四百四十八話 グルメ回?
遅れて申し訳ありません。
『めざせ豪華客船!!』の更新は明日になります。
大森林でイノシシの丸焼き&キノコパーティーを開催。天然のシイタケの炭火焼きが目の前で猛烈なスピードで消費されていく。呑み込むようにシイタケを食べるノモスに文句を言っている場合じゃないな。俺も食べなきゃ。
若干焦りながらも、表面に浮いたシイタケのエキスをこぼさないように慎重にお箸で掴み、顔で迎えに行くようにシイタケに噛り付く。多少下品だが、シイタケエキスをこぼさないためにはしょうがない。
熱い。でも、焼き台から直接取ったんだからそんなことは覚悟の上だ。熱に負けずに肉厚のシイタケに歯を入れると、キノコ独特の歯ごたえとシイタケの風味が口いっぱいに広がる。
……肉厚のシイタケってこんなに美味しいんだ。味、歯ごたえ、香りが全然違う。スープでもないのに口の中に出汁が……なにこれ、とっても美味しい。とっても濃厚。
美食家なら原稿用紙1枚では足りないほど褒めたたえることができそうな味だ。美食家じゃないから美味しいとしか言えないけど。
でも、日本人には馴染みが深いキノコだからか、旨味が体に染み込んでいく気がする。ドラゴンのお肉は強烈な旨味に意識を持っていかれそうになるけど、こちらはお布団に包まれていくような、安心感がある味だ。
グルメ漫画で言うと、ドラゴンのお肉は口から光線が出そうな感じで、シイタケは、なんちゅうもんを食べさせてくれたんだって涙が出そうな感じだ。
「ゆーたー。もうないー」
味の余韻に浸っていると、ベルの声が聞こえた。目を向けると、可愛らしい眉毛をへにゃっとさせてションボリしているベルと、綺麗になくなってしまった炭火焼きのシイタケ。俺はまだ一口しか食べてないのに、不思議だね。
「……じゃあ次はアヒージョを食べようか」
「あひーじょー」
へにゃっとしていた眉毛がピシっと復活し、いそいそとアヒージョの鉄鍋の前に移動するベル。それに釣られてレイン達も移動していく。
ジーナ達もフクちゃん達もアヒージョの鉄鍋の前に移動したので、俺から鍋が見えなくなった。結構大きめの鍋で作ったんだけど、足りない気がする。
「……アヒージョの油はかなり熱くなっているから、落ち着いて食べてね。特にジーナ達は火傷に注意すること。じゃあ、食べていいよ」
「あひーじょー」
ベルがアヒージョーと言いながら、子供用のフォークでキノコをブッ刺した。俺の落ち着いてって言葉は届いていなかったのかな? あと、アヒージョは必殺技の名前じゃないから、別に言わなくてもいいんだよ?
ベルの行動が切っ掛けになったのか、ちびっ子達とジーナも次々に鍋に手を出し始めた。シルフィ達は子供達に譲ってくれたようで、今はお酒の方に集中している。
「師匠。これ、美味いな! 簡単だし、うちの食堂で出してもいいか? あっ、でも植物の油がちょっと高いか。小分けにするにしても鉄の鍋が……」
アヒージョを食べたジーナが笑顔で俺に話しかけて、そのまま思考の海に沈んでいった。
アヒージョって作るのはそこまで手間がかからないけど、後始末なんかも考えると結構面倒な料理だよね。ジーナの実家の食堂には向かないと思う。
おっと、ここで話していたらまた食べ損ねそうだ。思考の海に沈んだジーナを放置して、アヒージョの鍋にフォークを入れる。
おっ、これはシメジだな。特に狙いを付けずにフォークを入れたけど、好きなキノコが取れてちょっと嬉しい。
まあ、今回のアヒージョに入っているキノコは、全部天然のキノコだからどれでも喜んだ気がするけど、そこは気にしないで当たりだと喜ぼう。
フォークに刺さったシメジは、薄茶色の傘とプックリとした胴体を油でテカテカに染め上げ……なんだかこの表現は美味しそうじゃないな。油ギッシュな中年を連想してしまう。余計なこと考えずに素直に食べて味を楽しもう。
余計な想像を頭の中から追い出して、シメジを口の中に入れる。アツアツのシメジを口をハフハフさせながら噛みしめると、ザクっとした歯ごたえと同時に、たっぷりと油を吸い込んだシメジからジュワっと口の中に美味しい油が広がる。
ニンニクを多めに投入した油が、沢山の他のキノコの味を纏って口の中を蹂躙する。天然のキノコを生かすならニンニクも少なめな方が良いかと思ったが、これで正解だったな。
繊細な味は失われたかもしれないが、良い意味でのジャンクさを纏った天然のシメジは、バカみたいに美味しい。エールとキノコのアヒージョで無限に連鎖できる味だ。
さて、次のキノコを……あれ? もうシルフィ達も参加しているの? ……たぶんだけど、今日の俺にジックリとキノコを味わう時間は無いな。夜中にでも1人でじっくりとキノコを楽しんだ方が良さそうだ。
「いよいよ今夜のメイン、イノシシの丸焼きだよ」
シメジの後に、なんとかマイタケをゲットして俺のアヒージョは終わってしまった。残った油にパンを浸して食べるのも抜群に美味しかったけど、もう少しキノコが食べたかった。
……まあ、イノシシの丸焼きは大きいから、俺もタップリ食べられるはずだ。キノコを楽しむのは後でだな。
イノシシの丸焼きと言うパワーワードに、ちびっ子達のテンションが更に上がる。そして、そのちびっ子達の前にイノシシの丸焼きを取り出してドンっと置くと、大歓声が上がる。予想通りの反応だ。
あれ? えーっと、どうやって食べよう? 適当で良いのかな?
「ジーナ。これ、どうやって食べたらいいと思う?」
丸かじりも楽しそうだけど、文明人としてもジーナ達の師匠としても、ベル達の契約者としても却下だ。
「部位ごとに切り分けながら食べればいいと思う。なんならあたしがやろうか?」
「あっ、じゃあお願いね」
ジーナが居てくれて助かった。イノシシの部位とか、ロースとバラくらいしか分からないよ。
「分かった。じゃあ師匠は食器の準備と、みんなを並ばせてくれ。切りながら渡していくよ」
「了解です」
あっ、なんだか頼りがいがありすぎて敬語になってしまった。ちょっと恥ずかしい。
「みんな、ここに並んで。順番は……じゃあベル達、サラ達、フクちゃん達でお願い」
ここに並んでって言った時点で、ワクワク顔で俺の目の前にベル達が並んでいた。とても素早い。
フクちゃん達はサラ達と歩調を合わせるようにのんびりした感じだから、性格にだいぶ違いがあるよな。まあ、どちらでも可愛らしいから問題ないか。
ジーナが戸惑いもせずにイノシシの丸焼きに包丁を入れる。この思いっきりの良さは見習いたいところだ。
「んー。ちょっと硬めの肉だし、あんまり分厚く切っても食べ辛そうだ。師匠、削ぐ感じで切り分けていい?」
包丁を入れて肉の硬さを確認したのか。削ぐのをどうやるのかは分からないけど、ジーナにお任せしよう。
「あぁ、俺にはよく分からないから、ジーナが良いと思う方法でやっちゃって」
「分かった」
頷いたジーナが皮と平行になるように包丁を動かす。お肉の厚さは1センチ程度かな。薄く皮だけ削ぐ感じなら北京ダックみたいな切り方だな。
やり方を決めたのかスッスッと手早く包丁を入れてお肉を切り分けるジーナ。お皿にお肉がドンドンたまっていくので、並んでいるベル達に先に食べていいと言いながら次々とお皿を渡していく。なんだか炊き出しをやっている気分だな。
お皿を受け取ったベル達がふわふわと浮きながらお肉を食べて、美味しいと騒いでいる。キノコでも良いリアクションだったけど、イノシシの丸焼きも負けていない反応だ。
いや、だいたいの子供はキノコよりもお肉の方が好きだし、そのお肉に負けていない反応を引き出したキノコが凄いのかもしれないな。
「あっ……ウリ……そういえばウリはイノシシのお肉は大丈夫なの?」
あとでシルフィ達に聞いておこうと思っていたのにすっかり忘れていた。
ウリが俺に質問に可愛らしく首を傾げている。子供特有の澄んだ瞳が、お肉くれないの? と言っているようで、すさまじい罪悪感がわきあがる。
「裕太さん。姿は同じでも精霊とイノシシは別な存在です。嫌がる精霊もいますが、ウリちゃんは気にしていないようなので、お肉をあげても問題ありませんよ」
困っているところにドリーが救いの手を差し伸べてくれた。気にしていないのなら問題が無いって、なんだか緩いけど精霊らしい気もするな。
ウリの問題も解決したし、全員にイノシシのお肉を配ったので俺もお肉に手を付ける。まずは、こんがりと焼けた表面の部分だな。
……美味しい。皮は余分な脂が抜けたのかパリッとしていて、それが食べ応えのあるお肉と合わさり、野性味を兼ね備えて旨味と混然一体になっている……気がする。まあ、とにかく美味しい。
味的にはドラゴンに軍配が上がるけど、雰囲気と丸焼きという豪快さで味を補っているようだ。
「おかわりー」
ガツガツとイノシシのお肉を堪能していると、ベル達からお代わりが入った。イノシシのお肉はまだまだ沢山あるから、ドンドンお代わりをするといい。俺もお代わりしよう。
***
「くっくっくっ」
草木も眠る深夜の大森林に、怪しい笑い声が響く。その正体は俺だ。
「裕太。寝ないの?」
俺の笑い声に気がついたシルフィが話しかけてきた。それに、ノモスとドリーもこちらを見ている。そうだった。まだ大精霊達が残っていたな。
「うん。寝ないよ。シルフィ達には悪いけど、お酒を出しておくからシルフィ達だけで楽しんでいて」
エールとワインの樽を取り出して大精霊達の前に置く。俗に言う賄賂と言う奴だ。
「お酒を追加してくれるのは嬉しいけど、何をするつもりなの? 顔に悪だくみをしていますって書いてあるわよ?」
……ちょっとテンションが上がって、表情に気持ちが出てしまっているようだ。別に隠すほどのことでもないから、何をするのかをシルフィ達に説明する。
「裕太の気持ちは尊重するけど、それって普通にするのじゃ駄目なの?」
シルフィが哀れみのこもった視線で俺を見ている。
「雰囲気作りは重要なんだ」
シルフィの言いたいことは理解できるが、ここは譲れないのでキッパリと断言しておく。
「……ふぅ、裕太は時々変な拘りを持つわよね。まあ、邪魔はしないから楽しんだらいいと思うわ」
よし。言質はとったからこれでシルフィ達からの邪魔も入らないな。
「ありがとう。じゃあ簡易拠点の裏に居るから、見張りだけはお願いね」
見張りをお願いして簡易拠点の裏に移動する。背後で裕太は子供なのかって言っているノモスの声が聞こえたけど、俺は気にしない。
ベル達、ジーナ達、フクちゃん達は簡易拠点に寝かせたし、シルフィ達には賄賂を渡した。
ふふ。ここからは大人の時間、深夜の1人キノコパーティーの開催だ。
ノモスが突然現れたとの質問がいくつかありました。一応、四百四十四話でジーナ達の護衛として同行してもらっています。
そこからずっと一緒に居た感じなのですが、ほぼ登場していないので忘れられているか、気づかれていなかったといった状況だと思います。
描写が薄くて申し訳ないです。
読んでくださってありがとうございます。




