表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
436/756

四百三十四話 ローゾフィア王国王都冒険者ギルド

 サラのお兄さんが居るローゾフィア王国に到着した。到着までの道のりはシルフィのおかげでのんびりだったけど、どこまでも続く深い森を見ると、自分がどれだけ恵まれているのかがよく分かる。あんな森を馬車や徒歩で移動するとか、想像するだけでも辛いのが分かる。シルフィに対する感謝は忘れたらいけないな。


 ローゾフィア王国の王都まで30分ほどの距離を、ジーナ達や召喚したベル達と歩く。俺達はシルフィのおかげで快適だけど、シルフィの話では周囲の気候は高温多湿らしい。


 一度はこの国の気候を直に体験しておくべきなんだけど、高温多湿って聞くと躊躇してしまう。俺、日本の夏が苦手だから、異世界の高温多湿が普通に怖い。


 怖いことは後回しにして、森の中を散歩気分で王都に向かって歩く。ベル達はいつもと違う場所が楽しいのか、森の中を元気に飛び回っている。


「あっ、ちょっと待って」


「師匠、どうしたんだ?」


 突然声を上げた俺に、ジーナが心配そうに声を掛けてくる。


「いや、たいしたことじゃないんだけど、俺達の恰好が普段着のままだったよ。普通、これだけの森を徒歩で抜けてきた冒険者が、普段着とかありえないよね」


 冒険者装備になったとしても、疲労すらしていないから違和感を持たれるだろうけど、違和感全開で王都に突入するよりもマシだ。


「あっ、たしかにそうだな。じゃあ、着替えないと」


「うん。ちょっと森の中に入ろうか」


 シルフィに案内してもらい、安全な場所で着替えをする。うーん、サラのお兄さんに会うわけだし、全身金ピカ装備はちょっと違うよね。


 いや、冒険者としての凄さが師匠としての安心に繋がるから、あえて光竜装備で会うというのもありだな。ただ、光竜装備だと目立つんだよな。


 迷宮都市なら目立とうが関係ないけど、新しい国で無用の注目を浴びるのも微妙だ。…………目立たないように、光竜装備を使う前の装備を選択しよう。


 高温多湿の国なのに鎧でガッチガチに固めるのは、空気が読めていないようで嫌だし、Aランクの冒険者って信じられない可能性があるけど、そこは頑張って信用してもらうしかない。ジーナ達の装備は……みんな全身鎧じゃないし、似合っているから普段通りの装備でいいな。


 さて、装備が整ったし、改めてローゾフィア王国の王都に向かおう。雄大な自然にはしゃぐベル達を見守りながらのんびりと王都に続く道を歩く。


 高温多湿らしいけどシルフィのおかげで快適だから、自然を気軽に楽しめるピクニックだな。地味に楽しい。




 物凄く顔を凝視されている。言葉には出さないが物凄く顔を凝視されている。あっ、今度はギルドカードを凝視しだした。


 見た目がAランクの冒険者っぽくないのは自覚しているから怒りはしないけど、こうも予想通りの反応をされると悲しくなる。


 別に戦士系じゃなくて魔術系の冒険者が存在するんだから、俺みたいなヒョロイAランクの冒険者がいてもいいはずなんだけど、オーラ的なものが違うのかな?


「……お通りください」


 何度見ても異常を発見できなかったのか、少し躊躇った後に通る許可をもらえた。村での対応と違って礼儀正しいな。通るのに時間が掛かったのは、勘弁してあげよう。


 ジーナ達も問題なく門を通り抜け、無事に全員で王都に入ることができた。


「うわー。すげー。師匠、おれ、こんなのはじめてみた!」


 マルコが大興奮している。でも、迷宮都市とはずいぶん違う構造だから、興奮するのもしょうがないよな。俺も結構驚いているもん。


 外側の王都を守る城壁は石積みの立派なものだったから気にしなかったけど、中に入るとほぼすべての建物が木造でビックリする。遠目に見えるお城も石造りの西洋風だったから、さらに意表を突かれた気分だ。


 でも、考えてみたら当然なのかもしれない。周囲に山もあるけど、基本的に緑一色だから木があふれている。その素材を使わないはずがないよね。


「うん。凄いね。これだけ木の家が立ち並んでいるのは俺も初めて見たよ」


 日本の観光地でも木造の家の連なりを見たことがあるし、木造の家を新築する人もいる。でも、大きな町一つが木造なのは初めてだ。


 中央の大きな通りは石畳が敷かれているけど、路地の方は土がむき出しだし、この国では石が貴重なのかもしれない。いや、木の方がお手軽だからの可能性もあるな。


 シルフィ。なんでこれがあんまり印象に残らない国なのかな? 木造の王都とか、シルフィにとっては珍しくないの?


 マルコだけではなく、ジーナ達も異国情緒たっぷりなローゾフィア王国の王都に魅了されているが、さすがに門の前でこれ以上足を止めるのは迷惑だ。周囲から微笑ましいお上りさんを見る視線が飛んできているし、さっさと場所を移そう。


 ジーナ達を促して足早に門から離れる。まずは……冒険者ギルドでサラのお兄さんの情報と、王都のおすすめの宿を聞こう。


(シルフィ。冒険者ギルドの場所は分かる?)


「ええ、もう王都のめぼしい場所は把握したわ。案内する?」


 めぼしい場所の中に酒屋がふくまれているのは確実だな。


(うん。お願い)


 シルフィの案内で王都の街並みを見学しながら冒険者ギルドに向かう。


 しかし、あれだな。微妙に造りは違っているけど、なんとなく時代劇で見た江戸の景色に似ている気がする。同じ木で造るなら、ある程度家の作りも似通ってくるのかもしれないな。


 お店の開口部も広いし路地裏から見える民家も、壁が一面取り払われているように見える。あそこは夜になったりしたら、雨戸のようなもので戸締りするんだろうな。


 網戸が見えないので虫が心配ではあるが、あれだけ風が取り込める空間があれば、ある程度涼しそうだ。


 ベル達も見知らぬ王都に興味津々な様子だし、冒険者ギルドと宿に向かうだけだから、お散歩に行かせるのもいいかもしれない。


 ん? ふくちゃんとぷるちゃんがサラに寄り添っている。サラは緊張しているし、心配しているんだろうな。ベル達をお散歩に行かせると、ふくちゃん達も羨ましいだろうし、ベル達のお散歩はサラが落ち着いてからにするか。


 珍しい国だから、近場でも目をキラキラさせて観察している。しばらくは退屈なこともないだろう。


 俺もなんとなく郷愁を誘う気がする街並みを、キョロキョロと観察しながらシルフィについていく。


 建物に気を取られていたけど、この国の衣装もクリソプレーズ王国とはちょっと違うな。どうせなら着物みたいな恰好をしていてくれれば面白かったんだけど、残念ながらそれは無かった。


 冒険者っぽい人達は森に入るからか長そでの長ズボンだけど、王都の住人は涼しさに主体を置いた服装で、短パンやハーフパンツ、半そでやタンクトップのような服が主流のようだ。


 女性が薄着なのは嬉しいけど、男性の短パンはちょっと悲しい。おしゃれな人なら短パンを上手に着こなせるかもしれないけど、普通のおじさんが普通にはく短パンは、日本人の俺には違和感が凄いよ。




「ここが冒険者ギルドよ」


 ……ちょっと残念だ。おじさんの短パン姿に戸惑いながらもシルフィに案内されて到着した冒険者ギルドは、石造りの迷宮都市でも見かける雰囲気の建物だった。どうせなら木造の立派な武家屋敷みたいな冒険者ギルドがよかったな。


 たまに、見かける立派な建物は石造りなことが多かったし、お金持ちや力のある組織は石造りの建物を建てるのがトレンドだったりするのかもしれない。


 さて、王都の建物考察はこの辺にして、冒険者ギルドに入るとするか。いきなりサラのお兄さんに出会って、劇的な再会ってのも悪くないかもしれないな。一応、サラには心構えをさせておこう。


「サラ。もしかしたらお兄さんが居るかもしれないけど、大丈夫?」


「はい。もう大丈夫です。落ち着きました」


 ……本当に落ち着いたように見えるのがサラの凄いところだ。でも、ふくちゃんもぷるちゃんも心配そうに寄り添っているから、内心はまだ緊張しているんだろう。


 慣れた雰囲気の扉に手をかけて冒険者ギルドの中に入る。


 うん。内部も迷宮都市とあんまり変わらないな。冒険者ギルドは分かりやすいように建物内の配置を統一しているのかもしれない。


 サラがキョロキョロと冒険者ギルドの内部を見回すが、特に反応はない。お兄さんはいなかったようだな。


 どんな依頼があるのか確認をしたいけど、先にサラのお兄さんの情報といい宿屋を教えてもらわないとな。受付カウンターに近づき、空いている受付嬢に冒険者カードを渡しながら話しかける。


「すみません。聞きたいことがあるんですが、今、大丈夫ですか?」


 忙しい時間帯じゃないから大丈夫だとは思うけど、人が少なくて2人しかいないカウンターの1つは埋まっている。俺の話が長引くと、カウンターが全部埋まってしまうから一応、確認しておく。


 まあ、隣のカウンターはチャラい男が、受付嬢を口説いているようだから、駄目って言われたらそれはそれでイラッてしそうだけど……。


「はい。今は混み合っていませんから大丈夫ですよ」


 笑顔で答えてくれた受付嬢が、俺のギルドカードを受け取って2度見した。驚いた内容は理解できるけど、それにしても見事な2度見だったな。受付嬢の驚きが、余すことなく俺に伝わったよ。


 それにしても、この受付嬢も美人だな。人族で少しモチッとしているが、それがまた良い。女性の理想とする女性ではなくて、癒しと母性が同居している、男が好きな女性って感じだ。


「……コホン。失礼いたしました。何をお聞きになりたいのですか?」


 おぉ、立て直した。受付嬢としてのプロ根性は素晴らしいな。2度見の件は無かったことにしてあげよう。


「えーっと、今日、王都に到着したので、お勧めの宿屋を紹介してほしいのと、ヴィクトー・シュティールさんの居所を知りたいです。ヴィクトーさんは、王都でクランを作っているらしいので、すぐにわかると思います」


「ちょっといいかい。うちの団長になんのようだい?」


 俺の話を聞いていたのか、隣のチャラ男が話しかけてきた。うちの団長ってことは、サラのお兄さんのクランメンバーってことか? 隣にいるサラに視線を向けると、チャラ男を見て何かを考えこんでいる。


 どうやらチャラい男に見覚えがあるようなないような、微妙な感じのようだ。おっ、サラが何かに気がついたように顔を上げた。


「……その声……もしかしてアヒムですか?」


「はっ?」


 いきなりサラに話しかけられて驚いたチャラ男が、サラの顔を見て考え込む。


「サ、サラお嬢様!」


 おうふ。チャラ男だったはずの男が一瞬で雰囲気が変わり、凛々しく威厳がある態度に変わった。凄いビフォーアフターを見たな。人間ってこんなに一瞬で雰囲気が変わるんだ。


 しかし、サラが知っているってことは、サラのお兄さんのクランメンバーで間違いないようだ。運がいいのか悪いのか、とりあえずこの人を引き込まないとサプライズが失敗になってしまうな。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公一人称主体の構成が陥り易い不備に、既出の事案の繰り返しというのが有ります。簡単に言うと、クドイということです。門番やギルドの受付にAランク冒険者であることを疑われることや、迷宮都…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ