四百三十七話 サプライズ……成功?
サラのお兄さんのクラン『シュティールの星』のクランハウスにコッソリと侵入し、アヒムさんの部屋で待機している。どうやらアヒムさんの上司が俺を見に来るようなので、真面目に受け答えしないとな。まあ……サプライズの計画で好感度はマイナススタートみたいだけどね。
就活時の面接のような気分でこちらに戻ってきているはずのアヒムさんを待っていると、ドアが軽くノックされた後にアヒムさんと、お連れのお爺さん? らしき人が入ってきた。
この人、お爺さんでいいのかな? 髪は白髪だし顔に刻まれたシワも深いから歳はいっているはずなんだけど、ムキムキな上に武闘派なオーラを出しているので、俺が知っているお爺さんとは違う。
「爺!」
「おぉ、サラお嬢様。再びこうして出会えるとは思ってもいませんでしたぞ。ご立派になられて……」
サラが爺って呼んだから、やっぱりお爺さんでいいらしい。でも、普通爺って呼ばれる人はもっと文官っぽいイメージがあるよね。
しかし、アヒムさんが怒られていたそうだし、いきなり怒鳴られることも覚悟していたんだけど、サラ以外は眼中に無いようだ。若干涙ぐみながらサラの両手を握りしめている。サラの方も涙ぐんでいるし、親しい間柄だったんだろう。
「えーっと、アヒムさん。あの人は?」
「クランの副団長のベッカー様です。元は先代様にお仕えしていた男爵様で、団長の武術指南役でもあります」
「そうなんですか……」
お兄さんの武術指南役がなぜサラと親しいのかが少し疑問だけど、貴族だし家族ぐるみの関係だったのかな? そういえば貴族の生活習慣とかまったくしらないし、調べた方が……いや、知らないままでいいや。関わるだけ面倒だ。
よく分からないが、サラとベッカーさんが感動の再会を邪魔するのも悪いので、静かに見守る。うん。ジーナ達もベル達もふくちゃん達も空気を読んで静かにできて偉いね。俺は弟子達や契約精霊達に恵まれているな。
「失礼した。私はシュティールの星の副団長をしているベッカーと申します。サラお嬢様をここまで連れてきてくれたこと、感謝いたしますぞ」
……感謝するって言っているけど、本当に感謝しているのかな? 握手に込められた力がとても強いし、その鋭い眼差しがサラと会話している時と違い過ぎるんですけど?
「えーっと、俺は裕太と言います。まあ、サラは大切な弟子なので、弟子の家族の行方が分かったのであれば、会わせるのは当然ですから気にしないでください」
なんだか試されているような感じなので、平静を装いつつも握手に力をこめる。精霊術師とはいえ、高レベルの冒険者なんだから、お爺さんに負けるつもりはないよ。利用する気で弟子にしたことは内緒だ。
「ほう。見た目とは違い、なかなかのお力ですな。それで、裕太殿は冒険者とのことですが、サラお嬢様は運動が苦手だったはず。何を教えておいでなのかな?」
えっ? サラって運動が苦手だったの? 弟子になってからそんなそぶりを見たことはなかったけど?
あぁ、スラムで生活しているのに、運動が苦手とか言っていたら死んじゃうよね。俺と会うまでに頑張って克服したのか。
「サラには精霊術を教えています」
「ふむ。この国では精霊術師は大切にされますが、他国ではそうでなかったように記憶しています。失礼ですが、裕太殿はどちらからいらしたのですかな?」
おぉ、シルフィが精霊信仰があるって言っていたけど、この国は精霊術師が生きやすい国みたいだな。ちょっと嬉しい。
あれ? なんかベッカーさんが一瞬アヒムさんをにらんだ気がする。アヒムさんを見ると、気まずそうな表情をしているし、何かあったのか?
「裕太。アヒムは情報収集がほとんどできていなかったことが気まずいのよ。ベッカーに色々と質問されて答えられなくて怒られていたわ」
俺の疑問にシルフィが答えをくれる。なるほど、自己紹介もそこそこにサラのサプライズ計画に巻き込んだから、あんまり俺達の情報は手に入れてないよね。それは上司の立場からすると怒るよ。
「クリソプレーズ王国ですけど、そこも精霊術師の冒険者は肩身が狭いですね。でも、俺の場合は心配いりませんよ」
変に弱者扱いされても面倒なので、冒険者ギルドのカードをベッカーさんに見せる。元男爵らしいけど今は冒険者なんだから、Aランクの冒険者ギルドカードは効果があるだろう。穴が開きそうなほど凝視しているけど、偽物じゃないからね。
「裕太殿はAランクの冒険者でありましたか。サラお嬢様は頼りになる方に保護されていたのですな。感謝いたします」
「いえ、サラに助けられているので気にしないでください」
先ほどの疑いを含んだ感謝と違い、今度は気持ちがこもっているように感じる。疑いが少しは払拭されたようだ。初対面の人から信頼を得るのに、立場って効果的なんだな。
あと、アヒムさんがAランクってところでビックリしている。そういえばアヒムさんにも言ってなかったな。
「それで、裕太殿とサラお嬢様について少々話を聞かせていただきたいのだが、かまいませんかな?」
あっ、少しは信頼されたかなって思ったけど、それでも面接は続くんですね。うーん、サプライズに間に合うんだろうか?
***
「裕太殿はこちらでお待ちください。サラお嬢様はこちらでお待ちください」
ベッカーさん全面協力のもと、サプライズの準備が急ピッチで整えられていく。
「ベッカーがやる気満々ね」「やるきまんまんー」「キュキュー」「がんばってる」「ククー」「まあまあだぜ」「……」
仕切るベッカーさんを見たシルフィの言葉に、ベル達も楽しそうに追随する。まあ、見ていて面白いくらいに完璧に仕切っているから、シルフィ達の反応も正しいんだろう。
面接の続きで、出会った時のサラの状況を事細かく伝えたのが良かったようだ。アヒムさんがチョロかったから話さなかった、サラがガリガリだったことや、子供達だけで協力しながら一生懸命に生活していたこと。
止めにサラが、お師匠様に出会わなければ限界がきたであろうことを伝えると、ベッカーさんもアッサリと陥落した。チョロい。どうやらサラは、シュティール家だけでなく、その周囲の人達にも可愛がられていたようだ。
まあ、それでも俺の隣にはベッカーさんの部下が監視についていて、ヴィクトーさんには迂闊に近づかないように言い含められたから、アヒムさんほどは甘くないようだ。
でも、国が滅んでしまって、身分も失ったはずなのに用心深いよね。まだ、利用価値なり危険なりがあるんだろうか?
「だいたいの準備は整いましたな。私は団長を呼んできますので、サラお嬢様は計画通りにお願いします。裕太殿達は落ち着いたら私から紹介しますので、近づかぬようにお願いします」
俺とサラが頷くと、ベッカーさんが満足した顔で頷いて、クランハウスの食堂から出ていった。しかし、裕太プロデュースのはずだったのがジーナプロデュースになって、最後にはベッカープロデュースになってしまったな。なんだか少し悲しい。
「サラが紛れるにはちょうど良かったけど、なんで冒険者のクランに子供が居るんだ? このクランってハウライト王国が滅んだから逃げてきたんだよな?」
準備が整い、後は感動の再会を待つばかりだと思っていたら、ジーナがごもっともな疑問をつぶやいた。なるほど、たしかにそうだな。小間使いにしても、お手伝いのおばちゃんもいるんだし、5人も子供を雇う必要はないよね?
「あの子達はクランの団員の子供ですよ。元々、シュティール辺境伯家が卑怯な手段で乗っ取られて混乱していた上に国が滅びましたから、シュティール辺境伯家の領地はひどい状態でした。その混乱の影響で、我々も家族と再会できたのですから、皮肉なものですね」
俺の監視をしていたベッカーさんの部下が、遠い目をして教えてくれた。
「なんて言えばいいのか分かりませんが、色々あったんですね」
家族と合流できたんですから、国が滅んで良かったですねとは言えないよね。
「ええ、色々ありました」
万感の思いを感じさせる声色だ。国が滅んだ時の苦労とか想像もできないけど、洒落にならないくらいに苦労したのは伝わってきた。
それだけ苦労したサラのお兄さんとサラの再会なら、余計な大げさな演出をしなくても十分に感動の再会になりそうだな。空から女の子が降ってきた演出を選ばなかったサラは慧眼だったのかもしれない。
おっ、ベッカーさんと一緒に若い金髪の男が食堂に入ってきた。あの人がサラのお兄さんっぽいけど……想像していたのと全然違う。
上品なサラのお兄さんだから貴公子然とした爽やかな人物を想像していたが、リラックスした室内着を盛り上げる胸板、太くたくましい腕、頬に走る一筋の傷、唯一サラと同じな金髪はワイルドに飛び跳ねている。
あれだね。貴族じゃなくて外人部隊の軍人とか、アメリカとかの裏社会の住人にしか見えない。本当にサラと同じ遺伝子なんだろうか?
俺がDNAの不思議さを感じている間に、サラのお兄さんがお誕生日席に着いて夕食が始まった。ちなみにお手伝いをする子供達は先に食事を済ませるように言われているらしい。あんなに怖い風貌なのに、子供に優しいようだ。
サラのお兄さんのテーブルには5人の男達が同席している。監視の人が言うには、このクランの幹部達だそうで、サラのお兄さんの近くにはベッカーさんが座っている。
エールを片手に次の探索について話し合いながら食事をしているが、ベッカーさんがチラチラとサラの方に目線を向けるので、サラの存在がバレてしまいそうで怖い。
「エールのお代わりを頼む。団長の分もな」
あっ、ベッカーさんが合図を出した。元々の予定では、もう少し食事とお酒が進んでから合図を出すはずだったんだけど、何かあったのか?
「ヴィクトーがベッカーに体調が悪いのか尋ねていたわ」
シルフィのおかげで謎は全て解けた。バレそうだから、バレてしまう前にサプライズを発動したんだな。武人のお爺さんに演技は難しかったようだ。
ベッカーさんの合図で、2人の子供がエールを持って動き出した。1人はこのクランの子供で、もう1人は当然サラだ。
サラがお兄さんにエールを渡す。自然にエールを受け取り、口に運ぶサラのお兄さん。あれ? サラに気がつかなかった?
エールを運んだ後に動かないサラに違和感を覚えたのか、エールを飲みながら再びサラの方に顔を向けるお兄さん。
「ブハッ! サッ ゲホッ カハッ ゴホッ」
驚きでエールを吹き出し、むせて苦しむサラのお兄さん。遠目だからハッキリ見えなかったけど、鼻からもエールが……驚いてはいるようだけど、このサプライズは成功と考えていいんだろうか? やっぱり空から女の子が降ってきたパターンを押し通した方が良かったかな?
読んでくださってありがとうございます。




