四百六十一話 フラッシュバック?
コミックブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』のコミック版21話が公開中です。
3/17日の正午まで無料公開中ですので、お楽しみいただけましたら幸いです。
今回で下の話は最後の予定です。苦手な方はご注意ください。
淫魔の館で見事な推理ショーを展開した俺は、淫魔のお姉さん達のハートをガッチリキャッチして、モテモテにモテテ困ってしまう状況に陥ってしまった。
モテるのは良い男の宿命とはいえ、複数の女性を惚れさせるのは男として世間様に顔向けができない。
だが、魅力的な女性達を泣かせるのも男として情けない。ふっ、罪作りな男だな、俺は……。
***
先生には楽しんでもらえただろうか?
急な事で宴会も満足に仕切れなかった。女の用意も時間が無かったから、ずいぶん無理を言ってしまった。
あのサキュバスの女はなんとかすると言ってくれたが、無理をさせた分、最高のもてなしができたかは微妙だ。
まったく、あのアホがもう少し気を利かせていれば、準備の時間を万全に取って最大限のもてなしができたんだがな。
本来であれば今回のもてなしは前座で、次を本番にする予定だったが、先生には断られてしまったのが痛い。
「しかし淫魔の館か……先生も魔族が好きなんて度胸があるというかなんというか……」
たしかにサキュバスの技は凄いが、限界ギリギリまで搾り取られて恐怖を覚える男も少なくない。
そんな相手を一晩借り切って、サキュバスを満足させるんだから並みの存在じゃねえな。
初めて会った時は軟弱な男に見えたんだが……俺の眼力もまだまだ修行がたんねえってことだろう。
「……あら? もう迎えに来ちゃったの?」
ノックして出てきた女は、たしかに昨日無理を言った女だ。だが……ちょっとツヤツヤし過ぎてないか? 存在感まで増しているように感じるぞ?
それにもうだと? 約束の時間からそれほどズレてないはずだ。何か問題が起こったか?
「おいおい、姉さん。俺は先生に最高のもてなしをって依頼したんだぜ? 無理矢理搾るんじゃなくて、良い気分で過ごしてもらえればって意味なのは、あんたも分かってるよな?」
サキュバスが本気を出したら洒落になんねえぞ?
「もちろん分かっているわ。だから私達も主様に喜んでもらえるように全力を尽くしたわ。ただまあ、少しだけ頑張り過ぎちゃったかもしれないとは思わなくもないわね」
どっちなんだよ? さすが死ぬまでしぼってねえよな?
「先生はスラムの大恩人だってことはちゃんと説明したはずだ。もし先生に何かがあったとしたら、こちらから頼んだこととはいえタダではすまさねえ。それを踏まえたうえで聞く。先生は大丈夫なんだな?」
ことによったらこいつらを皆殺しにして、俺も死んで詫びるしかねえ。
「そんなに怖い顔しないで。私達は淫魔でプロなの、命を奪うなんてことはあり得ないわ。ただ、ちょっとだけ搾りすぎちゃったことは謝るわ。ごめんなさい」
「……とりあえず、先生のところまで案内しろ。場合によっては覚悟してもらうぞ」
渋々といった様子で俺を案内するサキュバス。館の中は蠱惑的な匂いが充満している。店で淫魔が漂わせている匂いに比べると、段違いに濃い雌の匂いだ。
淫魔が住む館だからこれだけ濃いのか? 先生の性を搾り取った結果なら洒落にならねえぞ。
(モテる男は辛いぜ……)
(無理、もう無理だから……)
(しょうがない子猫ちゃん達だな。焦らなくてもちゃんと可愛がってあげるよ)
(立たない、もう立たないから)
(あはは、そんなに嬉しいのかい? 分かったよ。俺が天国に連れて行ってあげるよ)
(えっ? なんで立つの? 今俺に何かした? いや、絶対何かしたよね!)
スラムの恩人である先生が、生物が持っている全てのエネルギーを吸い取られたような表情でソファーに寝かされている。
うわごとのように何かをつぶやいているから生きてはいるようだが、表情が苦悶と恍惚を行き来している。大丈夫なのか?
「おい……おまえら……」
「そんなに怖い声を出さないでよ。私達はプロだって言ったでしょ。死なせるようなことはないから安心してちょうだい。主様ならもう少し休めば復活するわよ」
「だが、おまえらプロなんだろ? こんなにギリギリまで搾る必要はなかったはずだ。なんで全員ツヤツヤで満足気なんだよ。接待の意味が分かってんのか?」
淫魔全員が明らかに絶好調な雰囲気を漂わせてやがる。淫魔1人を満足させるために何人の男が必要だと思ってるんだ?
「……まあ、私達にも責任があるのは確かなんだけど、でも、あなたも悪いのよ。主様は間違いなく人類最高峰の存在よ。そんな男を目の前に差し出されたら、プロだって加減を誤ることはあるわ。事前にちゃんと注意しておいてくれたら、私達にだって心構えはできた……はずよ」
「はっ? 人類最高峰? それってレベルがってことか?」
はずってなんだよ。自信なさげじゃねえか。
「あら? あなた主様のことを知らないの? ……ならちょっと話すぎちゃったわね。とにかく、ちょっと暴走はしたけど私達は精一杯頑張ったわ」
先生がただものじゃないってことは知っていたが、人類最高峰? 想像以上に凄い人なのか?
「ん、んーー……ここは?」
先生が目覚めた? あのすべてを奪われたような状態から、もう復活したのか?
「先生、ここは淫魔の館です。大丈夫ですか?」
「ん? あぁ、そうか寝ちゃってたんだ。お待たせしてすみませんジュードさん、すぐに準備しますね。あれ? なんだか体がものすごく怠い……」
怠いって……それだけなのか? しかも淫魔達にスリ寄られてもうデレデレしている。人類最高峰……本当なのか?
***
目が覚めたらジュードさんが焦った顔で話しかけてきた。寝起きに男の顔を見るのは微妙に嫌なんだけど、どうやら寝過ごしてしまったらしい。
昼過ぎに迎えにくるって言われて遅いよって思っていたけど、寝過ごすぐらいだからジュードさんの考えは間違えていなかったようだ。有能だな。
あれ? 体が怠い。なんとか起き上がれたけど、指を動かすことすら意識しないと辛い。
おっ、淫魔のお姉さん達が寄ってきた。露出が激しいナイスバディな体を密着させて、最高の夜だったとか口々に嬉しいことを言ってくれる。
寝起きであんまり思い出せないけど、男としては最高の賛辞だから自然に顔が緩んでしまう。
あれ? 普段ならこれだけ美女に密着されたら、間違いなく燃え上がるはずの俺のリビドーがピクリともしない。
怠いし風邪でも引いたかな?
「先生、どうしますか? 体調が悪いのであれば、もう少しここで休んでいきますか?」
「い、いや、ご迷惑だし、すぐに帰るよ」
なぜか反射で帰るって言ってしまった。普段の俺ならできるだけ美女と一緒に居たいはずだから、休ませてもらう一択だよな?
なのに、なぜか体が帰りたがっているように感じる。
しまったな。せっかくの自由時間なのに、本格的に体調を崩してしまったようだ。すぐに宿に引きこもって、夜までには体調を元に戻さないといけない。怠い体に無理矢理力を入れて立ち上がる。
淫魔のお姉さん達に見送られてジュードさんと淫魔の館を出る。なんだか凄く太陽がまぶしく感じるな。
しかし、淫魔のお姉さん達、めちゃくちゃ名残惜しそうにしてくれたな。俺ならいつでも淫魔の館に来てもいいって言われちゃったし、マジでモテモテだ。
俺のプレイってそんなに良かったのかな? どんなことをしたんだっけ?
えーっと、あれ? えーっと……そうだ。最初はもう、すべてが肌色に埋まる感じだったな。体のどこもかしこも快楽で埋め尽くされて、とっても幸せだった。
淫魔と呼ばれるだけあって、俺では思いつくこともできない様々なプレイ。凄く勉強になった。
この世のすべての快楽はここにあったって感じだな。
人には言えないようなことって、本当に人には言えないようなことだったよ。気持ちよかったけど。
それから……それから? あれ? なんでだ? 寒くもないのに体が勝手に震えてくる。
「うっ」
次々と脳裏に走るみだらな光景。フラッシュバックってやつか?
うっとりとする淫魔のお姉さん達。
快楽に身を任せながらも苦しそうな俺。
何か呪文を唱える淫魔のお姉さん達。
なぜか元気いっぱいになっている俺。
狂気にも見えるトロケきった表情で覆いかぶさってくる淫魔のお姉さん。
もう無理だと叫ぶ俺……。
「先生! 先生!」
ジュードさんに肩を揺さぶられたのか。危なかった。なんだか記憶に飲み込まれる感じだったな。
「先生、顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」
ジュードさんがとても心配そうな顔をしている。
「う、うん、大丈夫」
「本当ですか? どこかで休憩したほうが良さそうに見えますが?」
「いえ、ちょっと疲れが出ただけです。太陽の光が心地いいので、このまま歩きましょう」
ジュードさんが『ちょっと?』と言いながら、化け物を見るような目で俺を見ている。なんでだ?
「ジュードさん、どうかしましたか?」
「い、いえ、別になんでもありません。太陽の光が心地いいのであれば、歩きましょうか。ですが、顔色が戻っていませんので、ゆっくり歩きましょう」
「分かりました」
ジュードさんが最高峰やらなんやらと呟いている。便秘で困っているような、どこかスッキリしていない顔をしているな。
……まあ、いいか。何かあるんなら聞いてくるだろう。
しかしあれだな、太陽の光……普段はあまり気にしていなかったけど、今日はとっても温かく感じる。疲れた体に染みわたるような心地よさだ。
体が怠いのとリビドーが燃え上がらなかった理由が分かったから、気分もスッキリしてきた。
淫魔のお姉さん達に、燃え上がる余地も無いくらいに搾り取られていたんだな。
淫魔のお姉さんって考えた瞬間、体がブルっと震えた。
もしかしてだけど……搾り取られ過ぎて、体が淫魔のお姉さんを怖がっているのか?
……まあたしかに、レベルが上がっていなかったら、本気で腹上死していたくらい搾り取られたと思う。体が拒否反応を起こすのもしょうがないか?
でも、淫魔の館を出る前は拒否反応は出ていなかったよな? 記憶を思い出したから体も反応した?
そういえばさっき、体が早く淫魔の館から出たがっていたように感じていたな。
若干トラウマになっているかもしれない。もう今日は宿に引きこもって、じっくり心と体を休めた方が良さそうだ。
しかしあれだな……レベル、上げておいて本当に良かった。
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読んでくださってありがとうございます。