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四百三十三話 ローゾフィア王国到着

 楽園に戻ると、酒島が思っていた以上に盛況で人員と店の追加をブラックさんに任せることにした。暴走を防ぐために酒島の追放の可能性も伝えたので、無理なく運営してくれるだろう。サクラへのお土産は、俺の分もシルフィの分もジーナ達の分も大喜びしてくれたから、大成功と言っていいだろう。


「さて、今日はもう遅いからお休みするよ」


 それぞれお気に入りのヌイグルミを手に入れたちびっ子達が、お互いにヌイグルミを見せ合いながらはしゃいでいるが、サラ達はもうそろそろ眠る時間だ。ベル達は起きていても問題ないんだけど、ちびっ子が夜中に動き回っているのは俺が落ち着かないから強制就寝だ。


 ちびっ子達と一緒に2階に上がり、ジーナ達にお休みを言って子供部屋に入る。


「サクラ。サクラの宝箱を出すけど、どの宝箱がいいか選んでね」


 サクラの目の前に金、銀、木製の宝箱を並べると、宝箱の上をふよふよと飛びながら宝箱を見比べ、木製の宝箱にピトッと抱き着いた。


「あう」


 予想通り木製の宝箱を選んだか。ある意味同族の素材な気がするけど、サクラが気に入ったのならそれでいいんだろう。


「じゃあ、サクラの大切な物はそこにしまうようにね。使い方がよく分からなかったらベル達に聞くこと」


「べるおしえるー」


 ……サクラが聞く前にベル達が宝箱の使い方を教え始めた。ベル達もサクラを構い倒したいようだな。


「みんな。あんまり騒がないようにね。あと、お片付けが終わったらちゃんと寝るようにね」


 とっても元気な返事が返ってきたので、まだまだ眠りそうにないなと思いつつも子供部屋を出る。俺も1日王都を歩いていたし、精神的にも疲れたから部屋で休もう。


 ***


 楽園に戻ってからの2日間。ルビー達にもお土産や商品の補充を渡し、楽園を見て回った。


 モフモフキングダムの動物達に貢物をしたが、玉兎以外には受け入れられず、グアバードのヒナに近寄ろうとしたが警戒されて追い出された。


 植物に関してはドリーが管理していてくれるおかげで、死の大地でも青々と生い茂っていて問題ない。


 味噌や醤油もヴィータいわく順調で、酒島はディーネが言った通り、かなり混雑気味な様子だった。


 酒島と比べると、精霊の村は遊びに来るちびっ子達は可愛らしくて、和やかな空気が流れている。サラもこの穏やかな空気に癒されているのか、お兄さんのことで焦るような様子はあまりなく、のんびりと精霊術師の訓練と体力作りに努められている様子だった。


 他にもジーナ達の訓練に付き合ったり、楽園の細々した問題を解決したり丸投げしたりしたが、それ以外の時間のすべてをベル達と一緒にサクラとのコミュニケーションについやした。


「うーー」


 甘やかしてしまったがゆえの失敗だったんだろうか?


 やるべき仕事以外のほとんどの時間をベル達と共にサクラと過ごし、これだけ甘やかせば大丈夫だろうとローゾフィア王国に出発することを伝えると、思いっきりサクラがグズりだした。


 一緒にいて遊び倒したのが楽しかったのか、逆に離れるのが悲しくなったようだ。満足するまで遊びまくれば大丈夫だと安易に考えた俺の失敗だな。


 でも、しょうがないんだ。俺に子供はいないし、親戚にも小さな子はいなかった。赤ちゃんがこう反応するなんて、経験していないんだから間違うのも当然なはずだ。


 人間は失敗から学んで成長する生き物だし、俺も次からはサクラの取り扱いを間違えない。だから、ディーネ、ドリー、お願いします。


 目線で2人にお願いすると、視線の意味をしっかりと理解してくれたドリーが、グズッているサクラを抱っこしてあやし始める。これで一安心だ。


 シルフィに合図を出して、気配を消しつつ楽園を旅立つ。また喜ぶお土産を買って帰らないと嫌われそうだな。


「ねえ、師匠。ろーぞふぃあおうこく? ってどんなくになんだ?」


 そんなことを俺に聞かれても知らないよ。


「シルフィ。ローゾフィア王国ってどんな国なの? 行ったことある?」


「行ったことはあるわよ。でも、そんなに印象に残る国ではなかったわね。森林地帯で自然が豊かではあるのだけど、農地の開拓が難しくて発展し辛い様子だったわ。ああ、あと、精霊信仰の文化もあるみたいよ」


 面白いことが好きなシルフィにとっては、刺激が少なくてあんまり記憶に残っていないようだ。精霊なら自然が豊かな方が喜びそうだけど、風の精霊だもんね。


 ただ、精霊信仰って言葉は初耳なんですけど? 精霊が信仰されている国なの?


 そういえば前に信仰されている場所があるって、聞いたことがあった気がする。メルの工房もメラルを祭っていたし、精霊の力は洒落にならないから信仰されるのも当然と言えば当然だな。


「じゃあ、ローゾフィア王国は精霊術師が暮らしやすい国なんだ」


「さあ? 精霊が信仰されていたとしても、精霊術師がどう評価されているかは知らないわ。私は精霊術師が嫌われているなんてまったく知らなかったのよ」


 自信満々で言わないでほしい。まあ、でもそうだよね。シルフィ達精霊って、自分が興味があること以外はぜんぜん気にしていない雰囲気で、俺が精霊達に囲まれていること自体が奇跡みたいなものだ。人間が精霊術師をどう思っているかなんて気にしないよね。 


 とはいえ、精霊術師がバカにされていたのを知った時は、浮遊精霊や下級精霊のことを考えていたから、まったくどうでもいいとは思っていない。うん。今更だけど、精霊って難儀な性格をしているな。




 ふーむ、追加でシルフィに色々と聞いてみたが、精霊が信仰されている田舎っぽい国としか分からない。さすがに王都は発展しているだろうけど、死の大地とは違った面で苦労している国のようだ。


「戦争はしているの?」


「していないわ。国土は広いのだけど森や山が大半を占めていて、他国から見てもうまみが少ないの。そのうえ、ローゾフィア王国は山や森での戦闘に慣れているから、戦うと確実に損するのよ」


 死の大地を除いてこの大陸は植生が豊かだから林業で儲けるのは難しい。山で希少な鉱石や薬草でも発見されないかぎり、攻められる心配は少ないんだろうな。


 でも、そうした自然が豊かな環境だからこそ、精霊を敬う文化になったのかもしれない。日本の自然信仰と似ている気がするな。


「自然が豊かな場所なら、冒険者の仕事も多そうだね」


「冒険者のことまでは気にしていなかったけど、まあ、そうなんじゃない? 自然の食糧が豊富だと魔物も増えるもの」


 サラのお兄さんもそこら辺を考えて、冒険者のクランを立ち上げたのかもしれない。割と冒険者には暮らしやすい国のようだ。


 ……マルコとキッカがポカンとしている。そうだった、楽園を出たからシルフィの声はジーナ達に聞こえていないんだった。


 改めてジーナ達にシルフィから聞いたことを説明すると、ジーナ達がゴニョゴニョと相談を始めた。


 山だとウリが大活躍だとか、シバの火は山や森だと戦いづらいとか言い合っている。山で冒険をするつもりなのか?


 迷宮にも山岳地帯や森があるから予行練習と考えられなくもないが、本来の目的はサラのお兄さんに会うことなんだよね。


 その結果、サラもお兄さんのところに残るかもしれないのに、そのサラまでのんきに探索方法を話し合っている。


 サラならお兄さんに会った後のことも考えていそうなんだけど、どうにものんびりしているな。


「師匠。ローゾフィア王国で依頼を受けてもいいのか?」


 ジーナも何気にやる気満々だ。漏れ聞こえた声で、山や森で美味しいものが採取できるかもとか聞こえたし、ちょっと目的が違う気もする。


「うーん、まあ、構わないんじゃないかな?」


 もともと、精霊術師の素晴らしさを広めてもらうためにジーナ達を弟子に取ったんだし、ローゾフィア王国で精霊術師無双をやってくれたら、それはそれでありがたい。精霊信仰と合わされば、精霊術師にとって素晴らしい国になるかも。


 俺もローゾフィア王国自体に少し興味が出てきたし、サラのお兄さんに会うだけで満足しないで、色々と調べてみよう。


 ***


 進む先に自然が格段に増えてきた。もともと死の大地以外は自然が多いこの世界なのに、自然が増えたって分かる時点で、自然の勢いが相当強そうだ。


 行ったことはないけど、アマゾンの奥地とかよりも手強そう……魔物が居る時点でアマゾンよりも危険だな。


 いや、なんか結構好戦的な部族がアマゾンにはいるって聞いたことがあるし、人を襲う猛獣もいるんだから、危険度で言えばドッコイドッコイだったりするのか? そう考えるとアマゾンって凄いな。


「裕太。あの山の麓の色が違う部分が分かる?」


「ん? あー、まだ遠いけど、色が違うのは分かるよ」


 木々が生い茂っていてすべてが深緑色に見える中、ポツンと色が違う場所が見える。


「あそこがローゾフィア王国の王都よ」


 あそこが王都なのか。遠目だし雄大な自然の中だから小さく見えるけど、この距離で色が確認できるってことは、結構な広さのようだ。


 シルフィと話している間に小さかった色の違いがドンドン近づき、大きくはっきりと見えてくる。


 うーん、シルフィの飛ぶ速度で違いがハッキリと分かるのって、結構凄いことだよな。普段ならあっという間に到着するから、こういう違いが分からない。


 遠いと思っていたのに、その予想の更に上をいく遠さだったってことだから、下の森は遠近感を狂わせる広さってことだ。これだけ延々と森が続いていたら開拓も大変だろうし、他の国も攻めるのを躊躇うだろう。


「直接門に降りないのよね?」


「うん。騒ぎになったり注目を集めたりするのは面倒だから、目立たない場所から歩いて行きたいね」


「分かったわ。じゃあ、人気がない場所に降りるから、そこから道に出て王都ね」


「それでお願い」


 行動が決まるとすぐに高度が下がりだした。話している間に、人気のない場所の目途は立っていたようだ。おっ、あの茶色い線が道か。そうだよね、人が住んでいるんだから道はあるよね。上空からだと木々に紛れてハッキリと認識できていなかったな。


 人気がない森の中に着地し、シルフィの案内で濃い緑の匂いに包まれながら森の中から道に出る。道は……馬車がかろうじてすれ違えるくらいの道幅かな? 木々が豊富だから道を通すのも一苦労なんだろう。


「シルフィ。ここからどのくらいで王都に着くかな?」


「そうね30分も掛からないんじゃない?」


 ジーナ達にあと30分程度で到着することを伝えると、ワクワクしている様子のジーナ、マルコ、キッカと違い、サラの表情がこわばった。


 平気そうに見えていたけど、あとわずかな距離に生き別れたお兄さんが居るとなると、サラでも緊張してしまうようだ。おっと、ベル達も召喚しておかないと、怒られちゃうな。


 サラもふくちゃん達を召喚すれば、ある程度は緊張も薄れるだろう。


読んでくださってありがとうございます。

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