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四百十話 てんやわんや

コミックス2巻発売の特別更新です。

 ヴィータに質の悪い冗談を言ってしまい、なぜかオニキスに精神カウンセリングをされることになってしまった。ちょっとだけ恥をかいた気がするけど、カウンセリングの結果で身も心も健康だと分かったので、良かったと思いたい。精神に傷を負った気がするのは気のせいだ。


「ジーナ、調子はどう?」


 グアバードの刷り込みはあきらめてジーナの様子を見に行くと、家のリビングでサラとまったりお茶を飲んでいた。見た感じでは大丈夫そうだな。


「あっ、師匠。うん、サラとプルちゃんのおかげでだいぶマシになった。飲み過ぎには注意していたつもりなんだけど、なんだか気がついたらフラフラになってた。ごめんなさい」


 飲み過ぎに注意したのに二日酔いになってしまったのがバツが悪かったのか、申し訳なさそうに謝ってくるジーナ。普段はある程度節制ができる子だし、飲み過ぎたのは蒸留酒の影響だろうな。


 果汁で薄めていてもエールよりも高いだろうし、甘くなれば飲みやすい。カクテルの罠にハマったんだろう。プルちゃんの治癒で完全回復はできなかったみたいだけど、蒸留酒の危険性を伝えるためにもムーンの治療はやめておくか。


「まあ、楽園なら飲み過ぎても大丈夫だけど、酔っぱらって意識がなくなったら何をされるか分からないし、町で飲むときには注意するようにね」


 弟子がその辺の男にお持ち帰りされたら、確実にブチ切れる自信があるから切実に注意してほしい。


「うん、気をつけるよ。財布とか持って行かれたら嫌だもんな」


 ……俺が心配しているのはそこじゃないんだけどね。かなりのわがままボディの持ち主なのに、この子は大丈夫なんだろうか? 師匠として、男についてまで教育しないと駄目なのか?


 いっそのこと、男はみんな狼なんだよ! 無論俺もなっ! 的な開き直りができれば簡単なんだけど、師匠の威厳が急落しそうだ。それに、ジーナがちゃんと男を意識して彼氏を連れてきたら……俺は泣く自信があるぞ。


「えーっと、そうだね。財布を盗られたら悲しいよね」


 どうしたらいいのか分からないので、逃げてしまった。シルフィ達に相談したらなんとかしてくれるんだろうか? チラッとシルフィを見ると、まったくこの話題に興味をもっていないようだ。これは期待薄な気がする。


「ジーナお姉さん。お師匠様が言いたいことはそういう事じゃありませんよ」


 軽く絶望していると、サラが話に入ってきた。


「ん? 違うのか? でも、師匠はそうだって言ってるぞ?」


「お師匠様からは説明し辛いんですよ。お師匠様。お師匠様からは言い辛いようですので、私が説明しても構いませんか?」


 サラが説明? それって男女のことを理解しているってこと? まだ小学生の高学年くらいで、しかもある程度の期間をスラムで生活していたのに知識があるってこと? 冗談だよね?


「えーっと……サラは俺が何を言いたいのか理解しているの? まだ子供だよね?」


「ふふ、お師匠様。スラムの子供は早熟なんですよ。自分の身を守るためにも大人の話をしっかり聞いているんです」


 サラがなんだか大人に見える。でもそうか、スラムって女の話題を下品に語っている男とか沢山いそうだよね。


 俺が小学校高学年の時は……思春期に入ったくらいか? 女とつるむのはカッコ悪い的な、もったいないことをしていたはずだ。環境の違いって恐ろしいな。


「えーっと、お願いしてもいいですか?」


 なぜか敬語になってしまったが、お願いする立場だし問題ないよね。サラさん、とっても頼りになります。


「はい。お任せください。ですが、さすがにお師匠様の前では話し辛いので席を外して頂いて……いえ、私達がジーナお姉さんの部屋に移動しますね」 


「お願い致します」


「えっ、ちょっと、どういうことだよ。サラ? 師匠?」


 俺が頼むと、サラはジーナの手を引いて部屋に戻っていった。フクちゃん達も一緒に行っちゃったのが不安だけど、ジーナ、しっかり勉強してね。


 ジーナのわがままボディで鈍感系主人公を気取っていたら、泣きじゃくる哀れな男が量産されるし、我慢しきれなかった男が犯罪者に落ちる事になるかもしれない。


「……裕太、さすがにサラに任せるのは違うんじゃないかしら?」


「俺には無理なんだからしょうがないよ。シルフィは興味がなさそうだったし、ディーネに説明してもらうのはなんだか不安だ。ドリーにお願いするのもちょっと恥ずかしいし、イフに頼んだら殴られそうだよね。たぶん、サラが一番適任なんだよ」


 ノモスに頼んだら怒られそうだし、ヴィータは……ヴィータなら命の精霊だからなんとかなりそうな気もするけど、性別は男だからジーナが気まずいだろう。


「でも、精霊に頼まなくても、マリーやソニア、マーサなんかにお願いすればなんとでもなったんじゃない?」


「あっ! ……俺の中から、人にものを頼むって考えが完全に抜けていたよ」


 マリーさんとソニアさんは大衆の面前で自分が処女だって暴露していたから、頼りにはなりそうにないけど、マーサさんなら大丈夫だろう。前にマーサさんにジーナの教育をお願いしようとか考えていたのを、完全に忘れていたな。俺の脳みそ、頼み事=精霊になっているな。


「どうする? 今からサラとジーナを止めにいく?」


「んー。サラは自信があるっぽいし、ジーナも子供のサラから教えられたら、自分の知識が足りないことに気がつくよね。うん、このまま任せるよ」


 ジッと俺を見るシルフィ。俺の苦しい言い訳が完全に見透かされている気がする。


「ジ、ジーナも問題ないみたいだし、次はベル達の様子を見に行こうか。サクラがどうしているか、心配だよね」


 無理矢理話を終わらせて家を出る。今日はなんだか精神的に追い詰められる日だな。モフモフキングダムでは幸せだったのに……。


***


 家から出ると精霊樹の方からちびっ子達の楽しそうな声が聞こえた。どうやら迷路で遊ぶのを終えて、精霊樹の方に移動したらしい。


「だーーるまさーんが……ころんだだぜ! あっ、れいん、うごいたんだぜ!」


「キュー」


 どうやら『だるまさんが転んだ』をやっているようで、鬼役のフレアのフェイントにレインが引っ掛かったみたいだ。なんだか微笑ましい。


「あっ! ゆーただー」


「べる。うごいたんだぜ!」


「ふぉ!」


 俺が見に来たことに気がついたベルが、満面の笑みでこちらに飛んで来ようとして、無情にもフレアにアウト宣言をされた。驚愕の視線で俺を見たあと、しょんぼりとしながらフレアのところに飛んでいくベルを見て、なんだか申し訳ない気持ちになった。邪魔しちゃったな。


 すでにタマモとムーン、サクラは捕まっていて、残りはトゥルだけか。最終対決だな。捕まってしまったちびっ子達が、トゥルに助けてーっと騒いでいる。とても楽しそうだ。


「よし、いくぜ! だるまさんがころーーーんだだぜ!」


 元々が慎重な性格のトゥルは、フレアのフェイントにも惑わされずに、じわりじわりと近づいていく。


 フレアも最後のトゥルを捕まえるべく、高速だるまさんが転んだや、超高速だるまさんが転んだ。最初スロウで最後だけ高速だるまさんが転んだなど、技巧の限りを尽くすがトゥルには届かない。


 フレアとトゥルの距離はすでに1メートルを切っている。次で勝負が決まるな。緊張の一瞬だ。


「だっ! るまっ! さんがころん」


「きった」


「フレアは選択を間違えたわね。接近戦でのフェイントは時間を無駄にしてしまうわ。ここは超高速、もしくは高速の詠唱で勝負を掛けるべきだったわ」


 シルフィがフレアの敗因を分析している。言う事は間違っていないと思うけど、シルフィって『だるまさんが転んだ』をやったことないよね。なんでそんなに自信満々なのかが疑問だ。


 まあ、細かいツッコミは無粋か。今は『だるまさんが転んだ』に集中しよう。トゥルがフレアに到着したことで、捕まっていたちびっ子達が一斉に逃げ出す。


「ゆーたー」「キュー」「がんばった」「クー」「……」「あう!」


 なぜかこっちにふよふよと飛んでくるベル達。ルールだとスタートラインに戻らないといけないんだけど、ちょっと嬉しい。あれ? フレアも一緒に飛んできている。だるまさんが転んだはもう終わりってことかな? 集まってきたベル達を撫でくり回す。


「サクラ。みんなと遊ぶのは楽しい?」


「あい!」


 満面の笑みで頷くサクラ。もうこの顔だけで楽しいのが分かるな。ベル達はいい子だからあんまり心配していなかったけど、もう完璧に馴染んだようだ。


「ゆーた、あのね。つぎはべる!」


 次はベル? サクラの前に思う存分撫でくり回したはずだけど、もう一回撫でくり回せってことか? よく分からないが、ベル達が望むのなら、俺は何度でもナデナデするよ?


「ちがうー。これー」


 頭を撫でるが違ったようだ。ベルが一生懸命に手を上下させている。


「……あっ、ハンドベルを使いたいの?」


「そー。はんどべるー」


 次はサクラに音楽を教えるつもりらしい。サクラに色々なことを教えてあげたいんだろうな。




「あっ、師匠」


 ベル達の話を聞きながら家に戻ると、ジーナとバッタリと対面してしまった。一緒に住んでいるんだから当然のことなんだけど、なんだか少し気まずい。


「え、あー、師匠……師匠は、その……」


「えーっと、どうしたの?」


 なんでジーナは俺のことをチラ見しながら、顔を赤くしているんだろう? 


「師匠、師匠も女の子に×××したり、〇×△したりしたいのか?」


 ……空耳かな? ありえない言葉が聞こえた気がする。


「ご、ごめん。よく聞こえなかった」


「だから、師匠も女の子に×××したり、〇×△したりしたいのか?」


 空耳じゃなかった。


「ななな、なんでそんな事がききたいのかな?」


「だってサラが、酔っぱらって無防備に寝ちゃうと、連れて行かれて気がついたら無理矢理×××で〇×△のZZZされて逃げられなくなるって……」


「そんな下品な言葉を使ってはいけません!」


 たしかにジーナの無防備さをどうにかしてほしかったけど、そこまでダイレクトに教えたら駄目でしょ。サラの口からこんな言葉が出たなんて信じたくないんですけど!


 いや、サラのせいじゃないな。スラムの糞どもが下品なんだ。


「裕太。私、スラムを一度更地にした方がいいと思うわ」


 シルフィの意見に俺も大賛成したいけど、下品だからって更地にする訳にもいかないよね。あと、若干頬を赤らめて恥ずかしそうなシルフィも魅力的です。


「ゆーた。はんどべるー」


 俺が混乱していると、待ちきれなくなったベルが乱入してきた。そうだった、ベル達はハンドベルを使いたかったんだよな。えーっと、なんかもう、てんやわんやだ。


 とりあえず、次に迷宮都市に行ったら、ジーナだけじゃなくて、サラとキッカも含めて再教育をマーサさんに頼もう。タダでやってもらう訳にもいかないし、授業料を払うべきだろうな。


本日、5/24日、『精霊達の楽園と理想の異世界生活』のコミックス2巻が発売されますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。


詳しくは活動報告に載せていますので、確認して頂けましたら幸いです。(まだ、画像のUPが修正できていないので文章だけです。申し訳ありません)


読んでくださってありがとうございます。

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