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四百三十二話 サクラへのお土産

 楽園に戻る間にサラに詳しい話を聞いた。内容は思っていた以上に過酷で、サラが泣く前にジーナが泣いてしまった。俺もウルっときたが、ジーナが先に泣き出してしまったからなんとか冷静になれた。他の人が急に怒ると、自分の怒りが沈下することがあるけど、悲しみでも適用されるようだ。


「あうー」


 楽園に到着すると、サクラが猛スピードで突っ込んできた。なんとか勢いを殺して受け止めると、腕の中であうあうとご機嫌に騒ぐサクラ。寂しい思いをさせてしまったようなので、思いっきり撫でくり回す。


 少し前までサラの過去を聞いていたから、感情の落差が激しいな。


「サクラ。俺とジーナ達でサクラのお土産を買ってきたよ」


「あう!」


 お土産って言葉に、サクラのテンションが急上昇する。いつの時代でも、たとえ別の世界であっても、お土産って言葉は凄い力を持っているな。


 サクラが早く早くと服を引っ張るが、さすがに今からお土産を広げるわけにはいかない。


「サクラ。まだみんなに挨拶が終わってないからその後にね。ベル達と遊んでいて」


「むー」


 サクラが不満そうな言葉を残して飛んでいった。赤ちゃんなのに感情表現が豊かだよな。あれ? 赤ちゃんだからこそ感情表現が豊かなのか? まあ、どっちでもいいか。


「みんな、ただいま」


 出迎えてくれた、ディーネ、ノモス、ドリー、イフ、ヴィータに帰りの挨拶をする。普段なら真っ先にディーネが話しかけてくるんだけど、サクラが突っ込んできたから、待機して見守っていたようだ。こういうところはお姉ちゃんっぽいな。


 そういえば、ルビー達も普段なら1人か2人は出迎えてくれるんだけど、今日は忙しいのかな?


「俺がいない間、変わったことはなかった?」


 ちょっと不思議に思いながらもみんなに挨拶を終え、いなかった間の楽園のことを聞く。


「ふふー。楽園はあんまり変わらないけど、裕太ちゃんが居ない間も酒島が大人気よー。今もルビーちゃん達が助っ人に出たり、お姉ちゃん達も手伝ったりしているわー。裕太ちゃん。ブラックちゃんから、従業員の追加要請が出ているわー。お店も増やしたいんだってー」


 酒島が大人気か。契約している大精霊達を見れば、理由を聞かなくても理解できるな。ルビー達がここにいないのも、酒島を手伝っているからか。


「でも、なんでそんなに忙しいの? 人数制限はしているはずだよね?」


 精霊貨での購入制限もあるから、そんなに長居はできないはずだよね。


「沢山の種類の酒があるから、どれを飲むか悩んだり、ついでにルビーの飯を楽しもうとしたり、酒を飲んだ精霊から味の感想を聞こうとしたりで、結構混乱しているな」


 俺の疑問をイフが簡単に答えてくれた。そっか、お酒だもんね。普段の精霊は常識があるけど、お酒が絡むとシルフィ達も人格が変わる。それが大人数でやってくるんだから、混乱も起きるだろう。俺が居た時に問題が起こらなかったのは、俺に遠慮してたのかもしれないな。


「……とりあえず、従業員とお店の追加は了解したよ。混乱が起こらないように上手くやってくれるなら、酒島を自由にしていいってブラックさんに伝えて。それと、精霊の村や子供達に悪影響が出るようなら、酒島自体を楽園から追放する可能性があることも一緒に伝えておいてね」


 俺に酒島まで面倒を見るのは無理だから、ブラックさんに丸投げしてしまおう。お酒に関して精霊達はあまり信用できないが、酒島の追放という、お酒を人質にとった枷をはめておけば、逆に信用ができるから大丈夫なはずだ。


「あはは、酒島の追放か、それならブラック達も上手に酒島を運営すると思うよ。裕太も精霊のことがよく分かっているね」


 話を聞いていたヴィータがお墨付きを与えてくれた。この方法なら問題がないようだな。おっと、ベル達と遊んでいたサクラがこっちを見ている。お土産が待ちきれないようだ。あんまり待たせると可哀想だし、家に入ってお土産を渡すか。


 その前に、しっかりお留守番をしてくれた様子のディーネ達にも、酒樽を渡さないとな。


 ***


「じゃあ、お土産を発表します」


 リビングに入ってからワクワクしっぱなしのサクラを落ち着かせ、お土産の授与式を開催する。


「まずはシルフィが選んだお土産だね」


 サクラにお土産を渡す順番は、シルフィ、ジーナ達、俺ってことにした。俺が最後なのはハードルが上がりそうで嫌だったんだけど、シルフィはすでにお庭で宴会を始めたディーネ達の方に意識が向いているので1番。


 俺とジーナ達はどちらが先でもいいかと思っていたんだけど、俺の場合はベル達のお土産も含んでいるから大騒ぎになることが予想される。そうなると収拾がつかないので最後ってことになる。喜んでもらえなかったら大ショックだな。


「サクラもハンドベルが気に入っていたようだから、私はこれにしたわ。サクラ、大切にしてね」


 シルフィが渡したのは飾り紐がついた、綺麗な鈴。シルフィがこれを選んだ時に、子供には音が出るおもちゃだったって敗北を感じたんだよね。


「あうー」


 サクラは予想通り、紐をぶんぶんと揺らして鈴を鳴らして大興奮だ。喜ぶサクラを見たシルフィは、穏やかな雰囲気でサクラを一撫でした後、スッとリビングから出ていった。カッコよく去っていったけど、向かう先は宴会なんだよね。


「サクラ。お土産はまだあるから、落ち着いてね。次はジーナ達だよ」


「サクラ。あたし達は一緒に選んだんだ。身に着けるものだからこっちに来てくれ」


 ジーナがサクラを呼び、それぞれに選んだ物をサクラに装着していく。全員で統一したものを渡すのはいい方法だけど、俺はちゃんと見ていた。ジーナがあたふたして混乱していたのを、サラ達に救われた形だった。俺も救ってほしかったから羨ましかったんだよね。


 ジーナの言葉にサクラが嬉しそうに近づいていく。近づいてきたサクラをジーナ達が取り囲み、キャッキャしだした。


「よし、サクラ。師匠に見せてくるんだ」 


「あい」


 ジーナに言われてサクラが俺の方に飛んでくる。満面の笑顔だけど、あの笑顔を曇らせないように褒めないと駄目なんだな。プレッシャーが凄い。


「みて」


「うん。みんなのお土産、よく似合っているよ。お花で統一していて、精霊樹のサクラにピッタリだね」


 精霊貨を利用してビーズクラフトのように花をかたどったアクセサリー。髪飾りとペンダント、アンクレットにブローチ。少しキラキラし過ぎな気もするが、赤ちゃんが親に無理やり飾り立てられたような微笑ましさがある。


「うきゃ!」


 ……なんかサクラが猿みたいな声を上げて笑った。可愛らしいからいいんだけど、なんでそうなったのかが疑問だ。


 もしかしてモフモフキングダムの小猿と仲良くなったりしているのかな? 俺も玉兎はなんとか仲良くなれたけど、小猿やモモンガは姿すらなかなか見られないんだよな。


 あれ? サクラがまだ俺の方をみて目をキラキラさせている。もしかしてもっと褒めろってこと?

 

「よーし、最後は俺のお土産だ」


 これ以上感想を求められても困るので、俺のお土産を渡して気を逸らそう。魔法の鞄からサクラの為に選んだ兎のヌイグルミ(本物の毛皮)を取り出し渡す。


「うさぎ!」


 渡したヌイグルミをギュッと抱きしめて顔をうずめるサクラ。どうやら気に入ってくれたようだ。


「ほら、ベル達とふくちゃん達の分も買ってあるんだ。好きなのを選んでいいよ」


 周囲でプカプカ浮かびながら興味深げに見ていたベル達とふくちゃん達に声を掛け、魔法の鞄の中から次々とヌイグルミを取り出す。


「きゃふー」「キュー」「もふもふ」「クー」「つよそうなのはあたいのだぜ!」「……」「「ホー」」「プギュー」「わふ!」「……」「お姉ちゃんもかわいい子が欲しいわー」


 ヌイグルミの山に突っ込み、自分の好みのヌイグルミを探すちびっ子達。うーん、ベル、トゥル、フレアは分かるんだけど、他の子達は存在がヌイグルミみたいだから、ヌイグルミの種類が増えたようにしか見えない。


 ん? なんでお酒を飲んでいたはずのディーネまで、ヌイグルミ選びに参加しているんだ?


 ……ディーネのことを深く考えると混乱するだけだな。ヌイグルミは雑貨屋に卸すつもりだから数は余分にある。1つくらいディーネに渡しても問題ないだろう。


 ディーネの生態について深く考えることをやめて、ワチャワチャとヌイグルミと戯れているベル達を見守っていると、兎のヌイグルミを抱きしめたサクラがふよふよと飛んできて、俺の目の前で止まった。


「あいがと!」


 なんだこのあざと可愛い生き物は。いや、本当に幼いらしいから、あざとい計算ではなくて天然で可愛いのか。あまりにも可愛かったから裏を疑ってしまった。


「どういたしまして。気に入ってくれたみたいで良かったよ」


「あい」


 そういえば、この子の持ち物が増えたってことは、収納する場所が必要になるな。ベル達と仲良しだし、部屋は子供部屋でいいから、サクラ用の宝箱を設置しよう。サクラは何の宝箱を選ぶんだろう? 精霊樹の意識体だから、木の宝箱が本命っぽいな。


 ……いかん。キッカがヌイグルミを羨ましそうに見ている。お土産って考えていたから、ジーナ達にヌイグルミって考えがスッポリ抜けていた。


 小さな女の子=ヌイグルミといっても過言ではない公式なのに、俺のバカ。……幸い、ヌイグルミは沢山あるから、今からでもプレゼントしよう。忘れてなんかいなかったよ的な雰囲気が大切だ。


「ヌイグルミは沢山あるから、ジーナ達も選ぶといいよ」


 さりげなくヌイグルミ選びに参加を促すと、サラとキッカが嬉しそうにヌイグルミの山に駆けていった。気がつかなかったけど、サラも気になっていたんだね。


「ジーナとマルコは選ばないの?」


「あたしはヌイグルミにあんまり興味がないからいいよ」


「おれもぬいぐるみは、よくわかんないからいらない」


 まあ、予想通りといえば予想通りか。少年の頃はヌイグルミとか、女子供の物だって敬遠しちゃうんだよね。ジーナは少年の感性と似通っているから、マルコと同じ判断になるのは頷ける。もっとマーサさんに鍛えてもらわないとな。


読んでくださってありがとうございます。

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