよう。




 ***




 準備はみんなに手伝ってもらい、バッチリ整った。


 ベル達にはジーナ達と協力して沢山のカマクラを造ってもらった。遊びに来た子達がカマクラの中でハフハフと芋煮を食べる姿を想像すると、それだけでホッコリする。


 器などの食器もメルの意見を聞きながらノモスに量産してもらったから、人型や赤ん坊だけではなく、動物型の精霊でもしっかりと芋煮を味わえると思う。


 宴会場の中心は雪を払い、巨大鍋に合わせた巨大な焚火台を二つノモスに作ってもらい、そこにはすでにたっぷりと薪をくべて火が燃え上がっている。


 芋煮会の開催と同時に、ここに巨大鍋を設置してみんなを驚かせる作戦だ。


 ちびっ子達のリアクションが楽しみだな。


「裕太、来たわよ」


 シルフィに釣られて上を見ると、巨大なドラゴンが上空でホバリングしていた。


 ウインド様が到着したようだ。


 相変わらずの巨体で、サイズを縮めなければ今回の目玉の巨大鍋もお猪口としてしか使えなさそうだ。


 あれ? もしかしてウインド様達の生活空間には、今回の巨大鍋以上に巨大な食器が有ったりするんじゃ?


 ……まああれだ、ウインド様は驚かないかもしれないが、ちびっ子達は驚いてくれるはず。今回はそれで満足しておこう。


 ウインド様の背中からなにやらワラワラと沢山の物が飛び出してきた。ウインド様が運んできた今回のお客様達だな。


 まずはしっかりとお出迎えして、思いっきり楽しんでもらうことにしよう。




 お出迎えしようとしたのだが、数が多すぎて目の前にはとてつもなく混沌とした空間が広がっている。


 浮島の中では一番小さな島ではあるが、それでもそれなりの広さはある。


 広さがあるはずなのだが、芋煮会を盛り上げるために来客数を普段の倍ほど緩和したら、ビックリするくらいの密度になってしまった。


 しかも、大半が浮遊精霊や下級精霊のちびっ子達、それに加えて中級精霊の子供達。


 普段から精霊の様々な種族の子供姿は見ているが、数が倍になって一堂に会すると見ただけではなんの集まりか分からない。


 動物園の触れ合いコーナー(ファンタジー生物満載)に幼稚園の遠足が三つ四つ重なれば似たような光景になりそうだ。


 まあ、それでもファンタジーな生物はいないし、鳥以外は空を飛ばないからこっちの方が混沌としているだろう。


「やあ裕太。お招きありがとう」


 目の前の光景について考えていると、ちびっ子達の中からファンタジー生物の代表格である小さなドラゴンが現れた。


 うん、ウインド様だな。いつの間にか小さくなって降りてきていたようだ。しかしあれだな、小さくなられると精霊の気配がよく分からない俺では他のちびっ子精霊達と区別がつかない。


 まあ浮遊精霊と間違えたくらいで怒るタイプじゃないからライト様以外は問題ないだろう。


 ライト様は威厳を大切にしているから、絶対に間違えてはいけない。丸っこいフォルムの兎には注意を払おう。


「いえ、急な招待で申し訳ありませんでした」


「あはは、楽しい事なら急でも大歓迎だよ」


「そういって頂けると気が楽になります。今日は楽しんでいってください」


 本当は全然気は楽になってないけどね。ウインド様の背後に現れたアルバードさんが達観した表情をしていてなんだかとても申し訳ない。


 ウインド様と挨拶した後、他の精霊王様方にも挨拶をしたのだが……ここで大問題が発覚した。


 アース様が新たなグルメにワクワクした様子なのは問題ない。


 俺の意見を参考にルビー達5人の上級精霊が腕を振るってくれた芋煮は、醤油味も味噌味も絶品でかならずアース様を満足させてくれるだろう。


 問題はライト様。


 挨拶を終えて別れる時、思わずといった様子で呟かれたライト様の独り言。


『今回の甘味はどんなのかのう? 楽しみなのじゃ』という言葉が耳に飛び込んできた時、俺は自分の失敗を覚った。


 今まで精霊王様方を招待した時には、必ず新しい、もしくは改良した甘味を用意していた。だからライト様が期待してしまうのも無理はない。


 だけど、今回は芋煮会をすることに集中していて、甘味のことはまったく考えていなかった。


 ライト様は可愛らしい見た目だが精霊王だ。訳を話せば理解してくれるだろう。


 でも、俺のいないところで確実にションボリする。


 それは……胸が痛い。


 どうやら俺の中でライト様はベル達と同じところに分類されているらしい。ならばやるしかない。


 自分が善人だとは思わないが、それでも助けてくれた精霊達には真摯に向き合ってきたつもりだ。


 雪の大精霊に対しては少し怪しいところがあるが、それでも義理は果たしていると思う。


 そんな俺が、ベル達と同じカテゴリーに分類されているライト様をションボリさせることなんてできない。


 だが、時間がない。


 甘味を出すなら芋煮会を開催して、みんながある程度満足するまで食べて飲んだ後。だいたい二時間、粘って三時間くらいか?


 そんな短時間で新たな甘味……難しい。


 アイスならいくつかのフルーツでバリエーションをつけるのは可能。だけど、雪の中で芋煮会の後に出す甘味がアイスってのはどうなんだ?


 風情に欠ける気がする。


 御汁粉か善哉がベストなんだけど、餡子はまだ完成していない。


 餡子は日本人にとって親しみ深い物だから慎重に挑戦したいなんて考えずに、さっさと完成させておけばよかった。


 今から小豆を水につけて煮てなんてやる時間はないし、完成度も微妙な物になるだろう。


 餡子系は駄目だ。


 芋煮とも雪景色とも合い、なおかつ短時間で完成させられる甘味。温かい物がベスト。


 芋繋がりで焼き芋とか駄目かな?


 蜜たっぷりの薩摩芋ならドリーに頼めばなんとかなりそうだし、それを石焼でじっくり時間を掛けて焼けば……収穫時間等を含めても三時間ならギリギリ間に合いそうだ。


 よし、石焼芋は確定。


 できればゆっくり育てて、ベル達と芋掘りなんかして楽しみたかったが、今はそんなことを言っている場合じゃない。


 みんなが焼き芋を気に入ったら改めて焼き芋イベントを開催しよう。


 これで甘味新作ゼロという失態は防げた。だが、正直石焼芋だけではインパクトに欠ける。


 石焼芋は素晴らしく美味しいが、あれは日本の文化の下地があるからこそ、あの窯を積んだ軽トラにワクワクするんだと思う。


 この世界の住人からすれば、美味しいけど芋を石で焼いただけだよね? ということになりかねない。


 まあ、それでも受け入れられるのは間違いないと思うが、どうせならもう少しスイーツ感が欲しい。


 他には、他には何かないのか? 諦めるな、脳をフル回転させるんだ。


「裕太、ねえ裕太」


「ん? シルフィ、どうしたの?」


 今、結構ピンチだから、できれば話しかけないでほしいんだけど。


「どうしたの? じゃないわよ、いつまでみんなを待たせる気なの?」


 シルフィに言われて周りを見ると……まだかな? まだなのかな? といったちびっ子達の視線が俺に集まっていた。


 できればもう一つの甘味のアイデアが思い浮かんでから芋煮会を始めたかったが、もうこれ以上待たせるのは難しいようだ。


 こうなったら、芋煮会を開催して、みんなに芋煮を振舞っている間になんとかアイデアを絞り出すしかない。


 最初に芋煮を注ぐのも俺がやるべきだろうし、本気で時間が無いぞ。


 なんとかできるのか?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公の独白ばかりで今回セリフがあったのは、シルフィとウインドが一言二言喋っただけ、会話ですらない もっとキャラ同士の遣り取りがほしい。
[一言] 今回甘味はありません。でいいんじゃないの 芋煮のパーティに甘味は合わないでしょ。
[一言] 雪見大福でいいんじゃないですかね。 ライト様にも似てるし。 あれ。餅ってあったっけ?
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