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四百九十八話 再認識

今回の話ですが、後半がなんだか書く前に考えていた方向と別方向に進んでしまいました。

元々、カッコいい主人公を書こうとは思っていないのですが、今回の主人公はちょっと酷いような気がしています。

もしかしたら後半部分を書き直すか、カットするかもしれません。

よろしくお願いいたします。

 精霊術師講習も好評の結果に終わり、最後はちょっと逃げるように帰ってきてしまったが無事に楽園に戻ってきた。次の精霊術師講習まで時間が空くだろうし、しばらくはのんびりできるだろう。なら、やりたいことは決まっている。


 食の追求だ。


 せっかく醤油と味噌が完成したのに、精霊術師の評判がガタ落ちということで醤油を少し楽しんだだけで迷宮都市に向かうことになった。


 今度こそ、醤油と味噌を全力で楽しみたい。


「と、いう訳で、全力で楽しむために用意しました」


「ちゃいろー」「キュー?」「どろ?」「ククゥ?」「くいものか?」「……」


「どういう訳かは分からないけど、帰ってきてルビーを数日拘束して完成したのがこれなの?」


「お姉ちゃんとしては裕太ちゃんを信じてはいるんだけどー、料理には見た目の華やかさも重要だと思うわー」


「ふむ。興味が無いわけではないんじゃが、そろそろ海底に寝かせている蒸留酒に手を付けるべきではないかの?」


「裕太さんが食べさせてくれる料理は美味しいですから、楽しみです」


「まあ、不味かったら消し炭にしてやるから、心配すんな」


「あはは、この調味料には僕も関わったから大丈夫だと思うよ?」


「うーん、見た目は微妙だけど、カレーよりかはマシか? 実家の食堂でも出せるかな?」


「匂いは……いいですよ? 独特ですが……」


「うまいのかな?」


「おにいちゃん、キッカ、たべれなかったらどうしよう?」


 おかしいな? 俺には完璧に見えるんだけど俺以外の評価が微妙だ。


 ……でも、改めて見るとベルが言ったようにたしかに茶色いかな? サバの味噌煮定食。


 メインと味噌汁のインパクトが強くて、初見だと他の色が負けている気がする。


 ベル達下級精霊が不思議そうに首をひねるのも、ドリーとヴィータを除いた大精霊達が素直過ぎる反応をするのも、ジーナ達が俺に気を使った目をしているのも、ジーナ達の契約精霊であるフクちゃん達がちょっと遠巻きに様子をうかがっているのも理解できないでもない。


 チョコレートやカレーの第一印象と同じで、食べる前と食べた後で反応が変わるパターンだろう。


 なぜなら、手前味噌ではあるが自家製の味噌を使用し、鰹節は手に入らなかったものの厳選した煮干しと昆布で出汁を取ったワカメとネギの味噌汁。


 収穫した瞬間に魔法の鞄で保存したオイルリーフの煮びたし。(ちびっ子精霊達は無し)


 こちらも新米状態を維持した白米を飯盒で炊いた、ツヤツヤピカピカのご飯。


 そして、メインのサバの味噌煮。


 獲れたてピチピチな新鮮なサバ(たぶんサバ)を、俺のうろ覚えの知識から完璧に料理してくれたルビーの腕。


 サバの皮は艶々なのに、身にはしっかりと味噌ダレが絡まっていて、細切りにしたショウガがチョコンと上に乗っている。


 この定食が美味しくない訳が無い?


 これを食べた後の皆の掌返しを思えば、初見の反応の悪さもメインを引き立てるプレリュードでしかないだろう。


 だけどノモスは駄目だ。悪い意味でも良いから料理に対する感想を言えよ。お酒にしか興味が向かっていないじゃん。


 とりあえず、蒸留酒はしばらく手を付けないことにしよう。


「まあ、あれだ、見た目に違和感があるかもしれないけど、俺の故郷でも人気の料理だからきっと気に入ると思うよ。試してみてくれ」


 ルビーも試作の段階から感動していたし、精霊の口に合うのはすでに確認済み。俺の勝利は揺るがないはずだ。


 少し残念なのは、俺も新鮮な気持ちでこのサバの味噌煮定食を味わいたかったってことだな。


 なんせ、俺しか味を知らないから、味噌汁もサバの味噌煮も数日掛けた試作で味見をしまくって、すでに新鮮味は薄れている。


 でも、みんなが故郷の料理を喜んでくれるなら、それだけで頑張った甲斐がある。


 ……ハンバーグが食べたい気分なのは内緒だ。


「ゆーた、おいしー」


 皆が戸惑うこういう時に、いつも一番に手を付けてくれるのはベルだ。その信頼がとても嬉しい。


 まあ、サバの味噌煮をフォークでブッ刺して噛り付いて、口の周りが味噌ダレでベタベタだけどね。


 見た目年齢だと問題ないんだけど、マナーを教えるべきだろうか? でも、天真爛漫で無邪気なベルも可愛らしいから悩みどころだ。


「なに、このタレ。これがあの泥みたいな味噌の味なの? 深いコクとまろやかな塩味、驚きだわ。匂いがちょっと鼻につくけど、素晴らしい味わいね」


 シルフィが驚きながらグルメ漫画みたいなことを言っている。味噌の匂いが鼻につくとか意味が分からないことも言っているが、気に入ってはくれているようだ。


「うまっ! 師匠、これごはんとくうとめちゃくちゃうまい!」


 マルコがサバの味噌煮を食べた後、ご飯をガツガツと口に流し込んでいる。たしかにその食べ方は美味しいだろう。サバの味噌煮の最高の食べ方かもしれない。


「裕太ちゃん、このスープ凄いわー。穏やかな海に抱かれているような気持になるのー」


 ディーネは味噌汁が気に入ったようだ。たぶん、ホッとするって言いたいんだろうな。


 ベルに続いて、シルフィ、マルコ、ディーネの絶賛に、戸惑っていた残りのメンバーも料理に手を付け始める。


 楽園に響き渡る賛辞。


 味噌と醤油が楽園に受け入れられたことは間違いないだろう。


 さて、そろそろ俺も食べるか。 


 ***


 ……最近凄く幸せを実感している。


 味噌と醤油が完成し、故郷の味が気軽に味わえるようになったことで現実を見つめ直し、自分がどれだけ恵まれているのかを再認識したのが原因だ。


 正直、日本には未練はある。


 家族や友人のことは当然として、この世界では食べられないお菓子や料理も沢山あるし、娯楽に関しては日本に圧倒的に分がある。コ〇ラとか飲みたい。


 でも、それはそれとして、こちらの生活もなかなかなことを深く理解した。


 だって……。


 都会に出るには時間が掛かるが、立派なマイホームがある。


 使い切れないほどの富がある。


 目も眩むほどの美女が身近に居る。


 ある程度の故郷の料理は食べられるし、どうしても食べたい料理があればルビー達に協力をお願いすればなんとかならないこともない。


 日本では絶対に食べられないファンタジーな食材が食べられる。


 美人の弟子と、可愛らしい弟子達が居る。


 可愛らしい下級精霊達+精霊樹の思念体、幼女×2・幼児・子イルカ・子狐・スライム・赤ちゃんがいつも楽しそうに笑っていて癒される。


 外に出ると遊びに来た様々な精霊達が戯れる幻想的な光景を見ることができる。


 精霊樹(桜の木)や滑り台、公園やバラ園や森、泉、畑、田んぼを所有している。

  

 迷宮都市に出向けば定宿があり、行きつけのお店ではVIP扱い、名声(悪名)まである。こちらにも可愛い弟子も居る。


 ベリル王国に行けばサキュバスと……。


 嫌なことも面倒な事もあるがそれは日本でも同じで、日本では我慢するしかないことでもこちらでは武力で押しつぶせる。


 ……最初の死の大地では苦労したけど、それを乗り越えたら気楽に生活できたし、とても恵まれている。


 あと必要なのは嫁くらいじゃないかな?


 そんなこんなで幸せな毎日を過ごしている。


 朝はみんなで美味しい朝食を食べ、弟子達が訓練に向かうのを見送って一杯のコーヒーを楽しむ。


 ゆったりとした時間を過ごした後は、ベル達やサクラと戯れたり見回りがてらの散歩に出かけて動物達に貢物を献上しにいく。


 昼もみんなで美味しい昼食を食べて、シルフィ達と雑談したりルビー達と新メニューの相談をしたり、ベル達やサクラと戯れたりする。偶に楽園の経営についても考えたりする。


 夜もみんなで美味しい夕食を食べて、お酒を求める大精霊達を撃退したり一緒にお酒を飲んだり、ベル達やサクラと戯れたりする。お酒には偶にジーナも合流する。


 そんな幸せな毎日……。


「このままじゃ幸せで駄目になるぅぅ!」


 ヤバい。幸せを再認識して普段の行動を思い返したら、ただのセレブなご隠居さんでしかない。


 これはこれで或る種の理想的な生活だけど、二十代半ばで突入するにはだいぶ早い生活形態だ。


「ちょ、裕太。急に叫びだしてどうしたの?」


 いきなり襲ってきた危機感に思わず叫んでしまい、シルフィをビックリさせてしまった。


 でも、ちょうどいい。俺よりもはるかに長い年月を生きている大精霊なら、この危機感に対する相談相手として申し分ない。話を聞いてもらおう。


 


「……裕太。私も精霊だから人間の気持ちを理解しているとは言えないけど、他人に聞かせたら殴られるようなことを言っていると思うわよ?」


「……うん、それは理解してる」


 端的に言えば、俺、金持ちで美女達や可愛らしい子供達に囲まれて、毎日美味しいご飯を食べて、幸せ過ぎて怖い! って言っているようなものだもんね。


 俺がそんな相談をされたら、殴るどころかファイアードラゴンに食らわせた『ファイナル・ウインド・スラッシュ』すら辞さない内容だ。


「でも、なんかモヤモヤする感じで、先に進めていないというかなんというか……」


 不満がある訳じゃないんだけど、このままだと駄目だって心が訴えかけてくる。堕落の一歩手前って感じがする。


「うーん、よく分からないわ」


「思春期の頃に突然このままじゃ駄目だ! とか思う心情に近いのかな?」


「思春期って言われても、増々分からなくなるわ」


 シルフィが呆れた顔をしている。精霊に思春期は無いのか?


「どうしたらいいと思う?」


「裕太のやりたいことがハッキリしないのなら、とりあえず今できることからやってみればいいんじゃない? あぁ、そういえばサラがヴィクトー達の様子を見に行きたいって言っていたから、とりあえずそうしてみたら?」


 ……なんだか面倒臭くなって丸め込まれた気もするけど、たしかにヴィクトーさん達の様子は気になるな。


 明確に何をやりたいかヴィジョンが浮かばないし、サラの為にもヴィクトーさんの様子を見に行ってみるか。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] コーラは伏せ字じゃなくて大丈夫なハズですよ、コ○とかペプ○とか付けるとアウトですけど、原初がコーラの実なので。
[一言] 裕太らしくていいと思う 新しい展開に繋げるための 作者 の心の声も含まれてるのかなと思ったり
[一言] 裕太さんのこと、全く酷いと思わなかった自分は酷いのでしょうか?Σ(゜д゜;) 所謂「幸せ過ぎて怖い!」みたいな感じですかね? 自分がしてきたことが如何に凄いことであるか自覚してないから、努…
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