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五百二十一話 鍋王

申し訳ありません。

間違えて『めざせ豪華客船!!』の方に五百二十一話を更新してしまいました。

御迷惑をお掛けしました。


教えてくださった皆様、ありがとうございます。

 蒸留酒の試飲会をすることになった。味はウイスキーとは言えないが、未来に希望が持てる味で、シルフィ達も結構気に入ったようだ。これで精霊達が蒸留酒を飲むことが我慢できればお酒の未来は明るいだろう。熟成する前に飲み干さなければ……。


 飲み干さなければ……なんて馬鹿なことを考えていた時もありました。


 そんなことを考えていた俺は、精霊達のことを全く理解していなかったのでしょう。


「裕太。ガラス用の砂を取ってくるんじゃ。あと、あっちの空きスペースは畑にするぞい」


「う、うん。でもノモス、中級精霊達のスペースは使わないようにしてね」


「裕太さん。お出掛けするのであれば、また森から土を確保してきてもらえますか?」


「……分かった。シルフィに頼んで確保してくるよ。でも、ドリー……そんなに土が必要なの?」


「何度も植物を育てることになりますから、栄養を補充しないと土が駄目になってしまいます。必要ですね」


「そっか。了解」


「裕太ちゃん。お姉ちゃんはお酒を寝かせる場所を吟味するためにもー。別々の環境に寝かせたお酒の味も確認する必要があると思うわー」


「……ディーネ。寝かせる場所の前に、寝かせるお酒を造らないといけないから、確認はその後だね」


「ちぇー」


 俺は精霊達を理解していなかった。


 未来の為に今の蒸留酒を我慢するのではなく、飲み切れないほどの蒸留酒を造って、蒸留酒を飲みながら、蒸留酒を寝かせればいいと考えるなんて……俺は本当に精霊達のことを理解できていなかったのだと思う。


「裕太。醸造所が完成したぜ! 酒を頼む!」


「……う、うん。でもイフ、他国の珍しいお酒もあるから、それは出さないからね」


「おう。手に入りやすい酒で十分だぜ」


 イフが言った通り、楽園に醸造所が増えた。しかも三つも。


 これからは蒸留に二つ、醸造に二つの体制で酒造りを続けるらしい。


 さすがに四軒の醸造所は多いんじゃないかと思ったが、シルフィ達と試飲会に乱入……合流したルビー達に押し切られてしまった。


 やっぱり、この聖域の名前は『精霊達の楽園』ではなく『酒飲み達の楽園』に改名するべきだと思う。酒島とかあるし……。


 ……とりあえず、お酒の配達を済ませて砂と土を確保しに行くか……。




 ***




「メル、居る?」


「あっ、お師匠様。お久しぶりです」


 メルの工房を訪ねると、タイミングが良かったのかすぐにメルが出てきて笑顔で挨拶をしてくれた。


「めらるー」「キュー」「げんき?」「ククー」「きたぜ!」「……」


「おっ、よく来たうぷっ」


 続けてメラルにも挨拶をと思ったが、ベル達が突撃してお団子状態になってしまったので、挨拶は後にしよう。


「めるちゃん!」


 じゃあメルと話そうかと思ったが、久しぶりにメルと会ったキッカがキュっとメルに抱き着いたので、こちらも話すのは難しそうだ。


 シルフィと話しながら、落ち着くまで待つか。


 楽園に残してきた酒造りに邁進しているメンバーを思うと、不安が盛りだくさんなので話したいことは沢山ある。   


 遊びに来ている中級精霊達は心配いらないが、ディーネ達とルビー達の暴走が怖い。


 お酒に関してはドリーとヴィータも意外とあてにならないし、帰ったら醸造所が更に増えていても不思議じゃない気がする。




「どうぞ、お召し上がりください」


「ありがとう」


 場が落ち着き、メルが紅茶を出してくれたので、一口すすって気持ちを落ち着ける。


 不安を解消するためにシルフィと話したのに、更に不安になってしまったので、温かい紅茶がとても美味しく感じる。


「メル。仕事の方はどう?」


 楽園に誘うには忙しくない方が都合が良いが、だからと言って弟子の工房が忙しくないのも不安になる。


「修繕の他に偶に日用品を作る仕事をまわしてもらえるようになりました。調理道具関係の仕事が増えたのはお師匠様のおかげです。ありがとうございます」


「……どういたしまして?」


 俺のおかげ? ……あぁ、日本のレシピが流行って迷宮都市は料理に力を入れ始めたし、調理道具関係の仕事が増えたのなら、俺のおかげとも言えなくはないのか。


 偶然でしかないけど、それが弟子の助けになっていたなら幸いだ。


「なら、忙しい?」


「……あまり、忙しくはありません」


 苦笑いしながらメルが言い辛いことを教えてくれた。偶にって言っていたし、それほど仕事が増えた訳ではないようだ。


 若い女性というのは、職人の世界ではステータスにならないから、メルも大変なのだろう。


「レアな素材が沢山あるから卸そうか?」


 これは前にも言ったことがある。


 レアな素材で世間の注目を集める作戦なんだけど……。


「いえ、私の鍛冶の腕は貴重な素材を扱える程ではありませんから……」


 困った顔で遠慮するメル。


 オリハルコンやアダマンタイト、ミスリルにドラゴン素材、多少腕が伴っていなくてもこれだけの素材を使えば工房も繁盛するだろうに、メルは真面目だよな。


 まあ、貴重素材でドヤ顔していたら、周囲の鍛冶師からの評判はガタ落ちになるだろうから分からないでもないが、メルの立場だと注目を集めることも必要だと俺は思う。


「生活は大丈夫?」


「その……ユニスちゃんのパーティーと活動することが多くなりまして……生活するだけなら十分な余裕があります」


 ユニスってメルの親友の、冒険者の獣人の女性だったな。相変わらず仲が良いようだ。


 俺に対する警戒心の高さと、百合の花が咲き乱れるイメージがあるけど、深くは想像しないようにしよう。


 メルの様子を見るに、鍛冶師としてよりも冒険者としての稼ぎの方が大きいんだろう。問題は……。


「メラルは大丈夫? 下手に力を見せすぎると、面倒なのに目を付けられるかもしれないよ?」


 中級精霊との契約者は、国が頭を下げて迎えにくるレベルだって聞いたことがあるし、そうなると工房を続けたいメルとしては困ったことになる。


「あっ、それは大丈夫です。お師匠様の弟子なので、偉い人どころか知り合い以外は誰も近づいてきません!」


「……なんかごめんね」


 俺の悪名が知らない間に弟子を危険人物に仕立て上げていたらしい。


 ……そうだよね。最初の頃ならともかく、どこぞの貴族を亡ぼしてからは腫物扱いだ。弟子に対しても慎重になるのは当然だろう。


 メルの安全に配慮はしていたつもりだけど、そんな当たり前のことに気が付いていなかった自分が、地味にショックだ。


「い、いえ、違うんです。お師匠様に守られていることを伝えたかっただけで、迷惑とかそういうのでは全然ないんです!」


 落ち込んだ俺を見たメルが、慌てた様子でフォローしてくれる。


 いや、偉い人はともかく、知り合い以外が近づいてこないのは、客商売としては致命的だよね。


 もしかして、若い女性の職人とか関係なく、俺のせいでこの工房が流行っていなかったりするのか?


 いやいや、そんなことはない。


 最近は精霊術師の評判が上がっているし、それに伴って俺の評判も上がっているはずだ。


 だから俺のせいでメルの工房が避けられているなんてことは……ありそうだから辛い。


「メル。仕事をお願いしたいんだけど、構わないかな?」


 元々、協力してくれるルビー達のお礼をメルに頼むつもりだったけど、それだけでは駄目だ。


 こうなったらメルの工房には繁盛してもらわないと、俺の心が罪悪感で締め付けられてしまう。


「あっ、はい。大丈夫です」


「ありがとう。特殊な物だから、今から説明するね」


 まずはピーラー。


 知識チートアイテムとしては定番の商品だ。


 ルビーには必要ないが、料理に興味をもった中級精霊達や、目玉焼きをマスターしたベル達の料理の幅を広げてくれる素敵アイテムだ。


 これなら、迷宮都市でも流行るだろうし、メルの仕事にもなるだろう。


 そして、次が本命のアイテム。だが、これはメルが受け入れるかは分からない。


 野菜の皮が簡単に剥けるなんて凄いですねと喜んでいるメルに、少し緊張しながら話しかける。


「メル。鋳物をやってみる気はない?」


「鋳物ですか? たしかに同じ金属を扱う仕事ですけど、私の工房とは分野が異なりますよ?」


 キョトンとした顔で答えるメル。


 良かった、鍛冶師は鉄を打ってなんぼだ! みたいな拘りはないようだ。


「そうだけど、メルにはメラルが居るよね。簡単に金属を溶かせるのに、鋳物をやらないのはもったいない気がしない?」


 中級精霊のメラルなら、大抵の金属を鼻歌交じりで溶かせるし、燃料費は魔力だけという、抜群のコストパフォーマンス。


 まあ、土の精霊なら鋳物にしなくても成型できそうな気もするけど、それだとメルもメラルも納得しないだろう。


「あっ、なるほど……たしかに……」


 俺の言いたいことが伝わったのか、目を見開いて驚くメル。


「俺が役に立つのか」


 ついでに、ベル達にまとわりつかれたまま話を聞いていたメラルが、顔を輝かせて呟いている。


 メラルの感触も悪くないどころか、かなり良いようだ。


 それでも俺にメルとの通訳を頼まないのは、メルの選択に任せるつもりなんだろうな。


「お師匠様。メラル様は鋳物についてどうお考えなのでしょう?」


 真剣な顔で考え込んだ後、メルはメラルについて聞いてきた。悪くない感触のようだ。


「やる! メルがやりたいのなら全力で手伝う!」


 俺が聞く前に応えるメラル。やる気は十分のようだ。


「メルがやりたいのなら、全力で手伝うって言ってるよ」


「そうですか。……でしたら、挑戦してみたいと思います」


 よし! これであの魔法の鍋に挑戦できる。


 滅茶苦茶重いのに、その重さが無水調理すら可能にし、普通に料理しただけで味が良くなる魔法の鍋に!


 精密性とホーロー加工が大変そうだけど、成功すれば迷宮都市の料理業界にも革命が起こるだろう。


 しかも、メルにはメラルという強力なアドバンテージが存在する。


 上手くいけば、メルはタジン鍋で一世を風靡している俳優兼サックスプレーヤーのように大儲けが……タジン鍋もいいかも。


 たしか上の蓋が陶器だったはずだけど、鋳物でも作れないことはないよね?


 よし、こうなったらメルが将来鍋王と呼ばれるくらいに工房を繁盛させてみせよう。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
”タジン鍋で一世を風靡している俳優兼サックスプレーヤー“て誰だろう? 武田真治さんだと俳優兼サックスプレーヤーで筋肉なイメージでタジン鍋は出て来ない、 保阪尚希さんはタジン鍋で俳優だけどサックスプレー…
[一言] 圧力鍋かと思ったらタジン鍋だった! タジン鍋ってなんですか?
[一言] 無水鍋がイイナ。
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