四百二十八話 王都屋台巡り
後半に少し下ネタと言えばいいのか、下品な表現が出てきます。
王都に観光に来て、ファンシーショップに突入。微妙に精神が削られたが、サクラが喜びそうなお土産も手に入ったし、雑貨屋に新しい商品も増えたから、頑張った甲斐はあっただろう。
「マルコ。ガッリ侯爵家の跡地は見に行けないみたいだよ」
ファンシーショップを出た後、酒屋に寄ったりしながら王都をウロウロ観光し、マルコが興味を示していたガッリ侯爵家の跡地をシルフィに調べてもらった。
シルフィが言うには、魔術師や精霊術師がガッリ侯爵家跡地で調べ物をしているらしい。
内容としては行使された魔法の威力、泉の水や急に生えた植物の採取、ガラス状になった泉の考察などで、結構な人数がウロウロしているようだ。そんな場所に犯人が弟子を連れてノコノコと見学には行けないよね。
「んー、ちょっとざんねんだけど、わかった」
言葉通りにちょっと残念そうではあるが、ものすごく興味がある訳ではなかったようで、すでに切り替えて周囲をキョロキョロと観察している。
……さて、やることが1つ減ったけど、まだベル達と合流するまで時間がある。これから何をしようかな?
お店で色々と聞き込みをしたが、教会や、遠目からお城が良く見える場所くらいしか観光地と言える場所が無いようで、王都をウロウロするだけで午前中が終わってしまった。
まあ、貴族街に入ることすら検問がある世界だから、観光地なんて整備されてないのはしょうがないんだろう。王様から貰った短剣を使えばガッリ侯爵家跡地やお城にも入れるけど、バロッタさんにお説教を受けた後に観光目的で短剣を使うのはちょっと微妙だ。
***
「いちばんはあたいだぜ!」
ベル達と合流すると、フレアが胸を張って宣言した。どうやら屋台を巡る順番もすでに決まっているようだ。やる気満々のフレアの後について、王都屋台巡りが始まった。
「ここだぜ!」
フレアが自慢げに指をさした先には赤みを帯びた串焼きが……前に激辛の串焼きを食べてのたうち回ったのを忘れてしまったんだろうか?
いや、違うな。激辛の串焼きは煙さえも刺激的だった。この屋台の煙はたいして目にこないし、いい匂いもする。この匂いは……トマトか。
屋台を覗いてみると、数種類の野菜が混じった赤い液体に焼く前のオーク肉が浸けられている。ケチャップが王都でも使われだしたようだ。
味付けは食べてみないと分からないけど、焼かれている串焼きはポークチャップに似ていて食欲をそそる。フレアはなかなか面白い屋台を見つけてきたな。まあ、色が赤っぽいから気に入っただけの可能性が高いけど。
「おじさん。串焼き、50本ください」
たとえ美味しくなくてもルビー達も喜ぶだろうし、変わり種は多めに買っておこう。
「は? えーっと兄ちゃん。50は多すぎじゃねえか?」
売れるなら売ればいいと思うんだけど、このおじさんは儲けよりも食べ残しが心配なようだ。マリーさんにも見習ってほしい心意気だけど、商売人としては心配だな。
いや、ケチャップを取り入れている時点で、商売のアンテナはちゃんとしているんだろう。自分の料理に拘りがあるタイプか。結構期待できそうだ。
「大人数で食べるので、問題ありませんよ」
「食いきれるなら構わないが、少し時間が掛かるぞ?」
「大丈夫です」
……ふむ。ポークチャップ風の味を想像していたけど、屋台料理で砂糖を使うのは採算が合わなかったのか甘みは無い。でも、その分を工夫で補い、様々な野菜の味で美味しく仕上がっている。料理人の技を感じて、感心してしまうな。
「おいしー」
俺が持っている串焼きにパクリとかじりついたベルが、モチモチホッペに両手を当てて喜んでいる。ベルもこの味が気に入ったようだ。フレアのドヤ顔が可愛い。
しかし、この方法はなかなか面白いな。ジーナ達は普通に串焼きを食べ歩きできるけど、ベル達は串焼きが宙に浮いてしまうので食べられない。
そこで俺が持っている串焼きにかじりつく方法を試してみると、ベル達のツボにハマったようで、メリーゴーランドのように順番に俺が持っている串焼きにかじりついてくる。
ただ、俺は契約している精霊が多いから串焼きが消えるペースが異常に速い。早食いのチャンピオンも真っ青なスピードで串焼きが消費されるので、注目されたら違和感を持たれそうだな。
ジーナ達もふくちゃん達に食べさせてあげているけど、こちらは人数が少ないから問題は無さそうだ。
「キューキュ」
1人2本分ほどのオーク肉を食べたところで、レインがヒレをパタパタさせてアピールしだした。次はレインのお勧めの屋台に案内してくれるらしい。まだまだお腹が空いているし、しょっぱなから迷宮都市とは違う料理が出てきたから、楽しくなってきたな。
でも、迷宮都市は美食都市として売り出そうとしているはずなんだけど、王都の方にケチャップを使った新しい料理が出ているのは大丈夫なのか? 計画倒れにならない?
「キュッ!」
迷宮都市のことが心配になっていると、レインがビシッとヒレで屋台を指した。ここがレインのお勧めの屋台なんだな。
ふむ。お肉の串焼きか。味付けは迷宮都市でもオーソドックスな、塩とハーブを多用するスタイルのようだ。これにレインの興味が魅かれたってことは、お肉が珍しいと考えて間違いないだろう。
「お姉さん。この串焼きはなんの肉を使っているんですか?」
屋台のおばちゃんに聞いてみる。
「うちの旦那が狩ってきた、熊肉だよ」
お姉さんだなんて嫌だねー的な返事を期待していたんだけど、普通に流されてしまった。お世辞だってまるわかりだったかな?
しかし熊肉か。日本で熊肉は食べたことが無いな。熊肉のカレーは聞いたことがあるけど、串焼でも美味しいんだろうか。うーん、ジビエって癖が強いイメージだから、ちょっと不安だ。
「とりあえず7本お願いします」
変わり種は多めに買っていこうって思っていたけど、熊肉の大量買いはちょっとハードルが高い。先に味を確かめておこう。
「キュ?」
レインが不思議そうに俺を見ている。7本じゃ足りないよって言いたいんだろう。
(熊肉は食べたことが無いから、先に味見するんだよ。美味しかったら沢山買おうね)
「キュー」
なるほどっといった様子で頷くレイン。レインを納得させたところで熊肉の串焼きを受け取り、ジーナ達に1本ずつ配る。俺はベル達の分があるから3本だ。
おばちゃんに食べる姿を注目されているようなので、屋台に背を向けて熊肉を口に入れる。
……おっ? 意外と柔らかいし癖も無い。ハーブで癖が消えているのもあるんだろうけど、想像していた熊肉と全然違う。これならラム肉の方が断然癖が強い。本当に熊の肉なのか?
ジーナ達も気に入ったのか美味しそうに食べているし、俺が持っている串焼きをメリーゴーランド方式で食べたベル達も、満足げに口をもごもごさせている。これは追加で買って帰らないとな。
「お姉さん。追加で50本お願いします。熊肉は初めて食べたんですけど、柔らかくて癖が無いので驚きました」
熊肉なのに結構サッパリ目のお肉って時点で、予想と全然違ったよ。
「うちの旦那の腕がいいんだよ。まあ、種類によっては癖が強い熊もいるけど、そっちはそっちで人気があるよ」
なんか機嫌が良くなったようだ。やっぱりお姉さんって言い方が露骨過ぎたんだな。自然にお姉さんって呼び掛けられるように練習しておこう。あと、50本って量には全然突っ込みが無かった。
「つぎはべるー」
美味しい熊肉を食べてご機嫌なベルが、ようやく出番だといった様子で俺達の案内を始めた。2件連続で美味しかったから、次の屋台の期待値も結構上がっている。王都の屋台、侮れないな。
「ここー」
ここ? ……笑顔全開のベルには申し訳ないけど、この屋台は大丈夫なのか? なんか普通の屋台と違って、路地裏の目立たない場所で屋台をやっている時点で、怪しい雰囲気がプンプンするぞ。
うーん、ベルの笑顔を曇らせる訳にはいかないから、買わずに帰るのも難しいか。とりあえず、情報収集をしよう。
「おじさん。この屋台は何を売っているんですか? 普通のお肉とは違いますよね?」
焼かれている肉も、見たことが無い形をしている。
「ん? ……あぁ、こういうとこは初めてなのか?」
「こういうとこ? えーっと、王都を見て回るのは初めてですね」
場所が関係あるのか? 屋台のおじさんが、ジーナ達をチラッと見た後、俺にこいこいと手招きをする。大きな言葉では言えない物を売っているのか? ますます怪しい。
(この路地は、まあ言ってみれば大人の店への近道なんだ。それで、ここを通る連中はこいつを1本食って元気になるって訳だ)
おじさんが下卑た笑顔で興味深いことを教えてくれる。要するに精が付く食べ物を売っているってことだな。それはジーナ達の前では大声で話せないよね。でも……精が付く食べ物なら俺も興味がある。スッポンとかかな?
(なんのお肉なんですか? って言うか効くんですか?)
(おう、これを食ったら体がカッカしてビンビンになるぜ)
ふむ、とても興味深い。まあ、俺の場合は溜まっているから、食べなくても問題無い。むしろ食べたら洒落にならないことになりそうだけど、情報だけは手に入れておきたいな。
(それで、なんのお肉なんですか?)
(オークだ。オークの金〇だよ)
……あぁ、ラノベとかで、精力剤の素材になったりしているよね。この屋台では切って串で刺して焼いているだけみたいだけど。おうふ、想像したらヒュンってなった。
さすがに今の状態でオークの金〇を食べる根性は無いな。もう少し歳をとってから考えよう。
しかし、迷宮都市にもそういった大人の店はある。なら、ベル達が迷宮都市でも同じような屋台を発見してそうなものなんだけど……屋台の形式をとっていないのか、オークの金〇の効果が眉唾でこの屋台が半分詐欺の可能性もあるな。
(ありがとうございます。ちょっと今の状況では買えませんね)
(あぁ、サービスしてやるから、女子供は置いてまた来な)
(あはは。ではまた)
少なくともこの国ではHなお店に行く予定はないので、この屋台に買いに来ることは無いだろうな。とりあえず、ここから離れよう。
「なんでーなんでー」
買わずにこの場を離れることを伝えてそそくさと移動すると、ベルがとてもショックを受けた顔で聞いてくる。
眉毛がヘニョってなって瞳がウルウルしているから、罪悪感がハンパない。だからといって、オークの金〇をジーナ達やベル達に食べさせる訳にはいかないだろう。
(……ベル。あの屋台の串焼きはね、大人しか食べたらいけない串焼きだったんだ。だからこの中で食べられるのは俺だけなんだよ)
「おとな? しるふぃもだめー?」
可愛らしく首を傾げて、恐ろしいことを聞いてくるベル。別に悪いことをした訳ではないのに、怖くてシルフィの方を見られない。
(うん。大人の男の人しか食べられない串焼きなんだ。とっても苦いんだって)
サラがピクッと反応して、ジーナの顔はキョトンとしている。普通逆だと突っ込みたいが、この話題をジーナとサラに振るのはセクハラだよね。
「むー。ざんねんー」
本当に残念そうなベル。でもまあ、比較的簡単に納得してくれたから助かった。苦いって言葉がポイントだったな。一瞬で興味が薄れたよ。
読んでくださってありがとうございます。