四百四十五話 先生?
ちょっと精霊に対する姿勢をシルフィに注意されてしまったが、俺にとって大切な注意だったので肝に銘じておきたい。まあ、それはそれとして、キノコ狩りは問題ないそうなので、気合を入れてキノコを採取しよう。
「よし。じゃあキノコを探そうか。ドリー。キノコって木陰とか倒木に生えているイメージなんだけど、間違ってないよね?」
おそらく間違っていないはずなんだけど、精霊樹とか万能草みたいにファンタジー植物が存在する世界なので、油断はできない。
「そうですね。魔物に分類されるキノコ以外は裕太さんの言う通りですね」
魔物のキノコか……なんか毒の胞子とか飛ばしてきそうだけど、シルフィが居るから気にしなくて良さそうだな。気になるのは味だな。昨日の屋台では魔物のキノコは食べてないよね?
「キノコの魔物は美味しいの?」
魔物って意外と美味しいから、かなり期待してしまう。天然物のキノコの味を超えてくるのなら、是非とも食べてみたい。あっ、これが本当のキノコ狩りって奴だな。間違いなくスベるから口には出さないでおこう。
「キノコの魔物は毒で身を守ったり攻撃をしたりするので、ほぼ食べられないと考えていいですね。特殊な環境に生息するキノコは別ですが、この森には生息していません」
なるほど、たしかにキノコで魔物なら毒が無い方が不思議だな。むしろ、武器とか魔法を使うキノコの方が意味が分からない気がする。
食べられないのは少し残念だけど、天然のキノコでも十分過ぎるくらいに美味しいんだから、今回は普通のキノコ狩りに集中だな。前に森で動物を捕まえた時は苦戦したけど、キノコは大丈夫だと信じて挑戦しよう。
「……食べられるキノコが見つからない」
倒木や木の陰になっているジメジメした場所も探した。いくつかのキノコを発見はしたが全て毒キノコだ。
俺には動物捕獲の才能も無ければキノコ狩りの才能も無いのか? 漫画やアニメのキャラのように、毒キノコしか発見できない呪いでも掛かっているのか?
あるのは開拓ツールと精霊に対する高い親和性だけなんて……うん、この2つがあればだいたいなんとでもなるから贅沢は言わないでおこう。
俺は精霊術師なんだから、精霊に協力を頼むのは当然だよね。何も恥ずかしいことはない。
「ドリー先生。食べられるキノコが見つからないのですが、どうすればいいですか?」
「なんで敬語なんですか? あと、私は先生ではありませんよ?」
キョトンとした表情で返事をするドリー。ディーネなら胸を張って調子に乗るところなんだけど、ドリーは真面目だよね。
……ディーネの方が操縦しやすくて簡単だなんて思ったらいけないんだろうな。シルフィに注意されたばかりだし、ディーネに対しても敬意を払うように意識しよう。ディーネ相手だと、速攻で敬意を忘れそうなのが難問だ。
「いえ、教えを乞うのですから、敬語は当然です」
「敬語も先生も必要ありませんよ。裕太さんが食べられるキノコを発見できないのは、この辺りに食べられるキノコが無いからです。場所を変えた方が良いですね」
衝撃の事実なんですけど?
「早く言ってほしかったんですけど?」
「ふふ。自分で考えることも大切ですよ。では、裕太さん。どうしてこの辺りには食べられるキノコが生えていないと思いますか?」
ドリーが可愛らしく微笑みながら問題をだしてきた。もしかして、先生って言われて喜んでいたりするのかな? ちょっと試してみるか。
「はい。ドリー先生。分かりません」
「簡単にあきらめてはいけませんよ。もう少し真剣に考えてみましょう。ヒントは、王都からの距離です」
あっ、やっぱり先生って言われてその気になっているみたいだ。ドリーの意外な一面を見た気がする。でも、すぐにヒントを出してしまうところが、先生に向いていないな。とはいえ、せっかくドリー先生にヒントをもらったんだから、ここは正解しておきたい。
ヒントは王都からの距離だったな。ここは王都から出て、10分ほど奥に進んだ森の中だよな。……ヤバい。凡ミスをしていた気がする。いや、確実に凡ミスをしていたな。
「先生。もしかして、この辺りの食べられるキノコって、王都の人達に採りつくされていたりしますか?」
「正解です。沢山の王都の住人を支えるためには沢山の食糧が必要です。豊かな森とはいえ、近場の食べられる食糧は採りつくされていると考えてもいいでしょう」
やったー正解だーって言いたいところだけど、凡ミス過ぎて恥ずかしい。でも、なんかイメージプレイをしているようで、少しだけ楽しいな。
「ドリー先生、理解できました。ありがとうございます。えーっとシルフィ。人の手が入っていない場所まで連れていってくれる?」
「あら? 私には普通なのね。……まあいいわ。裕太なら最初は自分の力だけで探したいって言うと思ったんだけど、いいの?」
シルフィを先生扱いするのは、なんとなく危険な気がするから駄目だよね。あと、速攻でシルフィに連れて行ってもらう選択をしたのを、シルフィが不思議に思っているようだ。
まあ、たしかにくだらない意地で、最初は自分の力だけでやろうとするポリシーはある。でも……。
「今回は連れて行ってもらえると助かるな」
今回はジーナ達と別行動だから、沢山キノコを採って自慢したい。さすが師匠って言われたいんです。
「まあ、裕太がそう言うのなら構わないわ。あっ、今レインがイノシシを捕まえたわ。他の子達も目星はついているみたいだから、移動はイノシシを運んだあとの方が良いんじゃない?」
そういえばイノシシを焼いてもらわないと駄目だったな。早くキノコを探しに行きたいけど、途中で中断するのもテンションが下がる。ここで待つか。
しかしレインが1番なのか。こういうイベントはベルが1番になることが多いから、ちょっと意外だな。
「キュー」
おっ、シルフィの風で運ばれているイノシシの隣で、レインが元気にヒレをパタパタさせている。可愛いけど精霊が見えない人が目撃したら、死んだイノシシが飛んでいるホラーな光景だな。まあ、シルフィがそんなミスをする訳がないから大丈夫だな。
「キュキュー」
「おっとレイン、お疲れ様。いいイノシシを捕まえたね」
胸に飛び込んできたレインを受け止め、褒めまくりの撫でまくりで甘やかす。得意げなレインが珍しくて可愛い。
「ゆーたー。おいしそうなのみつけたー」
2番手はベルか。俺にはよく分からないが、ベルは美味しそうなイノシシを探してきたらしい。見ただけで美味しそうかどうか分かるなら凄いな。
おっ、タマモとトゥルが一緒に戻ってきたな。なんとなくだけど、トゥルがタマモを見守っていた気がする。
「……あれ? フレアが戻ってこないね。シルフィ、大丈夫なの?」
ベル達を褒めまくりの撫でまくりで戯れてもフレアが戻ってこない。みんな目星がついているってシルフィが言っていたから、フレアもあとは捕まえるだけなんだよね?
「フレアは大丈夫よ。でも、ぷふ……」
シルフィが我慢できずに笑いを漏らした。フレアが何か面白いことをしているのか?
「えーっとシルフィ。フレアは何をしているの?」
「ふふ、んー、内緒にしてあげた方が良いのかしら? でも、どちらを選んだとしてもフレアが一生懸命悩んだことは裕太も知っておいた方がいいわよね」
シルフィが1人で悩んで1人で結論を出した。どうやらフレアが何をしているか教えてくれないらしい。まあ、シルフィの言葉でだいたい何が起こっているのかを想像できるな。
「フレアはね、大きなイノシシとちょうどいい大きさのイノシシを発見して、どちらを捕まえるかで悩んでいるわ」
予想通りだな。フレアもちゃんとちょうどいい大きさのイノシシを捕まえるべきだと理解はしているんだろう。
でも、派手好きの性格から、大きなイノシシを捕まえてビックリさせたいってジレンマに囚われているんだろう。まだまだちびっ子なのに、難儀な性格だ。
「分かった。フレアがどちらを選んでも怒らないよ。でも、大きいイノシシを選択したら、注意はした方がいいよね?」
契約者として甘やかすだけでは駄目なはずだ。
「そうね。ちゃんと言うべきことは言った方が良いわね。あら、フレアがイノシシを捕まえたわね。今から運ぶわね」
どうやらフレアがどちらを選択したのかは教えてくれないようだ。褒めるのは簡単だから、大きな方を選択した場合の注意を考えておこう。信じて見守るって決めてはいたけど、準備は大切だよね。
「あー、シルフィ。この場合はどうしたらいいのかな? 褒めるべき? 注意するべき?」
「さあ? 私には判断できないわ。裕太が決めなさい」
そっか。俺が決めるのか。ちょうどいい大きさのイノシシと、ジ〇リの世界に登場するような大きさのイノシシの上で、とてつもないドヤ顔をかましているフレア。悩んで結果、両方を選択したんだな。
……1匹だけしか捕ったら駄目だとも、大きなイノシシを捕ったらいけないとも言ってないから、これは注意できない。なんだかちょっと負けた気がするけど、まあ、大きなイノシシはルビーに料理してもらえばいいか。今回はフレアの勝ちだ。
「つかまえたぜ!」
「うん。凄いね。2匹捕まえてくるのは予想外だったよ!」
予想外って言葉に気をよくしたのか、胸を張るフレアを褒めまくる。
「あっ、シルフィ。ちょうどいい大きさのイノシシを1匹捕まえてくれる?」
「5匹じゃ足りないの?」
「うん。ベル達も自分で捕まえたイノシシは自分達で食べたいよね。悪いけどシルフィに捕まえてもらったイノシシを『シュティールの星』に差し入れさせてもらうよ」
あの体育会系の人達は二日酔いから復活してしまったけど、俺達だけでイノシシの丸焼きを食べるのは気まずいし、差し入れは必要だろう。
まあ、宴会に巻き込まれるのは嫌だから、俺はヴィクトーさん達とは絶対に別行動にするけどね。
「そういうことね。分かったわ」
あっさり納得してくれた。
「これでいいわよね?」
そしてあっという間にちょうどいい大きさのイノシシが運ばれてきた。さすが風の大精霊だな。手際が半端ない。
ベル達の頑張りを考えるとどうかとも思うが、ベル達は気にせずにシルフィに群がって褒めたたえているから問題ないんだろう。さて、準備も整ったし業者に持っていくか。今夜は丸焼きだ!
あっ、キノコも焼いちゃおう。炭火で焼いて……やっぱり塩かな?
コミックブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の18話が公開されています。
11/19日まで無料公開されていますので、お楽しみいただけましたら幸いです。
それとコミックス3巻が12/24日に発売されますので、よろしくお願いいたします。
読んでくださってありがとうございます。




