四百六十七話 トルクさんの成長
申し訳ありません。更新が遅れました。
もしかしたら明日の豪華客船の更新も遅れてしまうかもしれません。
よろしくお願いいたします。
トルクさんから出された新作料理は餃子だった。オーク肉にニラとショウガ、たっぷりのニンニク入りで、口臭? 何それ? と言いたくなるような餃子。感想と言われても、美味しいのは間違いないけど、富裕層や女性客向けとは言えないと思う。
ふむ、餃子の感想……どう言うか悩みどころではあるが、ここは一発インテリジェンスで頼りになる男を演出するのも有りかもしれないな。
「……トルクさん、美味しいんですけど、新装開店してからのお客さんのことは考えましたか?」
今の俺はちょっとカッコ良さげな経営アドバイザー。言っている内容は凄く初歩的だけど、そこは雰囲気でカバーだ。
「当たり前だ。……ん? あぁ、裕太の言いたいことは分かるぞ。お偉いさんや女のお客さんのことだろ? マーサにも言われたからそこらへんは理解している。俺は美味ければいいと思うんだが、そういう訳にもいかないんだよな」
もうすでにマーサさんから注意されていたらしい。……俺の想定していた会話と進む方向が違う気がする。
想定では、俺がビシッとお客さんのことを考えない飲食店は潰れる! 的な喝を入れて、さすが裕太! な流れなんだけど、どうやら違うようだ。
「じゃあ、女性客向けの餃子なんかも開発しているんですか?」
「もちろんだ」
ならばなぜ出さん。
それが出されていれば妙に雰囲気を作ったりしなかったんだけど? 親しい間柄じゃ無かったら訴訟案件だよ。負けるけど。
「……その餃子は? 見たところテーブルには1種類しかありませんよね?」
全部同じに見えるけど、皮が厚いから見えていなかっただけで中の餡は違うの?
「あぁ、パスタもあるから他の餃子は後が良いと思ってな。だが、一番自信があるこいつは最初に食べてもらいたかったんだ」
自業自得だった。
俺のリクエストが影響して他の餃子は後に回されたんだな。訴訟を起こしていたら敗訴の上に大恥を掻くところだった。
「……そういうことでしたら文句なしに美味しいです。俺が昔食べていたのはもう少し皮が薄いんですけど、この餡ならこの厚みが正解なのかもしれません」
「そうか。俺も皮の厚さは悩んだんだ。あっさりした餃子の皮を薄めに作ったから、裕太が食べていた餃子に近いかもしれんな。後で感想を聞かせてくれ」
アドバイス予定だった皮の厚みまで研究していたようだ。もはや俺に言うことは無いな。見事だトルクさん!
「はい。後で他の餃子もしっかり楽しませてもらいますね」
「おう。じゃあ俺は残りの料理を仕上げてくる。なんかあったら呼んでくれ」
上機嫌で個室から出ていったトルクさんを見て、トルクさんも成長したなってシミジミ思ったんだけど、これは上から目線になるんだろうか?
なんだか変な気分になってしまったが、弟子達も契約精霊達も目が早く食べたいって言っているので、気分を切り替えてご飯にしよう。
「じゃあご飯にしようか。ベル達もフクちゃん達もシルフィが注意したら、素早く食べている料理をお皿に戻してね」
念のためにもう一度注意をして、元気に返事がきたので食事を開始する。俺とトルクさんの話で興味が増したのか、みんな餃子に一直線なのが少し面白い。
さて、みんなが餃子に集中している間に、俺はキノコのパスタを楽しませてもらうか。
***
「はーー」
トルクさん自慢の朝食を終え、目的地に向かって歩きながら自分で自分の口臭を確認するが、よく分からない。
生活魔法で口の中を綺麗にはしたんだけど、胃の中まで綺麗に出来る訳ではないので少し微妙な気分だ。
確認のために皆に口臭を嗅いでもらう……のが駄目なのは理解できる。こうなったら今日はこまめに口の中を洗浄するしかないな。
久しぶりの餃子にテンションが上がって、ニンニクたっぷりだろうと構わず食べまくったのは失敗だった。
昨晩の宴会に出てきた餃子。女性向けの餃子もアッサリして美味しかったし、具に使われた野菜の種類も豊富でなかなか楽しかった。
皮もトルクさんが言っていた通りに薄めで日本の餃子に近かったから、パクパク行けてしまう。
しかも、男性向けの餃子もしっかり用意されていて、そっちはどれもニンニクたっぷりだったんだよね。
俺もニンニク大好きな男の子だから、ついついニンニク入りの餃子に箸が伸びてしまい、口臭がとっても気になってしまう。
ニンニクたっぷりな餃子を構わずに食べまくっていたジーナやちびっ子精霊達は問題ないだろうけど、女性向けのアッサリした餃子を好んでいたシルフィ、サラ、キッカは危険だ。
この3人に口が臭いとか言われたら、立ち直れる気がしない。
あと、口臭……何それって勢いでニンニクたっぷりの餃子を食べていたジーナも、地味に危険だ。年頃の女性的に少しは気にしたほうが良いと思う。
……まあ、口臭問題はあるにしても、料理はどれも美味しかったから良いか。あれだけの料理が出るのなら、増築したトルクさんの宿屋も繁盛するだろう。
餃子の次は小籠包と肉まんの開発をお願いしたし、先々の発展もかなり見込める。まあ、暑い地域だから肉まんは微妙かもしれないが、蒸し料理は最低でも人気が出るだろう。
アツアツスープが飛び出る小籠包は、いろんな意味で衝撃なはずだ。あっ、火傷を負っても当店は責任を負いかねますって言う張り紙が必要だよね。あとでトルクさんに注意しておこう。
回転テーブルも、ちびっ子達があっちへグルグル、こっちへグルグルと超絶に楽しんでいたので人気が出るのは間違いないだろう。
「師匠。トルクさんの宿屋、凄い人気だったな」
「うん。朝一の開店と同時にお客さんが押し寄せてきてたもんね」
ジーナの少し羨ましそうな言葉に、宿屋を出る前の状況を思い出す。
常連客には予約の対応もしていたらしいけど、それ以外のお客さんが部屋を狙って朝一で突撃してきていた。トルクさんの宿屋もすっかり人気店ってことなんだろう。
新装開店で満員御礼……俺のせいで冒険者のお客が減ってしまったことが、遠い昔のことのように思える。
「なあ、師匠。うちの食堂も師匠が手を入れたら繁盛するのか?」
真剣な顔で聞いてくる。若干顔の距離が近いけど、ジーナもニンニクたっぷり仲間だから匂いは問題ないだろう。別の意味ではドキドキするけどね。ジーナって改めて見なくても美人だ。性格は男らしいけど……。
しかし繁盛か……食堂が繁盛するようなアイデアも有るにはあるよな。日本で流行っていたなにがしかをパクって導入すれば、お客が呼べないこともないと思う。
「ジーナ。繁盛するかもしれない方法を教えることはできるけど、コストも掛かるし料理の値段も上がっちゃうよ?」
しょせんパクリのアイデアだから、都市や店の状況に合わせたプランを練るのは難しい。
経営アドバイザー風に語ってみようとも、なんちゃってが前についてしまうのが事実だ。なんちゃって経営アドバイザー……言葉にすると質の悪さがハンパじゃないな。
「うーん、あたしが卸す迷宮の魔物で食堂も儲かっているけど、常に魔物を卸せる訳じゃないからコストが上がるのは厳しいな。うちは貧乏人向けの食堂だから料理の値段が上がるのも辛い。みんなが食べにこれなくなる」
立地的にもスラムの近くだからお値段高めの食堂は難しい。それに、ジーナの親父さんも貧しい人にもお腹いっぱい食べさせたいってポリシーを持っているみたいだから、料理の値段が上がるのは反対するだろう。
このポリシーを考えるに、あの親父さんってジーナが絡まなければ人格者なのかもしれない。とてもそうは見えないし、ポリシーを踏まえても信じられないけどね。
「儲かっているなら問題ないんじゃないの? ジーナが卸す迷宮の魔物で、お客さんも喜んでいるんだよね?」
食堂は儲かって、安くて質が良い料理を食べられるお客も喜ぶ。まさしくWINWINな関係ってやつだ。
損をしているジーナも、迷宮の探索ついでにパパッと魔物を狩って魔法の鞄に収納するだけだから、たいして手間も掛からない。
「それはそうなんだけど、師匠の弟子になってから美味しい物を沢山食べさせてもらってるだろ。トルクさん並みとはいかなくても、もっと安くて美味しい料理を食堂でも出せないかなって思ったんだ」
「目新しい料理の種類を増やしたいってこと?」
「うん。あたしが卸した素材で、今まで食堂で出せなかった料理が出せるようになったんだけど、ありきたりな料理ばっかりなんだよ。あたしも師匠の料理を参考に新しい料理を考えてはいるんだけど、師匠の料理って微妙に金が掛かるんだよなー」
残念そうに空を見上げるジーナ。まあ、油で揚げるとか牛乳を使うとか、コストが大きくなっちゃうもんね。
「んー、そういうことなら俺も何か考えてみるよ」
「ほんとか! ありがとう師匠!」
満面の笑みで喜ぶジーナ。この笑顔の為なら無理矢理にでも脳ミソを絞る価値はある。
ついでにあの親父さんに恩を着せて、敵意を減少させよう。最低でも奥さんは味方になってくれるはずだから、効果は高いだろう。
しかし安い料理か。単純に考えるなら安い素材が、捨てる素材の有効活用ってのが基本だよね?
そうなると……捨てる骨の再利用か?
オークやラフバードの骨を煮込んで……ラーメン?
ラーメンってどうなんだ? ものすごく食べたくはあるんだが、ラーメンって何気にお値段が掛かるよね。手間も掛かるから、コストも掛かる。
……餃子はトルクさんが完成させているし、ラーメンもトルクさんに任せた方が正解だろう。
米も提供して、ラーメン、餃子、チャーハンのラーメン定食なんてどうでしょう?
ふむ、トルクさんを煽る方向が今決まった。俺の為に果てしないラーメン道に落ちてもらおう。
いや駄目だ。ラーメンは業が深いから、そうなったら他の料理が食べられなくなる可能性がある。ラーメンはルビーにお任せしよう。楽園にラーメン屋を作る。決定です!
……違う。いや、ラーメン屋を作るのは決定だけど、今はジーナの実家の食堂に出す料理を考えないと。
「裕太、工房に到着したわよ。入らないの?」
おっと、考える前に建築会社に到着してしまった。料理は後にして、まずは家を受け取るか。ディーネ達も召喚して、受け取る家を見せよう。みんな、大喜びするかな?
読んでくださってありがとうございます。