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五百二十八話 観光改め修行の旅の終わり

 メルが運命の出会いを果たし、土の浮遊精霊メリルセリオと契約した。どの子と契約すれば良いのか分からないとか名前を考えるのが難しいとか色々あったが、無事にメルが契約できて師匠として少しホッとした。




「うむ。メリルセリオは土の浮遊精霊。力はまだまだ弱いが土の操作はお手の物じゃ。イメージと違う物が完成したならば、それはメル、お主が未熟だからじゃ。そのことを踏まえ、しっかり自分の意志を伝えられるように修行することじゃ」


 豊かなあごひげを触りながらメルに教えを授けるノモス。


「はい! しっかりと肝に銘じて努力します!」


「メラル。焼き滅ぼす訳じゃないんだから、鉱石に適した温度はあんたがしっかり把握しておきな。あと、あんたは中級精霊だしメルとの付き合いも長いんだ。ただ火の扱いに集中するんじゃなく、メルとメリルセリオの関係にも注意を払いな」


 荒っぽい雰囲気ながらどこか凛々しさを漂わせながらメラルを指導するイフ。


「大丈夫だ。メルとメリルセリオは俺が守り導く!」


「うむ。ではもう一度じゃ。一番簡単な鍋ですら歪んでおっては話にならんぞ」


「気合を入れな!」


「はい!」




「……ねえシルフィ……あそこだけ空気が違う気がするんだけど気のせいかな? あと、メルの師匠は俺だよね?」


 目の前で、厳しい教師と頑張り屋な生徒による、熱血青春ドラマが展開されている気がする。


 主演はメルで教師がノモスとイフ。メラルは頑張り屋なメルをサポートする先輩で、メリルセリオは大器晩成型の新入生。それにプラスして、ベル達がギャラリー兼エキストラの友情出演って感じかな?


 これはこれで面白そうではあるのだけど、教師の配役が俺じゃないところが解せない。


「裕太は精霊術の師匠であって鋳物の師匠じゃないでしょ? あと、あそこだけ空気が違うのは同感ね。とても暑苦しいから、ディーネに水を撒かせる?」


「……なるほど。あと、水蒸気爆発が怖いから水は止めてあげて」


 そういえば俺は精霊術の師匠だったな。たいして教えることがないのに頑張って師匠面していたから、なんとなくすべてにおいての師匠な気分になっていた。


「それにしても、イフが面倒見が良いのは知っていたけど、ノモスがあんな感じになるとは予想外だったよ。別に熱がある訳じゃないんだよね?」


 イフは元々が姉御肌で俺と契約する前から下の精霊達の面倒を見ていたのを聞いていたし、同じ火の精霊であるメラルを指導するのはなんとなく分かる。


 でも、ノモスに関しては違和感がバリバリだ。


 まあ、鉱物に関しては機嫌よくメルに講義していたし、ありえないことではないんだけど……それでも熱血教師な雰囲気は違うだろう。


 堅物教師くらいが適役なはずだ。


「メル達が真剣だから引っ張られているのね。たぶん素に戻ったら、自分のやったことが恥ずかしくなってしばらく私達の前に姿を現さなくなるわ」


 なるほど、メル達の真剣さに応えている間に、場の雰囲気に乗せられているのか。


 ツンデレが攻められてデレて、そのことに自分で気がついて羞恥に悶えるパターンと同じだな。


 似合うか似合わないかは別として、ノモスのちびっ子達に対する素直ではない反応まで考えると、ノモス=ツンデレという方程式が成り立つかもしれない。


 ノモスがしばらく姿を現さなくなるのは……別に問題はないな。


 基本的にノモスはお酒造りで籠っているからイベントや宴会以外で姿を見る機会は少ない。


 力が必要な時は召喚すれば応えてくれるだろうし、ノモスが羞恥で引き籠ったら、しばらくはそっとしておいてあげよう。


 生温かな目で目の前で繰り広げられている熱血青春ドラマを見守る。


 まず、メルとメリルセリオがノモスからアドバイスを受けながら木枠に入った砂を成型。小鍋を造るための型を作る。


 鍋の形や厚み、使う金属の性質等を考慮するのはメリルセリオには難しいらしく、メルが細かく指示をしている。


 今までの鍛造鍛冶とは違って、鋳物はメルの仕事が少なくなるかと思っていたが、それほど単純ではないようだ。


 複雑になればなるほど、メル達のコミュニケーションが重要になりそうだな。


 鋳型が完成すると、次はメラルの出番だ。


 メラルがバランスボールほどの火の玉を空中に生み出す。あきらかに普通の火ではなく、なんだか圧縮された様子でとても熱そうだ。


 その火の玉にメルが質が悪そうな武器を投げ込む。質が悪そうな武器は俺が提供した。魔物が使っていた物をなんとなく回収して、すっかり存在を忘れていた物だ。


 まだまだ魔法の鞄に眠っているし、メルが迷宮都市に戻ったら練習用の素材として提供しておこう。


 ついでに、魔法の鞄の整理もしておくか。メルの練習に必要ない物も魔法の鞄に眠っているし、価値が低い物は迷宮のコアにプレゼントしよう。


 だいたいが迷宮で強奪してきた物だし、プレゼントというよりも返却と言った方が良いかもしれない。


 投げ込まれた金属が浮かんだ火の玉の中でドロドロに溶け始める。


 正直、なんで空中に浮いた火の玉に金属を投げ入れて下に落ちないんだよとも思うが、火が圧縮された感じな時点で今更だと納得する。


 いや、異世界な時点で今更だな。


 ノモスとイフがメラルとメリルセリオになにやら指示を出している。余計な物や質の悪い部分を消滅させるように言っているようだ。


 金属が完全に溶解すると、メリルセリオがその金属を操作して鋳型に流し込む。


 溶けた金属が意志を持つように鋳型に吸い込まれていくが、ノモスが操作が甘いとか隙間が出ぬように、型を崩さぬようにと細かく注意しているので、意外と難しいようだ。


 それでも、反射炉を造ってアルミで鋳物をしていた番組よりも圧倒的に楽そうなのが凄い。


「うむ。これなら問題ないじゃろう」


 金属が鋳型の口から少し溢れだすと、ノモスが納得したように頷いた。おそらく、冷めたら歪みも穴もない、ちゃんとした小鍋が完成するのだろう。


 ノモスの言葉にやったーと喜ぶメル達。


「ノモス様、イフ様。次はもう少し大型の鍋に挑戦したいです。ご指導、よろしくお願いします」


 ……完成したのだから休めばいいのに、すぐに次のステップに挑戦するようだ。


 明日には楽園を出て迷宮都市に帰還予定だから、できるだけ学んでおきたいのだろう。


 でも、もう少しのんびりしても良いんじゃないのかな?


 メリルセリオと契約し、その夜にお祝いの宴会をした後はずっと鋳物の勉強ばかりで、ほとんど休んでいない。


 メル、メラル、メリルセリオで協力して頑張っているから、コミュニケーションはバッチリだろうけど、それでいいの?


 特にメルは、楽園の開発レポート作成、契約精霊探しと鋳物の勉強、契約後、鋳物に挑戦でほとんど遊ばないまま迷宮都市に帰還することになる。


 休みなさいって言えば従ってくれたんだろうけど……鋳物に励むメルの表情がキラキラと輝きまくって言えなかった。


 ……今回は休みじゃなくて、修行の旅ってことで納得しておくか。観光と休息は次の機会にしっかり楽しんでもらおう。


「シルフィ。家に戻ろうか」


「そうね、お茶にしましょう。冷たいのがいいわ」




 ***




「お師匠様! ノモス様とイフ様にご指導いただいて、使用に耐える物を作れるようになりました!」


 日が暮れるまでシルフィとお茶をしながらまったりしていると、メルがハイテンションで帰ってきた。


 かなり楽しかったらしい。


 続けてメルが何かを言っているが、見学していたベル達も楽しかったようで、色々と報告してくれるのでメルが何を言っているのかが聞こえない。


 メルから小鍋を手渡された。


 なるほど、完成した物の評価が欲しいようだ。


 ……小鍋だ。凄くシンプルな小鍋だ。


 インスタントラーメンを作って、そのまま鍋から直接食べるのに適した感じの、ものぐさな人にもとても使いやすそうな小鍋だ。


 鉄製で少し重たいのが微妙だが、まあ武器を潰して作ったものだからそこはしょうがないだろう。


 金属はメルの専門だし、商品として作る場合はメルも調整するだろう。


「うん、使いやすそうだね。迷宮都市でも鋳物を作れそう?」


「はい。ノモス様とイフ様に協力して頂いて、色々と合図や指示の出し方も打ち合わせしました。迷宮都市でもなんとか作れます。ですが、今作れるのはこの鉄の小鍋とそのサイズ違いだけですので、まだまだ研究と練習が必要だと思います」


 それもそうか。鋳物作業に必要な工程を精霊の力でかなり短縮できるにしても、わずか数日の訓練で簡単にマスターはできないよね。


 鍋ができるんだし、芋煮会用の巨大鍋を発注してしまおうかと思ったが、時期尚早なようだ。


「そっか。じゃあ、これからも練習だね。メルは無理しがちのようだから、ちゃんと体を休めて焦らずに頑張ってね」


「はい、分かりました!」


 しっかりと注意を受け入れるメルだけど、不安がまったく拭えない。


 メルは体を休めるのが嫌なんじゃなくて、物作りに夢中になって他を全部忘れてしまうタイプだろう。


 それだと、休むのを忘れる訳だから、本人が休むつもりでも効果が薄い。


「メラル。メルが働き過ぎたら、強制的に火を消すようにしてくれ。メルの健康はメラルに掛かっている」


 頑張ってくれ。


「えっ? いや、でも、主はメルだし、でもメルが体を壊したら……」


「あっ、ごめん。面倒な事を頼んじゃったね。えーっと、メル。メラルにメルが無茶をしたら火を全部消すように指示を出して。これは師匠命令だよ」


 俺はメルの師匠とはいえ、メラルの契約相手はメルだ。ある程度融通が利くにしても俺が頭ごなしにメラルに指示を出すのは違うだろう。


 まあ師匠として、メルにはしっかり師匠命令を出すけどね。 


「えっ? あっ、はい、メラル様。お師匠様の言うとおりにしてください。でも……私、そんなに無茶はしませんよ?」


 メルは俺の命令通りにメラルに指示を出したが、そこはかとなく納得していないようだ。


 自分が無茶をするのが確定だと思われているのが嫌なのだろうが、それは休暇なはずなのに、その休暇のほとんどを訓練と修行に費やすのをやめてから言ってほしい。


「さて、メル達も明日には帰るし、今日はご馳走にしようか」


 ふくれっ面のメルを無視して、ご馳走を宣言するとジーナ達とベル達がワッと声をあげた。


 大精霊達が期待した目で俺を見ているが、三日目に宴会をしたばかりだからお酒を出すつもりはないよ。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 珍しく師匠らしい事したなw
[一言] なんだかんだ裕太に従って勝手に宴会開かない大精霊たち好き
[一言] >  インスタントラーメンを作って、そのまま鍋から直接食べるのに適した感じの、ものぐさな人にもとても使いやすそうな小鍋だ。 妙に具体的というか、生々しくリアルな表現にw ちょっと小ぶりの雪…
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