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四百三十九話 認識のズレ

 サラとヴィクトーさんとの感動の再会も無事に終わった。ヴィクトーさんの好意でクランハウスに泊めてもらえることになり、サラが居なくて寂しがるキッカのために、ジーナがマルコとキッカと同室で休むことになった。……なんとなく寂しくなった俺は、ベル達と戯れ、シルフィに話し相手になってもらって一夜を明かす。


「裕太殿。夜は宴会を予定しているが、それまでに何か用事はあるのかな?」


 昨晩サプライズを実行した食堂でヴィクトーさんとベッカーさんと俺達で朝食を食べていると、サラとニコニコと会話していたヴィクトーさんが、今日の予定を尋ねてきた。


「用事は特にありません。強いて言うなら観光くらいですかね?」


 木造建築物が主流の森の中の国。観光するのも面白そうだし、目新しい物なんかも発見できそうで、結構興味津々だ。


「そうか。では、少し話をする時間を頂きたいのだが、構わないか?」


 まあ、お互いに話しておくべきことは色々とあるよな。サラがどうするのかも話にでるだろうし……なんだか緊張してきた。


「分かりました」


「では、朝食の後にベッカーに案内させよう」


 副団長の案内か。昨晩はサラが色々と俺のことを話しているはずなんだけど、まだ警戒されているのかな? ベッカーさんを見ると、笑顔で頷かれた。うん。サッパリ分からん。俺が元とはいえ、有能そうな貴族の感情を読み取るのは無理だ。


 サラの微笑ましいエピソードや、マルコとキッカの活躍なんかを話しながら、穏やかに朝食の時間が終わる。


「師匠。おれ、くんれんがしたいけど、むりか?」


 マルコがちょっと遠慮気味に聞いてくる。……訓練か、リーさんにも毎日体を動かすように言われているし、昨日は移動で運動できなかったから、今日は体を動かしたいんだろう。


 とはいえ、初めての国で自由に外に行かせるのも不安だし、泊めてもらっているサラの実家で好き勝手するのも申し訳ないよな。


「そういうことでしたら、裏に訓練場があります。アヒムに案内させましょう」


 俺が困っていると、ベッカーさんが解決案を出してくれた。結構大きなクランハウスだとは思っていたけど、訓練ができる場所まであるのか。クランともなると、普通の冒険者とは違うんだな。


 いいの? といった様子でマルコが俺を見てくる。こういう時に、ちゃんと俺に確認できるところが偉い。俺が子供の時だったら、やったーって1人で喜んでいた気がする。


「すみませんが、お願いします」


「分かりました。アヒム!」


 ベッカーさんの呼び声にアヒムさんが反応し、速足でやってきてピシリと直立した。冒険者になっても、騎士団時代の習慣が抜けていないんだな。正直、体育会系の雰囲気は苦手だ。


 ベッカーさんの命令で、アヒムさんがジーナ、マルコ、キッカを連れて訓練場に向かう。サラが残ったってことは、話し合いに参加するんだな。まあ、当然といえば当然なんだけど、サラとの別れが現実的になって、ますます緊張してきた。


 サラに先にどうしたいのかを聞いておけば緊張もしなくてよかったんだけど、そうなるとサラが遠慮するだろうし、難しいよね。


 ***


 ベッカーさんの案内でクランハウスの応接室に通された。元武門の貴族のセンスなのか、厳粛さを兼ね備えた雰囲気で、少し呑まれてしまいそうだ。


「サラから話を聞きました。裕太殿! サラを救って頂き、本当にありがとうございます」


 ヴィクトーさんとの話し合いは、深々と頭を下げるヴィクトーさんのお礼から始まった。言葉遣いが敬語になったのは、ベッカーさん以外の団員の目がなくなったからかな? なんだか色々と大変そうだ。


「頭を上げてください。昨晩、しっかりお礼をして頂きましたので、もうそれだけで十分です」


「いや、サラから聞いた話では、昨晩の礼など礼にもなりません。私が想像していた以上にサラは危険な状態でした。グンター達を失い、もう少しでサラの命も……それだけでなく、サラに十分な食事や精霊術師としての知識や装備を与えてくれました。サラは裕太殿の深い愛情に、とても感謝しています」


 サラが俺のことを褒めまくってくれたようだ。でも、ヴィクトーさんが言っていることに心当たりはあるものの、なぜか自分のことを言われている気がしない。おそらく、俺の軽い気持ちと、ヴィクトーさんの重い感謝が釣り合ってないからだな。


 今ではサラもマルコもキッカもとても大切に思っているけど、最初は利用する気満々だったから、本気で感謝されると罪悪感が刺激されるんだ。余裕ができたからって、犬や猫を拾うように人間を拾ったら駄目だよね。


「い、いえ、サラにはずいぶん助けてもらったんです。その報酬でもありますから、気にしないでください」


 実際にサラが居なかった場合を考えるとゾッとする。ジーナが弟子になる前までは、マルコとキッカの面倒はサラが頼りだったもん。


 まあ、たしかに装備を合わせると結構な投資をしていることになるが、それもシルフィ達のおかげだし……。


「それと、サラを保護して頂いたお礼としては十分と言えませんが、こちらをお受け取りください」


 ヴィクトーさんが革の袋を俺の目の前に置いた。中を確認すると金貨と銀貨が入っている。200万エルトってとこかな? 金貨と銀貨が混ざっているのが、なんか掻き集めたって感じがする。


 ああ、俺が突然来たから、急いで掻き集めたんだな。……俺のサプライズのせいでヴィクトーさんはエールでむせちゃったし、慌ててお金を掻き集めることになってしまった。


 もうあれだね、今更だけど社会人として迷惑この上ない行動だよね。謝りたいところだけど、今ここで謝るのも変な感じだ。後で謝ろう。


「シュティール家の再興の暁には、必ずご恩に報いますのでご容赦ください」


 なんだかすごく申し訳ない。サラへの手紙でもそこまで余裕はなさそうだったし、このお金も結構無理しているんだろうな。


 まあ、お金に関しては昨晩受け取ってもらわないと困るって言われているからもらうけど、冒険に協力して穴埋めするのは忘れないようにしないとな。


「先ほども言いましたが、サラにはとても助けてもらいました。この報酬もお受け取りするのが心苦しいくらいなのですが、ありがたく頂いておきますので、追加の報酬は必要ありません」


 ヴィクトーさんが俺の言葉に難色を示している。元貴族のプライドなんだろうけど、元なんだからそこまでこだわらなくてもいいと思う。ガッリ子爵なら、当然のことだって報酬すら払わないよね。


「本当に報酬は十分です。それよりも、ヴィクトーさんはサラの今後をどのように考えていますか?」


「サラの今後ですか?」


「はい。サラは精霊術師の才能が有りますから、私としては弟子を続けてほしいと思っています。もちろんサラの気持ちが優先ですし、ヴィクトーさんの考えもあるでしょう。そこのところを話し合いたいのですが……」


 このまま預けてもらうのが1番だけど、最低でも通いでサラに会いに来るくらいは許可してもらいたい。あと、たまには楽園に連れていく許可も欲しいな。


「サラは帰ってきたのでは? サラ、どうなのだ?」


 そこら辺のところはサラとヴィクトーさんとでも話し合っていなかったようだ。ヴィクトーさんは当然、ここに住むと考えていた様子だな。


「精霊術師の評判を上げることに協力すると、お師匠様と約束しました。一時的な里帰りなつもりだったのですが?」


 サラはサラで一時的なつもりだったようだ。うん。遠慮したとはいえ、完全にコミュニケーション不足だな。ヴィクトーさんとベッカーさんが、どういうこと? といった様子で俺を見ている。


 ここで約束したんだからサラは連れていくと、大人げないことは言えない。ちゃんと説明して良い結果になるように交渉しよう。




「裕太殿。ローゾフィア王国は他国と違い精霊術師に対する差別はありません。むしろ精霊に祈り、自然の怒りを鎮める存在として尊敬されています。全員でこの国に住まわれては?」


 俺の説明を聞いたベッカーさんが、とてもまっとうな意見を出してくれた。でも、ちょっと疑問がある内容でもあったな。


「自然の怒りを鎮めるですか? 戦いは?」


「精霊を戦いに利用する行為はこの国では少ないです。祈り、自然の脅威からの保護を願うのが役割ですから」


 ……思っていたのと違う。祈るって神官とか宗教関係者の役割だよね。あ、精霊信仰が盛んな国だから、精霊術師が神官や巫女の役割でも間違いじゃない訳か。


 森や山に囲まれて自然の脅威が身近だからこそ、自然と関係が深い精霊が信仰される。精霊術師の祈りが口にでれば、契約精霊が力を貸して自然の被害を抑えるってパターンかな? なんかそれはそれで上手に回っている気がしないでもないな。


 少なくとも、長々と難しい言葉で詠唱するよりも、真剣に祈った方が精霊も理解してくれるだろう。でも、それだと俺の目的と違うんだよな。


「私としては精霊術師を下に見ている冒険者ギルドで、その認識を正したいんです」


「しかし、実際に精霊術師は戦いには向かないのでは? 裕太殿がAランクの冒険者で、凄腕の精霊術師なのは理解していますが、そうなれるのは一握りの存在です。サラに才能があったとしても、その域に達するのは並大抵の努力では難しいでしょう。兄としては、サラにはこの国で穏やかに過ごしてほしいと思います」


 ヴィクトーさんの言いたいことも理解できるけど、ここでもちょっと疑問を覚える内容が……。


「えーっと、サラは自分の実力をヴィクトーさんに伝えていないの?」


 穏やかな生活には賛成だけど、冒険者であるヴィクトーさんが、サラを冒険に連れていくつもりがまるでない様子なのは不思議な話だ。フクちゃんの風魔法と、プルちゃんの回復魔法は冒険に大活躍するよ?


「お師匠様の精霊術は普通ではありませんし、何をどこまで話したらいいのか分かりませんでしたので、戦いについてはあまり話していません」


 ……精霊術師の訓練方法や聖域のことなんかは、秘密にするように言っておいたな。他にも俺の場合は話せないことが盛りだくさんだから、サラは最初から話さないことにしたんだろう。対応が大人だ。


 うーん、それにしても、俺、サラ、ヴィクトーさんの間での認識がバラバラだな。どうやって話をまとめたらいいんだ? 模擬戦でもするか?


今回のお話なのですが、何度か書き直したのですが、書き直せば書き直すほど頭が混乱して、よく分からない内容になってしまった気がします。いずれ、落ち着いたら書き直すかもしれません。申し訳ありませんでした。


読んでくださってありがとうございます。





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[気になる点] 「うーん、それにしても、俺、サラ、ヴィクトーさんの間での認識がバラバラだな。どうやって話をまとめたらいいんだ? 模擬戦でもするか」 鍛冶屋さんを弟子入りさせ、ダンジョンで訓練する際、…
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