表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
442/755

四百四十話 俺が知っているサラじゃない

 サラを連れてきた報酬等を受け取り、サラの今後について話し合いを始めると、俺とヴィクトーさんの間だけではなく、俺とサラの間にも大きな認識の違いがあったことが分かった。コミュニケーションって大切だよね。


 改めてコミュニケーションが大切なことを認識したが、サラについては何も解決していない。模擬戦でもすればサラ達の実力もすぐに理解してくれるんだろうけど、サラも言ったように秘密が沢山ある。


 何より、サラ達の実力を考えると、模擬戦でヴィクトーさん達のプライドがボロボロになる可能性があるのが厄介だ。


 里帰りで実家のクランにトラウマを植え付けでもしたら、何しに帰ってきたってことになるよな。


 でも、俺がサラを立派に育てた? ことも自慢したい気持ちもあるから難しい。どうすればサラ達の実力を示しつつ、でも、ヴィクトーさん達のプライドを傷つけずに、しかも、サラを俺の弟子のままでいさせることができるだろう?




「決めました!」


 考え込んでいた俺がいきなり立ち上がって声を出したので、ヴィクトーさん達がキョトンとした顔をしている。サラは俺の行動に慣れているのか、少し苦笑いしているだけだ。


「サラ。俺達は1ヶ月程この国に滞在することにした。その間に、俺は手を出さないから、ジーナ達とこの国で冒険者として依頼を受けて、ヴィクトーさん達に実力を示すんだ。今までサラは沢山頑張ってきたんだから、その努力をお兄さんに見せてあげるといい」


 サラの実力を示すために俺は一緒に行かないけど、ドリーやディーネに護衛をお願いするから、たとえ周辺の魔物が全部集まってきたとしても大丈夫だ。


「努力をですか?」


 サラが不思議そうな顔をしている。何か変なこと言ったか?


「えーっと、うん、そうなんだ。サラの頑張りをヴィクトーさん達に知ってもらえば、安心してもらえるよね。そして、この1ヶ月の間にサラがこれからどうするのかを決めてくれ。ここに残るのか、俺についてきてくれるのか、それとも期間を決めて行き来するか、色々と方法はあるからよく考えてね」


 色々と考えたけど、考えれば考えるほど深みにハマったので、なんとなく上手くいきそうな方法で妥協した。でも、妥協したにしては、結構悪くない方法な気がする。


 ヴィクトーさん達のプライドは、サラ達が大活躍したらちょっと危ないかもしれないけど、直接模擬戦をして負けるよりもマシだし、サラの実力も1ヶ月あれば問題なく示せるだろう。


 一番重要な、サラが今後どうするのかは、サラは元々短期間の里帰りのつもりだったみたいだから、一緒に来てくれる可能性が高いと判断した。


 それでも心配になっちゃったから、話している途中で意見を加えちゃったけど、たぶん問題はないはずだ。


 まあ、俺は1ヶ月も楽園や迷宮都市に行かない訳にもいかないから、シルフィに頼んで飛び回らないといけないけど……うん? ジーナ達と別行動なら、久しぶりに1人で遊ぶのもいいかもしれない。ちょっと元気が出てきたな。


 ***


 お兄様と話していたお師匠様が、難しい顔をして考え込んでしまった。たぶん、私をここに残すか、お師匠様の弟子を続けるかで、私とお師匠様の間で意思の疎通が上手くいってなかったからだと思う。


 ローゾフィア王国に来ることが決まってから、お師匠様がチラチラと私を見ることが多くて、私から尋ねるべきかと悩んでいたけど、このことだったのね。


 私はスラムで弟子にしてもらってから、ずっとお師匠様に恩返しをするつもりだ。でも、お師匠様は私がここに残ることも考えて、そのうえで弟子を続けてほしいと言ってくれた。


 お兄様達のことももちろん気にはなるけど、弟子を続けてほしいと言われた時に、なんだか私の心がとても温かくなった。


 お師匠様は優しくてなんでもできる凄い人だから、私達はお師匠様に保護されるだけの足手まといな存在だと思っていた。でもそうではなくて、私達がお師匠様から本当に必要とされているのなら、それはとても嬉しいことだ。


 ふふ。あとでジーナお姉さんやマルコとキッカに、お師匠様がどう思っているのかを報告しよう。みんな大喜びするはずだ。


「決めました!」


 幸せな気持ちに包まれていると、お師匠様がいきなり立ち上がって話し始めた。考えがまとまったようだ。


 ……お師匠様の話では、私達は1ヶ月程この国で冒険者の仕事をするようだ。お兄様に私の努力を見せるようにと言われたけど、お師匠様の弟子になって頑張っていたのはたしかだけど、努力と言える程のことをしたかしら?


 美味しい物を食べさせてもらって、フクちゃんやプルちゃんと契約させてもらって、レベルを上げてもらって、便利な道具を与えてもらって、迷宮で戦う。


 ……手は抜いたことはないけど、努力と言われると首を傾けざるをえない。間違いなく私よりも努力している人は沢山いるはずだ。


 でも、お師匠様は私が努力したと思っていて、その努力をお兄様に見せる機会を与えたいと思ったのであれば、私はその思いに全力で応えなければいけない。


 弟子としてお師匠様に恥を掻かせる訳にはいかないから少し不安だけど、ジーナお姉さん達やフクちゃん達が一緒なら大丈夫なはずよね。


「分かりました。お師匠様の期待を裏切らないように頑張ります」


「うん。サラ達ならなんの心配もないから、お兄さん達を驚かせてあげるといい」


 私の言葉に、お師匠様が悪戯っぽく笑いながら言う。お兄様達を驚かせる程の活躍……本当に頑張らないといけないわね。


「ゆ、裕太殿。サラお嬢様達だけで依頼を受けさせるおつもりなのですか? ローゾフィア王国の周辺は魔物も強く、お嬢様達だけですと危険ですぞ!」


 爺が慌てて話に入ってきた。女子供だけの私達が危険な冒険に出るのが心配なんだろう。


 過保護なところがあるお師匠様なら、大精霊のどなたかを護衛に付けてくれるはずなので、心配はないのだけれど、そのことは爺には分からないから不安なのも当然よね。


「ベッカーさんからすれば、サラ達はまだまだ頼りなく見えるかもしれません。ですが、迷宮都市でも立派に冒険者として活動してきました。無謀な行動をするほど未熟ではないので、安心してください」


「しかし……」


 お師匠様の言葉は嬉しいけど、女子供だけであることは変わりないので爺の不安は晴れない。


 お師匠様なら望めば大陸を支配できそうな凄い人だと思うのだけど、他の人を無条件で信頼させるようなカリスマは欠けているのよね。


「俺はこれでもAランクの冒険者ですよ。安心してください」


 納得できていない爺の表情にお師匠様が更に言葉を重ねるが、爺の戸惑いは大きくなるだけだ。お師匠様がAランクの冒険者であることは爺も確認しているんだけど、実際に力を見た訳じゃないから信じることに不安があるのね。


 爺やお兄様がお師匠様の実力を知ったら、シュティール家の再興のために協力をお願いするレベルなんだけど……。


 私も何度もお師匠様にお願いをして、シュティール家を救ってもらおうと思った。でも、楽園で精霊と実際に会うと、色々な理由でお願いすることを躊躇った。


 フクちゃん達に人と戦ってほしくないって理由が1番だけど、助けてもらった上に戦争を引き起こすようなお願いをするのも恩知らずだし、何より、人を簡単に滅ぼせそうな力に、むやみに頼みごとをするのは駄目だと思う。


 それに、お師匠様は大陸を支配するよりも、死の大地に楽園を作ったように、開拓をしてのんびりと過ごす方が似合っているもの。


「サラお嬢様。いくら恩人である裕太殿の言葉であっても、無理なことは無理と言わねばなりませんぞ」


 自信満々なお師匠様に何も言えなくなったのか、焦った様子で私に訴えかけてくる爺。爺の中では、私は今も運動が苦手なお嬢様なのね。


 あと、お師匠様が信じてもらえなくて、少し悲しそうにしているから、もう少し気を遣って。私達はもう貴族じゃないし、冒険者としてはお師匠様の方が格上なのよ。


「……爺。心配はいらないわ。これでも冒険者として何度も迷宮に潜っているんだから、危険なことを判断できないほど未熟ではないわ」


「ふむ。サラも自分の実力に自信があるのだな。だが、慣れない環境では危険も大きい。最初は護衛を派遣しよう。それなら副団長も安心できるであろう?」


 見かねたお兄様が妥協案を提示してくれたのだけど、素直に受け入れる訳にはいかないわね。お師匠様が言うほど簡単にまねができるとは思えないけど、それでも簡単に広めていいほど、お師匠様に習ったことは安全じゃないもの。


 ***


 俺が知っているサラじゃない……。


 自信満々にサラの実力にお墨付きを与えたはずなんだけど、なぜかそこから会話の主導権がサラに移ってしまった。


 護衛を勧めるヴィクトーさんと、サラを冒険に出さないように抵抗するベッカーさん。その2人の案を却下して、自分達だけで大丈夫だと交渉するサラ。


 護衛を拒否するのは、一緒に行動して精霊術の秘密がバレないようにって考えだな。サラとしては家族に秘密を作るのは心苦しいだろうに、真剣に約束を守ろうとしてくれている。


 ここで全部話しちゃってもいいよと言えたら楽なんだけど、秘密にするのはそれなりに理由があるから、そう簡単な話ではない。あと、師匠として弟子に会話の主導権を奪われたままだと切ないから、なんとかして主導権を取り戻したい。




「サラは頼りになるわね」


 シルフィ。俺が傷つくから真面目なトーンで言わないでほしい。結局主導権を取り戻すこともできずに、サラが話をまとめちゃったよ。


 理路整然とヴィクトーさんとベッカーさんを説得するサラ。秘密も精霊術の奥義扱いになっちゃっていたし、口をはさむ隙すらなかった。


 でも、俺が情けないんじゃなくて、サラが凄いんだよね。なにせ、俺よりも断然に人生経験が豊富なベッカーさんが、最後には反論もできずに沈黙することになったんだ。


 話が終わった後に、サラも成長しているのだなってヴィクトーさんのつぶやきが、とても印象的だった。


 ……まあ、ちょっと情けないけど、俺の望み通りの結果に落ち着いたんだし、文句は言わないでおこう。今日は宴会で、明日からは冒険だ!


コミックブースト様にて、17話が更新されています。今回も精霊達がとても可愛らしく描かれていますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] サラの成長 [一言] ちょっと主人公が元社会人の大人として頼りにならなさすぎるだろう、と。 相手は元貴族なんだし、信頼を得るために例の短剣を見せるとかいくらでもやりようはあるだろうに。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ