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四百九十九話 遺跡

沢山の感想、ありがとうございます。

裕太の情けなさも、ある程度は受け入れていただけているようですので、このまま突き進みたいと思います。

よろしくお願いいたします。

 醤油と味噌を完成させたことで改めて自分の生活を振り返ると、幸せな隠居状態の現実が怖くなってしまった。余裕があって幸せならそれでいい気がするのに、妙に不安になってしまうなんて、自分のことながら人間ってよく分からないな。


 そういった訳で、不安を覚えて五日目にローゾフィア王国のヴィクトーさん達が発掘している遺跡までやってきた。


 幸せからの現実逃避という意味の分からない行動だけど、サラはお兄さんのヴィクトーさんに会えるんだから悪くない行動だろう。


 出発までの五日間は、サクラを構い倒したのでしばらく時間の余裕もあるし、自分探しにジックリ時間を掛けよう。自分探しとか、なんか思春期みたいでちょっと恥ずかしい。


「裕太殿、サラ、他の方達もお久しぶりです!」


 遺跡に直接降り立つとヴィクトーさんとベッカーさんが笑顔で駆け寄ってきた。


 直接飛んできてもちょっと驚かれるくらいなのは楽でいい。あの時ぶっちゃけたのは間違いじゃなかったようだ。


「お久しぶりです。ヴィクトーさん、ベッカーさん。えーっと、あれですね……とてもお元気そうですね」


 元から外人の傭兵みたいだったヴィクトーさんだけど、真っ黒に日焼けした筋骨隆々のガテン系にレベルアップ? している。もっているシャベルが似合い過ぎだろう。


 ベッカーさんもあれだ、元貴族で武人っぽかったのに、ムキムキ系のガテン系お爺さんになっちゃっているな。


「あはは、そうだな。日々穴を掘り、土を運び、価値ある物を探し出す。この生活は俺に合っていたようだ!」


「儂は腰が不安なのですが、不思議と体調は良いですな。宝が出てくると燃えます」


 俺にはガテン系の気持ちは理解できないが、部下に任せることが可能な二人が率先して穴掘りをしているんだから、たしかに性に合っているんだろう。


 笑顔もなんかちょっと能天気っぽくなっていて、貴族に返り咲くって目的を忘れていないかが激しく不安だ。


「えー、元気なら良かったです。それにしても、人数が増えていませんか? 子供も居ますよね?」


 子供と言ってもサラ達よりは年上っぽい。中学生くらいかな?


 ここって、王都から歩いて十日以上はかかる場所で、魔物も居るから結構危険なんだけど大丈夫なのか?


「あぁ、王都のクランハウスには幼い子供達とある程度の人員を残し、他はこちらに呼び寄せた。なにせこの遺跡は広いからな」


 たしかに広いよね。ノモスがいうには町があったみたいだし、多少の人員では発掘が終わるまでどれくらい時間が掛かるか想像もつかない。


「それでも、あの子達は流石に危険では?」


 モッコのようなもので土を運んでいる中学生くらいの二人を指しながら質問する。


「たしかに若いがあの子達なら大丈夫だ。騎士としての訓練もしているし、魔物との戦いには出さないからな。主に体を鍛えるのが目的だ」


 土木作業が筋トレ扱いってこと? 必要な筋肉が騎士と土木作業では違う気がするんだが、大丈夫なんだろうか?


 ……まあ、いいか。体を動かすのは良いことだもんね。


「それで、裕太殿、此度はどうされました?」


 筋肉について説明するのを面倒に思っていると、ベッカーさんが話を変えてくれた。助かる。


「この遺跡がどうなっているのかも気になりましたし、サラをヴィクトーさんに会わせたいと思いまして、ちょっと顔を出しました。お土産も持ってきたので楽しみにしていてください」


 自分探しの目的は、さすがに恥ずかしいから内緒だ。


「おぉ、ありがとうございます」


 ヴィクトーさんとベッカーさんの表情が笑顔に変わる。何度かここに来た時、お酒を差し入れしたのを覚えているんだろう。


 食料は周辺での採取と王都との往復時の買い出しでなんとかなるみたいだけど、お酒は重いからあまり運べないもんね。


 おっと、俺だけ話しているのもサラに悪いな。ジーナ達も退屈だろうし、ここでの話は終わりにした方が良さそうだな。


「ヴィクトーさん。話にも出ましたけど、お土産はどちらにだしましょうか? 前の拠点をそのまま使っているんですか?」


「ええ、裕太殿が発掘してくれた建物を拠点として利用しています。かなり手を入れたので、だいぶ住み心地は良くなりました」


 あの三階建ての建物、骨も沢山出たんだけどね。まあ、この世界の人達はたくましいからそれくらい大丈夫だろう。


 俺だって、楽園の外に出たらアンデッドがはびこる大地で暮らしているもん。


「そうですか。では、そちらに移動しませんか?」


「そうですな。飲み物も出さずに失礼しました。移動しましょう」


 ヴィクトーさんとベッカーさんの案内で、前に発掘した建物に向かう。


 ……なるほど、たしかに住み心地は良くなってるっぽい。


 とくに地面と三階建ての屋上に丸太の橋が架かっているのが便利そうだ。


 ほとんどが地面に埋まっている場所を掘り出したから、一階からの出入りは高低差があって不便だけど、最上階を玄関にすれば暮らしやすいだろう。


 穴の周囲も切り出した丸太で丈夫な柵が作ってあるし、掘り下げられた空間が堀のような役割も可能だから、橋をどうにかすれば手強い魔物に襲われても防衛できそうだな。


 危険な場所だと理解しているからか、前来た時と比べると圧倒的に防御力が増している。人員を呼び寄せたことも考えると、この辺一帯の遺跡をすべて掘り起こすつもりかもしれない。


 感心しながら建物に入り、倉庫で数々のお土産を出す。お酒と、この辺りでは手に入り辛い穀類等の食料の反応が良いようだ。


「裕太殿、お茶でもいかがですか?」


 お茶か……喉が渇いていない訳ではないけど、俺が居るとヴィクトーさんは俺をもてなそうとするからサラがなかなか話せない。


 たいして話すことがある訳じゃないし、ここは遠慮しておこう。


「いえ、俺はちょっと周囲を見学したいので、サラにお茶をご馳走してあげてください」


「お気遣いありがとうございます。では、サラ、久しぶりに兄と話そうか」


 気遣いが露骨過ぎたようで、完璧に俺の内心を読まれている。もっとさりげなく気遣いを示せるようになりたい。


「はい!」


 でも、サラも嬉しそうに返事をしているし、OKということにしておこう。


 ヴィクトーさんとサラと別れ、案内を申し出てくれたベッカーさんにも遠慮して、身内だけで建物の外にでる。


 さて、周囲を見て回るのと、今発掘している場所でも見学するか。お宝の発見に立ち会えたら面白そうだな。


「ゆーた。いのししー?」


 どう遺跡を見て回るかを考えていると、ベルがワクワクした表情で質問してきた。ベルの背後ではムーンを除いたレイン達が期待した目で俺を見ているので、みんなも狩りに行きたいようだ。


(丸焼きが食べたいの?)


 気持ちは分からなくもない。丸焼きはそれだけでなんだかワクワクするもんね。ドラゴンのお肉の方が味は上なんだけど、見た目のインパクトとしてはイノシシの丸焼きも負けていない。


 だから来るたびに狩りをしていて、この国に来るとイノシシを狩るってベル達が覚えてしまった。狩りが苦手なムーンはいつもお留守番だけど……。


「たべるー」「キュー」「しぜんのあじ」「ククー」「じゃくにくきょうしょくだぜ!」


 まあ、丸焼きのストックが沢山あるのも悪くないし、ここに居てもやることはないから構わないか。


 ヴィクトーさん達との話し合いの間、我慢して待機していた良い子達にはご褒美が必要だろう。


(分かった。ついでにキノコの採取もお願いね。数が集まったら受け取りに行くから、呼びにきてね)


「わかったー」「キュキュー」「きのこもすき」「クーー」「にくだぜ!」


 テンションマックスで飛んでいくベル達。あの張り切り具合を考えると、間違いなくイノシシもキノコも大量だろう。


 あの焼き場のおじさんもまた来たのかって呆れられるかな?


 そういえばイノシシの丸焼きしか焼いていないけど、他の丸焼きはできないんだろうか。ラフバードの丸焼きとか美味しそうな……駄目だな。


 あそこはたしかにイノシシの丸焼きを作っているけど、大きさも選別していた。鳥の丸焼きが作れるのか以前に、俺の身長よりも大きいラフバードでは大きさでアウトだ。


 ……でも、ラフバードの丸焼き……美味しそうじゃないか?


 大きなお腹に米とかキノコ、香草なんかを詰め込んでジックリ丸焼きにすれば、とても美味しい気がする。


 大きいだけに焼き加減が難しそうだけど、俺には火の精霊が付いているからなんとかなる気もする。


 道具を作るのはトゥルだとちょっと難しいか? いや、丸焼きの道具はあるし素材もあるんだから、サイズを大きくするくらいトゥルならできるだろう。駄目だったらノモスを召喚すればいい。


 普段ならお金を払って人になんとかしてもらうんだけど、自分探しの一環として、豊かな人生の一つの思いでとして、ちょっと頑張っちゃおうかな?


 死の大地に来た当初の、なんでも自分で頑張ってきた気持ちが蘇ってきた気がする。


 よし、そうと決まったらさっそく準備するか。ヴィクトーさん達にもご馳走すればみんな喜ぶだろう。


 ……あっ、ベル達は狩りに行っちゃったんだった。張り切って出発したのに、トゥルだけ呼び戻すのも可哀想だな。


 ノモスを呼んでもいいけど、トゥルにも経験を積ませたい……明日にしよう。とりあえず、今日は見学だな。


「師匠。おれもウリとはっくつのてつだいしたい!」


 見学のつもりだったけど、マルコの宝探し魂に火がついてしまったようだ。ウリは浮遊精霊とは言え土の精霊だから、たしかに発掘のお手伝いは可能だろうな。


 うーん、邪魔になりそうな気がするけど……俺にはこのまぶしい笑顔を曇らせるのは無理だ。


 沢山お酒を差し入れしたんだし、ちょっとくらいこちらのワガママを聞いてもらっても大丈夫だろう。


「精霊術を使う時にちゃんと詠唱する振りができるなら、ベッカーさんに頼んでみるよ」


「大丈夫。できる!」


「じゃあ、キッカ。おにいちゃんのおてつだいする」


「なら師匠。私がこの子達の面倒を見ておくから、師匠はゆっくり周辺を見て回ってくれよ」


 弟子達のチームワークが素晴らしい。ジーナも先程の会話を聞いていて、俺に気を使って見回りがしやすいようにしてくれたんだろう。    


「……うん、ありがとう。じゃあ、ベッカーさんに会いに行こうか」


 でも、弟子達と別れて一人で見回りってのも少し寂しいな。


 シルフィと話しながら、一緒にお留守番をしているムーンと戯れるか……。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 個人的にはだけど、自分が勧めた人里を少し離れた遺跡で生活させる事になったのだから、穴掘り云々以前に生活出来るだけの発掘が出来ているか、って所が気になっちゃうかな。 無論、それが場所を紹…
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