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四百七十九話 なんで居るの?

 帰り際にマリーさんの雑貨屋に寄って、しっかり釘を刺して楽園に戻ってきた。店員さんに伝言を残してきただけだけど、店員さんも顔を蒼ざめさせていたからしっかり俺の真意は伝わるだろう。卸す素材が減ると利益も減るから、マリーさんも慌てるだろうな。


「じゃあ、まずはみんなの家を設置するね」


 俺の言葉に大精霊達から歓声が上がる。


 楽園に戻り、お留守番の大精霊達に挨拶したあと、ルビー達の醤油と味噌を使った料理のレシピを! というお願いを退けて家の設置を選択した。


 俺も醤油と味噌が気になるから、先にそっちでも良かったんだけど、なんていうか大精霊達の視線に負けた。


 俺が思っていた以上に大精霊達は自分の家を楽しみにしていたようだ。まあ、それだけ喜んでもらえるなら、少しくらい恩返ししたい俺としても嬉しい。


 それに、新しい料理に興味津々だったルビー達を、オニキスが迫力の笑顔で鎮圧してくれたから問題ない。


 ルビー達も『はい! 料理のレシピは次の機会で問題ありません!』と直立不動で返事をしていたし、みんな納得して平和的に落ち着いた。


 オニキスの迫力は俺もビビったけど、ルビー達の中でオニキスだけ明確な部屋が無かったから、楽しみにするのはしょうがないよね。


 ただ、闇系統の精霊はできるだけ怒らせないようにしようと、心の中で固い決意はした。今後、ダーク様にちょっとHな視線を絶対に向けない。


「えーっと、まずは設置する場所が決まっている家からにしようか。ノモスとイフは場所を決めてあるんだよね?」


 たしか既に地下室用の穴を掘ったって言っていたはずだ。


「うむ」


「おう!」


 ノモスとイフが気合の入った声で返事をする。表情でも気合が入っているのは分かるんだけど、ノモスにはトゥル、イフにはフレアがジャレついているから、ちょっと和む。


 まあ、俺も胸にしがみついているサクラを撫でくり回しているから、ノモス達のことを言えないんだけどね。


「イフ。儂からで構わんか?」


「ん? あぁ、たいして違いもねえし、別に構わねえよ」


「ならば裕太、醸造所に向かうぞ」


 お酒を飲んでいない時のノモスとイフの会話って、結構レアな気がする。あと、お互いにサッパリした性格だからか、サクサク結論が出てちょっとカッコいい。


「分かった。あっ、場所が決まった順に設置するから、シルフィ達もヴィータも決めておいてね」


「分かったわ」


「問題ないわー。お姉ちゃんが素敵な場所を選んでおいたものー」


「分かりました」


 たぶん、設置するのが最後になるのはシルフィ達だろうな。ヴィータはサックリと決定しそうだし、ディーネは張り切ると妙な方向にズレるから、シルフィから駄目だしされてモメるはずだ。簡単な予測だけど、未来予知並みに当たる気がする。


 くだらないことを考えながらノモスについていくと、醸造所の隣にぽっかりと穴が開いていた。分かっていたことだけど、『醸造所の隣は譲らん』というノモスの強い意志を感じるな。


「ほれ。早くするんじゃ。もう収納する酒樽の準備はできておるんじゃからな。あぁ、裕太が迷宮都市で買い集めた酒樽も置いていけ。収納しておいてやる」


「うん。分かっ……らないな。俺が買い集めた酒樽は俺が管理しておくよ。あと、ノモス、醸造所で作ったお酒も、ちゃんと精霊達と分配してね。あとで問題になっても、俺は関わらないからね」


 危ない危ない。うっかり酒樽を渡すと、たぶん、俺が知らない間に消える。天使のわけまえどころじゃなくて、すべてが消失して新しいお酒が詰められることになると思う。


 あと、聖域で作ったお酒は精霊達で平等に分配されるはずだから、ノモスが下手なことをしてこっちに火の粉が飛んでこないようにしておかないとな。精霊間でのお酒問題に関わるのはごめんだ。


 ノモスは信頼に値する人格者だとは思うんだけど、お酒に関しては信頼するのが怖いよね。


「むぅ……じゃが、せっかく作った酒の保管場所なんじゃし、酒の種類が少ないのは悲しいじゃろ?」


 髭面のおっさんの、懇願する表情はちょっとキモい。


「言いたいことは理解できるけど、ノモスに酒樽を渡したら、他の大精霊達にも渡さないといけなくなるよね。ねえ、イフ?」


 一緒について来ていたイフに話題を振る。あっさりノモスの口車に乗っていたら、確実にイフも同じ要求をしてきたはずだ。


「そりゃあ、そうだろ。契約精霊の間は平等でないとな」   


 やっぱりな。


「私も地下室にお酒を並べたいですし、裕太さんと契約したいですね」


 オニキスの家の設置でもあるから一緒に居るのは理解できるけど、お酒目的だって丸分かりだからこのタイミングで契約を言いださないで。あと、オニキスは怖いから遠慮します。

 

「という訳で、お土産のお酒は定期的に平等にみんなに分配するから、その中からどれをどのくらい保管するかはノモスの自由ってことでお願い。今回買いそろえてきたお酒は、家の設置が終わってからちゃんと分配するね」


 別にお酒を分配しない訳ではないので、後は自分の意思で蓄財……いや、蓄酒? してほしい。オニキスはスルーだ。


「……新築祝いってことで、今回は多めに酒樽を放出するから、たぶん大丈夫だよ」


 ノモスからの無言の視線に負けた。普段はムッツリとした表情を崩さないのに、こんな時だけ瞳をウルウルさせるのは卑怯だと思う。


「ふむ……まあ、あまりわがままを言うのも大精霊として情けないことじゃし、それで手を打つか」


 もう十分に情けなかったと思うけどね。イフも爆笑していないで止めてほしい。


 これ以上精神を消耗したくないし、余計なツッコミは止めてさっさと家を設置しよう。


 魔法の鞄からノモスの酒蔵……家を取り出し、ノモスがあらかじめ掘っておいた穴の中に設置する。


「うむ。ちょうどいい具合じゃったの」


 本当にほぼピッタリだったな。家のサイズは教えておいたけど、これだけ大きなものがスパッと収まるとちょっと感動する。


 俺が感動している間にノモスが手を振ると、ウネウネと土が動いて地下部分を完全に覆い隠してしまい、ちょこんとノモスの部屋だけが残った。誰もあの家の地下に大規模な酒蔵があるとは思わないだろう。


 家の中に入り、殺風景な部屋に迷宮都市で買った家具を設置する。ノモスはほとんど拘りが無かったから、簡単な家具だけですぐに終わる。


 蒸留酒を楽しむためのグラス等の酒器は自分で作り直すつもりとのことで、それらを入れる食器棚だけが立派だ。この部屋で酒を飲むこと以外は、なにもするつもりが無いのが丸分かりだな。


「よし、じゃあ次は俺だな。裕太、こっちだ。おいノモス。なんで残ろうとしているんだよ。お前が居ないと埋められないだろ」


 イフの家も地下があるから土の精霊の協力は必要だよね。トゥルでも可能かもしれないけど、家の設置は繊細っぽいからノモスが担当した方が良いだろう。


 ノモスの襟首をひっつかんで進むイフの後をついていく。……ん?


「……あれ? こっちは精霊の村じゃないよ?」


 てっきり精霊の村の食堂か宿屋の近くに設置するものだと思っていたんだけど?


「あぁ、最初はそう考えていたんだが、オニキスと話し合って別の場所にした」


「そうなんだ。まあ、2人が納得しているなら構わないけど、こっちは森しかないよ?」


 しかも、狼とか肉食獣が放たれている森だよ?


「それでいいんだよ。精霊の村や草食動物が沢山居る森は、チビ共が騒がしい。俺は騒がしいのは嫌いじゃないが、チビ共の声と酒は相性が悪いからな」


「あぁ、なるほど……」


 精霊の村とかモフモフキングダムは、楽園に遊びに来るちびっ子精霊達にも大人気だもんね。ゆったりお酒を楽しみたいから、あんまり騒がしくない肉食獣が居る森を選んだのか。


 オニキスも静かな場所を好みそうだし、なんか納得できる。狼の遠吠えは……お酒に合うかな?


「あっ、ちょっと待って」 


 イフ達がサクサクと肉食獣の森の境界線を越えていく。今はシルフィも居ないし、岩の壁を飛び越えられないんだからもう少しゆっくり進んでほしい。急いで岩のブロックを収納し、通り抜けた後に岩のブロックを戻して走ってイフ達を追いかける。


 今なら単独で狼に襲われても負ける気はしないけど、襲われたら手加減ができないから困る。自分で捕獲してきたのに、殺すのは嫌だ。


 そこまで先に進んでいなかったイフ達に合流して、森の中を進む。ドリーが手を入れているからか、精霊樹の影響か、森になって1年も経っていないのに、歴史を感じさせるたたずまいの森になっている。前に視察した時よりも木が確実に一回り大きくなっているよ。


「ここだな。裕太、頼む」


 森の中心部あたりに家用の穴が掘ってあった。精霊は飛べるから移動は簡単なんだろうけど、わざわざこんなところに建てなくてもって思うな。言っても何も変わらないだろうから、言わないけど。


「分かった」


 素直にイフの家を穴の中に設置すると、ノモスがすかさず土で埋める。深い森の中にある2階建ての石の建物か……家が新しいから微妙だけど、もう少し古くなったらホラーの舞台になりそうだ。


 家の中に入り、イフとオニキスの部屋とバーにも家具を設置する。こっちはノモスの部屋と違って色々と拘った家具を設置したから、結構いい感じだな。


 イフの部屋の焚火台に使う大量の薪以外は……。


「ノモス。セラーで使う酒瓶をたくさん用意してくれ」


「うふふ。私がしっかり管理しますね」


「ふん、儂の酒蔵の方が先じゃ。それが終わったら作ってやる」


 まあ、イフ達も楽しそうだからいいか。


 家具を設置し終わってマイホームの前に戻ると、予想通りシルフィとディーネがモメていた。


「ヴィータは決まった?」


 シルフィ達には触れずにヴィータに話しかける。


 下手にシルフィ達に話しかけると、巻き込まれてどちらの味方に付くか選択させられそうだ。どちらを選んでも後が怖いし、もし巻き込まれたら俺はドリーを選択しよう。それが唯一の助かる道だと思う。


「あはは。うん、決まったよ。あっちはまだ時間が掛かりそうだし、先に済ませちゃおうか」


 ヴィータの穏やかな笑顔がまぶしい。大精霊の中ではドリーに並ぶ癒しキャラだよね。


「そうだね。まったく、あの子達にも困ったもんだね。さあ裕太、さっさと片付けて新築祝いだよ」


 えっ?


「……なんでウインド様が? あっ、他の精霊王様方まで……」


 精霊王様がなんで勢ぞろいしているんですか? しかも、しれっと会話に交ざらないでください。


「もちろん、新築祝いに来たに決まっているよね」


 だからなんで、呼んでもいないのに新築祝いに来ちゃってるの? 俺の繊細な心が傷つかないように優しく説明をお願いします……。 


コミックブースト様にて2020/7/21まで無料公開中です。

今回は番外編で、なんだかクスッと楽しいので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ん、つまり精霊王様達は裕太が決めた『酒島利用者は楽園使用禁止』の約束を違えて新築祝いをしに楽園に降りてきちゃったってこと? いけませんお客様~!
[一言] 酒が飲める酒が飲める酒が飲めるぞ~ 酒を飲むための口実はいくつあっても良い
[一言] なんでいるのって? そりゃあ新築祝い(と書いて宴会と読む)のためでしょうよwww ダーク様への視線はねぇ… どうだろう、精霊王相手とわかっていてなおその視線を向けてこられるのを面白がってた…
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