四百二十九話 人探しの依頼
ベル達の案内で王都の屋台巡りが始まった。最初の2軒は、変わり種だけどなかなか面白い串焼きで、3軒目は大人専用の屋台に案内されて、ちょっと困ってしまった。
(次の屋台は、誰が案内してくれるの?)
3軒目が不発だったから、次の屋台で気分転換をしたい。
「もうないー」
ベルがパタパタと手を振りながら残念そうに言う。無いってどういうこと? 歩いているだけでも結構な数の屋台を見たよ?
(どういうこと?)
「おんなじー」
うーむ、何が言いたいのかよく分からない。
「にたようなのたくさん。でも、しつがわるい」
困っているとトゥルがズバリと説明してくれた。しかも、どこぞの料理評論家ばりの辛辣さだ。
(えーっと、迷宮都市と同じような屋台がほとんどで、しかも素材の質が悪かったってこと?)
俺が聞くと、ベル達がその通りと頷いた。ベル達は俺が思っていたよりも、真剣に屋台を選んでいたようだ。
絞り込んで選んだ3軒の屋台。その最後がゲテモノだったのは勘弁してほしいが、見知らぬ素材を発見したと考えると侮れない。新しい場所に行く時は、B級グルメマップ代わりに、ベル達にお勧めの屋台を探してもらうのも面白そうだな。
「うーん。ベル達のお勧めの屋台はさっきので、お終いなんだって。予想以上に時間が余ったけど、何かしたいことはある?」
ジーナ達にベル達の屋台巡りが終わったことを伝える。今から楽園に戻ってもいいけど、せっかくの王都だし、もう少し観光してもいい気がする。
「あっ、師匠。おれ、おうとのぼうけんしゃぎるどにいってみたい」
王都の冒険者ギルド? そうか、まったく考えていなかったけど、俺達って一応、冒険者なんだよな。
うーん、もめごとが起こりそうな気もするが、俺もAランクの冒険者だからなんとでもなる。
グランドマスターに会うことになったりしたら面倒だけど、俺がどこか行きたいところがあるか聞いたんだから、それくらいは飲み込まないとな。
「分かった。じゃあちょっと行ってみようか。でも、王都の冒険者ギルドで何がしたいの?」
「いってみたいだけだけど、だめか?」
特に目的は無いようだ。まあ、この国の冒険者ギルドの本部なんだから、観光目的で顔を出すのも悪くないだろう。
***
王都の冒険者ギルド。立派と言えば立派だけど、迷宮都市の冒険者ギルドとあまり変わらないな。迷宮都市は冒険者ギルドが力を持っているから、それだけ立派ってことかもしれない。こんど、普通の町の冒険者ギルドを見に行くのも楽しそうだな。
少し拍子抜けした気分で、王都の冒険者ギルドの中に入る。
昼を少し過ぎた時間帯。冒険者ギルドの中には人があまりいないな。依頼を確認しているのが数人と併設の酒場に数人。もめごとは起こりそうにない。
しかし、少しは注目を浴びるかなって思っていたけど、だれも俺のことを知らないようだ。自意識過剰だったのかな?
おい、あいつ、Aランクの精霊術師だ。化け物みたいに強いらしい! 的にギルド内がザワザワするのを想像していたから、少し悲しい。
キョロキョロとギルド内を見渡すが、特に気が魅かれる物は見つからない。受付嬢が美人なのは気になるが、なんとなくエルティナさんを思い出してしまうので、注目するのは止めておこう。とりあえず、どんな依頼があるか確認してみるか。
ふむ。護衛依頼が沢山あるな。国の中心だから、移動が活発なんだろう。あとは王都内の雑用と、王都周辺の治安維持を目的とした魔物退治、草原や森での採取って感じか。迷宮での依頼が中心の迷宮都市の冒険者ギルドとは、依頼の系統が違うな。
あれ? サラがジッと真剣な顔で依頼ボードを見ている。何か気になる依頼があったのかな? サラの背後に回って依頼を確認する。
人探し依頼
報酬 1万エルト
探し人 名前 サラ
特徴 金髪碧眼
依頼者 ヴィクトー
凄くシンプルな依頼だな。これって依頼を受けさせるつもりが無いのか? 依頼料も1万エルトは安すぎだろう。だいたい特徴を詳しく書かないと、金髪碧眼だけではどうしようもないぞ。
(サラ。サラは同じ名前で金髪碧眼だけど、ヴィクトーって人を知ってるの?)
(兄の名前です)
サラのお兄ちゃん? 俺は何か問題があって、サラは孤児になったと思っていたんだけど、どういうこと? こんなに大っぴらに探してもいいの?
(えーっと、どういった状況か分かる? ここで話していても大丈夫なの?)
(分かりません。連絡を取り合う方法を決める時間もなかったので……)
サラも突然のことで混乱しているようだ。とりあえず、ここでジッとしているのはまずい気がする。
(シルフィ。ちょっと周囲に気を配っておいて。尾行が居たら教えてね)
「分かったわ」
シルフィに警戒をお願いして、ジーナ達を促して冒険者ギルドから出る。尾行を考えると、無目的に歩き回った方がいいな。
(シルフィ。尾行は?)
「尾行は付いてないわね。それと、冒険者ギルドでも怪しい動きはないわね」
えーっと、罠じゃないってことなのかな?
「サラ。怪しい人はいないみたいだ。詳しい話を聞かせてくれる?」
悲惨な過去を背負っていそうだったから、サラが話したくなるまで待つつもりだったけど、状況が動いたのなら詳しく聞いておかないと迂闊に動けない。
「はい。……ヴィクトーは兄の名前です。……私の父はこの国と仲が悪いハウライト王国の貴族で……」
覚悟を決めた顔のサラが、つっかえつっかえに話しだした。いいところの出なのは予想通りだったな。
……うーん。サラにとっては辛い話だろうけど、ファンタジーの世界ではありふれた話だな。
サラの父親はハウライト王国の辺境伯という、国境を守る結構偉い貴族だったそうだ。でも、戦争があって、辺境伯の戦死で辺境伯家は大ダメージを受けた。
そこを同じ国の貴族に嵌められて、家を乗っ取られたらしい。それで、辺境伯家の血筋が残っていると厄介なので、命を狙われることになり急遽バラバラに逃げたんだそうだ。
一緒に話を聞いていたジーナ、マルコ、キッカ、ベル達、ふくちゃん達が同情してサラを一生懸命なぐさめようとしている。ありふれた話だなって思ってしまった、自分の醜い心が浮き彫りになって辛いです。
こう、なんでもラノベでよくあるとか考えてしまうのは、ゲーム脳ならぬラノベ脳ってことなんだろうか?
「サラ。事情は分かったよ。それで、どうしたい? 大抵のことなら力になれるよ」
さすがに父親を生き返らせてとか言われたら無理だけど……無理だよね? 精霊や迷宮のコアに頼めば、なんとかなりそうなのが少し怖い。
まあ、生き返らせるうんぬんは置いておいて、サラの何か悲しい過去がありそうな雰囲気は、絶対にフラグだと思っていたから、介入する覚悟はできている。
「復讐を考えたこともあります。でも、お師匠様の力をお借りするということは、精霊の力を借りて復讐することになると思います。それは……嫌です」
サラさん? 君のお師匠様の力は精霊だけじゃないよ? 地味だけど開拓ツール無双だって、できないこともない。まあ、人に開拓ツールを振り回す度胸がないことが見抜かれているのかな?
「裕太。いい子を弟子にしたわね。やるなら綺麗に吹き飛ばしてあげるわよ」
シルフィがご機嫌だ。たぶん、精霊の力を復讐に利用したくないって言葉が嬉しかったんだろう。吹き飛ばす気満々だけどね。
ベル達、ふくちゃん達もサラの気持ちが響いたのか、サラに集まって力を貸すぜ的な雰囲気を醸し出している。
(シルフィ。ベル達もふくちゃん達も落ち着いてね)
気合が入っている精霊達を落ち着かせて、話を再開する。
「サラ。その気持ちをシルフィもベル達もふくちゃん達も喜んでいるよ。復讐をしたくないのなら、どうしたいの?」
「……兄が困っていたら、助けてあげたい気持ちはあります。でも、そうすると、戦いに巻き込まれるかもしれません。それに、あの依頼は罠かもしれませんし、どうしたらいいのか……」
サラって子供なのに、色々と難しいことを考えるよね。
「サラ。難しく考えすぎだよ。罠だったとしても、大抵のことは無傷でなんとでもなる。サラのお兄さんが困っているなら、資金援助や別の国に逃がすくらいは簡単だよ。戦いに関わらなければ問題ないよね」
サラのお兄さんが面倒なことを言い出したら、ガッリ親子みたいにさらって遠くに捨ててくればいい。ガッリ親子と違って、多めに資金を渡せばなんとか生活できるだろう。
「……お師匠様。お願いします」
少し悩んだサラが、俺に頭を下げてお願いする。
「任せておいて。とりあえず冒険者ギルドに、あの依頼のことを確認しに行こうか。罠だろうとなんだろうと食い破るから心配しなくていいよ」
なんか、可愛い弟子に頼られちゃって、俺もやる気がでちゃったよ。何かあったら、大精霊の全員召喚で蹂躙することも厭わないぞ。
***
「すみません。ボードに貼ってある人探しの依頼なんですが、詳細を教えてもらえますか? 依頼が出された時期や、依頼が出されている場所なんかも教えてもらえれば助かります」
冒険者ギルドに向かう途中で、依頼について新たな疑問が出た。サラが母国の敵対国であるこの国に居ることは、予想ができたかもしれないが、迷宮都市にはこの依頼は出されていなかったことをジーナ達が覚えていた。
訓練でほぼ毎日冒険者ギルドに行き、時間つぶしに依頼を確認していたので間違いないらしい。小さな村にまで人探しの依頼を出すのは難しいかもしれないが、大都市である迷宮都市に依頼が出されていないのは、ちょっと違和感がある。
まあ、俺がAランクのギルドカードを出した時の受付嬢の方が、違和感というか本物かどうかの不信感を持っている様子だけどね。
「あぁ、あの依頼ですね。調べてみますが、内容によってはお伝えすることができません。それでも構いませんか?」
当然だよな。聞いたらなんでも答えてくれる方が、情報管理がずさん過ぎて怖い。
「はい。よろしくお願いします」
受付嬢さんが紙束を取り出して、パラパラと調べ物を始めた。なかなか見つからない様子だけど、依頼を出された時期は結構前なのかもしれない。鬼が出るか蛇が出るかどっちだろう。
本日2019年8/9日。別の作品ですが『目指せ豪華客船!』の第1巻が発売されます。よろしくお願いいたします。
読んでくださってありがとうございます。