四百五十話 トゥルの発見
ジーナ達の大森林での依頼を上空から観察する俺。弟子達にストーカー扱いされるのが少しだけ怖いけど、弟子達の成長をテストしているという大義名分を思いついたので安心している。
「おっ、ジーナ達がお昼にするみたいだ。俺達もお昼に……ベル達が戻ってこないね」
ベル達にはお昼までには戻ってくるようにって言ったはずだ。食べるのが大好きなあの子達がお昼に帰ってこないって……もしかして何かあった?
いや、これはあれだな。ここで焦ったら呆れられるパターンだ。精霊はほぼ無敵の防御力を持っているし、それでも何かあったとしたら、それをシルフィが見逃すはずがない。
「シルフィ。ベル達がどうしているか分かる?」
だから落ち着いて質問すればなんの問題もない。
「まだ遊んでいるわね。普段のお昼の時間までまだ時間があるから、もう少ししたら戻ってくると思うわ。あら?」
まだお昼には早い時間だったか。ジーナ達も朝が早かったし、森の中を歩き回ったから早めに昼食にしたんだな。依頼も順調そうな様子だったし、早めの行動は良いことだ。
「シルフィ。なんで最後に首を傾げたの?」
シルフィならバッチリとベル達の様子が確認できるから、首を傾げる必要は無いよね?
「ふふ。ちょっと面白くなりそうだから、ベル達が戻ってくるまで待っていてあげなさい」
ふむ……シルフィの様子からすると、悪いことが起こるって感じじゃないな。ベル達は良い子だから悪戯は考え辛いし、何かサプライズ的なことを考えているのかもしれない。
リアクションが小さいとベル達がガッカリするだろうし、驚く準備だけはしておこう。誕生日じゃないけど、誕生日のサプライズパーティ的なリアクションがいいかな?
「了解。じゃあ、楽しみに待ってみるね」
「ええ、期待していいと思うわ」
ベル達のサプライズなのに、シルフィが自信ありげにハードルを上げてくる。それだけ期待しても大丈夫な出来事が待っているようだ。
うーん、何か発見したのかな? もしくはベル達が手作りの何かをプレゼントしてくれるとか?
プレゼントなら涙腺が緩む気がする。小さい子に花冠なんかをプレゼントされるのって、ほのぼので憧れのシチュエーションだよね。ちょっとドキドキしてきた。
***
裕太がソワソワしだしたわ。この顔は……何かは分からないけど、確実に見当違いの期待をしているわね。
トゥルはともかくとして、天真爛漫なベル達も一緒なのに、どんな期待をしているのかしら? あとで詳しく聞いてみましょう。面白い反応が期待できるわ。
とはいえ、トゥルも面白い物を発見したわね。土の精霊だとしても、下級精霊なら気にも留めない物なんだけど、裕太と一緒に冒険しているから影響されたのかしら?
「とぅるー。どうしたのー」
「キュー?」
「クゥ?」
「てきか?」
「……?」
あら、ベル達もトゥルに集まってきたわ。あの子達はどんな反応をするのかしら? 興味深いわ。
「ここ、ふしぎ。しらべたほうがいいとおもう」
「ふしぎー?」
「うん。ふしぎ」
「しらべたら、ゆーたよろこぶー?」
「たぶん、よろこぶ」
「じゃあしらべるー」
「キュキュー」
「ククー」
「もえるぜ!」
「……!」
……分かっていたことだけど、下級精霊ってまだまだ思考が単純ね。でも、裕太が喜ぶかもってだけでやる気になる純粋さは、少しだけ羨ましいわ。
***
「裕太。ベル達が戻ってきたわ」
シルフィと雑談しながら気もそぞろに待機していると、シルフィがベル達の帰還を教えてくれた。
シルフィが見ている方向を見ると、豆粒みたいな影がこちらに向かってくるのが見える。あのスピードだと物は持っていないようだ。プレゼントじゃ無いっぽいな。
「ゆーたー!」「キュー!」「ただいま」「クゥー!」「もどったぜ!」「……」
ベル達が猛スピードで飛んできてピタッと俺の目の前で停止する。相変わらず自然の法則を無視した動きだ。
「ゆーた、あのね! あのね、とぅるがすごいのみつけたー。ふしぎー」
テンションマックスのベルが、手足をワチャワチャとさせながら報告してくれる。どうやらトゥルが凄い何かを発見したようだ。
手足を一生懸命に伸び縮みさせているのは、それで凄さを表現しているつもりなんだろうけど、可愛らしさしか伝わってこないな。
「キュキュー」「クックゥクー」「さいきょうだぜ!」「……!」
そんな可愛らしいベルと共に、レイン、タマモ、フレア、ムーンも一生懸命に凄さを教えようとしてくれる。
天真爛漫な幼女精霊と子イルカに子狐、元気いっぱいの幼女精霊とプルプルなスライムの共演とか、男の俺でも一緒に可愛らしく騒いでしまいそうな可愛さだ。まあ、俺が参加すると空気が壊れるから参加はしないけどね。
「トゥル。説明をお願いしてもいいかな?」
しっかりとベル達の可愛らしさを堪能したあとに、控えめに俺に説明をしようとしてくれていたトゥルに声を掛ける。
トゥルは少し引っ込み思案なところがあるから、元気いっぱいのベル達に埋もれてしまうんだよね。
でも、下級の契約精霊達の中で一番頼りになるのはトゥルだから、最後には輝く一面も持っている。
「う、うん」
俺のお願いにおずおずと出てくるトゥル。少しモジモジしながら上目遣いにこちらを見るトゥルは、ショタ好きの人が見たら襲い掛かってしまいそうな危険な魅力を秘めている。
「なるほど、遺跡を発見したのかー」
一生懸命に説明してくれたトゥルの話をまとめると、どうやら大森林で不思議な場所を発見して、調べてみるとそこが遺跡だったってことらしい。大半は地面の下に埋もれているそうだが、それでも少しは建物が地表に出ているようだ。
……とても凄い発見なのは間違いないけど、遺跡かー……どこかの大泥棒の3世さんが言っていたけど、俺のポッケには大きすぎる発見な気がする。
「うれしくない?」
俺のリアクションにトゥルが少し不安そうにしている。
いかん。リアクションの準備はしていたはずなのに、予想を超えるサプライズで思わず素になってしまった。
「いや、凄く嬉しいよ。あまりにも凄くてビックリして言葉が出なかったんだ。みんな、ありがとう」
笑顔全開でお礼を言って、ベル達を撫でくり回す。遺跡とか……下手な行動をしたら面倒ごとを背負いこんでしまいそうだけど、そういうことは後で考えればいい。今は全力でベル達を褒めまくる時間だ。
褒めて、褒めて、褒めて、撫でくり回して、撫でくり回して、撫でくり回して、逆に俺の精神が回復した。ベル達の精神安定させる力は抜群だと思う。
「それでシルフィ。遺跡ってどんな遺跡なの? ローゾフィア王国と関係があったりするのかな?」
褒められまくって上機嫌でお昼を食べているベル達を見守りながら、遺跡についてシルフィに質問する。
シルフィが知っているかも分からないし、先に遺跡を見に行った方が話が早い気もするけど、俺の心臓の為に先に情報が欲しい。準備は大切だもんね。
まあ、さっきは準備していたはずなのに、それ以上のサプライズでリアクションが取れなかったけど……。
「うーん、どうだったかしら? たしか、大森林がまだ森になる前くらいに、遺跡のあたりが栄えていたのは覚えているわ。でも、ローゾフィア王国と関係があるかは分からないわね」
この大森林が森になる前? これだけ大きな森が育つ時間は想像できないけど、かなり昔なのは間違いないな。
「なるほど、古代の遺跡なんだね」
アンコールワットは森に飲み込まれてはいても、形は結構しっかり残っていたみたいだから、もしかしたらそれよりも時間が経った遺跡かもしれない。
「古代?」
シルフィが古代って言葉に首を傾げている。……なるほど、シルフィにとって大森林が育つ時間なんて、古代というほど昔ではないんだな。
ここら辺はデリケートな話題に繋がる気がするから、深く考えないようにしよう。
「えーっと……その栄えていた時の文明ってどんなだったの? 凄いお宝とか発見できそうな文明だったりする?」
失われた技術や素材で作られた伝説の剣とか、かなりそそられるアイテムだよね。使いこなせはしないだろうけど……。
「うーん……昔の方が魔術は発展していたけど、それでも迷宮の魔道具には劣ると思うわ。まあ、迷宮産の魔道具が眠っている可能性もあるから、お宝といえばお宝が発見できるんじゃないかしら?」
「なるほど……」
迷宮……それって迷宮のコアに頼めばなんとかなるってこと? あぁ、迷宮のコアの力次第では、作れない可能性はあるのか。でも、それほど目新しい物が手に入る感じではないな。それに、そんな貴重なお宝が残っていたりするんだろうか? 普通、拠点を移す時に持っていくよな。
「シルフィ。その遺跡ってどうやって滅んだの。天災? 戦争? たんなる移転?」
戦争なら略奪されるし、たんなる移転なら貴重な物は持ち運ばれているだろう。天災が一番お宝が残っていそうだけど、天災が多い国の出身としてはちょっと悲しい。
「さあ? 気がついたら森になっていたし、どうして滅んだのかまでは分からないわ」
「そうなんだ……」
あっけらかんとしたシルフィの様子に、改めて精霊と人間の時間感覚の違いを感じる。でも、そうなると、探索してみないと分からないってことになるな。
まあ、トゥルが発見してくれた遺跡なんだから、探索をしないという結論はあり得ない。
埋まっている遺跡でも、ノモスに頼めばすぐに掘り起こしてくれるだろうし、久しぶりに開拓ツール無双ってのも良いかもしれないな。
「うーん」
問題は探索が終わったあとの遺跡の後始末だ。
地球なら遺跡自体に歴史的な価値が生まれるけど、魔物被害と戦争が盛んなこの世界だと、文化遺産の扱いは微妙な気がするから判断が難しい。
探索が終わったら綺麗サッパリと埋め戻すのが一番無難かもしれない。いずれ、世界が平和になった時に遺跡の価値が生まれるだろう。
あっ、遺跡を埋め戻す時に『この眠らせた遺跡を、後世の人々が有効に活用できることを願う。裕太』的な碑文を残しておけば、発見された時に歴史に名が残りそうで面白いかもしれない。
生きている間に有名になるのはどうでもいいけど、後世に考古学者的な名が残るのは嬉しいよね。
「裕太。何か悩んでいるのなら、遺跡の探索を『シュティールの星』に任せてみたら? 裕太が気になる財宝を譲り受ける条件で遺跡の場所を教えてあげれば、裕太にもヴィクトーにもプラスになるんじゃない? まあ、遺産を全部手に入れたいのなら駄目だけど、裕太は財宝にそこまで興味がないわよね?」
俺が考え込んでいる様子を見て、シルフィがアイデアを出してくれた。ふむ……後世にインチキで名を遺すことを諦めることになりそうだけど、財宝は十分に持っているからそこまで必要って訳じゃない。
それに、ヴィクトーさんの成り上がりをプロデュースするのも面白そうだ。何より、シルフィのアイデアなら、サラが安心するのが大きい。
「シルフィ。それいいかも。とりあえず遺跡に行ってみて、お宝が残っているか確認しようか」
せっかくトゥルが発見してくれたんだし、俺達が最初に探索するのは決定事項だ。ほどほどに楽しんで、遺跡にお宝が残っていたらヴィクトーさんに依頼しよう。面白いことになってきた。
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クリスマスにピッタリなクリスマスカラーの表紙ですので、お手に取って頂けましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
読んでくださってありがとうございます。