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三話 方針決定

 スキルを確認したら結構チートっぽかった。このスキルが有れば岩山から脱出は出来そうだな。


「ねえシルフィ。このスキルがあれば岩山は降りる事が出来そうなんだけど、人が居る場所まではどのぐらい掛かるの?」


「んーそうね。何も起きなかったら普通の人が歩いて百日ぐらいかしら? 裕太はレベルが低いからもっとかかるかも」


「……聞き間違いかもしれない。もう一度お願い」


「百日」


 聞き間違いじゃ無かったようだ。百日とか意味が分からん。どれだけ遠いんだよ。日本だったら北海道から九州まで行けるんじゃないのか? 途中に海があるけど。しかも俺だとレベルが低すぎて更に時間が掛かる。泣いて良いですか?


「えーっと、そんなに遠いと食料が持たないんだけど。途中で食べられる物とか手に入るの?」


「食べ物ね……陸地には食べられる物がないわ。遠回りをして海沿いを歩けば、海から食料を手に入れられるかしら?」


「海! 船が通ったら乗せてもらえるかな?」


「無理ね。そもそも船が通らないの。死の大地には鉱物ぐらいしかない。食料も無い。水も無い。厳しい環境しかないうえに、死の大地は広く遠回りになる。海には強い魔物が居て危険なのに、わざわざ遠回りをする人はいないわ」


 何それ。チートゲットでご機嫌だったのに。環境がハード過ぎる。


「じゃあ、人が居る場所に行くには、百日掛かる距離を更に遠回りして、海からコツコツ食料を手に入れながら進まないとダメって事?」


「……そうなるわね。裕太の魔力が上がれば私が契約して連れて行ってあげるけど、死の大地って魔物にとっても辛い環境だから、特殊な魔物が多くて大変よ」


 特殊な魔物、嫌な響きだ。


「その寝ている幼女精霊との契約はダメなの?」


「下級精霊だと短距離なら可能だけど、長時間人を飛ばすのは難しいわね」


 なんか悪意を感じるぐらい面倒な場所に転移してしまった気がする。百日以上採取生活をしながらの旅……心が折れそうだ。


「そもそも死の大地ってなんなの?」


「この大陸の三分の二をしめる不毛の大地の事よ。大昔に人間同士で争って破壊の限りを尽くしたから、精霊も住めない土地になって荒れ果てたの。そんなになっても未だに争いをやめない人間って最低よね」


「未だに争ってるって、人間は戦争しているの?」


「ええ、狭くなった土地を求めて、頻繁に戦争しているわね」


 何それ。苦労して辿り着いても戦争中の可能性があるのか。嫌な情報ばかり増える。


「あれ? シルフィと幼女精霊は死の大地にいて大丈夫なの?」


「私達は風の精霊だもの。風は死の大地にも吹き渡るから大丈夫よ。まあ私達だけ大丈夫でもこの大地は蘇らないんだけどね」


 風の精霊は大丈夫だけど他の精霊が存在できないから、死の大地のままなのか。うーん、戦争が激しい場所に苦労して行くのも嫌だ。開拓ツールなんて都合の良い能力があるし、ここで生活するのも選択肢のひとつか?


「シルフィ。もし俺が開拓ツールのスキルを使って、死の大地で生活するって言ったら協力してくれる?」


「面白そうだけど、簡単に暮らせる場所じゃないわよ? それに契約しないと直接的に力を貸す事は出来ないわ」


「話し相手になってくれるだけでも十分だよ。それに最低でも百日は死の大地で暮らさなきゃだめなんだろ。なら拠点を作って生活出来るように開拓しながらレベルを上げた方が楽そうだ。契約出来るようになったら人が居る所まで連れて行ってくれるんだろ?」


「それぐらいなら構わないわ。ならアドバイスよ。精霊が住める環境を整えなさい。そうすれば私が精霊を呼んできてあげる。精霊が住める場所の周辺は豊かになるから快適になるわよ」


「そうなのか? ならこの世界の人達も死の大地の開拓ぐらいやってそうだけど、どうなんだ?」


「開拓の動きも有ったのよ。でも開拓自体が大変だし、苦労をして環境を整えても精霊と意思疎通が出来ないと、精霊が来るのかも分からない。しかも上手く行っても他の国が手に入れようと狙ってくるから防衛が大変……結果殆ど開拓が進まないの」


 完全な悪循環だな。統一でもされないと開拓が上手く行く事は無いんじゃないか?


「じゃあ、俺の場合は環境を整える事が出来れば、シルフィが精霊を呼んできてくれるんだから、頑張れば上手く行くんだな」


「まあそうなるわね」


「よし、決めた。せっかく便利な能力があるんだし、死の大地に快適な生活空間を作るよ。まずは食料の節約の為に海だな」


 かなりの量の食料はあるけど、貴重な日本の食料だ。大切にしないと。味噌とか醤油を大量買いしておけば……なんとか、醤油一リットルボトルとインスタント味噌汁は袋買いしていたから助かるけど、朝の味噌汁と夜の味噌汁の二十食分と納豆の味噌汁が九食分……直ぐに無くなるな。大切にしないと。


「その前にこの岩山から降りないとね。どうするの?」


 そうだった。まずは岩山からの脱出だ。


「魔法のシャベルでひたすら岩を掘るよ。掘った岩は魔法の鞄に収納すればなんとかなるしね」


「応援しか出来ないけど、頑張ってね」


「おう」


 美人の応援って力がみなぎるよね。魔法のシャベルを取り出し崖の端から下に掘り進める。地面に魔法のシャベルを差し込むとスルっと飲み込まれる。本当にプリンみたいだ。


 持ち手に重さを感じさせないので岩をすくっても重さを感じない。しかもシャベルで触れていても収納と念じれば掘った岩が収納される。とても便利だ。


 岩を掘り、岩を収納するを繰り返す。殆ど力を入れずに掘り進められるので大変楽なのだ。しかし運動不足な自分には、シャベルで岩を掘るという動作を繰り返すだけでかなり疲れる。


 お昼寝から起きだしてきた幼女精霊が、周りを飛び回りながら「がんばれー」と応援してくれる。なんか癒される。


 ……応援してくれていた幼女精霊が厭きて何処かに飛んで行ってしまった。寂しい。


 偶に休憩を挟みながら地道に岩を掘る。飲み物は二リットルの紅茶のペットボトルが二本しかない。お酒ばかり買うんじゃなかったな。ちびりちびりと飲むしかない。体感三時間程で何とか地面まで到達した。腕と腰がヤバい。


「お疲れ様」


「おつかれー」


「あはは。結構疲れた。少し休んでから海に向かうよ」


 体を鍛えないとダメか、レベルが上がれば体力も上がるみたいだから、レベル上げが先の方が効率が良いかも。


「もう直ぐ日が暮れるわ。休む準備をした方が良いんじゃない?」


 そうか。異世界でも日が暮れるんだな。シルフィの言葉で当たり前の事を思い出す。冷静なつもりだったけど、あんまり頭が回ってないみたいだ。


「休む準備って何をすればいいの?」


 キャンプぐらいならした事はあるけど、道具も何もない。


「そうね。食べ物があるのなら、まずは安全に眠れる場所を確保するべきね。魔物が居るんだし、眠っている間に襲われたくないでしょ?」


「でしょ」


 指を左右に振りながら教えてくれる。人に教えるのが楽しいみたいだな。美人女教師か……スーツと眼鏡をお願いしたい。幼女精霊も真似をして指を左右に振っているが、どう反応したら良いのか分からない。


「そうだね……なら岩山に洞窟を掘るよ」 


 疲れた体に鞭をうって再び魔法のシャベルを取り出し岩山に穴を掘る。ニ十分程で何とか休める程度の空間が出来上がった。後は魔法のノコギリを取り出し、洞窟の入り口と同じ大きさの岩を切り取り魔法の鞄に収納する。うーん。火が欲しいんだけど、木どころか草すら生えてない。怖いな死の大地。


「シルフィと幼女精霊はどうする? 狭いけど何とか三人は入れるよ」


「私達は風に溶ければ何処でも休めるから気にしないで大丈夫よ」


 流石精霊。風に溶けるとか意味が分からんな。風が吹いていない時はどうするんだろう?


「そうなんだ。色々聞きたい事があるからもう少し付き合ってもらえる?」


「いいわよ」


「いいわよー」


「ええっと……ありがとう」


 お礼を言うと、幼女精霊が偉そうに頷いている……シルフィは苦笑いだ。


「まずは生活魔法の使い方を教えてほしいんだけど、分かる?」


「ええ、知っているから大丈夫よ。魔力が有るのなら簡単だから直ぐに覚えられるわ」


 簡単に魔法が使えるのか。ワクワクするな。


「おねがいします」


「発現したい場所に指をさして、イメージしながら呪文を唱えるだけよ。簡単なのが種火、光球ね。種火とは小さな火をイメージ、光球は輝く光の玉のイメージね」


 シルフィが種火と唱えると彼女の指先に小さな灯がともる。随分シンプルなんだな。呪文が種火とか光球ってそのまんま過ぎるだろ。


「でもシルフィって風の精霊なんだよね。火の魔法とかも使えるんだ」


「大精霊よ。あと生活魔法は魔力が有れば誰でも使えるのよ。精霊でもね。まあ使う機会もほとんど無いんだけど。まあいいわ、やってみて」


「あはは、そうなんだ。分かったやってみるよ。イメージして……種火」


 呪文を唱えると指先から少し離れた場所にポッと小さな火が生まれた。


「おお、火が出た。魔法だ。魔法を使っちゃったよ。スゲー。俺スゲー。魔法使いだ」


 ふとシルフィの生暖かい視線を感じて冷静になる。恥ずかしい、はしゃぎ過ぎた。


「すげー。すげー」


 やめて。幼女精霊。俺の真似しながら空中で転げまわるのはやめて。恥ずかしいから。何とか幼女精霊をなだめて、光球の魔法を使い、少しイメージが難しい生活魔法も習った。


 特に洗浄の魔法は助かるな。イメージは難しいが体も身に着けている衣服も綺麗になる。まあお風呂の方が気持ちが良いから、余裕が出来たらお風呂は必ず作りたい。


「ありがとう、助かったよ」


「私も面白かったから気にしないでいいわ。私達も引き上げるから裕太ももう休んだ方がいいわよ。海は明日案内するわ」


 確かに疲れてるな。そろそろ休ませてもらうか。


「うん。ありがとう。明日またお願いね」


 シルフィ達と別れて洞窟に入り、魔法の鞄から入り口の前に切り取った岩を設置して横になる。色々考えたい事もあるが、横になると強烈に眠気が襲ってきてもう無理だ。お休みなさい。

読んで下さってありがとうございます。

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