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四百六十三話 サラの気持ち

 サラと約束した1ヶ月が経った。俺のこれからの生活の中から1人の弟子が居なくなるかもしれない運命の時。緊張しながらおそるおそるサラにこれからどうするのかを聞くと、悩む素振りも見せずにあっさりと一緒に居るとの返事が返ってきた。嬉しいんだけど、あっさりし過ぎて少し心配だ。


「……サラ、あのね、一緒に居てくれるのは嬉しいんだけど、本当に真剣に考えた? やっと会えたお兄さんに、またしばらく会えなくなるんだよ? 無論、サラのことも遺跡のこともあるから定期的にローゾフィア王国には顔を出すつもりだけど、その頻度は決して高くないよ? 後悔したりしない?」


 OK、分かったって納得しておけばいいのに、ついつい質問を重ねてしまった。これでサラの意見が変わったら、俺はたぶん一生後悔すると思う。


 あと……少女に一緒に居てくれるのが嬉しいとか……犯罪臭しかしないな。事情を知らない人に聞かれたら通報間違いなしの案件だ。


「もちろん真剣に考えました。お兄様とも何度も話し合って出した結論です。あの……お師匠様は私がここに残った方が良いとお考えですか? 御迷惑ですか?」


 俺の聞き方が不味かったのか、サラの表情が不安に染まってしまった。念を押したことで、俺がサラの弟子継続を歓迎していないように思われたのかもしれない。


 ……ヤバい、この誤解はちゃんと解いておかないと、サラの心に傷が残りかねないぞ。


「いや、俺はサラが一緒なのは大歓迎なんだよ。できればどうにかサラを説得して一緒に来てもらおうとか、無理ならせめて遠距離弟子の方向でとか思っていたし、でも、サラがあっさり一緒に来るって答えてくれたから、逆に心配になっちゃったりしちゃってね。本当にサラが迷惑とか全然ないからね」


 なんか誤解を解くために言わなくていいことまで言っちゃった気がする。


「私の為にそこまで考えてくださっていたんですね。お師匠様、ありがとうございます」


 サラが少し恥ずかしそうにお礼を言ってきた。うん、恥ずかしいよね。師匠が弟子を引き留めるために色々と考えていたことを自分でバラしちゃったもんね。バカな師匠でごめんね。


「う、うん。まあ、師匠として弟子のことを考えるのは当然のことだからね。あまり気にしないでね」


 できれば忘れてほしい。


「ありがとうございます。ご心配をおかけしてしまったようですし、私がどのように考えて結論を出したのか、ご説明しましょうか?」


「……そうだね。そうしてくれると俺としても安心できるよ」


 なんかもう、弟子を続けてくれるのであればそれでいいじゃないって心境だけど、この状況で聞かないって選択肢は無いな。


 それにしても、お兄さんと会って貴族だった頃の自分を思い出したのか、サラの言葉が少し堅苦しくなっている気がする。丁寧なのは悪くないことなんだけど、子供としてはどうなんだろう?


「では、ご説明しますね」


「あっ、はい」


 まずはちゃんと話を聞こう。堅苦しいのは、この国から離れたら元に戻るだろう。たぶん……。




 ……サラの説明が終わった。俺が思っていた以上にしっかり考えていた。


 いや、ほんと、凄く良く考えてたな。ヴィクトーさんの意見が入っていたのを踏まえても、俺の就職活動の時よりもしっかり考えていたんじゃないか?


 最初に説明されたのが俺から受けた恩についてだったのは、ひたすら恥ずかしかった。美味しい食事、暖かな寝床、冒険者用の装備、俺が想像していた以上にサラは嬉しかったようだ。


 次は精霊術師としての今後の成長や、フクちゃん、プルちゃんと会うことができる楽園のこと。ジーナ達との関係。


 そして、下世話な話になりますがとの前置きの上で、Aランク冒険者の収入や弟子の肩書や、人脈まで言及された。


 収入はともかく俺の弟子の肩書って悪名な気もするけど、人脈も何気に凄いよね。利用する気は無いけど王様まで繋がっているし、精霊王様まで人脈に含めたら凄いことになる。


 ヴィクトーさん達に頻繁に会えないのは、もう会えない覚悟だったのに居場所が分かった上に偶に会えるのであれば十分とのことだ。ちょっとドライな気もするが、元貴族だとそんなものなのかもしれない。


「サラがここまでしっかり考えていたとは思わなかったよ。少しビックリした」


 これだけ考えて選択したのなら、中途半端なことで後悔はしないだろう。あとはまあ、俺の頑張り次第だな。


 最低でもお金には困らない人生を送れるように……いや、もうすでにお金には困らないレベルの冒険者になっているよな。あれ? 俺がやることってあんまり残ってない気がする。歳を重ねたら独り立ちするだけ?


「ふふ、色々と考えたのは事実ですが、お師匠様についていくって決めたのは単純な理由でした」


「単純な理由?」


 どういうこと? 今までの長い説明はなんだったの?


「はい。単純な理由です。お師匠様もジーナお姉さんもマルコもキッカも、シルフィさん達大精霊の皆さんも、ベルさん達下級精霊の皆さんも、フクちゃん達浮遊精霊の皆も、メルお姉さん、メラルさん、ルビーさん達上級精霊の皆さんも楽園も全部大好きです。ずっと一緒に居たいと思いました。お師匠様、これからもよろしくお願いいたします」


 満面の笑みでピンと背筋を伸ばした後、深々と頭を下げるサラ。


 何この子、最後の最後で俺を泣かせにきたの? 俺の涙腺は決壊寸前だよ?


「あら、元々良い子だと思ってはいたけど、ちゃんと精霊と心を通じ合わせることができる、本物の精霊術師になれそうね。裕太、良い子を弟子に取ったわ。まあ、サラ達を探し出したのは私だけどね」


 隣で話を聞いていたシルフィまでもが俺の涙腺を破壊しそうなことを言う。でも、最後のシルフィの自画自賛で少し涙腺が持ち直した。このままなんとか泣かずに最後まで終わらせるぞ。かなりギリギリだからスピード勝負だ。


「サラ、頭を上げて」


 頭を下げているサラに声を掛ける。ヤバい、ちょっと声が震えてしまった。目も潤んできているし、本気で時間が無い。


「サラ。サラも知っての通り、俺は精霊術師を見直させるためにサラ達を弟子に取った。でも、弟子に取ってからのサラ達の成長を見るのが結構幸せで、楽しかった。だから……まあ、あれだ、こちらこそ、これからもよろしく」


 普通の会話でもなく、教えるでもなく、叱るのでもなく、からかうのでもなく、子供相手に本音を話すのって、思った以上に照れくさい。今の俺、顔が真っ赤になっているんだろうな。


 涙腺が崩壊しそうなうえに顔も真っ赤とか、今の俺の顔は相当ヤバくないか?


「はい! よろしくお願いします!」


「じゃああれだ、ジーナ達も心配しているだろうし、一緒に行くこと伝えておいで。みんな喜ぶだろう」


 一刻も早く出ていくのだ。師匠の威厳は崩壊寸前だぞ?


「えっ、ジーナお姉さん達にも色々と相談したので、私が一緒に行くのは知っていますけど?」


「……それでも決まったのは今だからね。大切な仲間には報告しておきなさい」


「はい、分かりました。伝えてきます」


 サラが部屋を出てドアを閉めるのと同時に、俺の涙腺が崩壊する。


「シルフィ……」


「裕太、その涙は弟子の言葉が嬉しかった涙? それとも、自分以外はすでにサラの気持ちを知っていて、蚊帳の外だった悲しみの涙?」


 おおう、契約精霊が的確に俺の心を抉りにきているよ。とても楽しそうだね。


「……まあ、どっちもかな」


 途中までは感動の涙のはずだったんだけど、ジーナ達が知っているって聞いてなんだかとても寂しかった。


 あと、心の中で知ってんのかいって関西弁のツッコミが入ったことにも少し驚いたな。俺、関西人じゃないのに。


 ふぅ、サラもしっかりしているとはいえ、まだまだ子供だな。空気が読める大人であれば、余計な事を言わずに分かりましただけ言って部屋を出たはずだ。


 教えることがほとんど無さそうだって思っていたけど、空気を読むスキルなら教えられる気がする。


 あっ、涙が止まった。感動の涙だけならまだ泣けていた気がするけど、最後に切なさをトッピングされたせいで相殺されたような気がする。


「裕太、ヴィータを召喚しなさい」


「えっ、なんで?」


 別に怪我もしていないし体調も悪くないぞ?


「その充血した目でジーナ達の前に出るの? 泣いていたのがバレるわよ?」


 なるほど、目が充血しているのか。泣くのなんて久しぶりだから、その可能性をスッカリ忘れていた。


 せっかくサラの前で泣くのを我慢したのに、充血した目で泣いていたことがバレたら台無しだな。


 ヴィータの召喚……前回は少し怖かったけど、今回は真っ当な理由だから……大丈夫だよね?


 ***


 サラの心からの言葉を聞いてから3日。細々した用事を片付けて楽園に戻る日になった。


 今はヴィクトーさん自らお見送りに来てくれて、サラとの別れを惜しんでいるところなので、地味に待機中だ。


 ヴィクトーさんとはサラのことや遺跡のことで結構会話したけど、迫力ある見た目に反して妹を心配する良いお兄さんって感じだ。ギャップがあるから女性にもてるタイプの強面だな。羨ましい。あっ、ヴィクトーさんがこっちにきた。


「裕太殿。貴殿には返しきれない恩がある。それなのにこんなことを言うのは図々しいが、なにとぞ、サラのことをよろしくお願いします」


 俺の両手をがっしりと掴み、熱のこもった目でお願いしてくるヴィクトーさん。圧が凄い。


「お任せください。立派な精霊術師に育ててみせます」


 ヴィクトーさんと目を合わせたまま、お互いにゆっくりと頷く。なんだこの状況? ヴィクトーさんの気持ちに釣られたのか、雰囲気が体育会系だ。


「では、そろそろ出発します。またサラ達を連れて顔を出しますので、その時はよろしくお願いします」


 体育会系に取り込まれるのはゴメンなので、熱くなった気持ちを落ち着かせて出発の挨拶をする。


「楽しみにしています。遺跡の方も成果を出して見せますので、期待していてください」


「はい、期待しています。ではまた」


 ふいー、ようやく出発できる。今回の旅は休暇も挟んだのに妙に疲れたな。楽園に戻ったらしばらくのんびりと開拓の方に力を入れるか?


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、これはこれで良い話なんだが、ここで読む分には一週間以上は間が空くが、書籍化した時になると風俗のエロ話から結構間髪入れずにこれで大丈夫なのかと。いや良い話だし大丈夫な気もするけど。…
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