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四十六話 収穫

 フォレストラディッシュを収穫して、少し遅れたが朝食の時間だ。大根おろしをどうやって作ろうか悩んだが、鬼おろしの存在を思い出し、急遽竹でなんちゃって鬼おろしをでっち上げた。


 ギザギザの大きさもバラバラで、加工が良くないからか、竹の歯がズレたりしたが、許容範囲内だと思う。


「へー。フォレストラディッシュをそんなに細かくするのね。美味しいの?」


 シルフィが不思議そうに聞いて来た。この世界には大根おろしが無いのか? 知識チートの出番が……鬼おろしを作って儲かるのか確信できない。


「魚には最高に合うんだけど、この世界ではしないんだね。どんな風に食べてるの?」


「基本的にスープの具材ね。後はサラダに使うぐらいかしら?」


 確かに大根はスープ系と相性が良いよな。煮込み料理食べたいなー。ここは暑いから、おでんとかちょっと辛いか?


「スープも美味しいよね。でもおろしたものも美味しいから試してみてよ」


「そんなに変わるのか疑問なんだけど、面白そうね。楽しみにしているわ」


 大根おろし。俺は大好きなんだけど、異世界の精霊に通用するんだろうか?


「期待に沿えると良いんだけど……ちょっと不安になって来たよ。期待外れでも怒らないでくれよ」


「そんな事で怒らないわよ」


 ハードルは下がったな。他には大根サラダにしよう。細切りにして塩もみ。ワカメと合えるだけの簡単サラダだ。ポン酢が欲しい。


「出来たよー。みんな集まってー」


 いつもの焼き魚に水分を切った大根おろしを添えて、醤油をチョロリとかける。醤油は貴重なんだけど今日ぐらいは良いよね。


 収穫なので大精霊達も朝食に付き合ってくれる。俺を入れて全部で九人。いつの間にか人数が増えたよな。レインとタマモを人として数えて良いのか、疑問はあったが言葉が通じるので問題無いだろう。


 みんなが席に着き、茶色い液体が掛かった大根おろしに興味津々だ。大精霊も食べた事がない物には喜ぶんだな。


 みんな手が出ないのでお手本として、先に食べる。大根おろしの為に脂が乗った魚を選んだからな。絶対に合うはずだ。ほぐした魚の身の上に大根おろしをチョコンと乗せてパクっと食べる。


 魚の脂と大根おろしと醤油が混じり合い、サッパリと食べられる。なんか大根おろしと醤油って危険だな。日本に帰るのは無理なんだろうと、心の底に押し込めていた郷愁の思いがあふれて来る。


「へー。裕太。これ美味しいわね。フォレストラディッシュを細かくした物と、茶色い液体が合わさってこれだけでも不思議な美味しさがあるわ」


「ゆーた。おいしー」


「ふむ。なかなか美味いぞ。野菜をすり下ろした物が、魚に合うとは新鮮な驚きじゃの」


 大根おろしと魚の組み合わせは、精霊達に好評なようだ。だが、大根とワカメのサラダは、下級精霊達の口には合わなかった。


 一口食べたベルやトゥルは、かわいい顔にシワを寄せている。俺が料理上手なら美味しく食べさせることも出来たんだろうが、残念な事にネット頼りで料理をしてたからな。色々作ってはいたがレシピの応用は無理だ。


 まあ、苦手な可能性を考えて少なめに盛り付けておいて良かった。ベル達が残した分は俺が食べよう。シャキシャキの大根と海藻の風味。美味しいと思うんだけど、子供が好きな味じゃないからしょうがないよな。



 ***



「裕太。今晩を楽しみにしとるぞ」


「裕太ちゃん。お姉ちゃんもとっても楽しみにしているわね」


「私もご相伴させて頂けるそうで、ありがとうございます」


 シルフィの伝言を受け取っていたノモス。ディーネ。ドリーが夜の飲み会を楽しみにしていると、去って行った。


 今更だけど、大精霊達は普段何をしているんだ? シルフィは殆ど俺に付いてくれているけど、他の三人は何をやっているのか全然分からない。偶に消えて偶に現れる。そんな感じだ。


 ……ディーネあたりは素で寝ているだけな気もするが、仮にも大精霊だそんな事は無いんだろう。考えても分からないし、拠点の拡張をするか。


 朝食が終わって揉みくちゃになって遊んでいた、ベル達を呼び寄せお手伝いを頼む。皆素直に返事をしてくれるから、自分の子供の頃を思い出して申し訳なくなる。


 俺はお手伝いから何とか逃れようとするタイプの子供だったかからな……父さん、母さん、ごめんなさい。何となく天に向かって謝っておく。まあ、両親は日本で元気なはずなんだけどね。心配は掛けてるだろうな。


 いかん醤油を久しぶりに味わったからか、日本の事を思い出してしまう。どうしようも無いんだし、考えるだけブルーになる。体を動かして気分を変えよう。


 ベル。レイン。タマモには森予定地で植物のお世話をして貰い、俺はトゥルに手伝ってもらって開拓作業だ。地面を魔法のシャベルで掘っては収納を繰り返す。今日も頑張って二ブロック分は開拓する予定だ。頑張って動けばお酒も美味しい。



 ***



 予定通り二ブロック分の開拓を終えて、晩御飯を済ませる。久しぶりのお酒だから気持ちが弾む。ベル達は不参加だから久々に大人の時間でもある。おもわずスキップしそうだ。


「待たせた。もう始めて良いか?」


「おう。待っておったぞ。さっさと始めろ」


 ノモスの機嫌がすこぶる良さそうだ。そんなに異世界の酒が楽しみなのか。


「お姉ちゃんも昨日から待ってたから。待ちくたびれたわ」


 ……ジョークだよな? 遅くなってごめんって言うべきか?


「あ、ああ。じゃあ始めるぞ。といっても酒は二本だけだ、量はそんなに無いから、勘弁してくれよ」


 そう言ってまずはお気に入りの日本酒をドンとだし、つまみにチーズとミックスナッツを出す。わびしいけど、俺にとっては御馳走だ。


「ふむ。これは綺麗な器じゃの。材質はガラスか?」


「ん? ああ、ガラスの瓶だな」


 ノモスが一升瓶に食い付いて来た。ガラスがあるんだな。ガラスのコップは是非とも手に入れたい。


「ノモス。ガラスは簡単に手に入るのか? ガラスのコップが欲しいんだが」


「うむ。ガラスは貴重で手に入れるのは難しいぞ。じゃが儂と契約すれば、ガラスぐらい直ぐに作ってやるぞ」


 ……ガラスの材料って砂とかだったよな。ノモスの領分に入るんだ。俺としてはガラスは火って雰囲気なんだが。


「ガラスのコップは作れるか?」


「ガラスでコップを作るのか? 割れやすいぞ?」


「俺の世界ではガラスはこの酒のようにコップや瓶に利用されてるんだ。飲食物に余計な臭いや味が付かないからな」


「ふむ。コップの形に成型するぐらいは簡単じゃから構わんぞ」


「おお、助かるよ」


 ガラス製品が結構ゲット出来そうだな。陶器の類いも頼めばいけるか? いや、ガラスの器を大量生産して売り出せばガッポガッポかも!


「裕太ちゃん。話していないで飲みましょうよ。お姉ちゃん。待ちくたびれたわ」


「ああ、ディーネ。すまん。直ぐに準備を終わらせる」


 早く早くと急かすディーネに軽く詫びて、木のカップを人数分出す。お酒に木の匂いが付きそうだけど、他にないからしょうがないよな。ちょっと残念に思いながらもそれぞれのカップに日本酒をついでいく。


「よし。じゃあみんな。色々世話してくれてありがとう。乾杯」


 乾杯をして久しぶりの日本酒を口に含むと、大好きな香りが鼻腔びこうを通り抜ける。本来ならこれを飲みながらダラけていたはずなんだが……予定と違いすぎるぞ、俺のゴールデンウイーク。


「あら、いいわね。繊細でフルーツのような甘い香り。飲み口は爽やかでスルスルと喉を通るわ。でもこのお酒、酒精は結構強いわよね?」


 ……シルフィさん。何処のグルメ評論家ですか? 俺はいい匂いと美味いしか分からないのに……。


「ああ、次に出す予定の酒よりかは弱いが、ある程度の酒精はあるぞ」


「ふーん。エールよりも酒精があって、雑味も少ない。とても美味しいわ」


 シルフィって味にうるさいタイプなのか? だから焼いた魚介だけのご飯には付き合ってくれないんだな。

 

「裕太ちゃん。おいしいわー」


 ニコニコ笑顔のディーネが何故か落ち着く。酒は好きだがそこまで繊細せんさいな味覚を持っていない俺としては、ディーネのように単純に味わってもらった方が助かる。


「気に入ったのなら良かった。俺の故郷の酒で水が大事らしいから、水の大精霊に喜んでもらえたのなら、俺も誇らしい」


「へー。お水に拘って作るお酒なのね。じゃあ、異世界のお水の味もするのね。嬉しいわ」


 俺には水の味なんて分からないけどな。そう言えばノモスとドリーはどうしたんだ? ノモスの方を向くと、シルフィ、ドリーと真剣にお酒の味を議論している。


 これは穀物の香りが……とかバランスが……とか良く分からない言葉が飛び交っている。真剣に味わってくれるのは嬉しいが、もう少し気楽に酒を飲んで欲しい。


 しかし見た目が美少女のドリーもお酒が好きなんだな。おしとやかな雰囲気は崩れていないんだけど、しっかりお酒を味わいながら議論をしている。意外だ。


「裕太ちゃん。チーズも美味しいわー。この世界の物より塩分が薄いのかしら。コクがあって素敵ね」  

  

 ディーネはつまみも気に入ったのか、ほんわか笑顔で癒される。ん? 今いい事聞いたぞ。


「ディーネ。この世界にもチーズがあるのか?」


「あるわよー」


 よし。チーズが大好きな俺としては朗報だ。馴染みのある食材があると生活しやすいし、エールって言ってたが、ビールの種類の一つだったよな。ということはビールも味わえる。食の面では意外とこの世界も生活しやすいのかも。


「そう言えば、ディーネは水を冷やしたり、氷にしたり出来るか?」


「んー。出来るわよー。氷はちょっと領分は違うんだけど、大精霊の私にとってはお茶の子さいさいよ」


 ドヤ顔のディーネだが、氷が出来るなら問題無い。ウイスキーがロックで飲めるぞ。でもここで氷を出してって頼むと、制限に引っ掛かるんだろうな。


 面倒だが後で白々しい芝居をしないといけないか。レインに頼めれば早いんだけど、少し領分が違うって言ってたから難しいだろう。


 シルフィとノモスは酒の味の議論をしながらもペースが落ちない。俺もディーネも普通に飲んでいる。もう直ぐ日本酒が無くなってしまいそうだ。


 後はウイスキーを出すつもりなんだけど、俺以外はみんな酔った雰囲気をまったく漂わせていない。酒が足りなさそうだ。


「ディーネ。この豆の中で似たような物はこの世界にあるか?」


「んーっと。これとこれとこれはお姉ちゃん、食べたことあるわー」


 おお、アーモンドにピーナッツにクルミがあるのか。やっぱり似たような植物が多いみたいだ。後で米も食べて貰おう。米が手に入るのなら、異世界生活に光が射す。


「そういえばディーネ。契約の為の条件を変えるって言ってたが、決まったのか? 俺は明日の朝出発するぞ?」


 ディーネの動きがピタリと止まった。……絶対に忘れてたな。

読んでくださってありがとうございます。

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