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五百十一話 お母さん? あと心の休日

更新が一日遅れました、申し訳ありません。

 ジュリオ君が白い鴉と契約し、詠唱と動作を覚えたことで臨時の精霊術師講習は終了した。ジュリオ君が悪い大人の悪影響で俺の想像と別方向に進んでしまったが、まあ、精霊術はちゃんと使えるようにはなったんだから問題はないはずだ。義務は果たした!





「ふぅ。じゃあそろそろお昼にするか。サラ、準備を手伝ってくれ。マルコとキッカは焚き木を頼む。ドリーさん、マルコ達の付き添いをお願いします」


 精霊術の訓練も終わってリー先生から教えてもらった体術の訓練も一通り熟した。お腹もすいたし、そろそろお昼にちょうどいい時間だろう。


 師匠に皆を任されているから、あたしがしっかりみんなにご飯を食べさせないといけない。


 マルコとキッカには焚き木を集めてもらう。魔法の鞄の中に炭が入っているから、本来であればそれを使えばいいんだけど、師匠がキャンプなら焚火だよね! と謎の拘りを持っているから焚火にする。


 師匠は偶に、いや、度々、あたしには理解できない拘りを披露してくるから困る。


「分かりました」


「分かった。沢山拾ってくる。キッカ、行こう!」


「うん。あっ、お兄ちゃん待って!」


 穏やかな笑顔で手伝いに来てくれるサラと、焚き木を拾いに元気いっぱいに駆けていくマルコ。その後を慌てて追いかけるキッカ。それと大きくて優しい精霊の気配。


 深い森の奥。本来なら子供が、いや、大の大人でさえマルコのように無防備に駆けていくのは命とりな場所。


 そんな場所で無防備でいられるのも、大きくて優しい気配の元である師匠が契約している大精霊達のおかげだ。


 でも、それでいいのか?


 たしかにあたし達もレベルが上がったし精霊術師になって戦えるようになった。安全が確保されているんだから無防備でも構わないと言えば構わないんだが、迷宮での探索はもう少しピリッとしていたはずだ。


 油断し過ぎのような気がするし、師匠が戻ってきたら相談しておいた方が良いかもしれない。


「ジーナお姉さん、マルコ達がどうかしましたか?」


 駆けていったマルコ達の後ろ姿を見て難しい顔をしていると、サラを不安にさせてしまったようだ。


 師匠にサラ達を任されているのに、こんなことでサラを不安にさせてはいけないない。でも、サラはしっかりしているし、あたしの疑問も軽く伝えておいた方が良いだろう。


「いや、ちょっとマルコ達が無防備すぎないかと思ってね」


 あたしの言葉にサラも納得したように頷く。


「そうですね。この場所は安全ですから油断しているのかもしれません。もう少し気を引き締めるようにした方が良いですか?」


 あたしもそうした方が良いと思うんだけど、難しいところでもあるんだよな。


「師匠は土の回収以外は遊んでいいって言ってたからな……まあ、師匠が戻ったら相談してみるよ。さて、準備するか」


 師匠としてはあたし達にもっと遊んでほしいみたいだし、勝手に気を引き締めるのも違うだろう。


 でも、あたしまで子ども扱いするのはどうかと思うんだよな。……あたし、大人だよな?


 なんだか納得がいかない気持ちを抱えながらも、お昼の準備を始める。まずは魔法の鞄から調理用の窯や焼き台、テーブルを出して、次は食事用のテーブルと椅子を出す。


 サラには食器類を並べてもらおう。


 しかし、この広場も異常だよな。元々は周囲と同じく木々が溢れていたんだけど、師匠がドリーさんにお願いすると、木々がひとりでに動き出してあっという間に広場ができた。


 広場の中にある泉も、ディーネさんのおかげで直接飲める美味しいお水になっているらしいし、人が居れば簡単に村が作れそうだ。


 まあ、森の奥だけあって、魔物が多いしなまはんかな腕だとたどり着けもしないから無理だけどな。


 食事の準備を始めると沢山の精霊の気配が近寄ってくる。


 元々、自然が豊かな場所だから精霊の気配はそこかしこに感じるが、この気配はベル達だろう。あたし達の契約精霊もそうだけど、師匠の影響で周囲にいる精霊達は食事が大好きだ。


 大精霊達はお酒の方が好きなようだけどな! 実家の食堂の利益の何ヶ月分かの酒代が一夜の宴会で消費されると、偶に恐怖を覚える。


「ジーナ姉ちゃん、拾ってきたー」


「きたー」


 ある程度の下準備が終わった頃、ちょうどよくマルコとキッカが焚き木を抱えて戻ってきた。


「ありがとう。じゃあ、燃えやすいように窯と焼き台に並べてくれ」


「わかった」


「うん」


 迷宮での冒険の成果か、マルコとキッカは燃えやすいように焚き木を並べるのが上手だ。あっという間に焚き木が並べられる。


「シバ、頼む」


 あたしが窯を指さしてシバにお願いすると、楽しそうな気配の後にポッと焚き木に火が付く。


 その後、褒めて褒めてとシバの気配があたしの周囲を飛び回るから、上手だ、ありがとうと沢山褒めておく。


 焚き木に火をつけるくらいなら生活魔法の種火でなんとかなるんだけど、そうしてしまうとシバが拗ねてしまって大変だ。


 偶に精霊術師って子守が仕事なんじゃ? と思うことがある。


 楽園での師匠の姿を見ると特にそう思うんだけど、まあ、シバも他の精霊達もとても可愛らしいから、子守なら子守で別に構わないだろう。


 焚き木の火が大きくなると、窯にはスープが入った大鍋をのせ、焼き台には迷宮都市で購入した屋台料理を並べて温める。


 この時になると、焼き台の前には沢山の精霊の気配が並ぶ。たぶん、焼き台の前で密集しながら早く食べたいって騒いでいるんだろう。


 楽園ならその光景がハッキリと見られて和むんだけど、今は気配だけなのが残念だ。


 ある程度料理が温まると、戦争が始まる。


 サラ達と、その契約精霊達は手を出さなくても大丈夫だし、ベル達、人の姿の精霊も問題ないが、レイン達、動物の姿の精霊にはお手伝いが必要だ。


 料理から串を抜いたり、料理を食べやすいように取り分けたりとなかなか大変だ。


 だけど、楽園で喜んで料理を食べる姿を見ているから手を抜く気にはなれない。この子達のションボリする姿は心に突き刺さる。


 まあ、今回はディーネさんもドリーさんも手伝ってくれるから、そこまで大変じゃないけどな。


 料理を焦がさないこととお代わりに注意しながら、あたしもシバと昼食を楽しむ。


 もはや空中に料理が浮かぶことなど慣れたものだ。


 気配で見分けなくても、料理の動きや消え方で誰が料理を食べているのかも見分けられるようにもなった。なかなか凄いことだと自分でも思うが、なんの役に立つのかは疑問だ。




 料理が減る速度が落ちた。そろそろ食事は終わりにして良さそうだな。


 後片付けをした後はおやつの時間までのんびりできそうだな。何をしよう?


 あぁ、マルコとキッカの危機感が薄くなっていることを師匠にどう相談するから考えておいた方が良いな。


 でも、その前にシバと沢山戯れよう。声が聞こえなくても、姿が見えなくても、触れなくても、楽園のおかげでしっかりシバの姿も声も手触りも想像できる。


 師匠も精霊とのコミュニケーションが一番大切だって言っているし、しっかりとコミュニケーションしよう。




 ……数日後、師匠がやけに疲れて戻ってきた。


 軽く話を聞いたが、どうやら精神的にものすごく疲れたらしい。


 迷宮都市では恐れられているともいえる師匠。その師匠をそこまで消耗させる存在に警戒と興味を覚えたが、話すことすら辛そうなので聞くのは止めてゆっくりしてもらうことにする。


 マルコとキッカの相談も落ち着いてからの方が良さそうだ。




 ***




「これすきー」


「キュー」


「……こっちのもおいしい……」


「クゥ!」


「これがさいきょうだぜ! あかいからな!」


「…………」


 暗い夜の森で、大きな焚火を囲んでのキャンプ。


 お気に入りの屋台料理を手にはしゃぐ可愛いらしい契約精霊達。


 あぁ、癒される。


 視線の方向を変えると、弟子達が契約精霊の面倒を見ながら、美味しそうに自分達も料理を食べている。


 あぁ、癒される。


 彼女達の視点からだと空中に様々な料理が飛び回っているように見えるはずなのに、気にせずに笑って楽しんでいる姿に、図太くなったと感慨深いものを覚えても癒しは癒しだ。


 また、別の方向を見ると、グラスを持ったシルフィ、ディーネ、ドリーが楽しそうに談笑している。


 シルフィとディーネに関しては性格に困った部分があるものの、外見は超一流だから見ているだけで癒される。


 そう、これなんだ、俺が求めていた異世界生活は。


 迷宮都市で色物を相手に苦労するのではなく、こうやってのんびりと落ち着いた異世界生活。


 何事にも縛られず、ただただ、自分の気のおもむくままに生きる。これが大切なんだ。


 まあ、いろんなしがらみは生まれているし、自分の思い通りにならないことも多いけど、こういう豊かな気持ちに浸れる環境が必要なんだ。


 無垢な少年を厨二な道に引きずり込んだとか、弟子のマルコへの影響が怖いとか、微妙な罪悪感を刺激される日常はごめんだ。


 特に厨二関連はヤバい。


 軽度の症状だったとはいえ、就職して完全に封印したはずのブラックなヒストリー。それがファンタジーな世界での生活と相まって、暴れだそうとしてしまう。


 頑丈な箱に入れて、更に鉄の箱で溶接して、鎖でがんじがらめにした上で、心の奥底に沈めた禁断の歴史。


 まさか闇の精霊に厨二心を刺激されて、疼きだすとは思わなかった。


 自分が悪ふざけで厨二詠唱を作っていた時は問題なかったが、本物との接触は要注意だ。


 今更になって、異世界で思春期全開とか冗談じゃない。


「師匠、なんか苦しそうだけど大丈夫か?」


 心の奥底から湧き上がってくる恐怖に怯えていると、ジーナから声を掛けられた。


 どうやら抑えきれない恐怖が顔に出ていたらしい。


 無理もない。厨二の疼きと共に、思い出したくない過去も思い出しちゃったもんな。そりゃあ顔色も悪くなるさ。畜生。


「あぁ、ちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけだから心配しなくても大丈夫だよ」


 そう、あれは夢だ。幻だ。実際には起こらなかったことだ。だから大丈夫。だいたいここは異世界なんだ。昔の世界の出来事なんて時効だよね。綺麗な思い出だけ大切にして生きていこう。


「そうなのか?」


「うん。大丈夫」


 そう大丈夫。弟子とはいえ、こんなジーナのような美女に心配されるようになったんだ。だから大丈夫。大丈夫。そう、大丈夫なんだ。


 ……でも、心の安定にはもう少し癒しが必要だと思う。明日も一日お休みにして、しっかりみんなに癒されよう!


本日、2/24日、『精霊達の楽園と理想の異世界生活』のコミックス、第五巻が発売されました。

裕太がベル達と楽しく冒険しております。

巻末にはその頃の楽園を書いたSSも載っておりますので、お手に取って頂けましたら幸いです。


また、活動報告での温かいお言葉と、ありがたいご報告、とても励みになります。本当にありがとうございます。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジーナって大人な自覚あるみたいだけど、体が大きいだけで中身子供だよな~ ディーネよりはおねいちゃんしてるけどさ
[一言] 追い付いた! シルフィ可愛い\(*≧з≦)/
[一言] なんだ、誰目線だ? と思ったらジーナだったか。 で、途中でゆーた目線に変わった! なかなか混乱するな、これは・・・。
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