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四百三十一話 サラの過去

 冒険者ギルドで発見した罠っぽいサラのお兄さんの依頼が本物で、しかも、冒険者になっていて、ある程度安定した生活を送っていることが分かった。ゲームだと、重要なイベントを取り逃した気分だ。


「ねえサラ。サラの過去は聞かないようにしていたんだけど、お兄さんのこともあるし、話せることだけでいいから教えてくれる?」


 楽園への帰り、空を飛んでいる間にちょっとデリケートな質問をしてみる。マルコとキッカは空の旅に慣れたのか寝てしまっているし、聞いているのは俺とシルフィとジーナだけで、悪くないタイミングだ。まあ、空だと逃げられないって一面もあるけど……。


「……はい。といっても、急なことでしたので、私も詳しく把握していないのですが大丈夫ですか?」


「うん。サラの目線で分かったことだけでいいよ。無理して辛い話はしなくていいからね」


 いくら大人っぽいサラでも、かなり辛そうな話だから泣いてしまうかもしれない。俺には子供をなぐさめるスキルはないので、ジーナに期待している。


「大丈夫です。今は幸せですから」


 サラって時々、グッとくることを言うよね。大人になったら周囲の男達を振り回しそうだ。


 ……一瞬、将来サラに振り回される男達に同情しそうになったけど、俺の弟子を持っていく男なんだよな。ガンガンに振り回されて苦労してほしい。


「えーっと、幸せならよかったよ。でもまあ、辛くなったらジーナがなぐさめてくれるから、無理をしないように」


「あたしがなのか? ……まあいいや。サラ、辛くなったら抱きしめてやるから、無理するなよ。あたしの胸で泣け」


 ジーナ。男前だな。俺もあの豊かな母性の中に飛び込んでいきたい。辛い話をすれば抱きしめてなぐさめてくれるんだろうか?


 ……辛い話を思い出そうとしたが、平和な日本での出来事、こちらの常識ではそこまで辛そうに思えない。


 黒歴史は話したくないし……この世界に来ちゃって家族や友人と会えないくらいしか同情を引けそうにないが、サラの方が波乱万丈っぽいのに俺が泣くわけにもいかない。難しいな。


「ふふ。いざとなったらお願いします。逃げ出す前までは、手紙に書いてあったくらいしか分からないので、逃げ出してからの話をしますね」


 逃げ出す前の話は、余裕があればサラのお兄さんに聞けばいいか。サラが大丈夫なら、辺境伯家自体にはそこまで興味はない。


 ちょっとドライなことを考えていると、ついにサラが過去の話を始めた。


 ***


「といった状況でスラムで生活をすることになりました。スラムでの生活は……厳しい生活でしたけど、マルコとキッカもいましたし、ジーナさんにもご飯を分けてもらえましたので、なんとか大丈夫でした」


 あれだけガリガリに痩せていたのに、大丈夫ってことはないよね。


「うぅ、サラ。辛かったんだな!」


 サラの話を聞いたジーナが大泣きでサラを抱きしめている。本来なぐさめられるはずのサラが、苦笑いをしているのがシュールだ。俺としても、危うく涙腺が決壊するところだった。なんとか我慢しているが、目はうるんでいるだろうな。


 サラの話をまとめると、こんな状態だったらしい。


 父親が戦争で亡くなり、辺境伯家は慌ただしい状態だったそうだ。そんな中、突然兄に呼ばれて告げられたのが、辺境伯家が逆賊になったという話だった。


 サラはお兄さんに、戦争に出た辺境伯軍は拘束されていて戦場から戻れず、抵抗のしようもない状態なので、すぐに逃げないと捕まったら殺されると言われ、急遽、護衛の3人と夜陰に紛れて逃亡したらしい。


 ろくな準備もと手紙に書かれていたが、それでも貴族の家柄。宝石や貴金属、エルトも十分に用意されていたそうで、最初は資金的にはそこまで苦労はしなかったそうだ。


 逃げている辺境伯の領地も、敵国と接しているからこそ善政を敷き、領民に慕われていた。土地勘もあることから領民に助けられながら安全に移動できたそうだ。その頃は、サラもすぐに誤解が解けて家に帰れると思っていたらしい。


 厳しい状況ではあったが、少し余裕がある旅は別の貴族の領地に移動したことで、劇的に変化したそうだ。辺境伯家の壊滅という噂とともに、逃亡したサラやお兄さんの手配も広まり、屋根のあるところで眠ることすらできなくなる。


 野宿を繰り返し、ボロボロになりつつもハウライト王国の国境にたどり着き、そこで事件が起こった。


 当時のサラは理解できていなかったそうだが、グンターが裏切られたと悲しそうに言ったことを覚えていて、推測を話してくれた。


 おそらく辺境伯家と付き合いがあった貴族で、グンターさんはその貴族を信用して、無事に国境から抜けられるように依頼をした。元からその貴族を頼るために移動していた節があったそうで、よっぽど信用していたらしい。


 ただ、結果は裏切られていて、約束の場所に行くと兵士に囲まれたそうだ。そこで、手紙に出ていた護衛のリュードとエリンが大暴れをして、グンターさんがサラを抱えて逃げ出したらしい。


 それから2人に会っていないそうなので、捕まったか殺されたのだと思うとサラが辛そうに話してくれた。


 その後は、誰も信用できないと考えたのか、裏の社会に繋ぎを取って、高額の料金を取られながらも国境から逃がしてもらったそうだ。グンターさんが最初からこうしておけばと、ずいぶんと後悔していたらしい。


 ようやくハウライト王国を脱出したが、それでも安心はできずにクリソプレーズ王国まで2人で厳しい旅を続けたそうだ。


 ようやくクリソプレーズ王国の迷宮都市に落ち着き、2人でヒッソリと暮らせる小さな家を借りてグンターさんは冒険者になった。最初は安定した仕事を探していたようだが、どうにも上手く見つけられずに冒険者になったんだそうだ。


 その小さな家でサラとグンターさんはしばらく安定した生活を送っていた。


 家族という設定で家を借りたので、サラがグンターさんをお父さんと言ったら、恐れ多いからおじさんでお願いしますと言われたとサラが楽しそうに笑っていたから、小さな家でも幸せだったんだろうな。


 だけどその幸せも、グンターさんが迷宮から戻ってこられなくて壊れてしまう。サラの話ではグンターさんは強い人で、しかも利益よりも安全を優先していたらしいから、何かアクシデントがあったんだと思ったそうだ。


 かなり苦労してサラを守り通した人だし、サラを捨てるとは考え辛い。たぶん、サラの言う通りアクシデントがあって迷宮から帰れなかったんだろう。


 それで1人になってしまったサラは、グンターさんが帰ってくることを願いながら、グンターさんが用意しておいてくれた貯金で食いつないでいたらしい。


 節約はしていたそうだが、グンターさんの捜索依頼を出したり、家賃や生活費を払ったりで貯金もすぐになくなり家も追い出される。


 途方に暮れたサラが思い出したのは、追っ手に見つかった時の避難場所だったそうだ。いつもグンターさんが一緒にいられるわけではないので、何かあった時にそこに逃げ込む約束をしていたらしい。


 そこが、サラが住んでいたボロい家で、グンターさんを待ちながら生活して、マルコとキッカと仲良くなって、俺が来るまで持ちこたえていたんだそうだ。


 そう考えると、スラムでも迷宮のおかげでギリギリ生活できる迷宮都市を選んだグンターさんは、慧眼の持ち主だったのかもしれない。


 まあ、信じていた人に裏切られちゃったりしているから偶然っぽいけどね。いくら仲が良くたって、相手にも立場があるんだから逆賊として手配されているのに頼ったら駄目だ。


 下手をしたら、頼られた相手まで逆賊として連座させられる可能性があるもん。それでも信じられるって考えたのかもしれないけど、そこまで信じた人に裏切られたのは辛かっただろうな。


 それに加えて、裏切られた結果、仲間を2人失っている。俺なら確実に心が折れる状況だけど、裏社会に話を通して国を脱出。迷宮都市まで旅をして冒険者になるのか……メンタルが化け物だったっぽい。


 しかし、話を聞くと、サラって俺の何倍も苦労している。それだけ色々なことがあったからしっかりするしかなくて、今の妙に大人びたサラが完成したんだろう。悲しい話だ。


「ほら、ジーナ。サラが困っているから、そろそろ解放してあげて」


 サラの話を頭の中でまとめ終わっても、サラを抱きしめてグスグス泣いているジーナに注意する。


「だって、悲しいだろ。苦労しているのは知っていたけど、思っていた以上だったんだ。サラ、頑張ったな。偉いぞ!」


 サラをギュッと抱きしめて、泣きながらほめるジーナ。ジーナの実家はスラムの近くだったから、ある程度はスラムの実情を知っていただろう。でも、本当につらい話は、父親が排除していたっぽいな。


 ジーナって、ビニールハウスの中じゃなくて外で育てられてはいるんだけど、付きっ切りの庭師が一緒にいて、過保護に育てられたって感じがするな。


「ふふ。スラムではありふれた話です。私やマルコやキッカはお師匠様に拾われて幸せなんですから、もう大丈夫なんですよ」


 泣いているジーナをあやすサラ。話が始まる前は、抱きしめてあげるからあたしの胸で泣けって言っていたのに、全く逆になっているな。


 まあ、ジーナをなぐさめているサラも、過去に浸っている暇もない様子だし、これはこれでありだな。


「サラ、予定とは逆だけど、ジーナをなぐさめてあげて」


「ふふ、分かりました」


 ふぅ、サラのお兄さんに会いに行くのは確定だけど、グンターさんを裏切った相手はどうしたものかな。


 状況を考えたら裏切ってもしょうがないって内容なんだけど、そのせいでサラがしなくてもいい苦労をしてしまっている。ただ、そのおかげでサラが俺の弟子になったっていう一面もあるんだよな。


 こっちの世界でも、色々なところで人間関係が複雑に絡み合っていて難しい。国が滅んだんだから生きているか分からないけど、生きているなら嫌がらせくらいするべきか?


 でも、そうなるとサラは復讐を望んでいないから、単純に俺がムカつくから嫌がらせをするってことになるな。子供が我慢しているのに、俺がムカつくからって嫌がらせをするのも、人間が小さすぎて恥ずかしい。


 ……サラのお兄さんに会ってから考えるか。


comicブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』のコミック版15話が8/20日まで無料公開中です。よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] リュードとエリンの生死確認だけでもしとく?みたいな話にはならないんですね
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