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五百二話 世界平和

 ローゾフィア王国の遺跡発掘現場でラフバードの丸焼きをみんなに振舞った翌日、自分のやりたいことが見つからない俺に対して、シルフィからの命令が下された。まあ、命令というよりも要請だったけど、中級精霊達のことを考えると断れるはずもないから、命令、いや、勅命レベルの強制力だと思う。俺は人間に対してよりも精霊に対しての方が甘いんだ。


「そういった訳で、楽園を広げることにしました。一緒に頑張ろう!」


 中級精霊を待たせていると認識してからは、のんびり自分探しをするのも落ち着かないのですぐに楽園に戻ってきて、楽園の主要メンバーを集めて宣言した。


 契約精霊だけじゃなくて、ルビー達も主要メンバーに組み込んでいるけど、楽園にお店を持っているんだから組み込んだって問題ないはずだ。


 急な予定変更でヴィクトーさんとの触れ合う時間が短くなってしまったサラには申し訳ないが、借りということで後日なんらかの形で補填したいと思う。


 サラに滞在期間が短くなったことを詫びた時、『会えるだけで幸せなんですから、時間が短くなったことくらいなんてことないですよ。お師匠様が気にすることではありません』って言われてしまったのはね……弟子が人間的に立派だと、それはそれでプレッシャーを感じるのはなぜだろう?


 ……師匠の自分が人間的に立派じゃないからこそ感じるプレッシャーだな。知りたくなかった事実だ。


「師匠、質問!」


「ん? なにか分からないことでもあった?」


 知りたくなかった事実を認識し、自分探しの旅なんかしている時点で立派な人間な訳ないよなと妙に自分で納得していると、ジーナから声が上がった。


「師匠がシルフィさん達に頼めば、開拓なんて一瞬で終わるんじゃないか?」


 ジーナから鋭い質問が飛んできた。たぶんその通りだと思う。全力でシルフィ達が力を振るえば、死の大地全域が緑であふれるまで半年も掛からないだろう。


「開拓するだけならそれで済むんだけど、聖域として広げるのは俺の力で開拓した部分だけって約束なんだ」


 まあ、それならジーナ達の協力も駄目なんだけど、そこまで厳しく判定はされないだろう。ベル達のお手伝いもOKなんだから、ジーナ達の協力も問題はないはずだ。


 あやふやなルールだけど、駄目ならシルフィが駄目って言うだろうから、厳密にルールを気にしなくても大丈夫だと思う。


「ふーん、精霊なら自然が増えた方が嬉しいんじゃないのか?」


 微妙に納得がいかないのか、ジーナが首をひねっている。


「ふふ、自然が増えた方が嬉しいのは間違いないわよ。でも、精霊側の立場から言えば、人間が破壊したんだから、人間が治しなさいってところね。そうでなければ、精霊王様が動いて死の大地もすでに復活しているわよ。まぁ、聖域にはならないけど、裕太が自然を復活させたいなら私達大精霊も力を貸すわよ? 裕太はどう?」


 破壊した人間のしりぬぐいを異世界人の俺がするのはどうなんだろう? まあ、ジーナもシルフィの言葉に納得してくれたからいいか。死の大地の復活は……。


「戦争になる未来しか見えないから、復活は無しでお願いします」


 死の大地が復活したら大陸各国がお祭り騒ぎになる未来しか見えない。自国の権利を主張しあってもめたり、占拠するために兵を派遣したりするのが目に見えているよね。


 今でさえ戦争をしている国が結構あるのに、その火種に燃料を追加投入するようなものだ。


「師匠なら戦争でも止められるんじゃないか?」


 弟子の過大な信頼が痛い。ジーナ、そんなワクワクした目で俺を見ないで。


「いやいや、そんなことできる訳ない……あれ?」


 ……戦争している国や、戦争をしようとしている国に大精霊達を派遣してボコボコにすれば……あれ? できないこともないのか?


「……ムリダトオモウヨ」


 思わず声が棒読みになってしまった。弟子達からの視線が痛い。でも、嘘をついている訳じゃない。


 思えば、なんだか世界を支配できそうな力が周囲に集まっている気がするけど、それとこれとは話が別だ。


 大陸を支配して『フハハハハハ!』とかする精神力はないし、各国のパワーバランスに気を使って大陸に平和をもたらすなんて繊細なことも無理だ。ストレスで死ぬ。


 要するに、性格的に無理ってことだな。世界の平和は他の誰かが成し遂げてくれると信じよう。


「まあ、そういう難しい話は置いておいて、いまは開拓の話だよ。中級精霊達が沢山遊びに来ても困らないように頑張ろうね」


「おししょうさま、ごまかした?」


 キッカがとても可愛らしくコテンと首を傾げながら真実を突く。


 出会った頃はいつもマルコの陰に隠れてオドオドしていた幼女が、自分の意志で発言する。それは弟子の成長を実感できて素晴らしいことなんだけど、なにもこんな内容の時に実感はしたくなかった。


「誤魔化してはないよ。そういう凄いことはね、偉い人とか英雄の仕事なんだ。俺のやるべきことじゃないんだよ」


「なんで?」


 理解できないのか、無垢な視線に疑問を込めて聞いてくるキッカ。


「そうですね。お師匠様ならなんとかなりそうな気がします」


 深く考え込んだ後に、俺に期待の目を向けるサラ。世界が平和になれば自分のような目に遭う人が減らせるとか、重いことを考えていそうだ。


「師匠はすごいからだいじょうぶだよな!」


 深く何も考えずに俺に無垢なる信用を向けるマルコ。


 あれ? なんだかこの話の流れはヤバくない? 開拓の話をしていたはずなのに、世界の平和を俺に期待する流れになってない?


 弟子には見栄を張りたいタイプの俺だけど、さすがに世界平和は呑み込めないよ?


 ことの元凶になる言葉を発したジーナに目を向けると、さすがに話が暴走していることに気がついたのか、仕草でごめんなさいをしている。


 美女なジーナのその仕草はとても魅力的だからすぐに許したくなるが、さすがにこの状況はいただけないので恨みを込めた視線を向ける。ちょっとワタワタしているジーナが可愛い。


 さて、この状況をどうしたものか。なんとか師匠の威厳を下げずにこの場を切り抜けたい。


「まあ、裕太がその気になれば楽勝だな。俺が国ごと灰にしてやるぜ!」


「うーん、水に沈めれば戦争は止まるわよねー?」


 穏やかな着地を考えているところに、物騒な内容を放り込んでくる二人の大精霊。


 イフはあれだな、最近暴れていないからちょっとストレスが溜まっているのかもしれない。


 迷宮都市の迷宮で暴れさせるとコアが憤死しそうだし、どこか未発見な迷宮でも探してストレスを発散できる機会を設けるべきかもしれない。


 ディーネは……たぶん、単純に出来るか出来ないかを考えたのが口から出ちゃったんだろう。二人とも本気でないと信じたい。怖くて聞けないけど……。


 ん? これは二人のフォローなのか? なんか違う気がするけど、これなら俺の威厳を下げずに話を終わらせられそうだ。


「ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、これから大切な話をするから、よく聞きなさい」


 急に真面目な顔をした俺についてこられていないのか、キョトンとするジーナ達。でも、構わず話を続けよう。


「大きな力には大きな責任が伴うんだ。今、イフとディーネが言ったようにすれば戦争は止められるかもしれない。でもね、それをすれば戦争以上の被害が生まれる」


「ですが、お師匠様。本当に国を灰にしなくても、それができる力を見せるだけで戦争は止まるのではありませんか?」


 いやん、沢山人が死んじゃうから駄目だよねと単純に結論付けようとしたのに、結論を言う前に結論が否定されてしまった。面倒だから嫌だと言えないのがとても面倒だ。師匠って大変だな。


 とはいえその大変さに浸っている訳にはいかない。簡単な結論は受け入れられないようだし、もうひと手間加えないといけないようだ。


 でも、この話の流れのパターンは、いくつかの二次元世界で学んでいる。それを思い出したからには、勝利の方程式は俺のものだ。


「そうだね。サラの言う通り、そうすれば戦争は止まるかもしれない」


「では!」


 サラは本当に戦争が嫌いなんだね。まあ、自分の領地を攻め滅ぼされたんだから無理はない。でもね、いくら可愛い弟子の望みでも、さすがに戦争を止めるなんて大きな荷物は背負えないよ。


「俺が居なくなったら?」


「えっ?」


「俺はいずれ死ぬ。不老不死じゃない普通の人間だからね。で、俺が死んだらどうなる? それまで無理矢理押さえつけられていた国々は不満を解消するために暴れだすだろうね。そうなると、俺が抑えつける前よりも酷いことになるだろう」


 なんか大精霊達が居る方向から、普通の人間? と失礼な呟きが聞こえたけど、俺は普通の人間だ。なんか異世界転移してチートも持っているけど……。


「みんな、よく聞きなさい。大きな力を持てばなんでもできるという訳ではないんだ。世界の平和は一人の力で無理矢理達成するべきものではなく、弱くとも一人一人が努力して成し遂げるべきことなんだよ」


 大きな力を持っているのに、いまだに奥さんどころか彼女すらいない俺が言うんだから間違いないよ。


 金も力も冒険者としてだけど身分もあるのに、なぜか彼女ができない。とても不思議だよね。


 沢山の好みの女性と出会ってはいるんだけど、みんな個性が強すぎる。呪われているのかもしれない。


 っていうか、この条件で呪われていなくて彼女ができない方が凹む。彼女ができないのは呪いのせいであって、俺が悪いわけではないと強く信じたい。


「お師匠様……」


 サラが悲しげにつぶやいて目を伏せた。彼女ができない原因を探求している場合じゃなかったな。パターン通りとはいえ、サラは真剣なんだから真剣に答えないといけない。頼りない師匠だろうと、それくらいの義務は果たすべきだろう。


「想像でしかないけど、サラの身の上を思えばサラの気持ちも少しは理解できる。でもね、強力な力は毒にもなるんだ。だから、焦ってはいけない。目の前のできることを一つ一つ積み重ねていこう」


「……はい」


 なんだか悲しそうだけどなんとかなったかな? とりあえず、いきなり世界平和を目指すことにならなかったんだから、成功だということにしておこう。


 よし、これ以上話が逸れないうちに、さっさと開拓を始めてしまおう。師匠の威厳を保つための精神力はもう売り切れだ。


(積み重ね? 一人一人? 最初は偉い人とか英雄とかの仕事って言ってなかったかしら?)


 シルフィ、せっかく丸く収まったんだから、小声で矛盾を突くのは止めてください。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ここまで読んであれだけど精霊の奴隷になる小説? 主人公自身ほぼ自分の事より精霊ファースト過ぎるし精霊自身が自由なのは分かるけど酒の事ばかり初めは酒が無くても開拓のみで良い関係でほんわかして読んでて楽し…
主人公は選り好みが激しいと言える、自分が良い男だと思ってない癖に好みに煩い、ほんとんど男に言えるのが、自分は選ぶ側だと無意識に思っている事だ、選ぶのは女性の側だと言う事を悟れ。
[一言] そういえば戦争してる国が最新話までまったく登場しないのは不思議ですけど、いつか書くのでしょうか?
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