三十九話 砦の内部
目の前に大きな穴がある。リッチが支配している大きな魔物の巣だけあって、出入りが激しいのか通路みたいな物が出来ている。
ジェネラルゾンビを討伐した後、再び岩山を切り崩しながらリッチの巣を目指した。予定では一日で到着する距離を、岩の採取とベル達との魔法訓練で五日間かけた。
五日間の魔法訓練で分かった事は。精霊はチートだ。伝える事は難しいが、伝わって自分の属性であれば、ほぼ再現可能だった。まあ、下級精霊なので威力は高位魔術師程度らしいが……高位魔術師って明らかに凄そうだよね。これでシルフィと契約出来たら完全なチートだ。
手始めにベルに遠距離攻撃を弾き返せる風を出せる? って聞いたら首を傾げられた。しかし魔法や矢が飛んで来たら、俺の周りに風がグルグルってなってバーンって魔法や矢が弾き返される風っていうと「できるー」っと元気に手を挙げた。
出来るんだ。俺に魔法を掛けて貰って、レインの水弾を弾き返せるか試してみようとすると、魔法の名前は何が良い? っと聞かれた。魔法を作っちゃう感じなんだね。
「じゃあ、風壁かな?」
「わかったー。ふうへきー」
ベルが風壁と唱えると、俺の周囲を風が囲む……物凄い強風だ。魔力が混じっているのか、風が輝いているようにも見える。
「ベル。ベルー。ちょっと止めて」
「はーい」
「ベル。ちょっと風が強すぎて前が見えないから、攻撃が当たる時だけ風を強くしたりできる?」
「んーっと……」
どうしたら良いのか良く分からずに悩んでいるようだ。シルフィにアドバイスを貰ったり、色々と微調整を繰り返して、風壁が完成した。
試しにレインが放った水弾が、俺から一メートルぐらい離れて取り巻いている風に当たる瞬間、強烈に風が吹き荒れ弾き飛ばされた。これって凄いよね。興奮してベルを褒め称えまくった。最終的に胸を張ってドヤってしてたベルが可愛い。
シルフィいわく大抵の魔法や矢は弾き返せるレベルらしい。でも熟練した者が放つ高威力の攻撃だと威力の減衰が精一杯になるそうだ。回避は大事だよね。
ちなみにシルフィが風壁を使ったらどうなるか聞いてみた。込めた魔力によるけど、少なくとも大精霊クラスが相手じゃ無いと、突破される事はないと自信満々に微笑まれた。シルフィ、カッコいい。
伝えるのは難しいが、伝える事が出来れば結構自由度が高いのが精霊魔法らしい。一般の精霊術師は長ったらしく難しい呪文を使うので、下級精霊には分かり辛いらしい。この盲点を伝えたら精霊術師はどうするんだろう?
楽しくなった俺は、ベル。レイン。トゥルと相談して様々な魔法を作った。かなりテンションが上がって漫画やアニメの魔法も色々と再現を頑張った。
問題は俺Tueeeeeをしたいが、精霊魔法だと自分が俺Tueeeeeしてる感がまったく無いって事だ。ただ俺が指示をすると魔法が飛んで行く。敵が倒れる。こんな感じになってしまう。
あんまりベル達の力に頼っても、ファンタジー世界を楽しめないので、出来るだけ補助に集中してもらうよう補助専用の魔法も開発した。ただこの魔法開発はベル達に大好評で、とても面白い遊びになってしまった。
ベルが大はしゃぎでこんな事が出来ると伝えにくれば。興奮したレインがキュキューっとヒレをバタつかせながら何かを訴えて来る。一番分かりやすいのはトゥルで。地面に一生懸命に絵を描いて、キラキラした瞳で見上げて来る。
この事により、なかなか秀逸な魔法も出来たが、厨二っぽくてちょっと勇気がいる魔法も出来てしまった。悲しい事に厨二っぽい魔法の方が出来が良い。そしてベル達のお気に入りだ。……シルフィのクールな表情がプルプルしていたのがとても気になるな。
そんな感じで五日間を過ごし、特訓の成果を確認するためにリッチが待つ大穴に足を踏み入れる。
「じゃあシルフィ。行ってくるね」
「まって裕太。今日は私もついて行くわ」
いつもは私が行っても手を出せないし気が散るでしょ。ここで待っているわ。と言って付いて来ないシルフィが付いて来るそうだ。大丈夫だと言っていたがリッチはそんなにヤバいのか?
不安になってジッとシルフィをみつめると、クールな表情に見え隠れする、妙な期待のような感情に気が付いた。
「……ねえ、シルフィ。開発した魔法で戦う所を生で見たいから、付いて来るって訳じゃ無いよね? 何か大切な理由があるんだよね?」
シルフィがソッと目を逸らす。やっぱりだ。何となく感じてたんだけど、厨二っぽい魔法ってシルフィのお気に入りで、アドバイスにも熱が入っていた。それを本番で使う所が見たいが為に付いて来る気だ。
「……リッチは強敵だわ。私は手を出せないけど、近くであなた達の事を応援したいのよ」
口元がヒクヒクしている。限りなく嘘くさい。
「しるふぃといっしょー。やたー」
「キュキュキューーー」
「がんばるからみてて」
ベル達が喜んでしまった。こうなると来るなとは言えない。まあ、生じゃなくても見る方法はあるんだし諦めるか。……ベル達が、シルフィに凄い魔法を使うのとアピールしている。
シルフィは素晴らしいわね。とっても楽しみにしているわと返事をしている。シルフィは本気で楽しみにしているんだろうな。
「……ゴホン。じゃあ行くぞ」
普段通りベル達が先行して、俺が後から入って行く。いつもと違うのは後ろからシルフィが付いて来ている事だ。
地中に埋もれてしまった砦なので、部屋が多く探索がし辛い。幸い扉部分は朽ちているので、不意打ちを受けるという事は無いが、確認する場所が多くて厄介だ。
しかも廊下にはゾンビやスケルトンが歩き回り。各部屋にはゾンビやスケルトンが、みっちりと詰まっているそうだ。ベル達が頑張って説明してくれた。
「これって見つからずに潜入するって無理だよな?」
潜伏する事を諦めて普通に声を出す。その声に反応した何体かのゾンビやスケルトンが襲い掛かって来る。
「そうね。これだけいると隠れて進もうにも見つかってしまうわね」
シルフィも同意見のようだ。まあそうだろうな。だって見た感じゾンビやスケルトンが居ない場所の方が少ないんだもの。
寄って来たスケルトンやゾンビをハンマーで叩き潰す。ばれても良いから片っ端から潰して行くか。音に引かれて集まって来る魔物を片っ端から叩き潰す。
部屋からもドンドンスケルトンとゾンビが出て来る。なんかゲームの無限湧きを思い出す。叩き潰し続けると当然通路に死骸や骨がたまる。
「臭くてたまらないな。ベル。奥に向かって風を吹かせて。レインは水で死骸ごと押し流してくれ」
「はーい」
「キュー」
返事の後にベルが風を吹かせ。レインが水でスケルトンとゾンビを押し流す。少し余裕が出来た間にハンマーを振り下ろし続けて凝った体を休ませる。
「ありがとう。ベル。レイン」
「どういたしましてー」
「キュー」
「ふー。シルフィ。後どのぐらいいるか分かる?」
「とても沢山ね。リッチも侵入者に気が付いて、広間に仲間を集めているようね」
「うーん。嬉しくない情報だね」
完全に迎え撃つ体制になってるよ。沢山のゾンビやスケルトンを討伐している間にも、ドンドン準備が整っていくんだろうな。
面倒だ。あっ、こっちも面倒なのが戻って来た。ズルズル。カシャカシャとゾンビとスケルトンが通路を歩いて来る。
「がんばれー」
「キュー」
「がんばって」
ベル達の応援を力に変えて、せっせとゾンビとスケルトンを討伐する。通路が埋まったり疲れて来るとレインに水で押し流してもらう。何度繰り返したか分からなくなった頃、ようやくゾンビとスケルトンが出て来なくなった。
「あー。つかれたー」
「裕太。お疲れ様」
「おつかれさまー」
「キュー」
「頑張ったね」
ベル。レイン。トゥルを順番に撫でて癒される。流石に今回の数はハンパなかった。重さを感じないハンマーとは言え、同じ動作を延々と繰り返すのはレベルが上がっていても疲れる。
「シルフィ。リッチはどんな感じ?」
「準備万端って感じね。広間で待ち構えているから少し休んでも良いんじゃない?」
いつもシルフィがついて来てくれていないのが残念になるな。索敵が完璧だ。ベルは索敵が出来るのだが、情報の取捨選択が出来ないみたいで、的確な情報が得られない。
「そうか。少し休憩するよ。でもリッチはゾンビとスケルトンが討伐されているのに、救おうとしないんだな」
「まあ、リッチにとってゾンビやスケルトンは仲間ですらないと思うわ」
ジェネラルゾンビと同じ肉壁扱いか。規模は断然こちらの方が上だったけどな。
「リッチは時間稼ぎの為にゾンビやスケルトンを集めているのか? でも敵なんて俺が来るまで誰もいなかっただろ?」
「ゾンビやスケルトンは上位の元に勝手に集まって来るのよ。死の大地ですものこのままだったら数日で元通りでしょうね」
勝手に肉壁になりに来るのか。それなら助けようとは思わないだろうな。
「そろそろ行くか。シルフィ。道案内をお願い出来る?」
「ベルに頼んでみなさい。今なら集まっている場所は一ヶ所だから案内できるわ」
「そう。じゃあベル。リッチの所まで案内してくれる?」
「あんないするー」
元気に手を挙げて、ふわふわと飛びながら案内してくれるベル。お仕事が嬉しいのか手足をピコピコさせている。
石の砦って結構丈夫なんだな。埋まったのが良かったのか、所々崩れているが内部は比較的まともだ。木製の扉は完全に朽ちてるんだけどな。
「シルフィ。リッチを倒したら、この砦の岩を回収した方が良いかな?」
「どうかしら? 岩をどかしたら、土が流れ込んで来るから面倒なんじゃない?」
うーん。資源は大事なんだけど、長年アンデッドが暮らしていた砦の石を面倒な手段で手に入れる……微妙だな。
「あそこー」
どうしようか迷っているとリッチの所に到着したようだ。終わってから考えるか。
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