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五百四十五話 相変わらずの自業自得

 雪景色に触発されて、芋煮を楽しむために難しいと思っていたコンニャク作りに挑戦した。結構苦労したが、植物に対して深い造詣を持つドリーと長い料理経験を持つルビーの協力を得てなんとか完成させた。なぜか白いコンニャクが完成したが、まあ白いコンニャクもスーパーで売っていたからたぶん問題ない……はず。




 コンニャクは成功した。だが、俺の本来の目的は芋煮会。コンニャク作りはその前段階でしかない。


 コンニャクの成功で弾みをつけた俺は、続いて豆腐作りにも成功した。


 豆腐は何度も作り方を見たことがあったし、材料も簡単にそろった。更には水の大精霊が味方だからニガリも豆腐の固さも自由自在。


 たいした苦労もなかったので、早く作っておけばよかったと後悔したくらいだ。


 豆腐から油揚げも作った。タマモが狂喜乱舞するかな? と味見をさせてみたがベル達と同じ反応だったのは、当然と言えば当然なのだが少し残念だった。


 そして、メルに頼んでおいた巨大鍋も完成した。




「頼んだのは俺なんだけど……すごく大きいね」


 巨大鍋が完成したから見に来たのだが……実物を見ると、とてつもなく大きい。


 テレビで見た芋煮イベントの巨大鍋は直径が六メートル。


 でも、日本の巨大イベントみたいに沢山の人が集まる訳ではない。それでも精霊達が沢山遊びに来るから三分の一くらいの大きさは必要かな? と安易に直径二メートルの巨大鍋の作成をお願いした。


 しかも醤油用と味噌用の二個を……。


 そうだよな。直径二メートルなら、これくらいの大きさになるのも当然だよな。


 ある程度は大きさを想像していたんだけど、実物だと迫力が段違いだ。五右衛門風呂か? いや、それよりも大きいな。


「えーっと、お師匠様、本当にこれで大丈夫なんですか?」


 メルが不安そうに尋ねてくる。作成前にも本当に大きさに間違いがないか何度も俺に確認しにきたメル。


 なにをそんなに不安がるのかと思っていたが、メルは職人だけあって実物をかなり正確にイメージできていたのだろう。


 それなら不安になるのも当然だ。巨大イベントとか少なそうなこの世界では、これだけ巨大な鍋の意味を理解できないだろう。


 まあ、俺も人の度肝を抜くくらいしか理解できないけど。あぁ、煮込み料理は大量に作ると美味しいって言うし、たぶんとても美味しい芋煮ができる鍋なはずだ。


 芋煮が余っても魔法の鞄で保存できるし、別に何の問題もない。


「うん、ありがとう。完璧だよ」


「良かったです」


 合格が出て喜ぶよりもホッとした様子のメル。よほど不安だったんだな。


 コンニャク作りだけに集中しないで現場に足を運んでいれば、メルの不安ももっと取り除けたはずだし、メルには色々と負担を掛け過ぎている。


 またメラルとメリルセリオに注意されるのは悲しいし、しっかり反省しなければいけない。


「メル、報酬は何がいい? お金とか素材とか、俺が持っている物だったらなんでもいいよ」


 しっかり反省はするとして、とりあえず職人に仕事をしてもらったんだから報酬で報いないとな。


 メルなら欲張った報酬は望まないだろうし、聞いた方が手っ取り早い。


 報酬と言ったところでノモスがギロリと俺を見たけど、あれは間違いなく儂も働いたから酒を寄こせということだろう。


 分かっていると頷くと、ノモスは満足気に豊かな髭を撫ではじめた。


 あとで忘れないようにお酒を差し入れしておこう。ノモスが気に入ったコンニャクと酢味噌もサービスしておくか。


 ちなみにコンニャクを試食した時の反応は、ベル達ちびっ子組は歯ごたえが面白いで、シルフィ達大精霊組は結構反応が良かった。


 まあ、反応が良かったと言っても、これはこれでありだな、と言った感じだったけどね。あと、ワサビ醤油、ショウガ醤油、酢味噌で派閥ができた。


 精霊でも好みは色々のようだ。


「報酬なんてそんな! 必要ありません!」


 くだらないことを思いだしていると、なぜかメルがあわあわと首を振って、報酬の受け取りを拒否し始めた。


 急にどうしたんだ?




 なるほど、慌てるメルを落ち着かせて理由を聞いてみると、ある意味納得はできた。


 ダマスカスの知識だけでも莫大な価値があるのに、鍋を作ったくらいで報酬を貰えませんということらしい。


 知識を教えたのはノモスだし、それとこれとは話が別だと言ったが、かたくなに報酬の受け取りを拒否されてしまった。


 まさか欲張るどころか受け取り拒否とはビックリだ。あれだな、サックリお酒を要求してくるノモスの方が楽なんだな。


 とりあえず、なにを言っても報酬は受け取りそうにないし、いずれ隙を見て鍛冶に役立ちそうな素材を押し付けることにしよう。




 ***




 さて、大迫力の鍋が二つ手に入った。


 実物の巨大鍋を見て思ったのだが、これで芋煮を作ったら楽園に遊びに来ているちびっ子達全員が食べまくっても消費しきれない。


 魔法の鞄で保管できるとはいえ、大量に余るのは悲しい。


 テレビで見た芋煮会のイベントは何万人も集める巨大イベントだったし、ショベルカーをお玉代わりに利用する派手さもあった。


 この世界で初めての芋煮会を開催するのなら、中途半端はいけない気がする。出身は芋煮が盛んな県と微塵も関係がないけど、日本人としては頑張りどころだ。


 久しぶりというほどでもないが、雪の島のお披露目を兼ねて芋煮大宴会でもするか。


 たぶん誘えば精霊王様達も来てくれるだろうし、雪の島を開放すればちびっ子達を多めに呼んでも問題ないだろう。


 上級精霊以上は……芋を食べながらお酒をガンガン消費しそうだし、精霊王様達とそのお付きの精霊以外は酒島で楽しむ形にしておこう。芋煮は差し入れという形で酒島へ持っていけばいい。


「ねえシルフィ、精霊王様達も呼んであの鍋を使って大宴会とかどうかな?」


「やりましょう」


 即答だった。それも大宴会の『か』くらいのタイミングで返事が飛んできた気がする。


「精霊王様も呼んで大丈夫なんだよね?」


 宴会という言葉しかシルフィの耳に入っていないような気がするので、改めて確認しておく。


「えっ? あぁ、精霊王様ね……来られるかどうかは分からないけど、誘うのは問題ないわ。アルバードを呼んでおくから、裕太から誘ってみなさい」


 やっぱり宴会って言葉しか聞いていなかったな。まあ、それだけ宴会が楽しいということなら、開催している俺としても張り合いはある。


 でも、またアルバードさんに苦労を掛けることになりそうだな。蒸留酒のプレゼントを用意しておこう。


 よし、なんか気合が入ってきた。精霊達に日本のイベントの凄さを見せてやる!




 ***




「今、俺はとても後悔しています」


「裕太の兄貴、ボーっとしている暇なんてないんだぞ! 手を動かすんだぞ!」


「うっす! 自分、頑張ります!」 


「裕太の兄貴、なんか変だなんだぞ? でも、手を動かしているならいいんだぞ!」


 変にもなるさ。


 芋煮会で大宴会を決めた後、シルフィは即座にアルバードさんを呼び出し、精霊王様方の参加も決定した。


 精霊なのに辛そうに胃のあたりを抑えるアルバードさんの様子から考えるに、裏で色々と調整が必要なようだが、とにかく参加者は問題なく集まりそうだ。


 その時は楽しい宴会にしたいなと気楽に考えていたが、誤算があった。鍋が大きいのは作る前から分かっていた。


 その鍋に合わせた芋煮を作るには大量の具材が必要になることも想像していた。


 だが、実際に見た鍋の大きさが予想よりも迫力があったように、想像は想像でしかない。


 当然、実際に作るとなると様々な問題が浮き彫りになる。


 俺の単純な考えだと、ドリーに具材を揃えてもらって、ディーネに洗ってもらい、シルフィに刻んでもらって、ルビー達が調理で俺が補助。


 単純だからこそ間違いのない計画なはずだった。


 いや、実際に計画自体は間違っていない。ただ、少し大変過ぎただけだ。


 なんだ直径二メートルの巨大鍋って、バカなの? しかも二つ。大きな鍋にみんなびっくりするだろう、なんて考えていた奴は絶対にバカだ。俺だけど!


 肉は迷宮で手に入ったし、野菜類も迷宮都市で手に入れた物やドリーが用意してくれたもので十分に足りる。キノコ類もローゾフィア王国の森で大量に収穫したので問題ない。


 肉なんて巨大鍋に収まりきらないくらいあるんだから当然だし、ドリーにお願いしたゴボウなどの根菜類も直ぐに収穫できるところまで大量に育ててもらったから使い切れないくらいある。


 収穫はベル達が張り切ってお手伝いしてくれるし、ディーネが野菜を洗えば一瞬でピカピカになり、シルフィが風を使えば具材は一瞬で適切なサイズに切り刻まれる。


 計画通り、俺って天才かも? なんて増長しても仕方がないくらい順調だった。調理を始めるまでは……。


 ルビー達に任せておけば楽勝だよね、なんて余裕しゃくしゃくだったが、量が多すぎて補助担当の仕事が忙し過ぎる。


 ルビー達が驚異的なスピードで調理してくれるのは嬉しいが、その補助は目が回るほど忙しい。


 見かねてジーナ達も助っ人に入ってくれているが、全然手が足りない。


 炒めて混ぜて炒めて混ぜて炒めて混ぜて……自分が何をしているのか分からなくなるくらい同じ作業を繰り返している。


 いくら調理しても鍋は満たされず、終わりが見えない作業が延々と続く。


 まだ醤油味の方の鍋の半分にも届かず、残りの半分と味噌用の鍋が丸々一つ残っている。絶望でしかない。


 宴会は二日後。それまであと何回同じ作業を繰り返すのだろう?





 ***




 裕太の兄貴が変わった食材を完成させたと思ったら、意味が分からないほど巨大な鍋を造って大宴会をすると言いだした。


 相変わらず楽園は面白い。


 好きなだけ料理ができて、しかも知らない料理のレシピを知れるって誘われたから断る選択肢はなかったけど、シルフィの姉貴の誘いにのって本当に良かったんだぞ。


 でも裕太の兄貴……死んだ目で鍋をかき混ぜるくらいなら、もう少し考えてから発言したほうが良いと思うんだぞ。


10/22 金曜日、コミックス版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の6巻が発売されます。

裕太の契約や宴会。楽しいシーンが沢山ですので、お手に取って頂けましたら幸いです。


6巻発売記念のフェアもあります。活動報告にコミックス表紙と、発売記念フェアのURL等の情報を載せておきますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 直径2m程度で「意味が分からないほど巨大な鍋」というのは少々違和感を覚えます そこに入れる味噌を作る時にも大量の大豆を煮ているはずですし、それに使用した鍋は?
[一言] 最近色々と物つくりが多いけど、ついでだからコーラとかソフトドリンクも作ってみては? dr. stoneなんかでもあったけど、それとは違うレシピでクラフトコーラで調べると色々出てくるよ。見てい…
[良い点] 逃げずに料理を手伝うのは、まあ偉いぞw
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