表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
413/755

四百十一話 バーテンダー?

昨日、コミックス発売の特別更新をしていますので、読み飛ばしにご注意頂けましたら幸いです。

 思っていた以上にサラの知識がスラムに毒されていたので、次に迷宮都市に行った時にはマーサさんに特別講師を依頼することに決めた。


 問題は……今も顔を真っ赤にして俺をチラチラ見ているジーナだな。普通の状況なら、あれ? もしかして俺に惚れちゃった? とか勘違いして俺もドキドキしていそうだが、これでも数々の修羅場を潜り抜けてきた大人だ。ちゃんと状況は理解している。


 あれは、今まで意識もしてこなかった男って存在を、年下のサラに生々しく説明されてどうしていいか分からなくなっているだけだな。刺激が強すぎる結果になったが、サラの説明も無駄じゃなかったってことだろう。あとは、マーサさんにお任せだ。


「ジーナ」


「お、おう!」


 なんだかやり辛いな。


「ベル達がハンドベルを演奏したいって言ってるんだ。悪いけど指揮をお願い」


 とりあえずやることを与えて、ちびっ子達と戯れたら気分も落ち着くだろう。サクサクとハンドベルを準備しよう。


「わ、分かった」




「あう! あう! あう!」


 ハンドベルを手にしたサクラが興奮状態でハンドベルを振り回している。音が鳴るのがとても楽しいようだ。


「さくら、じゅんばん。ゆっくりふる」


 トゥルが興奮状態のサクラにハンドベルの振り方を教えている。とても微笑ましい光景だが、その横でベルとフレアが両腕を胸の前で組んで、ウンウンと頷いているのはなんなんだろう? 先生気分に浸っている感じか? ちょっと背伸びしている感じが生意気可愛い。


「あっ、お師匠様。戻っていたんですね」


 ハンドベルの音が聞こえたのか、サラが2階から降りてきた。


「う、うん。ベル達がハンドベルをやりたいって、だから戻ってきたんだ。ああ、えーっと、ジーナに色々と教えてくれてありがとね」


「いえ、お役に立てたのなら良かったです」


「うん。ありがとう。悪いけどサラもジーナを手伝ってあげてくれる?」


「はい。分かりました」


 ニコニコとジーナのところに向かうサラ。ふー、なんだか緊張してしまった。でも、ここで教える内容がエグ過ぎるとは言わなかったのはナイス判断だな。下手にツッコむと、今度こそ闇の精霊のお世話になってしまいそうだ。すべては迷宮都市に行ってからにしよう。


 あっ、ジーナはともかく、サラ達はスラムで苦労していたんだよな。子供の心は繊細だろうし、オニキスにこっそりと確認してもらったほうがよさそうな気がする。もっと早く気がつくべきだったな。


 ヴィータが健康だって太鼓判を押してくれたから、すっかり安心していたのが失敗だった。心と体は別問題だってことを忘れないようにしよう。


「シルフィ。コーヒー飲む?」


「そうね。いただくわ」


 少し落ち着きたいので、ベル達の演奏に癒されながらコーヒーで休憩しよう。その後は、お昼に精霊達が遊びに来て忙しくなる前に、オニキスにカウンセリングをお願いしよう。


 ***


「さっそくで悪いが、酒島について話がしたい」


 ……ベル達の演奏に癒されたあと、オニキスのサラ達の診断もたいした問題がなくてホッとした。あとはのんびりと過ごそうと考えていたら、遊びにきた精霊達が散らばったあと、アルバードさんが真剣な顔で話し掛けてきた。


 ……まあ、酒島関連の話で精霊達が黙っていられる訳もないか。アルバードさんも間違いなく他の精霊達にプレッシャーを掛けられているんだろうな。


「話すのはいいけど、ノモス達に話を聞いた方が確実だと思うよ?」


 俺はほとんど関わっていなくて、お酒を仕入れるのと簡単なアドバイスをするだけだ。


「ああ、だいたいの状況は分かっている。宿屋は時間が掛かるが、飲み屋とバーだったか? その酒が飲める店の目処はついていて、あとはどれだけの酒を卸してもらえるのかと、その店の店主と店を開く時期を決めるだけだと聞いている」


 情報の伝達は完璧におこなわれているようだ。それで、詰めの話をしたいってことだな。


「お酒は沢山集めてもらえることになったから、飲酒制限があって醸造所で作っているお酒を合わせたら、4店舗分のお酒なら大丈夫かな?」


 沢山の精霊が来て飲み放題とかやられたら無理だけど、制限があれば4店舗分なら大丈夫だと思う。


「そうか。助かる」


 心底ホッとした表情のアルバードさん。元々苦労人っぽいイメージだったけど、今日のアルバードさんは普段よりも堅苦しく感じる。


「そんなに急いでるの?」


「ああ……酒島という名前が魅力的過ぎた。今まで浮遊精霊や下級精霊達に譲ってのんびりしていた上位の精霊達がソワソワしている。無理を言ってくることはないんだが、期待の視線がだんだん重くなってな。精霊王様方も……はは」


 こちら側からは見えないけど、今のアルバードさんの背中はすすけて見える気がする。精霊の胃も穴が開いたりするんだろうか?


「えーっと、楽園に遊びに来る精霊達と同じように人数制限をしてもらうのと、お酒を飲んだ精霊が酒島以外に出なければ問題ないよ」


 精霊が悪酔いするってのも想像し辛いが、実体化してお酒を飲む機会も少ないだろうし、蒸留酒も初めて飲むんだからちょっと怖い。楽園にはちびっ子が沢山だから用心しないとな。


「その辺はシルフィ達からも注意されているから理解している。あとは、店主と店の開店日を決めるだけだな。候補は絞っているのだが、問題ないか確認してもらえるか?」


 前に人員を探すって言っていたけど、その準備も終わっているのか。アルバードさんは少しでも早くプレッシャーから逃れたいようだ。


 俺としてはよっぽど問題がありそうな精霊でなければ大丈夫だから、さっさと会ってOKしてしまおう。


「分かった。俺が楽園に居る間なら基本的に大丈夫だよ」


「楽園の外で待たせているんだが、今からでも問題ないか?」


 もう連れてきていたらしい。風や光以外の精霊は聖域の外だと環境的に厳しいはずだから、早く呼んだ方がいいな。ここだとちびっ子精霊達が騒がしいから酒島で会うか。


 ***


「まずは、飲み屋の担当だな。氷の上級精霊のグレイシャー。火の上級精霊のヒート。森の上級精霊のブランチだ。グレイシャーには飲み屋とともに、この酒島の氷関係を担ってもらうつもりだ」


 初めて会う氷の精霊が、飲み屋の店長候補なのは予想外だ。しかも男。っていうか、全員男の精霊なのか。美人精霊女将が居る飲み屋に通いたい俺としては、結構ガッカリです。


「別に……別に構わないんだけど、全員が男の精霊なのは何か理由があるの?」


 一応、理由は聞いておこう。


「ん? ああ、女性の精霊は自分が出す店に拘りがあるようで、最初に店を出すには不安があると判断した」


「なるほど」


 店に対する拘りか。そういえば、家を作る時もノモスとヴィータは簡単だったけど、女性陣はかなり拘っていたな。少しでも早く店を開きたいアルバードさんとしては、拘りで時間が掛かるのは避けたかったんだろう。今後、美人精霊女将が店を出す可能性が十分に残っているのなら問題ない。


「最後はバーを担当する、闇の大精霊のブラックだな。この酒島の精霊側のまとめ役も頼んでいる」


 今回唯一の大精霊か。なんだか渋くてカッコいいおじさんで、オールドスタイルのバーのバーテンダーにはピッタリな気がする。落ち着いた雰囲気だし、まとめ役としても頼りになりそうだ。


 でも、ブラックさんって、あきらかに闇の精霊王のダーク様よりも年上に見えるよね。……凄く気になるけど、この話題は危険な気がするから、違和感には蓋をすることにしよう。


「えーっと、俺はこの楽園の主の裕太と言います。ほとんど形だけの主ですが、協力できることは協力しますので、何かあったら言ってください」


 簡単な自己紹介をしたし、あとは軽く雑談をしてOKすれば決定になるんだろう。


「裕太様。さっそくで申し訳ありませんが、バーの経営に関してオニキスに協力を要請したいのですが構いませんか?」


「様? えーっと、オニキスは楽園のお店にも関わっていますので、ルビー達と相談してください。それと、俺に様とかつけなくていいですよ。裕太と呼んで、ため口で話してください」


 ブラックさんって、豪快で細かい事を気にしなさそうなノモスや、見ただけで優しさがにじみだしているヴィータと違って、ちょっととっつきにくい感じがする。精霊なのにカッチリとした服装なのも影響しているのかな?


「いえ、裕太様はこの楽園の主であらせられます。ため口などと、そのような無礼なふるまいは致しかねます」


 スッとアニメで見た執事のように一礼するブラックさん。精霊って堅苦しいのが苦手ってシルフィが言ってなかったっけ? ドリーやアルバードさんが、精霊の中でかなり真面目なタイプなんだよね? 違和感が凄いです。


「ぷふっ。ブラック。そんなにカッコつけてどうしたの。今度はなんの真似? 面白いわ」


 俺が戸惑っていると、シルフィが我慢できないように笑って、変なことを言い出した。


「おや、シルフィお嬢様。私奴に何か落ち度でも? バーテンダーとはお客様に最上級のおもてなしをする存在だと聞き、王宮で執事を観察してきました。自分では素晴らしくカッコいいと自負しているのですが?」


「あはは、それでそんな恰好なのね。うん、そういわれるとそんな感じね。お嬢様って呼ばれるのも新鮮だし、私は良いと思うわ。前の荒くれもの風の冒険者や、騎士の真似事も捨てがたいけど、これはこれでありよ」


「ありがとうございます。シルフィお嬢様」


 シルフィの言葉に満足そうに一礼するブラックさん。……俺、分かった。ブラックさんって単なるコスプレイヤーだ。しかも役になりきるタイプで、ちょっと厨二まで入っている気がする。


 コスプレ文化がある訳でもないこの世界で、独自でコスプレやロールプレイを楽しみ、厨二まで感じさせるとは、なかなか香ばしい精霊のようだ。一気に親近感が増した。


 様をつけるのもプレイの一環であればしょうがない。執事役になり切っているのに、相手を呼び捨てにしてため口を使っていたらロールプレイが崩れるもんね。


 でも、王宮の執事の真似事をするなら、それはバーテンダーじゃなくて、単なるお酒が飲める執事喫茶だよね。言ったらとんでもないことになりそうだから言わないけど……。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ