四百三十話 手紙
ベル達の拘りにより、屋台巡りが思った以上に早く終わった。予想以上に時間が余ったので、マルコのリクエストで王都の冒険者ギルドに行くと、思っても見ないところからサラの過去を聞くことになった。
「特に情報制限はされていないようです」
情報制限がされてないの? ……これって怪しいよね。命を狙われているのに情報を隠していないとか、本名で依頼するとか、あり得ないことが多すぎる。罠と考えて間違いなさそうだ。
「では、詳しく教えてください」
「詳しくといっても、依頼主がヴィクトーさんという方で、時期は2か月前。依頼が出された場所がローゾフィア王国の冒険者ギルドの本部だということくらいです。あっ、ですが数か国にまたがって依頼を出されているようですね」
「他の数か国にも同じ依頼がされているとのことですが、迷宮都市ではその依頼を確認できなかったです。どうしてでしょうか?」
「この依頼は各国の王都に向けて出された依頼ですから、迷宮都市では確認できません」
ふむ……よく分からん。数か国ってことは、情報を秘匿せずにオープンで探しているってことだよね?
サラをおびき寄せたいなら、せめて王都だけじゃなくて、ある程度の都市にも依頼を出さないと、気づかれない可能性の方が高いんじゃ? 本気でサラを探していないってこと?
「どうかされましたか?」
俺が悩んでいると、受付嬢さんが少し気を使った表情で声をかけてきた。
「いえ、なぜ王都だけにしか依頼を出さなかったのかと思いまして」
「それは費用の問題だと思います。完全に相手の行方が分からない場合によくあるのですが、一番人が集まる王都に依頼を出して、探していることが伝わるのを願うんです。探す枠を広げれば広げるほど、依頼にお金が掛かりますから」
「なるほど……」
そうか。依頼を各地に伝えるのもタダじゃないんだ。そうなると、サラの敵は貴族だから依頼料が足りないってことは無いはずだ。もしかして本物のお兄さんの依頼?
いや、貴族が依頼料をケチっただけな可能性も……あぁもう、色々と可能性がありすぎてさっぱり分らん。罠だったら食い破るだけだし、直球勝負だ。
「あの、この子が依頼されているサラです。どうしたらいいですか?」
俺の陰で話を聞いていたサラを受付嬢に見せる。直球勝負な上に、ど真ん中に投げてしまった。
「……たしかに金髪碧眼で、年頃も一致していますね」
受付嬢が驚きもせずに話を続ける。もう少しリアクションがあってもよさそうだけど、この得にもならない依頼で、詳しい話を聞いてくるんだから、ある程度予想されていたんだろうな。
「では、質問させていただきます。サラ様の専属護衛のお名前は?」
「グンターです」
受付嬢が紙を見ながらサラに質問を始めた。本人確認のためなんだろうけど、メールのパスワードを忘れた時を思い出す。
紙に書かれたいくつもの質問をサラがよどみなく答えていく。おねしょは何歳までって質問にサラが沈黙を貫いていたが、これはデリカシーが無いな。悪ふざけか?
とはいえ、かなり詳しくサラのことを知っているみたいだし、本物のお兄さんの可能性が高まった。
「サラ様ご本人と確認されました。こちらにサインをお願いします」
どうやら本人と認められたようだ。サインをしたサラが受付嬢から小包を受け取っている。しかし、質問を聞いていて分かったが、サラのことで知らないことがまだまだあるんだな。好き嫌いが激しかったのは予想外だ。いまではなんでも食べるもんね。
「ありがとうございました」
小包が気になるし、どこか落ち着ける場所に移動するか。
「報酬があるのですが?」
帰ろうとしたら受付嬢に呼び止められた。そういえば、これって一応依頼だった。受けた覚えもないから忘れていたな。1万エルトをありがたく受け取り、冒険者ギルドを出る。
しかし、あれだね。普段、大金を飽きるほど貰っているのに、1万エルトっていう、妙に現実的なお金を貰うと、得した気分になるのが不思議だ。
(シルフィ。尾行は?)
路地裏に移動して、シルフィに状況を確認する。
「相変わらずなんの動きもないわ」
罠の可能性があるって思っていたけど、考えすぎだったか? とりあえず、小包を開ければはっきりするだろう。サラに小包を開けるように促すと、緊張した様子で小包を解きだした。
中から出てきたのは、1通の手紙と銀貨10枚。各国に手紙と銀貨を送ったと考えると、依頼料と合わせて、結構な金額が動いているな。
サラが手紙を持ったまま俺を見てきたので頷くと、緊張した様子で手紙を読みだした。
手紙を読み終わったサラが、涙を流しながら手紙を渡してくる。
「俺が読んでもいいの?」
「はい。本物の兄でしたし、酷い内容ではなかったので大丈夫です」
嬉し涙の様子だったから想像はしていたけど、本物のお兄さんからだったか。
「じゃあ、読ませてもらうね」
サラに断りを入れて手紙に目を通す。
親愛なるサラへ
サラ。この手紙を読んでいるサラが、どのような状況なのか私には分からない。幸せに暮らせていればいいが、身を隠して生活しているのだから、そう簡単にはいかないだろう。
兄として、サラを守ってやれなかったこと、辺境伯家を守れなかったこと、ろくな準備もできずに他国へ送り出したこと、本当に申し訳なく思っている。
グンター、リュード、エリンは頼りになる男達だが、彼らでもろくな準備が無いままに他国に出れば、サラを守ることで精いっぱいになると思う。今、サラが苦労しているのであれば、ろくな準備もできずに送り出してしまった兄の責任だ。恨まないでいてほしい。
私はサラと別れた後、付いてきてくれる者達と山に籠り、辺境伯家の再興を目的に活動を始めた。命がけでハウライト王国を守った父を、貶めた奴等が許せなかったからだ。
だが、乗っ取り騒動で手薄になった辺境伯家につけ込み、多大なダメージを与え撃退したはずのユナカイト王国が、再侵攻、あっけなくハウライト王国は滅びてしまった。
辺境伯家を乗っ取った貴族もその戦争で死に、国を取り戻すことも考えたが、バカな貴族に踊らされ、辺境伯家を裏切った祖国には愛想が尽きた。今は遠縁を頼り、ローゾフィア王国に身を寄せている。
さすがに爵位を得ることは叶わなかったが、付いてきてくれた部下達と共に冒険者のクランを立ち上げた。ランクを上げ、いずれは爵位を得てシュティール家の再興を成し遂げるつもりだ。
サラが今、どのような状況なのかは分からないが、辛い状況であれば同封した銀貨を使って、連絡をしてほしい。ローゾフィア王国の王都の冒険者ギルドに手紙を送れば、私に届くはずだ。
サラが今、幸せだったなら、同封した銀貨はサラが自由に使ってくれ。少ないが、兄からのお小遣いだ。
もし、幸せか幸せではないかと迷うような状況であれば、3人とよく話し合って今後を決めてほしい。こちらは贅沢できるほどではないが、十分にサラ達を養うことができる成果を上げているし、また一緒に暮らすことができれば、私は嬉しい。
グンター、リュード、エリンへ。
サラを守ってくれたこと、言葉では言い表せないほどに感謝している。上にも書いた通り、悲しくもハウライト王国は滅びてしまった。
私はシュティール家の再興を目指すが、3人にもそれぞれの考えがあるだろう。何か知りたいことがあれば、手紙で連絡してほしい。
十分な報いを与えられず申し訳ないが、今しばらくサラのことをよろしく頼む。
ヴィクトー シュティール
……サラの祖国が滅びていた! 敵の貴族も討ち死にしているようだし、それなら本名で情報管理もせずに依頼を出すよね。色々と納得しました。
うーん。お兄さんは冒険者として活動しているみたいだし、サラには3人の護衛が付いていたようだ。色々と新事実が発覚したが、俺はこれを読んでどうすればいいんだ?
サラのお兄さんがピンチなら助ける。敵の罠だったら食い破るとしか考えてなかったから、冒険者とはいえ、微妙に平穏に暮らしているのは予想外だった。
……もしかして、サラと出会ってからすぐにサラの過去を聞き出すのが、正しい主人公ルートだったのか? そこからなんやかんやあって、サラのお兄さんを助けてハッピーエンド的な?
「えーっと、サラ。お兄さんが無事で良かったね」
「はい。ありがとうございます」
今までも常に気を張っていた訳じゃないだろうけど、兄の無事が確認できたのが嬉しかったのか、心の底から湧き上がったような綺麗な笑顔でお礼を言うサラ。今まで、表に出さなくてもずっと心配していたんだろうな。
「じゃあ、会いに行こうか」
身内が見つかったんだし、移動手段もシルフィに頼めばなんとでもなる。なら、会いに行くのは当然だよね。連絡が欲しいとか書いてあったけど、サプライズで訪問だ。
日本だと急な来客は嫌われるけど、感動の再会なら劇的な方が面白いから問題ない。ただ、サラを連れて行くと、お兄さんと一緒に暮らすことになる可能性が高いんだよな。
……リーさんやダークムーンさんなんかに弟子を奪われるなら抵抗するが、家族が一緒に生活するのであれば、邪魔ができない。
まあ、ジーナの場合は、家族との生活を邪魔しちゃう形になっているけど、あの家族の場合は、距離を置いた方が良さそうなので気にしないでいい。
「あの、兄は無事で問題が無いことが分かったので、急がなくても大丈夫です。サクラちゃんも待っていますので、時間がある時にお願いします」
そっか。サクラが待っているんだよな。サラをお兄さんのところに連れて行ったら、最低でも数日は滞在することになるだろう。
10日で帰るってサクラと約束したのに、しょっぱなから約束を破るのはまずい。でも、サラが大丈夫だと言っても、この状況で長く待たせるのも気まずい。
……妥協案だな。今日楽園に戻って、2日くらい全員でサクラに構い倒してから、サラのお兄さんに会いに行くか。
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