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五百四十三話 雪

 雪の大精霊のスカウト……買収? にアッサリと成功した。精霊樹の素材で作った地球のヒット商品の効果は抜群だった。まあ、効果が抜群過ぎて簡単にスカウトできてしまったからこれで良いのかと疑問に思わないでもなかったが、結果が良ければすべて良しということにしておこう。




「知っているかもしれないけど、今日から一番上の島に住んで雪を降らせてくれることになった雪の大精霊だよ。仲良くしてあげてね」


「なかよくするー」「キュー」「かわいい」「ククゥ」「こぶんにしてやるぜ」「……」「にぇこー」


 あれ? 紹介のしかたを間違えたかな? いや、ちゃんと雪の大精霊って言ったはずだ。


 なるほど、ベル達とサクラが突撃してしまったが、大精霊と分かった上で突撃しているのか。


 まあ精霊は上下関係が緩い感じだし、ベル達とサクラは精霊王様達やシルフィ達にも遊んでもらったりしている。今更大精霊だからと言ってビビることもないか。


「ちょ、やめるにゃ。こらもみくちゃにするんじゃないにゃ。こら人間、見ていないで助けるんだにゃ」


 おっと、すっかり見入ってしまった。


 しかし比べてみるとよく分かる。ベル達の天然の可愛らしさの前では、雪の大精霊の可愛らしさが微妙に鼻につく。


 この状況で微妙にしか鼻につかないのもある意味凄いが、うちの子達の方が可愛らしいのは素直に嬉しい。


 ただ、新しい友達候補に少し興奮気味かな? 相手の嫌がることはしない子達なのに、夢中で大精霊を可愛がりまくっている。


 いや、それでも他人の嫌がることはしないだろう。となると、雪の大精霊は表面上は嫌がっていても、内心ではそれほど嫌がってないということになる……のか?


 あぁ、素直になれないタイプなのかもしれない。


 ツンデレ、お猫様にはピッタリな性格ではあるな。


「おい、なんで無視するんだにゃ! 助けるにゃ!」


「あっ、俺のこと? ここには俺以外にも人間がいるし、ちゃんと自己紹介したんだから名前で呼んでほしいな」


 俺としては雪の大精霊の態度については諦めがついているから人間と呼ばれても構わないが、このままだとジーナ達にまで人間と呼びかけそうだ。


 さすがにそれは許せないので、いい機会だしここで名前を呼んでもらおう。その後にちゃんとジーナ達にも自己紹介をさせないとな。


「な、名前だと! そんなの聞いた覚えがないぞ!」


 クッションに夢中だったから予想はしていたが、名前どころか自己紹介をしたことすら記憶に残ってなかったか。


 ベル達に抱きしめられ撫でられサクラに自身のお腹に顔をうずめられて、さすがに語尾を維持する余裕もなくなったか。


 そろそろ頃合いだな。


「俺の名前は裕太だ。これからは名前で呼んでくれ。あと、俺の弟子達にも自己紹介させるから、ちゃんと名前で呼ぶようにな」


「分かった。裕太、早く助けろ」


「しょうがないな。みんな、挨拶が終わってないから戻っておいで」


「もどるー」「キュー」「あいさつはたいせつ」「クゥ」「またあとでだぜ!」「……」「あい」


 呼びかけるとすぐに戻ってくるベル達とサクラ。うちの子達は本当に良い子達だ。それと、雪の大精霊の評価も少し上昇した。


 大精霊ならジャレつくベル達を遠ざけることも可能だったはずなのに、文句を言いつつも抵抗はしなかったところは高評価だ。


 まあ、ただのツンデレの可能性の方が高い気がするが、子供達に対して気を使えるのは悪くないよね。


「ふー。まったく、もっと早く助けないと駄目だにゃ」


 語尾に『にゃ』が復活した。ある程度落ち着いたみたいだな。全員の自己紹介でしっかり名前を憶えてもらおう。




 ***




「この島なんだけど、大丈夫かな?」


 自己紹介が済んだ後、さっそく雪の大精霊に任せる島までやってきた。


 自己紹介では雪の大精霊が微妙にツンを発揮していたが、可愛らしい見た目なので人間サイドからは微笑ましく受け止められていた。


 メルとキッカなんかモフりたそうにしていたから完全に仕草に騙されていたと思う。それでもちゃんと我慢できていたので、いずれ機会を見つけてモフらせて上げたい。


 反面、ディーネ達やルビー達精霊の反応は、あぁ、これが噂の、と納得しているような雰囲気だった。


 たぶん、会ったことはなくても変わり者な雪の大精霊の噂は聞いたことがあったのだろう。


 精霊の世界に詳しくなくても、この雪の大精霊が変わり者なのは理解できる。


「うむ、思ったよりも小さな島だにゃ。雪を降らせるのはこの島だけなのかにゃ?」


「うん、そのつもりだけど、もしかして狭すぎた?」


 どこにでも存在するシルフィの風はともかく、ディーネ達もそれほど規模が大きくない自分の属性にあったもので問題なかった。


 ここには雪がまったくないとはいえ、聖域になったから問題ないと思っていたが、雪が降る環境を維持するには狭い可能性もある。


 迷宮のコアが泣くかもしれないが、いざとなったら島をもう一つ二つ取りに行こう。


「いや、これくらいなら楽でいいにゃ」


 考えすぎだったようだ。


 そうだよね。楽な方が好きなタイプだもんね。


「それじゃあ住処だけど、どうする? 洞窟みたいなのが良いならノモスに頼むし、時間が掛かっても構わないのなら家を用意するよ」


 毛皮に拘りがあって人が作る物に否定的だったが、家も駄目なんだろうか?


「別に家は必要ないにゃ。この島を好きにして構わないのにゃ?」


「……好きにと言っても、俺達が利用できなくなったりするのは困るぞ」


 なんかとても嫌な予感がした。釘を刺しておかないと、煩わしいことがないように要塞のような住処を作りかねない気がする。


 雪の大精霊の方から小さな舌打ちが聞こえた。


 要塞かどうかは分からないが、なにかしら俺達を排除する方法を考えていたようだ。油断できないな。


「……まあいいにゃ。じゃあある程度好きにさせてもらうにゃ」


「え? ちょっと何するつもり?」


「まあ、見ていると良いにゃ」


 いや、なにをやるか不安だから聞いているんですけど……まあ、いざとなったらシルフィ達に更地にしてもらえばいいか。


 雪の大精霊がどのくらい凄いのかは知らないが、こちらは六人の大精霊が味方なんだからなんとでもなるだろう。


「にゃ!」


 雪の大精霊が雄々しく地面に立ち、気合を入れるように声を上げた。同時に雪の大精霊の体がムクムクと巨大化していく。


 なるほど、巨大化するための気合……いや、小さくなっていたんだから元の姿に戻るための気合だったのか。


 ウインド様の巨大化と縮小は見たことがあるけど、目の前で変化を見るとまた違った迫力がある。


 ジーナ達は驚きの声を上げベル達やサクラ、フクちゃん達も興奮している。さすがにシルフィ達大精霊は平常心なので見慣れているのだろう。


「えっ? あれ、ちょっと?」


 予想していた大きさに達しても巨大化が止まらない。あれ? 雪豹ってそんなに大きいっけ?


 動物園で見た時は虎よりも少し細身の印象だった。精霊ということを加味して、更に大きいことを予想していたが、象を越える大きさなのは予想外だ。


 酒島で動物型の大精霊や上級精霊を見たことはあるが、みんな常識的な大きさだった。


 たぶん、酒島に来た大精霊や上級精霊も場に合わせて大きさを調整していたんだな。


 象以上の大きさになりようやく巨大化が止まった雪の大精霊。


 猫状態でも太かった足はもはや柱のようにたくましくなり、鋭い爪が肉食獣であることを強烈に主張している。


 反面、巨大化した体は太ったように見えず、引き締まりスタイリッシュになった印象を受ける。


 そして顔。正直怖い。相手が精霊だと知らなかったら漏らしていたかもしれないほど怖い。


 小さい時には愛嬌を感じる顔だったのに、今の顔は爪と同じく肉食獣であることを前面に押し出している。なに、その牙、精霊なのに何を噛み千切る気なの?


「ふー。久しぶりにこの姿に戻ったにゃ」


「いや、その姿で『にゃ』って言われたら気持ち悪いぞ」


 雪の大精霊の野太い声に違和感を覚え、思わずツッコんでしまった。


 一瞬、しまったと後悔したが、よく考えたらビビる必要がない相手だった。あまりの迫力に呑まれかけたが、大きくなったって雪の大精霊は雪の大精霊、性格は変わらない。


 まあ、最初にこちらの姿を見ていたら、今みたいに気軽には話しかけられなかっただろうな。


「ふむ、それもそうだな」


 面倒なことを押し付けられないためだけに猫を被っている精霊なだけあって、語尾に拘りもなくすぐに納得したように頷いた。こういうところは面倒が無くて良い。


 その代わり、他の部分が面倒だけどね。 


「ガァァァァ!」


 内心で酷いことを考えていると、雪の大精霊がいきなり吠えた。少し驚いたが、語尾に『にゃ』をつけるよりも咆哮の方が今の姿にはしっくりくる。


「いきなりどうしたの?」


「まあ、見ていろ」


 雪の大精霊の視線に釣られて空を見ると、海の方向から密度が高そうな雲が次々と押し寄せ、太陽の光をさえぎってしまった。


 雨すら降らない死の大地。これほどの雲が上空に集まる光景は、この世界に来て初めて見る。


 そしてその雲から落ちてくる雪。


 約束通り雪を降らせてくれたのか。雪の中級精霊の時は空から雪が生まれるような光景だったが、こちらは空の環境まで変えてしまった。さすが大精霊ということなのだろう。


 ただ、めちゃくちゃ雪が多い。


 ベル達やジーナ達は珍しい事態に大喜びしているけど、間違いなく多すぎる。このままだとあっという間に島が雪に埋もれてしまうぞ。


「ガァ」


 心配になって雪の大精霊に話しかけようとすると、今度は小さく雪の大精霊が吠えた。


 その声に反応するように上空の雪が落ちてくる方向を変え、一ヶ所にドンドン降り積もっていく。


 そして完成する巨大な雪のドーム。雪の大精霊が再び軽く吠えると、ギュっとドームが一回り小さくなり、そのドームに穴が開いた。


 うん、俺達が前に作ったカマクラが単なる雪の塊にしか見えなくなる巨大カマクラの完成だな。


「ふいー。久しぶりに頑張ったから疲れたにゃ。裕太、早くあのクッションを出すにゃ。お休みの時間だにゃ」


 シュルシュルと縮んでお猫様に変身した雪の大精霊が、休憩宣言をしてクッションを要求してくる。


 ……まあ……いい……か?


 要望通り雪は降っているし、なんだかベル達に悪影響を与えかねない性格だから、このまま巨大カマクラの奥でお休みいただくことにしよう。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] そのうちコタツで丸くなってそう、酒や食べ物集めてかまくらに引きこもってる未来が見える
[一言] 今度の大精霊は酒宴になったら虎になるのか、それとも弄られるのか、はたまた不参加を決め込むのか。
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