四百五十二話 昔?話
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
新年初めての更新で申し訳ないのですが、後半に災害に関する文章が入っております。
ご不快に思われる方もいらっしゃるかと思いますので、ご注意いただけましたらと思います。
トゥルが遺跡を発見したので、探索中のジーナ達にはディーネを護衛に付けて俺達は遺跡の確認に来た。遺跡はほぼ土中に埋もれていて、思っていた遺跡発掘とは違い大がかりなことになりそうな気配だ。
トゥルが建物の周辺の土を除去しながら、遺跡の内部に入っていた土も一緒に外に搬出している。
おっ、建物から出てきた土の表面に物体がある。あれがトゥルが言っていた遺跡の内部にある土とは別の物なんだろうな。
ただ、ベルトコンベヤーのように次々と外に運ばれてくるのを見ると、宝探しというよりも検品作業な気がする。
古代遺跡の発掘ってファンタジーの王道のはずなんだけど、一気にバイトじみて少し切ないな。
「ゆーた。べるみつけたー。これ、おたから?」
俺がくだらない感傷にふけっていると、ベルが土から何かを拾って満面の笑みでふよふよとこちらに飛んでくる。
ベル達にはベルトコンベヤーとか検品作業とか関係ないから、とても楽しそうで俺の気持ちも見ているだけで回復する気がする。そうだよね、わざわざ余計な事を考えてテンションを落とす必要なんてないよね。
気を取り直してベルが運んできたお宝を見て固まる。
「ゆーた?」
「……えーっと、ちょっと待ってね。シルフィ、これってお宝?」
そもそも、俺、お宝の鑑定ができなかった。普通に売られている商品でも目利きができないのに、発掘品とか無理ゲーだと思う。
でっかい宝石とかならなんとなく高そうとか判断できるけど、これは……お皿か? なんか土塗れで黒ずんではいるけど、金属っぽい。サビとは違うみたいだから鉄では無いよね?
「んー、これは銀じゃないかしら。金属としての価値はあると思うけど、お宝と言っていいかは分からないわね」
銀か。銀って昔は毒対策で食器に使われていたって聞いたことがある。この世界でも同じような考えで食器に使われていたのかもしれないな。
ミスリルとかオリハルコンとかファンタジーな金属がある世界だけど、銀もそれなりの価値がある金属だし、お宝ってことにしておこう。
「ベル。これ銀だって。お宝だよ」
「ふぉぉ、ぎんー、おたからー」
土塗れの銀のお皿を両手で掲げて、足をパタパタさせるベル。とても嬉しそうだ。まあ、銀ってことが嬉しいんじゃなくて、お宝って響きが嬉しかったんだろうな。とりあえず褒めまくろう。
「もっとさがすー」
褒めまくられて満足したベルが、俺の隣にそっと銀のお皿を置いて次のお宝に向かって飛んでいった。宝探しにハマッたようだ。
「クー」
こもったようなタマモの声に振り向くと、棒のような何かを咥えたタマモが居た。その背後にはレイン達も並んでいる。
いちいち全員のお宝を俺が確認するのは大変だけど、最初の一つくらいはしっかり俺が確認して褒めないとガッカリするだろうな。
これは……銀のスプーンかな? 銀のお皿があるなら銀のスプーンがあってもおかしくない。もしかしたら銀の食器一式がそろうかもしれない。セットになったら値が上がるんだろうか?
***
「結構な量のお宝が見つかったね」
まだ建物の全貌が明らかになっていない状況でも、小山になるくらいに価値がありそうなお宝が発見されている。
サビが侵食しまくったのか、よく分からない豆粒みたいな金属も見つかったが、銀の食器以外にも金の装飾品や宝石。ミスリル等のファンタジー金属の武器や防具に魔道具も見つかった。
特にファンタジー金属はサビも劣化もなく、土を拭いたらピカピカになったのは驚きだ。あと、魔石も何気に状態を保って発見された。魔石も経年劣化とは無縁の物質らしい。
「そうね。大きな建物だし、銀の食器がいくつも見つかったことを考えると、かなり裕福な人物の家、もしくは店だったんじゃないかしら?」
「俺もシルフィの言う通りだと思う。だとすると、この遺跡はお金持ちが逃げる暇もなく滅んだってことになるのかな?」
俺の中でお金持ちは情報に通じていて、危険には敏感なイメージだ。
「もしくは、本当に貴重なお宝だけもって逃げ出したかね。でも、骨もいくつか出てきたから、逃げ出す暇もなく滅んだ可能性の方が高そうね」
いや、それは使用人とかの骨の可能性も……逃げていようが逃げていなかろうが、今更関係ないか。滅んだ理由が気にならなくもないが、ある程度価値があるお宝が残っていると分かれば十分だ。
ただ、人骨は出てこない方がありがたかったな。死の大地でスケルトンやゾンビと散々戦ったから、人骨くらい平気だと思っていたけど、魔物化していない人骨は妙に生々しくて怖かった。
あと、嬉しそうに人間の骨を持ってくるベル達は二度と見たくない。フレア、頭蓋骨は持ってこなくても必要ないって分かるよね?
……そもそも人間の骨ってどのくらい残っているんだろう。
埋まった環境にもよると思うけど、恐竜の骨が沢山発見されていることを考えると、何千年も残るのか? そうなると、この遺跡からは沢山の人骨が……なんか気がめいってくるし、やっぱりヴィクトーさんに丸投げが正解な気がする。
ついでに滅んだ理由も調査してもらえれば、俺の疑問も解消されるから一石二鳥だな。
ウネウネと移動する土がようやく止まり、トゥルが俺の目の前に飛んできた。
「終わったの?」
俺の問いかけにコクンと頷くトゥル。建物の発掘が完了したらしい。無理をして疲れた様子も無く、そこはかとなく満足している様子も感じられる。
「楽しかった?」
再びコクンと頷くトゥル。やっぱり楽しかったようだ。
「そっか。良かった。頑張ってくれてありがとうね」
トゥルにお礼を言って褒めまくりながら考える。トゥルが楽しいのなら、遺跡の発掘を続けた方が良いのか?
でも、やっぱり人骨が出てくると、昔のこととはいえ心臓に悪いんだよな。歴史的には貴重な資料なのかもしれないけど、俺としてはできれば何度も見たくない。
……ヴィクトーさんに丸投げできたら、精霊術を使ったていで偶に発掘に参加させてもらえばいいか。人骨の処理はヴィクトーさん達に任せよう。
「トゥル。建物の中はどうなっているか分かる? 中に入っても大丈夫かな?」
石造りで3階建ての建物なので頑丈そうに見えるが、崩壊している部分もあるので安全面には不安を感じる。
「けっこうがんじょうだから……だいじょうぶ?」
トゥルに安全確認をしたら、首を傾げて微妙な反応が返ってきた。3階建ての古代の建物だから、土の精霊のトゥルでも自信が持てないのかもしれない。
シルフィが居るから何かあっても俺の安全は完璧だけど、遺跡が修復不可能な状態になる可能性はある。
どうせ鑑定をお願いするんだし、ノモスを召喚して確認してもらうか。
「なんじゃ?」
ちょっと面倒臭そうな表情のノモスが召喚された。たぶん、お酒関連の作業中に召喚したんだろう。まあ、ノモスはだいたいの時間、お酒関連の作業をしているので気にしてもしょうがないな。
「あの遺跡の安全性の確認と、そこのお宝の鑑定をお願いしたいんだけど大丈夫?」
「ほう、モリオンの国の遺跡か。懐かしい物を見つけたの」
……あれ? なんだか、歴史のロマンとか台無しになりそうな言葉が聞こえた気がする。
「ノモス。この遺跡のことを知ってるの?」
「うむ。長雨の影響で起きた氾濫や土石流で滅んだ国じゃ。ここには大きな町があったな。あの山のふもとには王都があったんじゃが、あちらは完璧に山に呑まれたはずじゃ。儂も後始末に来たからよく覚えておる」
シルフィも知っていたから不思議じゃないんだけど、ノモスは知っていたどころか直接関わっていたらしい。
うーん、ヴィクトーさんに何か分かったら教えてもらうつもりだったから結果は変わらないはずなんだけど、直接当事者に話を聞くと微妙な気分になる。
……まあ、しょうがないか。壮大な歴史ロマンのつもりだったはずが、近所のお爺ちゃんの昔話に変わっちゃったんだもんな。ワクワク感がゼロだ。
「後始末って?」
「自然のバランスが大きく崩れる場合に、精霊が動くと前に話したじゃろ。それじゃ。ここはかなりの長雨で日も射さず、かなりひどい状況になったから儂らが派遣されたんじゃ」
そういえばそんな話を聞いた覚えがあるな。死の大地はなんで精霊が手を加えないのかって話から、そんな話になった覚えがある。
「……そうだったんだ。えーっと、じゃあ、王都の方も探したら遺跡が出てくるの?」
王都の方がお宝は凄そうだ。
「完全に飲み込まれておるから、探せばお宝は出てくるじゃろうが、ここ程綺麗に遺跡は残っておらんじゃろうな」
王都の方がひどい状態だったらしい。建物が残っていないなら、お宝も散らばっていて探すのが大変そうだ。
お金に困っているならともかく、今の状態で大変な宝探しに手を出す必要は無いな。この町で満足しておこう。
「なるほど、ありがとう。建物とお宝の鑑定をお願いできる?」
詳しく話を聞けばもっと当時の状況が分かりそうだけど、明るい話では無いのが確定なので、目の前の目的に集中しよう。
「ああ、そうじゃったな。どれ……ふむ。なかなかしっかりした造りじゃ。弱いところは補強しておいたからもう安全じゃぞ。次は鑑定か……裕太、そこのチビ達は遺跡が気になるようじゃ。鑑定しておくから、あっちに行っておれ」
トゥルの言った通り、結構頑丈な建物だったようだ。それでも、弱い部分があったからノモスに確認してもらったのは正解だったな。
そしてノモスのツンデレが炸裂した。ぶっきらぼうな態度だけど、ベル達に気を使ったのが丸わかりで微笑ましい。
このまま髭モジャのツンデレおじさんをニヤニヤと見ていたい気もするが、ブチ切れられそうなので遺跡の中に入るか。
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その中の異世界村ベスト5というランキングに、5位で入ることができました。ありがとうございます。
めざせ豪華客船の更新は明日になります。
読んでくださってありがとうございます。