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五十話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドに入り、物凄い美女の受付嬢に衝撃を受けて、ちょっと動揺したが、もう大丈夫。俺は冷静だ。


 しかしなんて言うのか、この受付嬢さんヤバいな。肉食獣の気配がする。肉感的なボディ。少しつり上がった意志の強そうな瞳。真っ赤な唇。女王様と言うよりは女豹って感じだな。美人でカッコいい人だ。獣人じゃ無いのに牙とケモミミが見える気がする。


「どうかなさいましたか?」


 妄想してました。


「いえ。なんでもありません」


「そうですか。では手続きを始めますね」


「お願いします」


「冒険者のルールはご存知ですか?」


「はい。冒険者のランク。依頼の受けかた。罰則等の最低限の事は理解していると思います」


 予習は大事だよね。冒険者のランクはF。E。D。C。B。A。S。SS。SSSで、依頼は張り付けてあるボードから、自分のランクの一つ上までを選んで受ける事が出来る。罰則は基本的に犯罪を犯さず、民間人に迷惑を掛けなければ大丈夫。シンプルだよね。


「分かりました。疑問がありましたら、何時でもお聞きください。ではお名前と年齢、戦闘方法を教えて頂けますか?」


 受付嬢さんが紙を準備して質問して来た。向こうで記入するやり方なのか。字が読めない人も多いんだろうな。俺はスキルで大丈夫なんだけど。


「名前は裕太。歳は二十五で精霊術師です」


「ぎゃはははは。二十五の新米冒険者。しかもクソの役にも立たねえ精霊術師の詐欺野郎か。おい、お前、とっとと迷宮都市から出て行け」


 いきなり笑われて、詐欺野郎呼ばわり。役に立たない精霊術師? どういう事だ? シルフィに目線を向けると、シルフィも困惑している。中級精霊と契約してたら国が頭を下げて迎えに来るんだよな? どうなってるんだ?


 あと、因縁をつけて来た男達がムカつく。全力で見下されてるよね。テンプレのギルドで絡まれるイベントが、テンプレ通りに起きてしまった。理由はちょっと予想外だったけど。受付嬢に向き直り質問する。


「精霊術師って何か問題があるんですか?」


「問題あるに決まってるだろ。とっとと失せろ」


 後ろの男共が騒いで面倒だ。俺が聞いているのは受付嬢なんだけど。


「どうなんでしょうか?」


「無視してんじゃねーぞ。ゴミが」


 ひどいいちゃもんだな。流石にイラッとするぞ。落ち着け。取り敢えず話を聞いて、このムカつく男達は、絶対に後悔させてやる。酒場の奴らも大笑いで気分は最悪だ。


「カールさん。おやめください。この方はまだ民間人です。手を出されるのであれば拘束します」


 受付嬢がカールとやらを制止する。チッっと舌打ちして引き下がるカール。扉の横で陣取ってるよ。登録が終わったら絡む気満々だな。


「ありがとうございます。それで、あそこまで言われる理由を教えて頂けますか?」


 困った表情で受付嬢が教えてくれた。精霊術師の大半は魔術の威力が安定せず、不発も多いので役立たず扱いされているそうだ。ただ腕の良い精霊術師はその限りでなく、敬意をもって扱われているらしい。


 あれだな。大半の人は意思疎通が上手く行っていないんだろうな。シルフィも、へーそうなんだって顔で聞いている。あいつらは俺がちゃんとした精霊術師でないと頭から決めつけてるんだな。見た目か? ますます不愉快になる。


「分かりました。ありがとうございます。そういう事ですと精霊術師は登録できないんですか?」


「いえ。冒険者ギルドは犯罪者でない限り登録を拒否する事はありません。ですが精霊術師で冒険者になる事はお勧めできませんよ。何処に行っても扱いが悪いですから」


 ……精霊術師ってそんなに嫌われてるのか。予定外過ぎる。まあ精霊術師が駄目ならハンマー使いとかでも良いんだけど、因縁いんねんをつけられて変更するのも違う気がする。


 それに、ベルやシルフィに出会わなかったら死んでいた可能性が高いのに、精霊術師を名乗るの止めますとか、有り得ないよね。精霊術師のクランでも作ってやろうか。俺なら凄いクランが作れそうな気がする。


「登録できるなら良かったです。では精霊術師でお願いしますね」


 これだけ言っても分からないの? って目で見られた。せっかくの美女との出会いなんだけど、明らかに残念な査定をくだされたな。切ない。


「あの。今登録されますと、必ず絡まれます。精霊術師としての登録を取りやめるか、日をズラした方が賢明だと思われます」


 それでも心配そうに肉食系の受付嬢さんに止められた。良い人なんだろうけど、この人も俺が駄目精霊術師って思ってるんだな。


 なんか覆面ヒーローとか出来そうな気がする。普段はうだつが上がらない精霊術師の裕太。しかしその正体は……。うん。無理だな。普段からカールみたいなのに馬鹿にされてたら切れる自信がある。


「まあ、そうなんでしょうけどね。あんな奴らに舐められたら、この先冒険者としてやっていけないので、登録お願いしますね」


 俺の言葉を聞いてカール達が騒いでいる。ディーネも言ってたからな。舐められたら負けだ。絡んできた奴も笑ったやつも全員後悔させてやる。


 なんか渋々と言った感じで手続きを進める受付嬢。レベルを聞かれたので周りに聞こえないようにコッソリ教える。意外と高レベルで少し納得したようだ。


 シルフィの情報によると、レベル四十五は冒険者で言うとCランククラスのレベルらしい。期待の新人だね。精霊術師って嫌われてるみたいだけど。


「これで、手続きは完了となります。恐らく決闘を申し込まれると思いますが、受けてしまわれますと、冒険者ギルドとしても許可を出すしかありませんから、注意してください」


「あー。決闘の場合は生死はどうなるんでしょうか?」


「命を奪う行為は顰蹙ひんしゅくを買いますが、決闘ですので罰はありません。お受けになるおつもりですか? 相手は五人。カールさんはCクラスですよ」


 一対一じゃないんだ。普通決闘って一対一だよね。冒険者パーティーは一心同体とでも言うのか? ……まあいい。シルフィもやっちゃいなさいって感じだし、何事も最初が肝心だ。ここで派手に潰しておけば余計なチョッカイも減るだろう。


「問題無いですよ」


 ニコッと笑って答える。いま、俺ちょっとカッコよかったかも。登録料金を魔石で支払い、カードを受け取り席を立つ。カール達がニヤニヤしながら近づいて来た。完全に絡む気だな。


 シルフィいわく、俺ってかなりの強さらしいんだけど、強者のオーラとか出て無いのかな? それとも頭から精霊術師は駄目って決めつけていて、見下してるとかか?


「よお、クソ精霊術師。決闘だ。負けたら冒険者を辞めろ。無論逃げねえよな? まあ、俺は優しいから、土下座してギルドカードを返却するなら、許してやるぞ?」


 この世界にも土下座があるんだな。……ムカつくほどにニヤついてる。酒場の冒険者達もガンガンあおりを入れて来る。鬱陶うっとうしいな。


「お前らも負けたらギルドを辞めるのなら受けてやるよ。どうする? 土下座して詫びを入れるなら許してやるぞ?」


 言ってやった。言ってやった。カールの顔面に血管が浮き上がっております。顔も真っ赤で完全に怒り心頭です。


 あれ? カールが何も言わずにカウンターに向かった。何かを話している。うん? こっちに来いと怒鳴りつけられる。何がしたいんだ?


 カウンターに行くと紙とペンを渡される。……決闘の誓約書らしい。負けた方がギルドを辞めるって書いてある。サインをしろという事らしい。意外と書類にこだわるんだな。サラサラとサインをした。受付嬢さんが頭を抱えている。心配をお掛けして申し訳ない。


「よし。訓練場に行くぞ。さっさと来い」


「お待ちください。立会人を呼んで来ます。勝手に決闘を開始しないように」


 受付嬢さんが言うだけ言って走って行った。立会人もいるんだ。本格的な決闘だな。訓練場に移動すると酒場の奴らもゾロゾロとくっ付いて来る。


 カールは絶対に殺すと目が血走っている。土下座で許してくれるんじゃなかったのか? 気が短いな、そこまで精霊術師が嫌いなのか? 疑問に思いながら離れた場所で準備運動をする。 


「ねえ、シルフィ。あいつらなんかに負けないよね?」


「ええ、何もさせずに首を落とす事も簡単よ。でもまあ殺さないのよね?」


 シルフィがゾッとするような事を言う。そんな事したら周りもドン引きだよ。


「取り敢えず最初は風壁だけお願い。俺が頼んだらサクッと吹き飛ばしちゃって。くれぐれも殺さないようにね」


 流石に冒険者ギルド登録初日で殺人とか遠慮したい。


「分かったわ。裕太が頼んだら攻撃すれば良いのね」


「うん。あれ? あの人達、何か騒いでるけど、どうしたのかな?」


「ちょっと待って。………………賭けをしているんだけど、誰も裕太に賭けなくて、成立しないみたいね」


「精霊術師ってよっぽど評価が低いんだね」


「ごめんね裕太。普通に厚遇されている精霊術師しかチェックしてなかったわ」


 普通に厚遇されている精霊術師は、みんな一流扱いされる一握りの人達なんだろうな。


「まあ、大丈夫だよ。ここで力を見せておけば、今後は余計なチョッカイが掛からなくなるしね。それよりちょっと行ってくるね」


 賭けをしている所に近づく。この勝負、俺が負ける事ってほぼ無いみたいだし。俺を笑った分こいつらからもお金を貰っても良いはずだ。嘲笑ちょうしょうをお金に変えて楽しい生活をおくろう。


「おい。賭けはどうなってるんだ?」


「あー。お前の人気が無さ過ぎて賭けになんねえよ」


 胴元らしき赤ら顔の冒険者が文句を言ってくる。酷い言い草だ。俺が賭けをしてくれって頼んだわけじゃ無いのに。こいつら酒の飲み過ぎだな。


「賭けを受けろよ。俺が俺に賭ける」


「新人冒険者に払える額じゃねえぞ」


「心配するな。どんな事があろうと俺が負けたら倍額で払ってやるよ」


 おおーっと周りで聞いていた冒険者達が騒ぐ。俺カッコいい。


「ただし、おまえら賭けるんなら全員あいつらに賭けろよ。俺を笑いものにしたんだ、問題無いよな?」


「おいおい、賭けってのはどちらに賭けようが、俺達の自由だろうが」


「なんだ? お前ら俺を笑いものにしたくせに、今更俺の尻馬に乗って儲けたいのか? 迷宮都市の冒険者は随分とまあ、恥知らずなんだな」


「新人があんまり生意気言ってんじゃねえぞ」


 ちょっとカチンと来たらしい。口元が引きつっている。


「その新人を笑いものにして喧嘩を売ったのはお前らなんだがな。その新人に賭けるのは立派な恥知らずだろ? 俺が受けるのは俺が勝ったら賭金総取り。俺が負けたら倍額支払う。それだけだ。賭けるのが怖いなら隅っこで震えて見てろ」


 鼻で笑って元の位置に戻る。酔っ払い冒険者達は煽りが効いたのか、意外と賭金を積んでいるようだ。俺の快適な異世界生活の為にあいつらの小金はいただきだ。ふんふんと上機嫌でシルフィの所に戻る。


「裕太。あんなに煽る必要があったの?」


「煽られた分、煽り返しただけだよ。それに、一文無しなんだから儲けないと」


 魔石を換金すれば小金は溜まる予定だが、資金はいくらあっても問題無い。


「裕太って意外と図太い性格なのね」


 なんかあきれられてる。おっ。肉食系受付嬢がおじさんを連れて訓練場に入ってきた。いよいよ始まるな。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やべぇ、盛り上がってる
[気になる点] 主人公の精神の有り様が急変して、違和感が凄いですね。死の大地では、どんなに実力差があってもかなり慎重(ビビりながら)に臆病に対応していたのに、街に来た途端、やたらと強気に急変してます。…
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