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四百九十四話 精霊契約

 深夜の通販番組というよりも実演販売のようになってしまったが、無事にイーサンさん達農家組の信頼を勝ち取った。まあ、成長促進と害虫除け、収穫効率UPなんだから、農家の人が食いつかない訳ないだろう。


「裕太様、おはようございます」


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」


 朝一からピシッと決まっているな。さすが有能秘書さんだ。


「裕太さん、おはようございますー。昨晩はご馳走様でしたー」


「ベティさん、おはようございます。今日もイーサンさん達のことをよろしくお願いします」


「お任せくださいー」


 昨日、半泣きにというか泣いていたので、トルクさんにお願いして食べ放題でご馳走したんだけど、それだけで元気いっぱいになるベティさん。さすが食いしん坊だな、チョロい。


 朝の挨拶を終えて、ベティさんにはイーサンさん達の方に行ってもらい、俺は有能秘書さんと訓練場に向かう。


「あの、裕太様。精霊術師に関して色々と調べたのですが、契約の為の祭壇を作るには複雑な儀式が必要とのことでした。今から準備して間に合うのでしょうか?」


 訓練場に到着すると有能秘書さんが不安そうに聞いてきた。どうやら有能秘書さんは今回のことで精霊術師について詳しく調べたらしい。


 でも、そんなこと聞かれても、一般的な精霊契約についてはシルフィからフワッと聞いたくらいなので、俺にはサッパリ分からない。


 確実に勉強不足なんだけど、一般に出回っている精霊術師についての知識は、間違いだらけの無駄知識らしいから勉強する気が起きないんだよね。


 有能秘書さんが不安そうではあるが……まあ、なんとかなるだろう。だって俺、凄腕の精霊術師と思われているんだもん。普通と少しくらい違っていても、独自技術ってことで誤魔化せるはずだ。


「俺の場合は普通の精霊契約とはちょっと違うので、場所だけ借りられれば十分なんですよ。さっそく祭壇を作ってしまいますので少し離れていてください」


 これ以上難しいことを聞かれても答えられないし、近くに居られるとちゃんと詠唱をしなくてはならなくなるので、距離を取ってもらう。


 ブツブツと詠唱する振りを始めると、ズモモモモっと訓練場の土が盛り上がり六つの祭壇の基礎が出来上がる。


 ノモスは美的センスが欠けているので、本当に基礎だけの状態だ。そのまま詠唱を続けると、シルフィが風で祭壇に模様を刻み、ディーネが器に水を満たし、ドリーが植物で祭壇を飾り付ける。


 あとは祭壇の中央にそれぞれの属性を浮かべれば完成だ。有能秘書さんが凄いって興奮しているし、これで問題なく契約が進められそうだな。


 安心したところで更に詠唱を続け、大精霊達が自分の祭壇にそれぞれの属性を浮かべる。


 シルフィの風の祭壇の中央には小さな竜巻。ディーネの水の祭壇の中央には水が湧きだす小さな泉。ノモスの土の祭壇の中央には光沢がある土の玉。ドリーの祭壇の中央には小さな木。イフの祭壇の中央には炎。ヴィータの祭壇の中央には癒しの波動を放つ綺麗な玉。


 ……それぞれが小さな物なんだけど、なんだか凄まじい存在感がある。大精霊が生み出したのだから当然かもしれないけど、これだけで観光名所になりそうな気がする。


 ベル達も今日契約するために集まっている浮遊精霊達も、凄まじく喜んでいるようだ。さて、あとは講習が始まったら冒険者達にお祈りさせて、なんやかんやして契約させるだけだな。


 まだ講習が始まるまで少し時間が有るけど、どうしよう?


「裕太様。精霊術師とは極めればここまで凄いことができるのですね。昨日の嵐のような面接も凄まじかったですが、この祭壇も神秘的で素晴らしいです!」


 嵐のような面接って、言葉にすると意味が分からないな。でも、有能な美人秘書さんに尊敬の目で見られるのは心地良い。まあ、俺は詠唱した振りをしていただけだけど。


 でも、精霊術師の評判が上がるのは良いことだし、褒められるのを堪能しながら精霊術師の素晴らしさを布教してみよう。




 ***




 冒険者達とイーサンさん達が集まり、俺の初めての精霊術師講習が始まった。いまだに教師役としてのキャラが固まっていないが、舐められないように頑張ろうと思う。


 ちなみに俺の布教結果は微妙だった。話はちゃんと聞いてくれたんだけど、精霊術師のことを話そうとするとどうしてもベル達の良い子さと可愛らしさを自慢したくなって、会話が上手に進められなかったのが敗因だ。孫自慢を封印させられたお爺さんみたいになっていたと思う。


「では、昨日自分が希望した祭壇の前に並んでください」


 俺が気合を入れて指示を出すと、契約精霊が居ない冒険者達がゾロゾロと移動を開始する。これはこれでちょっと気分がいい。


 ……ふむ、昨日帰る前に有能秘書さんから組分けをもらっていたから分かってはいたけど、偏ったな。


 冒険者達が一番集まったのは命の精霊の祭壇。回復が使える精霊術が大人気のようで、八割ほどの人数が集まる一強状態だ。


 二番目はちょっと意外で風の精霊の祭壇。冒険者なら攻撃力重視で火の精霊が人気があると思っていたが、討伐素材の回収を考えると風の方が儲かるらしい。


 三番目は水の精霊の祭壇。地味に飲み水が作れるのが人気らしい。浮遊精霊でも空気中から水分を手に入れられる分、植物関連の精霊よりも有利だよね。


 四番目と五番目は同じくらいの人数が、火の精霊の祭壇と土の精霊の祭壇に並んでいる。


 最後は森の精霊の祭壇。分かっていたことだけど、イーサンさん達しか並んでいない。やっぱり浮遊精霊や下級精霊でも植物が有る場所でしか活動し辛いのが不利だ。特に迷宮は植物が無い洞窟ステージが頻繁にあるからな。


 まあ、植物関連の精霊は農業で大人気になる予定だから問題ないだろう。


「では……まずは森の精霊の祭壇から始めましょうか。イーサンさん、祭壇の前にひざまずいて、魔力を放出しながら祈ってください」


 普通なら一番人数が多い命の精霊の祭壇から始めるべきなんだろうけど、ご老人方を待たせるのはしのびない。


 イーサンさんがおそるおそるといった様子で森の精霊の祭壇の前に跪き、神様に祈るように手を組んで目をつぶる。


 ベティさんがイーサンさんに向けて「頑張ってくださいー」と声を掛けているが、緊張で聞こえていないのかイーサンさんがまったく反応しない。緊張感はマックスのようだ。


 おっ、赤ちゃん熊の精霊が祭壇の前にふよふよと飛んできて、浮かんだまま気持ちよさそうにゴロゴロし始めた。


 俺には魔力の流れは分からないが、たぶんイーサンさんから放出された魔力を浴びているんだろう。とても可愛い。


「あっ、パスが繋がったわね。契約成立よ」


 隣で見ていたシルフィが、契約が成立したことを教えてくれる。ベルと契約した時も思ったけど、精霊の契約……特に浮遊精霊とか下級精霊が相手だと、とても地味だな。


 大精霊の時は演出が加わっていたにしても派手だったし、中級精霊もしくは上級精霊との契約ならもう少し派手になるんだろうか? ちょっと見てみたいな。


 おっと、考え事をしている場合じゃなかったな。早く終わったって伝えないとイーサンさんが延々と魔力を放出してしまう。


「イーサンさん。契約が無事に終わりました。おめでとうございます。次はカンタンさん、お願いします」


 イーサンさんが首を傾げながら祭壇の前から移動する。たぶん、地味過ぎて実感がわかないんだろう。


 イーサンさんの次にカンタンさんが祭壇の前に跪く。動作がとてもゆっくりで、腰をかがめる時に痛たたたた、とか言うからとても心臓に悪い。


 ハラハラしながらもカンタンさんが無事にモグラの精霊と契約を終え、続いてポリーヌさんとジゼットさんも問題なく契約を終える。


 無事に終わってよかったけど、イーサンさん達は昨日の時点で契約が確定していたから、いわば出来レース。次の命の精霊の祭壇から悲喜こもごもな、本当の精霊契約が始まるんだろう。


 特に命の精霊って戦いが苦手だから、冒険者って相性が悪いってヴィータが言っていたんだよね。


 俺も冒険者だしムーンが辛いんじゃないかとヴィータに質問したけど、優しく微笑まれて会話が終わったのには傷ついた。


 あの顔は……裕太が冒険者? あー、うん、そうだね、裕太は冒険者だよねって思っていた顔だった。せつない。




 ***




 予想通り……いや、予想以上だった。悲喜こもごもではなく、阿鼻叫喚と言った方が正しかった。


 前日の面接を潜り抜けて大精霊達に資格アリと認められた講習生達なはずなんだけど、命の精霊と契約が成立したのは僅かに二人。


 天真爛漫を絵にかいたような冒険者になりたての少女と、苦労していると一目でわかる人の好さそうな、でもなんだか不幸そうな疲れたおじさんの二人。


 命の精霊の冒険者との相性の悪さも極まっているが、命の精霊の人を選ぶ目もよく分からない。少女は純粋そうだから理解できるけど、おじさんは……苦労しているようだから、同情なんだろうか?


 まあ、それでも命の精霊と契約できなかった冒険者達も、他の祭壇で全員が契約はできたから問題はないだろう。


 あとは、シルフィ達とベル達が契約した精霊達と、元々冒険者と契約していた精霊達の教育をして、俺が冒険者達に悪ふざけを若干抑えた詠唱とアクションを教え込めば講習は終わりだな。


 ベル達もやる気満々だし、たぶんこの講習は成功すると思う。


(あっ、ヴィータ。命の精霊の子達、ほとんど契約しなかったけどどうする? 冒険者は駄目でも、ベティさんに頼んでイーサンさん達みたいにお医者さんとかを集めてもらう?)


 シレっとベティさんの仕事を上積みしてしまいそうだが、回復要員が増えるのは迷宮都市にとって良いことだから、ベティさんもきっと理解してくれるはずだ。


「うーん……無理して集めなくてもいいかな? 命の精霊は基本的にのんびりしているから、契約相手が居なくても気にしないんだ」


(了解)


 ベティさんは助かったようだ。まあ、その分、迷宮都市の怪我人が少し苦労しそうだけど……。


 しかし、あれだな。精霊に見えて触れるってチートが無かったら、俺も間違いなく命の精霊とは契約できなかっただろうな。ムーンを連れて来てくれたヴィータと、ヴィータを連れて来てくれたシルフィには感謝しないといけない。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ほかの轉移者の子孫 精靈を見えませ? 裕太だけの特殊體質?
[気になる点] お医者さん この世界て医者あったけてすか 神官と間違えた
[良い点] 更新ありがとうございます。 [気になる点] 最初に弟子になった子供たちに教えた事でもありますが、「精霊はあなた方の奴隷じゃない、ちゃんとした意思があり、調子にのっていると見放される」「最低…
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