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四百四十四話 忠告

 二日酔いをムーンに癒してもらい、昼過ぎから冒険をするのも何なので王都観光にくりだすことにした。市場で店を見て回り、フレアの案内でイノシシを丸焼きにしている場所にたどり着いた。丸焼きに興奮するちびっ子達の為に、俺はバブル期の日本人を参考にお金ですべてを解決することにした。


「いや、いきなりそんなことを言われてもな……」


 あれ? 元値の倍払うって言ったのに、汗だくのおじさんが困った顔をしている。倍では駄目なのか? 弱みに付け込まれて高値を吹っ掛けられている? 倍で無理なら3倍ってこと? いくら現在バブリーな俺でも元々は小市民だから、3倍はちょっと躊躇うよ?


「えーっと、では、いくらなら追加で焼いてもらえますか?」


 2・5倍までなら出そう。


「いや、値段の問題じゃねえんだよ。うちの丸焼きは拘りの丸焼きだから、傷が小さくて状態が良いイノシシしか使わねえ。いきなり追加で3匹とか言われても対応できねえよ。それにイノシシが上手く手に入ったとしても、今から焼くとなると完成は夜になるぞ。待てるのか?」


 ……なるほど、値段の問題ではなかったようだ。物がないなら追加できないよな。金にいとめはつけんとか言って、今焼かれている丸焼きを……さすがに無理だ。俺にはそこまでバブリーなふるまいはできない。


 シルフィにお願いすればイノシシを手に入れるのは簡単だろうけど、完成が夜になるのも辛いし、今日はあきらめた方がよさそうだな。とはいえ、ちびっ子達のことを考えると、素直に無理でしたって訳にはいかない。


「では、明日、お願いできますか?」


 予約して明日確実に手に入ることを説明して、今日はちびっ子達に我慢してもらおう。


「うーん、常連の予約もあるから、絶対とは言えねえな。良い状態のイノシシが多めに手に入ったらでいいか?」


 明日でも確約できないの? ……イノシシの丸焼きって、手に入れるのが大変なんだな。まあ、狩りの結果次第だから絶対と約束できないのも理解できるが、手に入るか手に入らないか分からないと、ちびっ子達の説得がし辛いぞ。


「明日の朝、状態が良いイノシシを持ってくれば大丈夫ですか?」


 もう、面倒だから明日の朝、ベル達と森に狩りに行こう。自分で狩った獲物ならベル達も満足してくれるはずだ。


「ん? ああ、物があるなら焼くだけなら問題ないぞ。まあ、小さ過ぎたり大き過ぎたりしたら対応できないこともあるがな」


 大きさも関係があるのか。まあ、たしかに巨大イノシシとか、丸焼きにするのも大変そうだよな。ベル達の性格を考えると、これはかなり大切な情報だ。


 この情報を知らなかったら、ベル達が張り切って捕まえてきた巨大イノシシをドヤ顔で披露して、焼くのを断わられる未来が確定だったな。危なかった。他にも必要な情報がないか、ちゃんと聞いておくべきだな。


 ***


「傷はできるだけ小さくして、ちょうどいい大きさのイノシシをしとめること。しとめたらシルフィが運んでくれるから、一緒に戻ってくるようにね。じゃあ行っておいで」


「きゃふー」「キュー」「さがす」「クー」「でっかいのだぜ。でっかいの!」


 ベル達が早朝の森の中を張り切って飛んでいく。昨日はイノシシの丸焼きが手に入らなくて少し残念そうだったが、イノシシを自分達で狩って丸焼きにしてもらうことを説明したら簡単にご機嫌になってくれた。


 ベル達のおすすめの屋台も美味しかったし、イノシシが今日の目的にもなったから昨日丸焼きが手に入らなかったのが良い方向に作用したように思える。


 フレアは丸焼きができる許容範囲内で、最大のイノシシを狙うようだ。……そうだよね? あんまり大きいのを捕まえても丸焼きにできないって理解しているよね? さっき一生懸命説明したから大丈夫だよね?


 ……なんか不安になってきた。狩猟に闘争本能が刺激されたのか、テンションが高かったもんなー。


 まあ、たぶんベル達でイノシシを5匹は捕まえられるから、フレアが大きすぎるイノシシを捕まえてきても丸焼きの数は十分に足りる。失敗してもリカバリーできるし、今回は信じて見守っておくか。


「師匠! あたし達も別行動で依頼を消化すればいいんだよな?」


 若干の不安を抱えながらベル達が消えていった森の奥を見つめていると、ジーナが声を弾ませながら話しかけてきた。ジーナだけでなく、サラもマルコもキッカもなんだかワクワクした顔をしている。


 森に入る前に冒険者ギルドで依頼を受けてきたんだけど、最初だから簡単な依頼を選んだ。それほどワクワクする内容でもないし、単純に初めての場所にワクワクしているのか。


 ベル達と違ってジーナ達は怪我をするんだから、ノモスに護衛を頼んであるとしても、少し気を引き締めるように注意したほうが良さそうだ。


「うん。でも、初めての場所なんだから慎重に行動するようにね。油断をして怪我なんかしたら、今夜の丸焼きは……」


 おお、最後まで言わなくてもジーナ達の顔が引き締まった。結構贅沢な料理を食べさせているはずなんだけど、それでも丸焼きは魅力的なんだな。


 浮ついた気持ちも抜けたようなので、安心してジーナ達を森に送り出す。ノモスが少し面倒そうにしていたけど、まあ、結局はツンデレなだけだから子供達をしっかり守ってくれるだろう。


「さて、じゃあ俺達も探索しようか。ドリー、キノコを見分けるのはお願いね」


「ふふ、分かりました」


 俺がお願いをすると、ドリーが嬉しそうに頷いてくれた。豊かな自然が嬉しいのか、ドリーも楽しそうだな。ん? なんだかシルフィがジト目で俺を見ている。


「シルフィ。なんでそんな目で俺を見るの?」


 何か機嫌を損ねるようなことをしただろうか?


「私がこんな目をしている理由が、裕太には分からない?」


 分からないから聞いているんだけど、そのことを素直に言うと更にご機嫌を損ねるパターンだな。俺は藪をつついて蛇を出すようなことはしないぞ。


「う、うん。ちょっと分からないかな。気に障ることをしてしまったのなら謝るから、理由を教えてくれない?」


「はぁ……別に謝る必要はないわよ。ただ、キノコの選別に森の大精霊を召喚する裕太にあきれていただけなの」


 シルフィがため息をついたあとに、ジト目の理由を教えてくれた。


 ふむ……言われてみればごもっともではあるな。昨日屋台で食べたキノコのスープと串焼きがあまりにも美味しかったから、万全を期してキノコ狩りに挑むつもりだけど、冷静に考えると明らかに過剰戦力だ。


 風の大精霊のシルフィと森の大精霊のドリー。ついでに、狩りには興味が無いから残った命の下級精霊のムーンを加えると、この大陸くらい楽勝で支配できそうな戦力だ。そのメンバーでキノコ狩りって、うん、シルフィもあきれるよね。


「えーっと、ほら、タマモも狩りに参加したそうだったし、ここは大森林だからドリーも喜ぶと思ったんだ。決してキノコ狩りだけが目的だったわけじゃないよ? ……ごめんなさい。キノコがあまりにも美味しかったので浮かれていました」


 苦しい言い訳をしようとしたけど、最後にはいたたまれなくなって素直に謝ってしまった。


「まあ、裕太らしいと言えば裕太らしいけど、ちゃんと私達が力ある存在だってことを忘れないようにしておきなさい。このままだと契約していない精霊や精霊王様にでさえ、うっかり変なことをしてしまいそうで怖いわ」


 ……ルビー達とは友達気分だったし、ライト様のモフモフやダーク様の色気には屈服してしまいそうな自分がいるから、まったく否定できないな。


 最近、精霊達に対する敬意が薄れていたような気もするし、シルフィ達が命の恩人であることと、精霊は怒らせたら怖い相手だってことを心に刻みなおしておこう。


「シルフィ。忠告ありがとう。ドリー、変なことで召喚してすみませんでした」


「どういたしまして。その素直なところは裕太の美徳よ」


「ふふ、私は大森林に召喚されて嬉しいので、気にしないでくださいね」


 コロッと態度が上機嫌になった。ドリーも怒っていないようだし、今回は浮かれていた俺に対する簡単な注意ってことかな?


 ちょっと調子に乗りそうな時に、こうやって注意してもらえるのは本当にありがたい。いきなり精霊に契約破棄される精霊術師もいるんだから、俺は恵まれているな。


「さて、じゃあキノコを探しに行きましょうか」


「えっ? キノコ狩りは続けていいの?」


 さすがにキノコ狩りは中止のつもりだったんだけど?


「忠告したのは裕太が私達が力ある存在だって忘れていそうだったからよ。私達の力を理解したうえでなら、キノコ狩りでも子守でも構わないわ。それに、昨日の裕太の顔は危険だったけど、うっとりしていたから私も興味があるのよね。美味しいキノコでお酒を飲みたいわ」


 美味しいキノコとお酒で勘弁してくれるってことらしい。こうやってお酒で済ませてくれる優しさに感謝だな。


「キノコとお酒は今晩奮発するよ。でも、顔が危険ってどういうこと? 聞き捨てならないんだけど?」 


 忠告には感謝しているけど、俺の顔が危険物扱いされるのは話が別だ。


「別に普段の裕太の顔が危険なわけじゃないわよ。昨日、キノコを食べた時の裕太の顔が危険だっただけね」


 あぁ、あの時か。あの時はしょうがないな。なんか脳内で変なポエムが流れて……。


『キノコ……それは旨味の塊。あぁキノコ……鼻孔を貫く芳醇なる香り。あぁあぁキノコ……脳にまで響き渡る魅惑の歯ごたえ。あぁキノコ。ああキノコ……』


 うん、こんなこと考えていたら危険な顔になるのはしょうがない。でも、キノコの味が俺の魂を直撃したんだから許してほしい。


 エノキ、シメジ、マイタケ、エリンギ等の様々なキノコの串焼きは、シンプルながら旨味がたっぷり。そこに具沢山のキノコスープ。しかも味の根幹には極上の干しシイタケの出汁だよ。


 ただでさえ日本人にとってシイタケの出汁は郷愁を誘う味なのに、人工のシイタケ以上に濃厚で旨味の詰まった天然物のシイタケの味……幸せで顔面も崩壊するさ。


 キノコ狩り、頑張ろう。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
キノコって森の精霊の管轄なの? 菌だし命の精霊の方じゃないの? 発酵させるのとかヴィータがやったし
謎キノコポエムに既視感を感じたけど分かった ワンピのカタクリのドーナツポエムと同レベルなんだ
[気になる点] 大精霊の力の使い方についてのシルフィの意見がブレ過ぎていて、前と言っていること違うよね?って思いました
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