四百五十一話 遺跡
今年最後の更新になります。
来年も頑張りますので、よろしくお願いいたします。
ジーナ達の探索を陰から見守っていると、遊びに行ったベル達が古代の遺跡を発見して戻ってきた。普通の子供だったら綺麗な石とかお花とか、そんなたわいもない物を持って帰ってくるんだろうけど、精霊はスケールが違うな。
ベル達もお昼を食べ終わったし、そろそろトゥルが発見した遺跡を調べに行こうかな。あ、このまま行っちゃうとジーナ達の様子が見られなくなる。
午前中のジーナ達の探索は魔物もサクサク倒していたし、今のところなんの問題も無さそうだけど、アヒムさんにもちゃんと俺が見守るって約束したし、念には念を入れておくか。
とりあえずドリーを召喚……連続してドリーを呼ぶとディーネがスネそうな気がする。楽園に戻った時に、お姉ちゃんに対するなんちゃらかんちゃらと文句を言われるのが目に浮かぶな。
「お姉ちゃんの出番ねー」
今後のことを考えてディーネを召喚すると、第一声からやる気満々だった。呼ばなかった場合は、このやる気がスネる方にこじれる可能性が高いから、俺の判断は正解だったな。
「うん。ある程度離れた場所から、ジーナ達を護衛してほしいんだけど、お願いできる?」
「むふー。お姉ちゃんに任せなさいー」
ドンと胸元を叩いて請け負ってくれるディーネ。ベル達が偶にこの仕草をするけど、ディーネの場合は母性の象徴がブルンと揺れて破壊力が半端ない。俺が契約している大精霊達の中でも最大の「裕太?」。
凍えそうなくらい冷たいシルフィの声が聞こえた。別にシルフィの母性の「裕太?」象……地雷を自ら踏み抜く必要は無いよね。
「……ありがとうディーネ。楽園は問題ない?」
「うーん、酒島は順調ねー。でも、サクラちゃんが少し寂しそうなのと、イフちゃんが暇だって言っていたわー」
「もう少ししたら楽園に少し戻る予定だから、ディーネが戻ったらサクラに伝えてあげて。イフについては……何か考えてみるよ」
酒島は順調な方が怖い気がするが、今気にしてもしょうがない。
サクラは戻ったらたっぷりコミュニケーションを取ろう。ベル達とも沢山遊べるから寂しさも薄れるだろう。
イフは……たぶん暴れたいんだろうな。迷宮はコアとの関係で暴れられないし、強敵が現れたらイフにお願いすればいいだろう。
「分かったわー。じゃあ、お姉ちゃん行ってくるわね。今晩は飲むわよー」
ディーネが元気にジーナ達の護衛に出発したけど、最後の言葉はどういう意味だ?
……そういえば、前回ドリーとノモスを召喚した時、イノシシの丸焼き&キノコパーティーで飲んだな。
たぶんその話を聞いて、自分も飲める気になっているんだろう。約束はしていないけど、ディーネの中でそれが事実になっているのなら、お酒を出さなかった時の反応が面倒だ。パーティーはともかくとして、今晩はいくつか酒樽を出すことにしよう。
仕事には対価が必要だよね。大精霊を酒樽で動かせるのなら、安い出費だ。
「……じゃあ、そろそろ出発しようか。みんな、案内をお願いね」
ディーネを派遣してジーナ達の安全は確保したし、遺跡を調べに行こう。
「こっちー」「キュー」「クー」「まかせろ!」
俺のお願いに、ベル、レイン、タマモ、フレアが元気いっぱいに答えて飛び出していった。俺を置いていったら案内にならないよ?
シルフィが居れば問題はないんだけど、行動がちょっとディーネに似てきて、将来が少しだけ心配だ。
「……あんないする」「……」
冷静に残ったトゥルとムーンに案内してもらい、先行したベル達を追いかけるか。シルフィの力ならすぐに追いつくだろう。
「案内なのに俺を置いていったら駄目だよ」
「べるしっぱいしたー」「キュー」「うかつだったぜ」「クー」
遺跡に到着して少しベル達に注意をすると、ベル達がションボリしてしまった。
「ま、まあ、次から気を付けてくれたら問題ないよ。さあ、遺跡を調べよう。お宝発見だ!」
ションボリのベル達に速攻で心が折れて、話をお宝探索にシフトする。何度も思うけど、世の子供をちゃんと叱ることができる大人って凄いな。俺には無理だ。
「おたからー」「キュキュー」「らくしょうだぜ!」「クゥ!」
一瞬で意識が切り替わったな。これだけ簡単に意識が切り替えられるなら、次の機会にはもう少し注意を続けられる気がする。
まあ、ベル達は良い子だから、今回みたいなハイテンションのうっかりが発動しなければ、注意する機会は無いだろう。元気を取り戻したベル達でホッコリした後、本来の目的である遺跡に注目する。
あれ? 森しか見えない。
……あっ、なるほど。注意深く見ると普通の森とは違うな。木々に飲み込まれているけど、人工物のような形の物体がいくつか見える。あれが遺跡なんだろう。
「シルフィ。とりあえず、掘り返せばいいのかな?」
「そうなんじゃない?」
「……シルフィ。もしかしてだけど、遺跡にあんまり興味が無かったりする?」
「うーん、まったく興味が無いって訳ではないけど、遺跡になる前の姿を見たことがあるから、それほどワクワクしないのはたしかね」
あぁ、なるほど。犯人がネタバレしているミステリー小説を読む感じか。犯人が分かっていても面白いミステリーは結構あるけど、ワクワクが半減するのはしょうがないよな。
とりあえず、俺主導で頑張ってみるか。
人工物らしき物体に近づき、表面をしっかりと観察してみる。
表面はほぼ苔で覆われているけど、元々は石造りの建物のようだ。長い年月を自然のままに放置されていたんだから、石造りじゃないと形が残らないから当然ではある。
石造りってことはローゾフィア王国で考えると、権力者の建物である可能性が高い。でも、昔は森ですらなかったらしいから、庶民の建物の可能性もある。
……発掘の専門家な訳でもないので、結局は掘ってみないと分からないってことだな。
トゥルに頼めば簡単だけど、発掘なんてめったに経験できない機会だ。そこはかとなく開拓ツールからも使えって訴えられている気がするし、最初の建物くらいは自分で発掘してみよう。
「なんだかシャベルが喜んでいる気がする」
開拓ツールから魔法のシャベルを取り出すと、光も反射していないのにキラリと輝いた気がした。久々の出番でシャベルも嬉しいんだろう。
最初の頃は大活躍だったけど、精霊の力が凄すぎてあんまり出番が無くなっていたもんな。
現在もレギュラーで活躍しているのは魔法の鞄くらいで、未だに使っていない開拓ツールは山ほどある。
何に使うかが問題だけど、使ってこその道具って言葉も聞いたことがある。せっかくの開拓ツールなんだから使う機会を増やすようにしよう。
遺跡の前に立ち、気合を入れて魔法のシャベルを土に……ちょっと待てよ?
魔法のシャベルって穴掘りには無敵の性能だけど、遺跡の発掘には限りなく向かないんじゃないか?
岩でもなんでも豆腐のように掬い取っちゃうから、遺跡も建物ごと掬い取っちゃう気がする。
この世界の遺跡の扱いがどうかは知らないが、歴史の価値を知る大人としては無造作に遺跡を傷つけるのは躊躇われる。魔物の巣窟にでもなっていない限り、大切に扱うべきだろう。
「……トゥル。建物の周囲の土をどかしてくれ。できるだけ建物を傷つけないようにお願い」
魔法のシャベルを収納してトゥルにお願いする。ごめんね開拓ツール。
「わかった」
トゥルが気合を秘めた瞳で前に出てきた。ベル達からの頑張ってーとの応援にコクリと頷いている姿も凛々しい。
トゥルが遺跡の前に浮かび、ブツブツと遺跡を傷つけないと呟きながら両手を前にだした。
遺跡を傷つけないように土がうねうねと動きながら遺跡から離れていく。楽園に畑を作った時を思い出すな。
土の中から現れた遺跡部分は、風雨に晒されていなかったからか意外と綺麗だ。ん? あぁ、遺跡にこびりついた土も綺麗に剥がれているのか。
さすが土の精霊。開拓ツールでも土は掘れるけど、遺跡にこびりついた土を綺麗にはがすのは難しいだろう。
「あれ? トゥル。まだ掘るの?」
……土の精霊の力に関心していたが、ドンドンと土が運ばれ続けることに違和感を覚える。もう土が結構な大きさの山になっているよ?
「うん。このたてもの、さんかいだて。まだしたがある」
「3階建て?」
じゃあ昔の町の地面まで到達するには、2階と半分くらい土を掘らないと駄目ってことか? 土ってそんなに積もるの? あれ? どれだけ昔に滅んだの?
「ほるのやめる?」
俺のリアクションにトゥルが少し残念そうに聞いてくる。トゥルは掘り始めたなら最後まで続けたいようだ。真面目なトゥルらしい。
「いや、辛くないなら続けて。無理はしないようにね」
「わかった。ちゃんとできる」
コクンと頷き作業に戻るトゥル。心なしか嬉しそうだ。しかし3階建てなのか。
「シルフィ。建物を掘り出すのがかなり大変そうだし、『シュティールの星』にお願いするのは少し厳しいかな?」
探索というよりも土木工事になりそうだ。
「民家を掘り出す意味はあまり無いから、地表に出ている大きな建物だけ掘り起こせばいいんだし、言うだけ言ってみれば?」
「そっか、全部を完璧に掘り起こす必要は無いんだった」
お宝が目的なんだから、お金を持っていそうな大きな建物だけ狙えば良いんだもんな。それならお宝が残っていれば割に合うかもしれない。
「ゆうた。たてもののなかにはいっているつちはそとにだす? つちいがいにもいろいろとはいってる」
おっ、建物の中まで土が入っているらしい。まあ、埋まっていたんだから土くらい中に入るよね。物も色々あるようなことを言っているけど、お宝が残っているのか? ちょっとワクワクしてきた。
「中の物を表面に出しながら外に運び出せる?」
ちょっと無理を言いすぎかな?
「だいじょうぶ」
できるんだ。下級精霊でも凄いってことは知っていたけど、俺が思っていた以上に色々とできるようだ。でも、少し不安だな。
「ねえ、シルフィ。トゥルに無理させ過ぎてないかな?」
「裕太のレベルも上がってベル達への魔力供給も増えているから、この程度なら大丈夫よ。供給が追い付かないくらいに急激に力を使わせることだけ注意していればいいわ」
俺のレベルが上がってベル達も力が発揮しやすくなっているようだ。乾電池から大型のバッテリーに変わった感じかな? ほぼ使い道が無い魔力が役に立つのなら何よりだ。
「了解。トゥル、お願いね」
コクンと頷くトゥル。さて、お宝が土に紛れて出てくるかもしれない。ベル達も見ているだけでは退屈だろうし、みんなで宝探しを始めるか。お宝、出てこい!
読んでくださってありがとうございます。
皆様、良いお年をお迎えください。