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四百九十二話 思わぬ好物件

更新が遅くなりました。申し訳ありません。

 精霊術師講習の面接が終わり、少しもめ事があったものの面接に落ちた精霊術師達も穏便に帰っていった。後は……農村から派遣されたご老人達を無事に精霊術師として育てることができるのか、それが問題だ。


 ……そもそも、育てる以前にこのご老人達は精霊と契約できるのだろうか?


「あ、あのー……」


 おっと、凄まじい不安が押し寄せてきた影響で、唯一立ち上がって出迎えてくれた青年を無視する形になってしまった。


 この人は期待の新人なんだから大切にしないといけない。なんだか気が弱そうだし、怖がらせて逃がすようなことにならないようにしないとな。


 っていうか、もうすでにすさまじく恐怖しているように見える。あっ、訓練場の広さでも怖がらせたのに、それほど広くないこの部屋に大精霊達を入れたら洒落にならないな。


 一旦外に出てドリーとタマモ以外には散歩に出てもらうことにしよう。


 ……大精霊の皆が酒屋に行くと飛んで行ってしまった。たぶん、面接が終わったらお酒を買いに行くことになるんだろうな。


 ……さて、仕切り直しだ。


「初めまして。私は裕太と言います。今回は急なお願いにもかかわらずご足労いただきありがとうございます」


「い、いえ、とんでもないです。私はイーサン ウェルスと申します」


 改めて自己紹介をしたが、先程よりかは確実に顔色が良い。ただ、チラチラとドリーの方を見てビクビクしているから、リラックスまでは無理のようだ。


 姿が見えたら美少女だから、緊張も解ける、いや、別の意味で緊張しそうだな。


 お互いに握手をしてペコペコと頭を下げあう。なんだか腰が低くて日本人同士で会話をしているような気分になってしまった。でも、凄く親しみやすい。


「あれ? 苗字があるということは、イーサンさんは一般の方ではないのですか?」


 今まで会った人の中で苗字がある人は、貴族もしくはそれなりの立場があった気がするんだけど、どうなんだ?


「イーサンさんは村長のご子息なのですよー!」


 あっ、ベティさんもこの部屋に居たんだ。訓練場で見なかったのはこっちに来ていたからだったんだな。


 っていうかベティさん、とても自慢気だけど村長の息子を連れてきちゃったの? 俺は農家の人を連れてきてってお願いしたんはずなんだけど、村長の息子って農家なの?


「い、いえ、村長の息子と言っても私は三男なので、一般人と変わらないのです」


 うーん、そこら辺の身分システムはサッパリだけど、ベティさんも気安い感じだしあまり気にしなくていいのかな?

 

 いや、一般人と変わらないと言っても父親が村長なのは事実だ。村の権力者側であることには違いないから、イーサンさんが活躍すれば村での影響は大きいだろう。


 イーサンさんが村長の息子として村の皆の畑を精霊術で豊かにする。


 村の皆が、精霊術師って凄いってなる。


 精霊術師の才能が有る農家の人が、俺も俺もってなる。


 農業をする精霊術師が増える。


 ドリーのお願いが達成される。


 ドリーから褒められる。


 完璧な理論ではないだろうか?


 村長の息子なら他の村との繋がりもあるだろうから、話が広まるのも早そうだよね。


 どうなることかと思っていたけど、なんだか希望の光が見えた気がする。ベティさん、ナイス人選です。ドラゴンのお肉、増量決定ですよ!


「そして、こちらの方達が各村からお越しいただいた、カンタンさん、ポリーヌさん、ジゼットさんです」


 待ってベティさん、次の紹介が早い。もう少し希望の光に浸らせて、心の準備がまだできてないよ。


 心の中で悲鳴をあげるが、紹介されてしまったからには仕方がない。ご老人達に向き合い自己紹介をする。


「こんな婆に何ができるか分からないけどね、やれることがあるなら頑張るよ」


「そうだね。孫も結婚するし、仕事があるのはありがたいねー」


 失礼な言い草だけど、意外とはっきりとした返事をしてくれるポリーヌさんとジゼットさん。でも、カンタンさんはうつむいたままだ。っていうか確実に寝ている。


「カンタンさん、起きてくださいー。ほら、裕太さんですよー」


「むがっ……ふぇ、あー……」


 カンタンさんがベティさんに揺さぶられて目覚めたのでもう一度自己紹介をすると、曖昧に頷いてくれた。理解してくれているのかが激しく不安だ。


 まあ、とりあえず自己紹介は終わったし、次は何をするのかの説明……の前に、本当にこの人達と契約してくれる精霊が居るのかどうかの確認だな。誰も契約してくれなくて、説明が徒労に終わるのは避けたい。皆に断って一度部屋の外にでる。 


(ドリー、契約できそう? 年齢とか魔力とか大丈夫かな?)


 口には出せないけど、契約してもすぐに天からお迎えが来そうだよ?


「魔力は大丈夫ですが、年齢はどうでしょう?」


 うーんと言った様子で考え込むドリーが可愛い。


「人格に問題は無さそうですので、あの子達の判断に任せるしかありませんね。ちょっと呼んできます」


 ドリーが飛んで行ってしまった。事前に教育しておいた植物関連の精霊を連れてくるつもりなんだろう。まあ、たしかに見せた方が確実ではあるな。



 応接室に戻り、イーサンさん達と軽く雑談していると、ドリーが沢山の浮遊精霊達を連れて戻ってきた。


 大量に現れた精霊達の気配にイーサンさん達も驚いてはいるが、大精霊達程の威圧感は無いのか、割と平気そうにしている。


 ……違うな。ポリーヌさんが両手を顔の前で組んでお迎えが来たとか言いだしてしまった。平気なんじゃなくて、別の覚悟が決まってしまったようだ。


 このままだと思い込みで本当に昇天してしまいそうなので、慌てて違うと説明する。


 ふぅ、こっちの面接は、俺の心臓に負担が大きい。


「みんな、あの四人があなた達と契約したい人達よ。一緒に居てもいいかどうか、しっかり考えて確認してね」


 ドリーの言葉で浮遊精霊達が楽しそうにイーサンさん達に突撃する。


 植物型の浮遊精霊は意識が薄い子達が多いから、この部屋に集まっている浮遊精霊達のほとんどは動物型の浮遊精霊だ。


 つまり、動物の赤ん坊がわんさかと集まっている訳で、どこもかしこも可愛さ全開である意味天国だ。


 密度が高い分、楽園よりも破壊力は上だな。


 優しい気持ちで赤ちゃん動物達を見ていると、浮遊精霊達が部屋から出ていきだした。


 ふむ、四人の頭の上にプカプカと浮いている四匹の浮遊精霊達。あの子達が契約してくれるってことで良いのかな?


「はい、あの子達は契約を望んでいます」


 チラッとドリーを見ると、俺の思考を理解したドリーが説明してくれる。


 つまり、全員が精霊術師になれるってことだな。嬉しいようなプレッシャーなような、微妙な気持ちだ。


「あの、裕太様、今のは?」


「あっ、様とかつけなくて大丈夫です。普通に裕太と呼んでください」


 有能秘書さんに様を付けられるのはちょっと、いや、かなり嬉しいけど、青年に様付けされるのはちょっと嫌だよね。心に訴えかけてくるものが違う。


「わ、分かりました。では、裕太さんとお呼びさせていただきます。それで、今のはなんだったのでしょう? 精霊に囲まれたと思うのですが……」


「あー、精霊術師としての色々な確認ですかね?」


「色々ですか?」


「はい、色々です」


 俺も詳細はよく分からないが、浮遊精霊達が色々と確認していたのは間違いない。あとは、ここで名前を付ければ契約は完了なんだけど、今回は一般に広まっている方法で契約するから後回しだ。


 納得し辛いだろうけど、頑張って納得してください。


 それにしても残った浮遊精霊達は、子だぬき、子モグラ、子リス、そして子熊か。


 みんなそれぞれとても可愛らしい。


 ただ、タヌキとモグラは農家にとって敵な気がするよね。まあ、姿は見えないし精霊だから関係はないんだけど、ちょっと違和感がある。


 でも、可愛らしいからなんの問題もない。特に、子熊が素晴らしくプリティだ。熊の姿を選択したからか、他の子達よりも少し大きくてモフモフで、目がクリッとしていて思わず抱きしめたくなる。


 子ダヌキ達は小さい赤ちゃんで、はわわわわって言いたくなる可愛らしさで、子熊はモフモフギュって可愛らしさだな。


 ……自分でも何を考えているか分からなくなってきたが、とにかく可愛い。


「……それで、どうなったのでしょう? 私も他のお三方も精霊についてはまったく詳しくないのですが、精霊術師になるのですか? そもそも、精霊術師になったらどうなるんですか?」


 あー、そうだったな。この人達は冒険者達と違って精霊術師になりたいから来た訳では無く、ベティさんに勧誘されて集まったんだった。


 まずはメリットとデメリットを説明するべきだろう。

 

「今回、みなさんに集まってもらったのは、精霊術師が農作業に力を発揮することを広めたいからです」


 カンタンお爺さんの視線がこちらを向いた。ちょっとは興味を引けたようだ。このチャンスを逃さずに一気に説明してしまおう。


「今回、三つの精霊術を教えるつもりです。一つは、農作物の成長促進。土によってバラツキはありますが、今までの四分の三ほどの時間で収穫ができるようになると思います」


 浮遊精霊だから力は弱いけど、タマモがやったように毎日コツコツと成長させれば、それくらいは短縮できる。


 季節の寒暖さが影響する作物ならもう少し複雑なんだろうけど、幸いなことにここは年中暑い地域だから、難しく考えなくても大丈夫。


「それは助かりますね。収穫までの時間が短くなればなるほど、天候や害虫、魔物からの被害が減らせることになります。ですが、農作物の成長を早めるとなると、なんのリスクもなくできることとは思えません。危険はないのですか?」


 気弱そうな青年だと思っていたイーサンさんが、真剣な顔でリスクについて質問してきた。


 村長の一族だけあって、甘い話に飛びつかないようにちゃんと教育されているのかもしれない。


 メリットを全部説明した後にデメリットの説明をするつもりだったけど、先にデメリットから説明したほうが良さそうだな。


 といっても、デメリットは毎日継続して精霊に魔力を供給することと、土の力を余分に使うから肥料が多めに必要になるくらいだから、残りの二つのメリットと合わせれば十分に許容範囲内に収まるだろう。


 三男とはいえ、村長の息子なんて絶好の鴨がノコノコとやってきたんだ。深夜の通販番組に多々魅了されてきた俺のスキルをフル活用してでも、絶対に立派な精霊術師になってもらうぞ。


本日10/13日、comicブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の第27話が更新されました。


ベルがとても頑張っていますし10/20日まで無料公開中ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっとこ広め始めた。 [気になる点] 土の精霊もいたほうがいい気がするけど、コミュニケーションを広めないなら仕方ないか。
[一言] 怪しげなおどりはやめたげて。
[気になる点] 村長の三男を鴨扱いとか、裕太の思考が若干前ギルマスみたいになってる気が…
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