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四百六十八話 ノモスの家……家?

 ついに大精霊達の家が完成し、引き取りの為に建築会社に到着した。家としては特殊な分類なので、大工さん達からどう思われているのかがとても心配だ。あと、来る途中にジーナから相談された、ジーナの食堂の新メニュー開発も地味に頭痛の種だ。良いアイデアを思いつけるだろうか?


 色々と頭を悩ませながらも建築会社に入り、受付でジルさんを呼んでもらう。先に大精霊達を呼んでおこうかとも思ったが、新築の家の前で呼んだ方がドラマティックだろう。


「おう! ようやく来たか!」


 手が空いていたのか、ほとんど待つことなくジルさんが現れた。なんだか妙に上機嫌だな。


「ジルさん、お久しぶりです。ご機嫌ですけど、何か良いことでもありましたか?」


「あぁ、ようやく家が引き渡せるからな。これでだいぶ作業場が広くなるぞ」


「……なんか、すみません」


 自分で地雷を踏み抜いてしまった。


「場所代を含めて料金は貰っておるんじゃから気にすることは無い。それよりも家を引き取りに来たんじゃろ。さっさと行くぞ」


 ヴィータが自分だけ家をもらうのを遠慮したから、先に受け取って魔法の鞄に寝かせてあるけど、まだ3軒残っているからな。広いスペースが有っても邪魔に感じたんだろう。気にするなと言いながらもジルさんの背中がウキウキしている。


 移動できる家だから建築会社の敷地で建てたけど、本来なら家は土地に建てる物だからイレギュラーだもんね。これ以上余計な地雷を踏む必要もないから、大人しくついていこう。


 ん? ……ベル達やマルコとキッカが元気いっぱいなのは普通だけど、シルフィが若干ソワソワしているように見える。


 自分達の家が楽しみなのかな? シルフィなら風で確認できると思うんだけど、あの様子だと自分の目で直接見るために確認していないのかもしれない。


 こんな事を言ったら風で恐怖を刻み込まれそうだけど、大人なシルフィにも可愛いところがあるんだね。


 ……こんなことを考えても勘が鋭いシルフィからのツッコミが入らない。本当に楽しみにしているようだ。


 シルフィには色々とお世話になっているけど、これで少し恩返しができたのなら俺も嬉しい。


「ついたぞ。まずは家の確認をしてくれ」


 普段と違うシルフィにホッコリしていると、建築現場に到着した。


 ふむ……3軒の家が並んでいるが、一番奥にあるシルフィ達の家がまともに見えて、手前の2軒の違和感が凄いのが不思議だな。家として一番おかしいのはシルフィ達の家なのにね。


 ……まあ、あれはしょうがないか。ちゃんと収まれば普通の家と変わらないんだから問題は無いだろう。


 さて、確認を……する前にディーネ達を召喚しよう。


「裕太ちゃん、待っていたわー。ついにお姉ちゃんたちのお家が完成したのねー」


「うむ。すでに穴は掘っておいた。準備は万全じゃぞ」


「どんな植物で家を飾りましょう? 楽しみですね」


「よっしゃ家だ。オニキスからも頼まれているからな。しっかり検分するぜ!」


「僕の家はもう確認したんだけど?」


 ディーネがテンション高く現れ、ノモスも若干嬉しそうだ。ドリーは家を見て育てる植物を決めたいようだ。イフは一緒に住む予定のオニキスから頼まれたらしく、内見にやる気満々だ。


 最後のヴィータは少し困った顔をしている。ヴィータの家は完成した時に内見を済ませたから、召喚されると思っていなかったんだよね。


 ごめん、次々と大精霊を召喚したから、勢いでヴィータまで呼んじゃったんだ。でもまあ、仲間の家を内見するんだからつまらないこともないよね。


 とはいえ、楽園に大精霊が1人もいないとサクラが寂しがってしまうかもしれないから、素早く済ませてしまおう。


(俺は順番に家を確認するから、みんなは先に自分の家を確認しておいて。気になるところがあったら言ってね。あっ、護衛は大丈夫だからシルフィも行ってきていいよ)


 ディーネ以外は普段は落ち着いているメンバーなんだけど、みんな楽しみだったんだな。


 小声で話す俺の言葉をしっかり聞き取り、シルフィを含めた大精霊達がそれぞれの家に飛んでいく。


 あっ、大精霊達に甘えていたベル達まで、釣られて一緒に飛んで行っちゃったな。まあ、家の中で合流すればいいか。


 まずは一番手前の家から見てみよう。俺が歩き出すとジーナ達とジルさんが一緒についてくる。このメンバーは一緒に見て回ってくれるみたいだ。頼もしい。


「……この外観の違和感が凄い」


「そうか? 別に普通……ってこともないが、そこまで変な外観でもないだろう。まあ、儂もこんな注文は初めてだったから少し面白くはあったな」


 外観を見て思わず呟いた俺の言葉にジルさんが首をひねっている。えっ? この外観って変じゃないの? ビックリして周囲を見るが、ジーナ達も普通の反応だ。


 あれ? 大きくて四角い石造りの建物の上に、もう一つ小さめの四角い建物が乗っている家。なんて表現すればいいのか……鏡餅の四角バージョン?


 ん? 四角い箱の上に四角い箱……普通の建物と言えば普通の建物? じゃあ、なんで俺は変な建物だって思ったんだ?


「しかし、あの家の大部分を地下室にするってのは、儂も意味が分からんな。運べる家を建てたのに埋めたら意味がないじゃろ?」


 ジルさんの疑問が俺の疑問を解消してくれた。


「地下に埋めるのは安全対策ですかね? まあ、危険な場所なので色々とあるんですよ」


 本当は別な目的で利用するので心苦しい。


「家を設計する時にも聞いたが、変なところに住んでおるのう。トイレもない家など不便だと思うんじゃが」


 家が完成してもそこらへんは納得していないんだな。たしかに家にトイレが無いのは微妙だよね。


 共同トイレって考え方もあるけど、資金もスペースもあるのにトイレを作らない理由が分からないんだろう。


 正解は精霊の家だからトイレが必要ないってだけなんだよね。言えないけど……。


 でも俺だけ外観に違和感を覚えた理由が分かって俺はスッキリした。下の部分がむき出しの地下室って知っているから変に思うだけで、単に2階建ての石造りの建物と考えれば、そんなに変なこともないってことだな。


 そう考えると隣のイフの家もそんなに変じゃないってことになるな。三階建てで地下部分は横に二部屋並んでいるL字型の建物。地下に埋めると考えなければ普通の建物に見える。


「とりあえず中に入りましょうか」


 俺はスッキリしたので、首をひねるジルさんを放置してノモスの家に向かう。ふむ、本来はこの部分が地下室だから、この簡易な臨時階段で上に行くんだな。


 階段を上り、ノモスの住居スペースのドアを開ける。


 うん、15畳程度のなんの物もない部屋。ガラス窓なのはこの世界だと贅沢だけど、少し広いだけの殺風景な部屋だ。ノモスが住居部分にたいして興味を示さなかったから、こんなものだろう。


 特に見るべき場所も無いので、本命の地下室を見るために室内の階段をおりる。


「まっくらだ」


 マルコが言ったように地下室は真っ暗だ。窓が無いから当然ではある。


「光球を上げるからちょっと待ってね」


 光球の生活魔法を使い、思わず悲鳴を上げそうになる。

 

「おっ、裕太も来たのか。ん? 目を見開いてどうしたんじゃ?」


 ……明かりを付けたら髭面の小さいおじさんが居て驚いたとは言い辛い。でも、油断していたから本気で驚いた。


 文句を言いたいところだけど、ノモスが明かりをつける訳にもいかないのは理解できるから文句も言えない。


 相手にはそんなつもりが無いのが分かっていても、無意味に驚かされて仕返しもできないのは妙に悔しい気分だ。


(……なんでもないよ。それよりも、家はどう?)


「うむ。上出来じゃ。地下室は自分でも作れるが、こういった仕事を任せるなら本職にかぎるな」


 上機嫌に地下室を見まわすノモス。俺には広い空間に図書館のように棚が並んでいるだけにしか見えないが、ノモスにとっては素晴らしい出来なようだ。


 珍しいノモスの笑顔。間違いなく大量の棚に並ぶ大量の酒樽を想像しているんだろう。楽園の醸造所にもお酒を保管する場所はあるんだけど、自分専用のお酒の保管庫が欲しかったらしい。上の部屋はたぶんついででしかないな。


 ノモスらしいと言えばノモスらしいけど、大精霊の行動基準の大半がお酒なのはどうなんだろう?


 それを考えると、風や水や植物を意識して作ったシルフィ、ディーネ、ドリーは真っ当な考えで家を作ったってことになるのかな? 家の中に滝があるけど……。


 しかしあれだな。殺風景な上の部屋と、棚が並んでいるだけの真っ暗な地下室。見どころがほとんどない。家というよりももはや保管庫なんじゃないか?


「どうじゃ? 今なら簡単な修正ならできるから、不満があるなら言っておけ」


 ……あっ、ジルさんか。服装も違うし声も違うんだけど、ノモスとジルさんが並ぶと少しだけ脳が混乱する。チラッとノモスを見ると、満足気に頷いているので不満はないだろう。


「不満はありません。面倒なお願いでしたが、頑丈な棚をありがとうございました」


「そうか」


 ノモスと同じく満足そうに頷くジルさん。棚を地下室いっぱいに沢山作ってくれって言った時は変な顔をしていたけど、しっかりと仕事を果たしてくれたジルさんには感謝しかないな。


 棚を作るのは食料を保管するためって嘘を言ってしまったのが、申し訳なくなってきたから、次のイフ達の家を確認しに行こう。


 あれ? ジーナしかいない。


「ジーナ。サラ達は?」


「マルコが探検だって言って奥に行ったから、サラとキッカもついていったぞ」


 探検って……棚しかないんだけどね。まあ、光球を一つしか上げてないから、薄暗い見知らぬ部屋を見て回るのも冒険っぽくて楽しいのかもしれない。普通に迷宮に潜る子達なんだけど、まだまだ子供だ。


「みんなー、次の家を見に行くから戻っておいでー」


 呼びかけるとサラ達の返事が聞こえ、すぐに戻ってきた。ん? サラ達と一緒になぜかトゥルも戻ってきた。


 気がつかなかったけどトゥルも地下室に居たようだ。同じ土の精霊として、ノモスの家が気になったのかもしれない。そうなると、イフ達の家にはフレアが居る気がする。


 あの子は元気いっぱいだから、たぶん気がつかないってことはないだろう。さて、イフ達の家を見に行くか。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] これはみんな喜んでくれて何よりです。 残りも早く見て設置しましょう。 次は精霊王たちが欲しがると見た。
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