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四百九十六話 身の丈を知る

有能秘書さんの名前を前に登場させた気がするのですが、自分の登場人物リストに入っていませんでした。

改めて名前を考えましたが、すでに出ていたら申し訳ありません。

 三日間にわたる精霊術師講習は、卒業演習で自分が悪ふざけして作った詠唱とアクションを、何度も繰り返し見せられるという苦行が発生はしたが、無事に終了した。卒業生も貴重な魔法職としては及第点の実力を身に着けたのか、冒険者達から引っ張りだこの様子で俺も鼻が高かった。


 そんなこんなで無事に終わった精霊術師講習。力を貸してくれたベル達には沢山のご馳走とデザートでお礼をして、シルフィ達大精霊にはそれに加えて大量のお酒を放出してお礼とした。


 ベル達はご馳走に大喜びだったし、シルフィ達も精霊術師と精霊を教育するという新たな試みが面白かったのか、上機嫌でお酒を楽しんで万々歳。


 後は農業関連で苦労してくれたベティさんに、報酬のトルクさんの料理をたらふくご馳走して終了……のはずだったんだけど、自業自得で一波乱起こしてしまった。


「裕太様、本日はお招きありがとうございます」


 そう、俺の迂闊な一言で、有能秘書さんまでベティさんの報酬お食事会に招いてしまった。


「いえいえ、今日は楽しんでいただけましたら幸いです」


 しかも、この有能秘書さん、私服が……冒険者ギルドの制服だと有能秘書に見えるのに、私服だとなぜか女教師な雰囲気を漂わせている。


 秘書と女教師って属性的に似ているのだろうか?


 何がとは言わないが、ジャンル的に王道だからとてもドキドキする。 


「裕太さん、私、もう限界かもしれません。お腹ペコペコですー。朝とお昼、食べていないんですー」


 有能秘書さんにドキドキしていると、ベティさんが気の抜ける声で話しかけてきた。


 なんでだろう? ベティさんも美女のカテゴリーに属する女性のはずなのに、見たらとても落ち着く。


 ……なるほど、今晩のご馳走の為に朝食と昼食を抜くアグレッシブさが、俺の中の緊張感を解いてくれるんだな。


 恥ずかしげもなくお腹をグルグルと鳴らしてせつなそうにしているベティさんを見ると、一瞬で理解できた。


「えーっと、まだ時間には早いのですが、トルクさんにお願いしてきますね。座ってお待ちください」


 二人を席に案内し、個室から出て厨房に向かう。トルクさんの段取りが少し狂うことになるだろうけど、トルクさんなら対応できると信じている。


 っていうか、対応してくれないと時間までベティさんのお腹の音が止まらないだろうから困る。


 しかし、ベティさんはともかく、有能秘書さんと食事か。ポロっと誘っちゃったのは迂闊だったよな。


 美女との食事は嬉しいはずなんだけど、微妙に緊張してしまう。


 若干後悔しながら誘った時の状況を思い出す。


 冒険者ギルドのホールに漂う溢れんばかりの男臭さに耐えきれず、見かけたベティさんと有能秘書さんにサックリ挨拶だけして帰ろうと声を掛けた。


「お二人とも、色々とありがとうございました」


「いえ、大したことはしておりませんし、裕太様は冒険者ギルドにとって重要なお方です。何かありましたらいつでもお申し付けください」


 重要人物扱いが極まったような有能秘書さんの返事に、少しだけ腰が引ける。


「裕太さん、私頑張りましたー。報酬期待しています。明日、明日ですよね?」


「分かっています。もうすでにトルクさんに料理をお願いしていますので、明日の夕方に宿に来てください。あっ、秘書さんもご一緒にいかがですか? お世話になったお礼ですので、来ていただけたら私としても気が楽になります」


 餌を要求する子犬のようにすがりついてくるベティさんを押しのけ、そういえば有能秘書さんにもお世話になったんだよなと気軽に誘ってしまったのが間違いだった。


「まあ、裕太様にお誘いいただけるなんて光栄です。是非、ご一緒させてください」 


 簡単に、お世話になったお礼だという理由があったにせよ、簡単にお誘いが成功してしまった。


 一瞬俺にモテ期が到来したかとも思ったが、普通に考えると超重要な取引先の社長からのお誘い。


 しかも、ベティさんの存在で身の安全も保障されているっぽければ、有能ならば断わらないよね。自分で言うのもなんだけど、俺って金の生る木だもん。


「むー、料理の取り分が減ってしまいますー」


 そう考えると、人が増えたことで料理の取り分が減ることを心配する商業ギルドの受付嬢の正気が心配になる。気楽だから俺としても良いんだけど、ベティさんの上司のフランコ事務長の胃は大丈夫なんだろうか?


 不満を漏らすベティさんに、料理は食べきれない程用意するから大丈夫だとなだめれば、アッサリ機嫌が直ってしまうところも心配だ。


「裕太、この先は厨房だよ。何か用事かい?」


 有能秘書さんに対する不安から、ベティさんに対する心配に思考がシフトしているうちに、厨房の近くまで来ていたようだ。ちょうどいいからマーサさんに伝言を頼もう。


「マーサさん。ベティさんが食事が待ちきれないようなので、トルクさんにちょっと時間を早められないかとお願いに行くところです」


「あっはっは、あの子はしょうがないね。分かった、私が旦那に伝えておくよ」


「よろしくお願いします」


 マーサさんって話が早いから好きだ。


 さて、じゃあ個室に戻って有能秘書さんとベティさんの相手をしないとな。ベティさんはともかく、有能秘書さんのお相手は緊張する。


 せめてダンジョンに行っているジーナが戻っていれば……。


 ***


 お願いをして個室に戻ると、即座に大量の料理が運ばれてきた。サラダや煮込み系が中心に運ばれてきたから、仕込みが終わっているものを素早く出してくれたんだろう。さすがトルクさんだ。


 ベティさんが料理に釘付けだし、サクッと乾杯するか。


「お二人とも、沢山のご協力、ありがとうございました。トルクさんに特別なメニューを用意してもらいましたので、楽しんでいただけましたら幸いです。乾杯!」


「まずはこれです! ……おいしいですー!」


 付き合いとばかりに一口エールを口に含んだベティさんは即行でグラスを置き、目の前のカレーを山盛り自分の皿に取り分ける。


 あれはダークドラゴンカレーだったな。


 ベティさんは待っている間に、『今日の私のお腹はドラゴンのお肉の為に有ります!』と宣言していた通り、ドラゴンのお肉を中心に攻めるつもりなんだろう。


 ただただ、食べることのみに集中している。


 さて、そうなると当然ながら俺が有能秘書さんを楽しませなければいけない。何を話そう?


 チラッとシルフィを見るが、面白そうにベティさんを観察していてこちらにまったく興味を持っていない。自力で頑張らないといけないようだ。


「あっ、今さらですが、俺は裕太と言います。お名前を伺っても構いませんか?」


 いけないいけない。自己紹介は円滑な人間関係を築くための基本だよね。かなりお世話になっているのに名前も知らないとは失礼にも程がある。


「あら? 名乗っていませんでしたか? それは失礼いたしました。私は冒険者ギルドで受付の取りまとめをしております、リシュリー・ルロワと申します。どうぞリシュリーとお呼びください」


 秘書さんじゃなかったんだ。まあ、業務内容は秘書っぽいし、俺の中では秘書ってことにしておこう。秘書も女教師も、その響きだけでロマンがあるよね。


「リシュリーさん、よろしくお願いします。えーっと、じゃあとりあえず食べましょうか」


「そうですね。私もいただきます」


 リシュリーさんは少し迷った末に、ベティさんが食べているダークドラゴンカレーに手を伸ばした。


 カレーを一口口に含んだリシュリーさんは、『まぁ』と口に手を当てながら上品に驚いた。


 隣で大口でカレーを頬張るベティさんと比べると、上品さが天と地ほど違う気がする。


 ……いかんな。今日はなぜかベティさんの粗がとても目につくが、あくまでも今日は二人に対して感謝するお食事会だ。二人ともに感謝して誠実におもてなししなければならない。


 女子力の違いには気がつかなかったことにするのがベターだろう。


「どうですか?」


「ドラゴンのお肉、アサルトドラゴンなら食べたことがあるのですが、属性竜だとこれほど違うのですね。最近人気のカレーも美味しいのですが、オーク肉のカレーと比べると味の深みが段違いだと思います」


 さすが有能秘書なリシュリーさん。広まっているとはいえ、まだ出す店が少ないカレーもしっかり体験済みらしいし、コメントも上品だな。


 とりあえず俺もカレーを食べよう。




 ***




 ヤバい。ヤバい。ヤバい。マジでヤバい。


 リシュリーさん、有能秘書過ぎてマジでヤバい。


 とりあえずヤバいが頭の中からあふれ出しそうなくらいにヤバい。


 俺がおもてなしとか、とんでもない勘違いだった。


 俺が気を遣う暇もないほどの豊富な話題。しかも、自分の話したいことを怒涛のように話す訳では無く、こちらの表情から的確に興味がある話題を見抜いてくる。


 ベリルの宝石でも似たような体験をしたけど、あちらはお客である俺を楽しませるためだった。


 いや、リシュリーさんとのお話も俺を楽しませる話題なことは間違いない。実際に不快な気持ちなんて一ミリだって抱いていなかった。


 楽しく笑いながら食事をする素晴らしいお食事会。シルフィに『裕太、色々と話しすぎなんじゃない?』と止められるまではそのはずだった。


 今まで何を話した? 死の大地関連と精霊関連については大丈夫だ。これについては口が堅い自信があるし、シルフィから一発で止められるはずだ。


 でも、今までどんな場所に訪れたのかとか、迷宮内部の情報とか……マリーさんとの取引についてもサラっと話してしまった気がする。これって、意外と重要な情報だよね?


 シルフィに止められなかったら、自分が個人情報を漏らした自覚なんて一切なかった気がする。


「どうかされましたか?」


 はい。どうかされました。背筋がゾッとしております。


 今までの豊富な話題は情報収集の為ですか? 社会人として三年ほど勤めたけど、こんなに簡単に情報を漏らしたのは初めてです。狙ってやったんですかと激しく聞きたい。でも聞くのが怖い。


 しょせん俺なんて、社会人としてはぺーぺーでしかなかったんだな。


 今までの話題が単なる世間話なのか情報収集なのかすら判断がつかない。


「メインを持ってきたぞ!」


 俺が震えていると、ノックの後にトルクさんが入ってきた。メインだからかシェフ自ら足を運んでくれたんだな。救世主が現れたかと思った。


「待っていましたー!」 


 メインの言葉に反応して、ベティさんが喝采を上げる。


 ……あっ、俺、ベティさん大好きだな。


 たとえこの食事会の間に、まったく会話が無かったとしても全然問題ない。


 抜けている俺には、抜けているベティさんや隙だらけのマリーさんなんかと戯れるのが丁度いい。それが今日ハッキリと分かった……。


 身の丈を知るって、とても大切だよね。


本日、11/10日。comicブースト様にてコミカライズ版『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第28話が更新されました。


自然の鎧がついに登場です!


11/17日、正午まで無料公開中ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
裕太くんの調子に乗る→身の程を知るトホホな即オチ2コマ心理に毎回笑わされてます ボヤきと愚痴がいつも面白い 明確に俺tueeeなのにモブな小心者なところいいですよね 好きだわー
[一言] あぁ前のは無能受付だったかギルド長変わる前だっけか? 精霊ハーレムに行かないこの作品ホント好き 自然の鎧きたー見てきます!
[気になる点] そういえば生徒達にオーバーアクションの詠唱を押し付けたけど、直弟子たちは詠唱の真似事みたいなダミーを挟むとはいえ今回の詠唱ポーズまではやっていないよね? 詠唱破棄とか、精霊との親和性…
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