四百二十六話 王都観光
ダークムーンさんがマルコを教えることに決まり、その後、迷宮のコアに会いに行って廃棄予定素材を持っていき、若返り草をたっぷりと手に入れてマリーさんに届けた。そこからは改築中のマーサさんの相談に乗ったり、ジーナ達への女性としての教育を見学したり、ベル達と戯れたり、メルの工房を訪れたり、訓練を見学したりと、のんびりまったりした時間を過ごすことができた。
……マルコの訓練も見た目以外は普通の基礎だし、ちょっとその動きは美しくないとか言われているのが気になりはしたが、許容範囲内だろう。
少し心配なこともあるが、十分に英気も養えたし今日は王都観光だ。気合を入れてベル達の屋台巡りに付き合い、サクラのお土産を選ぼう。
「午前中、ベル達は王都で行きたい屋台を探しておいで。午後から一緒に買いに行くからね」
シルフィに王都の近くまで運んでもらい、今日の予定をざっとベル達に伝える。
「ふぉ。やたいさがすー」「キュキュー」「おいしいものたんさく」「クゥッ」「にくだぜ!」「……」
ベル達は屋台探索にテンションを急上昇させている。迷宮都市でもいまだに屋台を見て回っているし、ベル達にとって屋台探索はライフワークになっているのかもしれない。……まあ、単なる趣味だよね。
ん? ふくちゃん達もなんだかソワソワしているな。もしかしてふくちゃん達も屋台探索に行きたいのか?
「えーっと、ふくちゃん達も屋台探索に行きたいの?」
ソワソワしているふくちゃん達に聞いてみると、興奮した様子でコクコクと頷いた。
「ふくちゃん達がベル達と一緒に行きたいみたいなんだけど、構わないかな? それとも王都で一緒にやりたいことがあったりする?」
ジーナ達にふくちゃんの要望を伝えると、ジーナ達は快くふくちゃん達を送り出すことに決めた。その言葉に喜んでジーナ達の周囲を飛び回るふくちゃん達。ジーナ達には気配しか分かっていないけど、なんだか微笑ましい光景だ。
「ジーナ達は俺と一緒に王都観光でいい? 何かやりたいことがあるなら、護衛は付けるけど自由行動でも大丈夫だよ」
ふくちゃん達とのコミュニケーションも終わったので、ジーナ達のやりたいことも聞いてみる。ガイドマップがある訳じゃないから、ふわっとした質問だけど勘弁してほしい。
「あたしは師匠と一緒で大丈夫。サラ達はどこか行きたいところがあるか?」
「あっ、おれ、いきたいところある!」
ジーナとサラとキッカは特に思い浮かばなかったようだが、マルコは行きたいところがあるらしく元気に手を挙げた。基本的に同じ場所で生活しているのに、マルコだけ行きたい場所があるっていうのも、ちょっと不思議だな。
「どこに行きたいの?」
「えーっと、ガッリってやつの家」
「……なんでそんな場所に行きたいの?」
俺がガッリ親子ともめているのは分かっていたかもしれないけど、ジーナ達には詳しく話していないし、できるだけ耳に入らないようにしていたはずだ。
「リー先生がふしぎなばしょだっておしえてくれたんだ。なんかいちやできれいになったっていってた」
うーん、俺がやったってことは、少し情報に敏感な人なら想像はつくだろうけど、リーさんはどうなんだろう。マルコの言いようだと悪意があるようには感じられないから、深く気にしなくても大丈夫かな? 問題は、ガッリ侯爵家の家に連れていくかどうかだ。
バロッタさんは、俺を捕まえるつもりは無いって言っていたから、問題は無さそうではある。でも、ガッリ侯爵家を消滅させて半月くらいで、犯人が犯行現場に戻るみたいなことをしたら、挑発行動になりそうで怖い。
「貴族街だし、ちょっと騒ぎになった場所だから、俺達が近づいてもいいか分からないな。王都で情報を集めてから行くか決めてもいい?」
調査やらなんやらで封鎖されているようなら、近づくのはやめておこう。そもそも、たかだか半月程度で王都に遊びに来ること自体が問題だよね。ベル達を喜ばせることが目的だからしょうがないんだけど、あんまり目立たないようにしよう。観光だから光竜装備じゃなく、普段着で来たのは正解だったな。
「わかった」
「裕太。私は酒屋を巡りたいわ」
聞いてもいないのにシルフィが要望を伝えてきた。まあ、シルフィのお願いなら俺は力の限り頑張るけど、酒屋はどうなんだ?
「シルフィ。マリーさんのところでお酒はたらふく買ったから、王都にあるお酒はだいたい手に入れたと思うよ?」
国外のお酒はまだだって言っていたけど、酒島に卸しても十分な量のお酒を確保したから、酒屋を巡る必要はないと思う。
「裕太は乙女心が分かっていないわね。乙女は興味があるものを自分の目で選びたいものなのよ」
……乙女?
「裕太。何か言いたいことがあるの?」
可愛らしく首を傾げて聞いてくるシルフィ。目が笑っていなくて怖い。
「いや、シルフィが望むのなら酒屋ごと買い占めることも辞さないよ」
正確にはシルフィのご機嫌を取るためならだけど。
「ふふ。それも楽しそうだけど、他の人が困っちゃうわよ。程々でいいわ」
悪戯っぽく笑うシルフィの表情で察する。今、俺はシルフィに掌の上でコロコロと転がされたようだ。シルフィは俺の疑問を表情から素早く読み取り、ちょっと怒ったふりをすることで酒屋での買い物を約束させた。恐るべしシルフィ……いや、簡単過ぎるぞ俺。
「……了解。じゃあそろそろ行こうか」
簡単に転がされた自分に軽く凹みながら、城門の前の行列に並ぶ。あれ? 並んでいる人達が王都の騒ぎを噂しているんだけど、やっぱり混乱が収まっていない感じですか?
***
「師匠。王都の騒ぎって師匠のせいなのか? ガッリ侯爵の影響でどこぞの貴族がまた捕まったとか、貴族と関係が深い商会に手入れがとか、そこら中で噂になってるぞ?」
「あはは。ジーナ、こういうデリケートな話題の時は声を抑えようね」
王都の大通りで、普通に聞かないでほしい。斜め前を歩いていたおじさんが、こっちを振り向いた後、そそくさと離れて行っちゃったよ。通報とか……されないよね? バロッタさんが走ってきたりしたら、気まずすぎるよ。
(あっ、うん。ごめん。それでどうなんだ?)
うーん、マーサさんの教育も、まだまだ身についていないようだ。まあ、淑女教育って訳でもないんだから、しょうがないと言えばしょうがないか。
(無関係とは言えないかな。でも、俺だけのせいじゃないからね)
元々、俺はガッリ親子の悪事を王都中にばら撒くことだけが目的だったんだもん。それなのに、癒着やらなんやらで色々なところに飛び火しちゃっただけだ。悪いことをしていた貴族や商人が悪い。だから、師匠を疑いの眼差しで見てはいけません。
「サクラのお土産を探さないといけないから、みんなもサクラが喜びそうな物を見つけたら教えてね」
このまま話を続けると、弟子達から俺の人格に疑問を持たれそうなので話題を変える。
「なあ師匠。サクラのお土産って、何を基準に選べばいいんだ? 木が喜ぶ物がいいのか、それとも赤ん坊か喜ぶ物がいいのか、どっちなんだ?」
「んー、どっちもだね。沢山お土産を買っていこう。ジーナだけじゃなくて、サラ、マルコ、キッカもサクラが喜びそうな物をみつけたら教えてね。あと、お小遣いも渡すから、自分が欲しいものがあったら買うようにね」
サクラは精霊樹だけど赤ん坊でもある。どちらか一方に決めなくてもいいだろう。ジーナ達も張り切っているし、サクラのお土産は沢山になりそうだ。
俺もサクラが喜ぶお土産をみつけたい。まずは小物が売っていそうな雑貨屋を探そう。迷宮都市と商品が被っていることもあるだろうけど、王都ならではの商品もあるはずだ。
「あっ、ちょうどそこに雑貨屋があるし、見てみようか」
さすが王都。軽く見渡すだけで大きな雑貨屋を発見できた。なんだか幸先がいいな。
「うーん、なかなか魅かれるものが見つからないな。マリーさんの雑貨屋と商品が被りすぎてない?」
大きな雑貨屋を発見したから期待したんだけど、ガッカリ感が否めない。
「師匠。ポルリウス商会は大商会だから、王都の商品はだいたい仕入れているぞ。珍しいものが欲しいなら、独自で小さな工房と提携しているような雑貨屋か個人商店、一点物を扱っている高級店じゃないと無理だと思う」
「なるほど」
俺がガッカリしていると、ジーナがよさげなアドバイスをくれた。そういうことなら、赤ん坊に高級な一点物は違うから、個人商店か小さな雑貨屋が狙い目だな。自分で歩いて店を探すのも楽しそうだけど、あんまり時間もないからシルフィに面白そうなお店を探してもらうか。
***
「シルフィさん、ここなのですか?」
「なんで敬語なの? あと普通に話しているわよ。周りにジーナ達が居るから違和感はないでしょうけど、気をつけなさいね」
(うん)
そこらへんはちゃんと区別しておかないと、まわりに誰もいない時に失敗しちゃうから注意しないとな。でも、こんなお店が異世界にもあるんだって、ちょっとだけ動揺してしまった。
しかし、店構えは他と変わらないけど、内装や客層を見ると日本のファンシーショップを思いだす。なんだか年頃のお嬢さんがキャピキャピしていて、とっても入り辛い雰囲気だ。
「あら、サクラだけじゃなくて、サラやキッカも喜びそうだと思ってこの店にしたんだけど、気に入らなかった?」
(いや、ちょっと可愛らしいお店だから戸惑っただけだよ。大丈夫)
シルフィの言った通り、サラとキッカも興味深げに店を見ている。これならサクラも喜ぶ物が売っている可能性は高いだろう。
ジーナがこの店構えに逃げ腰なのは……性格上、しょうがないんだろうな。お店のお嬢さん方と一緒にキャピキャピしだした方が、逆に心配だ。
……ここでマゴマゴしてもしょうがないし、気合を入れて店に入るか。サラとキッカが入りたがったから、保護者としてしょうがなく店に入るって感じで行動しよう。
読んでくださってありがとうございます。




