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四十話 訓練の成果

 リッチの砦に侵入して、肉壁となったゾンビやスケルトンは全て討伐した。後は広間に待ち構えている、リッチやその部下たちの討伐だけだ。


「ベル。トゥル。中はどうなってる?」


 少し離れた場所で待機して、ベルとトゥルに中を確認してもらう。キャッキャっと広間の中に侵入して行くベルとトゥル。暫くするとニコニコ顔で戻って来た。楽しかったらしい。


「中はどうなってた?」


「すけるとんとぞんび、たくさんいたー。それでいりぐちにこうげきしようとしてた」


 両手を大きく広げて沢山をアピールしている。とてつもなく微笑ほほえましいが良く分からん。


「おくにリッチがいた。そのとなりにゾンビとスケルトンのジェネラルがいた。メイジ。アーチャーたくさん。ナイトもたくさんいた。みんなこうげきじゅんびしてる」


 チラッとシルフィを見ると。頷いている。間違いないみたいだ。特にトゥルは頼りになる。ベルは……もうちょっと詳しく説明出来るようになってくれれば助かるな。


「ベル。トゥル。偵察ありがとう。おかげで助かったよ」


「えへー。がんばった」


「うん」


 取り合えずベルとトゥルを撫でていたら、レインが寂しそうにしていたので、レインも撫でる。結局事あるごとに全員を撫でている気がするな。


「シルフィ。間違いなく入り口に姿を見せたら、攻撃が飛んでくるよね。ハンマーと風壁で防ぎきれると思う?」


「リッチがどの程度の魔法で攻撃してくるかしだいね。ハンマーを前に出しておけば大抵の攻撃は防げるでしょうけど、用心はしておいた方が良いと思うわ。新魔法の出番ね」


 ……シルフィの期待通りの展開になっている気がする。口元がちょっと引きつってるし。厨二っぽいから出来れば使いたくない魔法なんだが、どうしよう。いっその事、ベル。レイン。トゥルに中で魔法乱舞してもらうか?


 でもそれだと、魔法開発した意味が無いし、シルフィの言葉でベル達も期待の目を向けてくる。しょうがないか。ファンタジー世界だ。厨二上等って事で頑張ろう。精霊以外誰も見て無いしね。見知らぬ人達の前だったら躊躇ためらうし、終わった後で身悶みもだえするんだろうな。


「ふー。ベル。レイン。トゥル。自然の鎧をお願い」


「がんばるー」


「キュー」


「まかせて」


 この魔法はベル達のお気に入りで、魔法を掛ける演出までも考えられている。出来れば普通に掛けて欲しいんだが、シルフィにそそのかされ気合を入れてベル達が考えてしまった。俺か精霊にしか見えないのに、この演出は意味があるんだろうか?


 魔法名も厨二満載の名前を押されたが、頑張って説得して自然の鎧に決定した。あそこで流されていたら、スーパーなんちゃらなんちゃらと言う名前が決定してたんだろう。俺、よく頑張った。


 ベル。レイン。トゥルが両手を突き出し、俺の周りをふわふわと浮きながらグルグル回る。みんな真剣な目をしているが、単なる演出で無意味な行為だ。あれか? 変身ヒーローにはポーズと名乗りが欠かせない! に近い感じなんだろうか?


「キュキュキューキュ(みずのころもを)」


「いわのよろいを」


「かぜのまんとを」


「「「しぜんのよろい(キュキュキュ)」」」


 ここが見せ場だとでも言うように、声を張り上げるベル達。その言葉と同時におっさんに片足を突っ込んだ俺に、魔力の光がからみついて来る。


 そして最後に全員の声で自然の鎧と唱えると、絡みついて来た魔力がそれぞれの属性に変わり、薄っすらと輝く鎧が俺に張り付いた。シルフィは大満足なのか、しきりに頷いている。


 切っ掛けはシルフィが言った裕太って防具が無いわよね。だった。確かにこの世界に来てチノパンと長Tで生活している。洗浄で清潔は保っているが、少しボロくなっている。


 そこで防御なら硬度がある岩だと思い、トゥルに魔力を込めた岩で鎧を作って貰ったが、重くて何とか歩ける程度で良い的だ。


 岩の鎧は急所だけ覆う軽鎧仕様に変更し、空いている部分は薄く光る魔力がこもった、レインの水で覆う事になった。岩も水も精霊が魔力を込めたからか、薄っすらと光を放ち、微妙に恥ずかしい。


 ここで終わればまだ良かったが、ここでベルの初めてのワガママが炸裂さくれつした。俺の鎧に自分の風も絶対に入れて欲しいそうだ。風壁を掛けるから鎧に入っていると言っても納得しない。


 度重たびかさなる議論の末、魔力を込めた薄っすらと輝く風のマントが出来上がった。俺はせめて風の盾でお願いしたかったが、ベル達に加えシルフィまでもが風のマントを押して決定されてしまった。


 結果。きらめく水の服に煌めく岩の鎧を着て、煌めく風のマントを羽織る異世界人が誕生した。シルフィが何故か大喜びだ。


 ベル達もカッコいいとキラキラした瞳で褒め称える。俺は光る鎧を着ても映える顔立ちでは無いのが分かっているので、出来ればこの鎧を使う機会がない事を祈っていた。


 そう考えていた俺は現在、暗いリッチの砦の中。薄く光る自然の鎧を身に纏っている。とても目立つ。


「ゆーた。かっこいいー」


「キュキュー」


「すごい」


「ぷふっ。……うん。裕太、似合ってるわよ」


「あ、ああ。……ありがとう」


 おそらくシルフィはこの姿で戦う事を期待して、中まで付いて来たんだろう。とても楽しそうだ。……まあいい。防御力が飛躍的に上がったと、シルフィのお墨付きを得ているんだ。さっさと倒して終わらせてしまおう。


「ベル。風壁もお願いね」


「はーい」


 ベルが風壁と唱えると一メートルぐらい離れて、俺を囲むように風のまゆが出来上がった。この風壁も最初は俺の武器にも反応する、ピーキー仕様だったのだが、改良を重ねて俺の攻撃には反応しないようになった。理屈は分からない。


「ありがとうベル。じゃあ今から中に入るから、俺が危険な時や、倒せない相手が出たらフォローをよろしくね」


「まかせてー」


「キュー」


「まもる」


「うん。お願いね。じゃあ行くよ」


 取り敢えず用心の為に入り口に近づき、ドンと収納していた岩を置いて素早く離れた。音がした瞬間大量の魔術や矢が降りそそぎ、みるみる間に岩が粉々になる。


「うわー。普通に入るとあの攻撃が来るんだ。防御を強化しておいて良かったな」


「そうね。でもどうするの? 結局は入ろうとしたら、あの攻撃が来るわよ? 今の防御力なら大丈夫だと思うけど、突っ込んでみる?」


 嫌です。でもどうしたものか……。


「シルフィ。矢は使ってたら無くなるだろうけど、アンデッドって魔力切れになる?」


「メイジは何度も魔術を使っていれば魔力切れになるけど、リッチは魔力は豊富だから難しいわね」


「そうか。まあメイジだけでも魔力切れを狙ってみるよ。矢も切れてくれたら嬉しいな」


 もう一度岩を入り口に岩を置いて直ぐに退避する。先ほどと同じように岩が粉々になる。何回付き合ってくれるのかな? 出来れば痺れを切らして、陣形を崩してくれたらありがたいんだけど。三回目の岩を置いて直ぐに退避するが、攻撃が来ない。


「シルフィ。あれぐらいで魔力が切れるかな?」


「あれぐらいでは無理ね。攻撃の陣形も崩していないから、敵かどうか見極めて攻撃するようにしたんじゃない?」


 だよねー。愚直に攻撃を繰り返してくれても良かったのに。知性があると対策はとるよね。どうしたものか……。バカ正直にあんな攻撃が降りそそぐ所に、たとえ大丈夫だったとしても突っ込みたくない。


「うーん。そうだ! シルフィ。岩を攻撃していたんだから、俺の正確な位置は向こうに分かっていないんだよね?」 


「そうみたいね。索敵出来る能力は持っていないんだと思うわ」


 それなら大丈夫だな。シルフィに敵の詳しい配置と間取りを聞いて、隣の部屋に移動する。魔法のノコギリを出して、音がしないように壁に切れ目を入れる。


「あら。良い考えね。何も馬鹿正直に真正面から入る必要も無いんだから、警戒されていない所から突入するのね」


 シルフィの言葉を頷く事で肯定する。さて、ここから入れば驚くはずだ。一気に乱入してぶっ叩こう。最大の大きさにしたハンマーを振りかぶり、横から切り離した壁に全力で打ちつける。


 轟音が響き渡り、壁の破片が中にいた敵に吹っ飛んで行く。それと同時に俺も突入して、外側を固めているゾンビナイトやスケルトンナイトを、ハンマーで弾き飛ばしながらリッチ目指して突っ込む。


 さすがキングと並ぶレベルだ。スケルトンだけでなくゾンビもいて、ナイトが分厚く固まっている。混乱から立ち直る前にリッチまで一気にだどり付きたい。


 全力で前に進み、ナイトを抜けて、アーチャー、メイジを弾き飛ばし、リッチに向かって一気にハンマーを振り下ろそうとすると、左右から同時に槍が突き出された。


 慌てて転がって攻撃を避ける。風壁に槍先が当たって攻撃が弾かれるのをみて、そのまま突っ込めば良かったと歯噛はがみをするが、その隙にリッチが肉壁の奥に隠れてしまった。


 この前のジェネラルと言い今回のリッチと言い、直ぐに肉壁の後ろに隠れて面倒この上ない。イラッとして攻撃して来た相手を見ると、スケルトンジェネラルとジェネラルゾンビだった。


 やっぱり上のランクだと対応が早いのか? 止まってしまった事で敵に囲まれてしまった。このまま止まっていたら一斉攻撃が来るな。先にジェネラルを潰そう。


 ハンマーを振りかぶり全力で突っ込む。スケルトンジェネラルもジェネラルゾンビも槍を突き出して来るが、風壁で弾かれたのを見ていたので今度はかわさない。


 風壁が槍を弾いたところを狙ってハンマーを横薙ぎに振るい、両ジェネラルをまとめて弾き飛ばし始末する。


 そのまま自分の防御力を信じてスキル、ハンマー大回転を使う。巨大なハンマーが俺を中心にしてグルグルと回転しだす。


 ……スキルの影響で目は回らないが高速回転しているハンマーに巻き込まれて、ミンチになって弾け飛ぶゾンビがエグイ。回転しながら敵を巻き込み移動して包囲から脱出する。ちょっとふらつくが問題無いな。


 しかし二回連続の特攻失敗か。この前のジェネラル戦まで、突っ込めば大体主まで倒せてたんだけど、知性があると突っ込むだけでは無理なんだろうな。


 どうしよう、また地道に削るのか? 正直数が多いし面倒なんですけど。考え事をしている間にも、魔術や矢が飛んで来るので走り回って躱す。


 ゾンビとスケルトンの両ジェネラルを倒しても、敵に乱れは無いしリッチを倒さないと駄目なんだろう。


 何かいい方法が無いか考えながら走り回り、敵を削って行く。ベル達に魔法を使って貰うか地道に削るか。風壁で偶に当たりそうになった魔術や矢は弾かれてるし、削る分には問題無い。再び地道な作業を頑張るか。

読んでくださってありがとうございます。

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