四百七十七話 露見
更新が少し遅れてしまいました。申し訳ありません。
徹夜でカレーを調合して、眠気と満腹感にフラフラになりながら宿屋に戻ると、服に染みついたカレーの匂いにベル達が食いついてしまった。カレーは夜に皆でって説得してお散歩に行ってもらったけど、夜もカレーか……。
「………………」
室内の沈黙が痛い。
リニューアルしたばかりのトルクさんの宿屋でカレーテロを実行する訳にはいかないから、シルフィにお願いした換気用の風の音がやけに大きく響く。
気合でお昼に起きてベル達に昼食を食べさせた時も、シルフィとサラ達が戻ってきてもうすぐ夕食だって時も、夕食を期待してテンションがマックスだったベル達が……カレーライスを凝視して沈黙している。
ピートさん達の反応でも理解していたけど、カレーの見た目って悪い意味でインパクトが強いよね。
ベル達だけじゃなく、サラ達も、その契約精霊達もカレーを凝視して沈黙している。
一応、ベル達の為に甘口のカレーも開発したから味は問題ないはずなんだけど、ここからどうやって食べさせればいいんだろう?
ベル達のこんな顔、初めて見た。
「ん? どうしたんだ? ああ見た目か。親父もビックリしてたもんな」
おぉ、ジーナがこの異様な雰囲気の中に、能天気に切り込んでくれた。
なるほど、姿が見えるのがサラ達だけだから、他のちびっ子達の異様な雰囲気に気がついていないのか。
あっ、説明とかしないでそのまま食べ始めるんだ。まあ、百聞は一見にしかずとも言うし、行動で示してくれるならそれはそれでありがたい。
「うーん、やっぱり美味いよな。パンも美味しかったけど、ご飯で食べるのも美味い」
部屋中の視線を集めながら、パクパクとカレーを食べすすめるジーナ。そのメンタルの強さが少し羨ましいです。
「ゆーた、これすき?」
ジーナが問題なく食べている様子を見て、俺に質問してくるベル。いつのまにかスプーンをギュっと握っているから、もう一押しで食べてくれそうだ。
「うん。カレーって言うんだけど、かなり好きな食べ物だよ」
今はちょっとだけ飽きているけど。
「ゆーたがすきならべるもすきー」
握ったスプーンを勢いよくカレーにブッ刺し、あんむと口に含むベル。
なんかベルとのこのやり取り、デジャブだな。チョコレートの時も同じような会話をした気がする。
……凄かった。ベルが一口食べた後、カレーの美味しさに大興奮して大騒ぎし、それに引っ張られたレイン達も食べて大騒ぎ、続いてフクちゃん達も大興奮で大騒ぎして、最後にサラ達も食べて大騒ぎした。部屋中大混乱だった。
未完成でもカレーのポテンシャルは凄いな。満腹で眠っているベル達の寝顔まで幸せそうに見える。
「それで、シルフィはリアクションが薄かったけど、カレーは口に合わなかった?」
きっちり完食はしていたけど、大喜びって程でもなかったから気になる。
「また食べたいくらいには美味しかったわよ。でも、さすがにベル達と一緒に騒ぐほど子供じゃないわ」
……俺は賢いから、お酒の時はベル達並みのテンションで騒ぐよねとはツッコまない。少し前に黒歴史を生み出しちゃったから大人しくしていたんでしょ、なんてことは微塵も思わない。
「そっか、それなら良かったよ。ああそうだ。マリーさん達はどうだった? 帰ってすぐに話さなかったってことは困ったことにはなっていなかったんだよね?」
シルフィが帰ってきて即行でカレーになったから、話す暇がなかったってことはないはずだ。
「あぁ、あの子達ね。目立ってはいたけど、護衛を沢山つけていたし、たぶん大丈夫なんじゃない? 念のために王都をざっと調べてみたけど、マリーを襲うような計画は聞かなかったわ」
シルフィが目立つって言う時点で微妙に聞きたくないな。護衛を沢山つけるってことは、それだけ身の危険を感じているってことだよな?
あと、王都って簡単に言っているけど、それって人間だと洒落にならない労働力が必要だからね。
「えーっと、目立つってどんなことをしていたの?」
「中級貴族や下級貴族、豪商の婦女子を集めてお茶会をしていたわ」
お茶会って、優雅に紅茶やハーブティーなんかを飲んで、オホホホホって優雅に過ごす感じのお上品なやつだよね? 上流階級なら普通にやってそうだし、目立つ意味が分からない。
「なんでお茶会が目立つの?」
「商会の娘風情が貴族や豪商を集めて大規模なお茶会を開くとは、調子に乗りすぎのようだなって、陰で言われていたわ。規模や招待客が身の程にあっていなくて目立つようよ」
マリーさん、本当に派手にやっているみたいだな。出る杭は打たれるけど、打たれても伸びるつもりのようだ。そりゃあ敵も増えるよ。
「お茶会で手に入れた情報を教えてくれる?」
なんか胃が痛くなりそうな気もするけど、マリーさんとソニアさんにはお世話になっているし、ある程度の情報は把握しておきたい。
……シルフィから聞いた話をまとめると、だいたいこんなところらしい。
若返り草からできた薬品の効き目はたしかで、一度肌に染み込ませるだけで数歳の肌の若返りが実感できる。
迷宮都市で作られた薬品は大半が国に献上もしくは売却され、薬品は王族、上級貴族あたりで消費されてしまい、中級の貴族ですら流れてくることが稀。
若返り草の仕入れを独占しているポルリウス商会には、ある程度の薬品が確保されている。
マリーさんのお茶会が大人気。普通では招くことが難しい貴族のご婦人方が、招待状にホイホイ食らいついてくる状況らしい。
集まったご婦人方の前で薬品の効果を実演。ついでに集まった中で上位の立場のご婦人に、効果を確かめてもらったりしているそうだ。
薬品の効果を実感させた後にマリーさんは、ポルリウス商会はお得意様に優先的に若返り草の薬品を販売すると露骨なことを宣言。一応、オブラートに包んだような物言いだったそうだけど、シルフィからすれば隠しきれていなかったらしい。
「最上位・上位の人脈よりも中位・下位あたりの富裕層を取り込むつもりってことだよね?」
「商売についてはそこまで分からないけど、たぶんそうだと思うわ」
最上位や上位あたりは献上品や販売でご機嫌を取って、メインターゲットはその下の富裕層。
ここに手に入れるのが難しい希少な品物をチラつかせて、王都での商売を広げるつもりなんだろう。
「こういう露骨なやり方だと、他の商会から嫌われるよね?」
他人の家に土足で上がりこむような行為な気がする。
「嫌われるでしょうね。だから護衛を増やしたんじゃないかしら? あと、いくつかの商会の人間に声を掛けていたわね。薬品をお分けするので今後とも良きお付き合いをお願いしたい、みたいなことを言っていたわ」
全部敵に回すつもりはなくて、味方にする商会を選んではいるのか。
この世界の商売には疎いけど、日本で考えると……独占企業が独占している品物を売ってほしければ、他の商品も買えよって感じか?
……あれだな。駄目なやつだ。
「マリーさん達、なんで無事なの?」
ドラゴン系統の素材の時は、強気ながらも周囲を敵に回さないようにしていたのに、今回はなんでそんなに強気なんだ? 貴族や豪商に目障りだと認識されたら潰されちゃうよ?
男の俺でも美容関連が女性に対して強い手札になることは理解できる。でも、だからといって、やりすぎたら駄目だろう。美容よりもお金って考えの人が殺しにくるよ。
「裕太がガッリ侯爵家を潰したのが内々で広まっているし、国王から裕太に手を出すことを禁止されているからよ」
「俺が関係しているの? 商人にも?」
たしかに王都では派手にやったけど、表面上は俺の仕業ではないってことになっているはずだ。国王から通達があった貴族は別としても、商人にまで影響力は無いだろう。
「若返り草を迷宮で手に入れられるのは裕太だけ。その裕太との商売を独占しているのがマリー。マリーにちょっかいを出して裕太が若返り草を卸さなくなれば、地位の高い女性を敵に回すことになるわ。情報が手に入れられて情報を理解する頭があれば、マリーには迂闊に手を出さないでしょうね」
「なるほど……」
護衛は情報が手に入れられない迂闊な相手対策ってことか。
しかし……思っていた以上に俺の影響力は大きかったようだ。
そして、その影響力をマリーさんにがっつり利用されているらしい。
「マリーさんとは話し合いが必要みたいだね」
ちょこっと利用されるくらいなら全然かまわないんだけど、王都で悪目立ちするくらいに利用されるのは困る。
「使う商会を変えればいいんじゃない?」
シルフィが笑顔で怖いことを言う。そんなことをすれば、ポルリウス商会が洒落にならないことになるよ。
「新しい商会との人間関係を構築するのが面倒だから、そこまではしないよ。帰りにポルリウス商会に伝言を残して、次に会った時にしっかりと話せば十分だと思う」
たぶんマリーさんは、俺の行動パターンから、王都で派手に行動してもバレないと計算して利用しているんだろう。
釘を刺したうえで、卸す品物の量を減らせば十分なペナルティになる。とくに若返り草の数を絞れば効果はてきめんのはずだ。
伝言にもちょっと機嫌を損ねていることを添えておこう。次に俺が訪問するまで、気になって仕事が手につかなくなるはずだ。なんせ俺は、マリーさんにとっての金の卵を産む鶏だからな。
……最初はマリーさん達が心配だったからシルフィに様子を見てきてもらったんだけど、結果的にマリーさんの悪事? を暴いてペナルティを与えることになってしまった。
俺にとっても予想外の結果だけど、マリーさんにとっても予想外の結果になるんだろうな。
まあいいや。帰ったら醤油と味噌が待っていてくれているんだ。面倒な話は次に迷宮都市に来るまで忘れて、新しく作る料理を考えよう。
本格的な和食は無理だけど、家庭的な和食は再現したいなー。
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