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四百二十三話 癒しのひと時

 ジーナの両親にお願いに行くと、なんだか面倒な話になってシルフィにプレッシャーをかけられる事態になり、マリーさんの雑貨屋に行くと、若返り草の薬液が完成していてマリーさんとソニアさんが艶々になっていた。


「モチモチだねー」


 ベッドに寝転がって、ベルのホッペをモニュモニュしていると、思わず感想が声に出てしまった。


「もち?」


 俺の言葉に反応したベルが、不思議そうに聞いてきた。そういえば、お餅はこっちで見たことがないからベルには分からないか。今はまだ大丈夫だけど、お雑煮が食べたくなったら必要だよな。いずれドリーにモチ米をお願いしよう。


「そーだよ。ベルのホッペみたいな素敵な感触をモチモチって言うんだよ」


 なるほどっといった表情で頷くベル。たぶん理解できていないんだろうが、癒されるからOKだ。


「れいんはー?」


「キュ?」


 レインの感触のことかな? 名前がでて寄ってきたレインを撫でくり回してみる。


「レインはしっとりスベスベだね」


 改めて確認してみると、なかなか癖になりそうな手触りだ。


「しっとりすべすべー」「キュキュー」


 ベルとレインがなぜか喜んでいる。しっとりスベスベって語呂が気に入ったのかな?


「とぅるはー?」


 ひとしきりレインとはしゃいだベルが、次の質問をしてきた。今度はトゥルの感触を知りたいのか。


「ぼく?」


 話を聞いていたトゥルが、俺を不思議そうな目で見つめてくる。……普段は気にせずに褒めながら撫でくり回していたけど、感触を確かめるために少年を撫でくり回すってのは、弩級の変態じゃなかろうか? いや、それを言ったらベルやフレアを撫でくり回している時点でヤバいから、気にしないことにしよう。ここは異世界だ。


 何も考えずにこちらを見ているトゥルのホッペをモニュモニュしてみる。……うん、モチモチだね。若干の違いはあるんだけど、羨ましいくらいに素晴らしい肌質だ。若返り草の薬液なんか必要ないな。


 トゥルもモチモチだねって言えばいいんだけど、何故かちびっ子達が期待の表情で俺を見ている。おそらくこの子達は違う表現を期待しているんだな。トゥルの背後にタマモ、フレア、ムーンが並んでいるので、全員の肌質を表現しないと駄目なようだ。


「……トゥルは、トゥルントゥルンだね」


 もはや肌触りとか関係なくなって、単なる駄洒落みたいな表現をしてしまったが、ベル達は問題がなかったようで「とぅるんとぅるんー」とはしゃいでいる。ちょっとホッとした。


「ククー」


 タマモが、自分は? 自分はどうなのとじゃれついてきた。タマモは触るまでもないけど、触らない理由もないので撫でくり回す。


「うん。タマモはモフモフだね。特に尻尾のフワモコがたまらないよ」


「ククー!」


 喜ぶタマモにベル達が群がる。トゥルが「ふわもこ」とつぶやきながらタマモの尻尾をモフっている姿に、ちょっとだけ業を感じる。


「でばんだぜ!」


 次はフレアか。確認するのは構わないんだけど、こういう場合に出番って使うのは正しいのだろうか?


 ふむ……フレアのホッペも、ベルとトゥルと変わらないくらいにモチモチの素晴らしいホッペだ。なら、どう表現するかが問題だ。フレアの表情が期待に満ちているから、責任重大だな。


 モチモチとトゥルントゥルン、これに被らないでフレアが喜びそうな言葉。しかも、最後に残っているムーンのことも考えて言葉を選ばないといけない。


「……最強だね?」


「さいきょうなのか?」


 コテンと首を傾げるフレア。お肌の感触の話なのに最強といった言葉が出てきて、違和感を覚えているようだ。


「うん。最強だ」


「おぉ。さいきょうだーー!」


 俺が力強く言い聞かせると、納得したフレアのテンションが爆上がりして、最強のホッペをベル達に自慢している。


 ベルが「ふぉぉ。さいきょう」とか言っているけど、確実になんのことか理解していないな。レイン達も雰囲気で騒いでいる様子だ。


 言葉選びに詰まって、フレアの好きそうな言葉で押し通してしまったことに、少しだけ罪悪感を覚える。大人って汚いよね。


「…………」


 ムーンが俺の顔の前でプルプルと震えている。もう、見ただけで感触が想像できる。でも撫でくり回すけど。


「ムーンはプルンプルンだね」


 延々と触り続けられる感触だ。感触で考えると、最強はムーンだったかもしれない。まあ、フレアがショックを受けてしまうから言わないけど。


「…………」


 細かくプルプルしながらベル達のところに向かうムーン。ムーンは感情が分かり辛いけど、あの弾み具合は結構喜んでいるな。


 ベル達のすべての肌触りを品評し、やり切った充足感を抱えてベッドに寝転がる。


「ふふ、裕太。凄く優しい顔をしているわよ」


「そう?」


 シルフィが微笑ましいものを見る目で見ているけど、俺はそんなに優しい顔をしているのだろうか?


「あっ、でも、ベル達と戯れてから、心が軽くなった気がする。疲れていたのかな?」


 迷宮に潜った訳でもなく、激しい運動をした訳でもないんだけど……。


「そうかもしれないわね。リラックスできたのなら、ジーナ達が戻ってくるまで少し休んだら?」


 お昼寝と考えると少し遅いけど、まったり寝るのもいいかもしれない。


「じゃあ、ちょっと眠らせてもらうよ。ベル達をお願いね」


「分かったわ。裕太、おやすみ」


「おやすみ、シルフィ」


 ゆっくり目をつむると、何故かここ数日に起こった出来事が脳裏に浮かんできた。


 消し去ったはずの過去。女王様な俺。


 ブラックさんのお店でちょこっとだけ不埒なことを考えて怒られる俺。


 迷宮都市に到着早々、バロッタさんにお小言を言われてしまう俺。


 ジーナの両親との話し合いで精神を摩耗する俺。


 マリーさんとソニアさんと話していて、なんだか疲れている俺。


 ……あぁ、そうか。体が疲れていたんじゃなくて、心が疲れていたんだな。精霊達にも振り回されているけど、ジーナの両親、マリーさんとソニアさんコンビの相手が連続できたから疲れたんだ。


 若返り草の薬液のことでテンションが高いマリーさんとの、ジーナの両親の食堂の話し合い。精霊貨の換金に、迷宮のコアへのお土産の受け取り。他にも細々とした商談で結構大変だったもんな。


 それがベル達とのまったりほのぼのとしたコミュニケーションで癒されて、疲れた心が解放されたのか。


 ジーナの両親もマリーさんとソニアさんも、悪い人達じゃないんだよな。ただ、娘愛が強すぎるのと、金銭に対する欲望が強すぎるだけで……やっぱりあの人達は俺にとって悪い人なのかもしれない。まあ、そう考えて付き合えば心構えもできるか。スッキリしたらなんだか眠くなってきた。おやすみなさい。


 ***


 ん? なんか包まれている。目を開けるとベル達が俺の上で休んでいた。胸元にはベル。お腹の上にはタマモで、両腕にはトゥルとフレア。足の間にレインでムーンは……股間の上だな。


 ムーンの眠る位置は今後注意するとして、このパターンは久しぶりだな。楽園では子供部屋があるし、迷宮都市でもここ最近はジーナやサラ達の部屋に行かせていて、一緒に寝ていなかった。こういう癒しを自分で遠ざけていたからこその心の疲れか。


 ベル達をいっしょくたにするのはどうかとも思うが、アニマルセラピーって効果があるんだな。イルカとスライムをアニマル枠に入れてもいいのかもちょっとだけ疑問だけど……。


(裕太。起きたのね)


 ベル達に気を使ったのか、シルフィが小声で話しかけてきた。


(うん。ジーナ達は?)


(しばらくしたら帰ってくると思うわ)


 そんなにしっかり眠った訳じゃないようだ。体は疲れていないから、これくらいでも十分にスッキリしたな。


(ベル達を起こす?)


(いや、まったりするからこのままでいいよ)


 ベル達は寝起きが抜群にいいから、起こしてしまっても構わないんだけど、こういう状況も久しぶりだし、ゆったりと癒されよう。あっ、なんだかトイレに行きたくなってきた……。




「師匠。ただいま!」


 おっ、マルコが戻ってきたか。マルコの背後からまだ元気そうなキッカと少し疲れた様子のサラ。そして死にかけた雰囲気のジーナが部屋に入ってくる。


 マルコとキッカも今までは体力の限界まで搾り取られていたんだけど、慣れたのか、もしくはジーナとサラが加入して少し余裕ができたのかな?


 マルコ達の声で次々とベル達が目を覚ます。よし、トイレに行こう。ベル達を体の上からおろし、マルコ達にお帰りの言葉をかけてそそくさとトイレに向かう。結構ギリギリだった。



「師匠。リー先生がもう1人雇わないかって師匠に伝えてくれって言われた」


 トイレから戻ると、ジーナからリーさんの伝言を弱弱しい声で伝えられた。ジーナ、大丈夫かな?


「えーっと、どういうこと?」


「リー先生が言うには、武術仲間が子供の弟子を取ったリー先生を羨ましがっているんだって」


「羨ましい? 迷宮都市にも子供は沢山いるよね?」


 わざわざ俺に言わなくてもいい気がする。


「変な癖が付いていない、レベルが高い子供は貴重って言ってた」


 なるほど、いかに迷宮都市といえども、迷宮に入る子供は少ないよな。厳しい環境のスラムでもギリギリ生きていけるから、無茶な子供が少ないんだろう。


 それで、レベルが高いのに素人なジーナ達を弟子に取ったリーさんが羨ましがられているのか。


「うーん、その新しい先生に会ってから判断するけど、そもそもジーナ達は新しい先生が必要なの?」


「リー先生は、別に1人でも教えることはできるけど、教師がもう1人増えればじっくり基礎を教えることができるって言ってた。あたしとしては今でもキツイから微妙だけど、強くなるのなら基礎はしっかりした方がいいと思う。でも……」


「でも?」


 普段はスッパリと自分の意見を言うジーナが、歯切れが悪いのは珍しいな。


「えーっと、師匠。あたし達って精霊術師になるんだよな? なんだか思わぬ方向に鍛えられてて戸惑うんだけど?」


 ごもっともなご意見です。俺もマルコが接近戦に興味津々だし、体力作りにちょうどいいからって先生を探したんだよね。でも、魔法戦士、いや、精霊術戦士か? これはこれでロマンがあるから難しいところだ。


「うーん。精霊術師でも迷宮に潜るなら体力は必要だし、体術が使えるのも危機回避に役立つ。まあ、精霊術師としてではなく、冒険者として必要な訓練になるね。でも、精霊術師が本職なのは変わらないから、精霊術師としての訓練も頑張ってもらわないと困るけど……」


 下級精霊のベルの風壁でも破られるんだし、浮遊精霊のふくちゃん達だと、手札は多い方がいい。でも、精霊術師をやめられてしまったらとても困る。大人のエゴというやつですね。


「冒険者として……そうだよな。命が掛かっているんだし、得られる技術は貪欲に吸収しないと駄目だよな。師匠が会っていい人だったら、先生の追加をお願いしてもいいか?」


 どうやらやる気になってくれたらしい。リーさんにはジーナ、サラ、キッカの女性らしさが失われないように鍛えてってお願いしてあるけど、先生が追加された場合は、もう一度真剣にお願いしないと駄目だな。ムキムキなジーナ、サラ、キッカとか切なすぎる。マルコは……本人次第だ。


おそらくですが、7/9日にcomicブースト様にて『精霊達の楽園と理想の異世界生活』の14話が更新されると思いますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。

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