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四百五話 お花見

 精霊樹が桜の花を咲かせ、かなりフライング気味に意識体を生み出した。帰ってきて早々に色々と起こり過ぎなんじゃとも思うが、めでたいことなんだから喜ぼう。今夜は花見で宴会だ。


「という訳で、今晩はお花見と宴会をします。ジーナ、サラはお手伝いをお願い」


「分かった」


「はい、お手伝いします」


「ルビー達も料理を頼むね」


「分かったんだぞ! 迷宮都市のお土産もあるから、沢山料理を作るんだぞ!」


 んー、今回は人数が少ないし、そこまで料理はいらないと思うんだけど……。


「ノモス。醸造所の精霊達はお花見に参加するかな?」


「ふむ……あやつらは、裕太から教えてもらった、新しい酒の醸造方法を研究するのに夢中じゃから、醸造所から出てこんだろうな」


 あっ、もう新しいお酒の研究は始めているんだ。あの精霊達が新しいお酒を知って、挑戦しない訳ないから、当然と言えば当然だな。でも、そうなるとお花見の参加人数はそこまで多くないよな。


 チラッとルビー達を見ると、かなりやる気満々っぽい。料理は少しでいいって言ったら盛り下がりそうだな。とりあえず作れるだけ作ってもらって、収納しておけばいいか。料理を始める前に、お土産の食材を渡しておこう。


「師匠、おれとキッカもてつだうぞ?」


「べるたちもー」


 ……ちびっ子軍団もお手伝いを希望か。配膳やらなんやらのお手伝いはお願いしたいが、今はまだ仕事がないな。


「えーっと、マルコとキッカはジーナとサラのお手伝いをお願い。ベル達もあとでお仕事をお願いするけど、先にサクラに楽園のことを教えてあげて」


 まあ、サクラも精霊樹なんだから、この楽園のことは知っていると思うけど、意識体を生みだしたのなら直接見てまわるのも楽しいだろう。


「ふぉ! べるおしえる! べるおねえちゃん!」


 教えるって言葉がベルの琴線に触れたのか、超絶にテンションが上がって、物凄く手足をワチャワチャさせている。そういえば、楽園に遊びに来るちびっ子精霊達にも、お姉ちゃんとして頑張って案内していたな。


 ……お姉ちゃんって言葉に拘るのは、某水の大精霊の影がチラついて不安になるけど……ベルなら立派な大人になると信じているよ。本当に信じているからね。


「うん。よろしくね」


「わかったー」


 俺の信頼を一心に受けたベルは、気合十分でレイン達のところに飛んでいって、お仕事の説明をしている。説明されているサクラは……タマモにしがみついて、モフモフを全身で体感している。あっ、タマモの耳をハムハムしだした。


 タマモは嫌がってないようだし、大丈夫……かな? まあ、サクラは精霊樹の意識体だし、タマモは森の精霊だから相性がいいと考えよう。


 それよりも、タマモとサクラをジーっと見つめているトゥルが少し心配だ。いつもなら、ちゃんとベルの言葉に耳を傾けるのに、今は聞こえてすらいないようだ。


 タマモとサクラの絡みは子狐と赤ちゃんの絡みだから、えげつないほど可愛い。でも、トゥルの場合はモフモフに心を奪われているから、サクラに嫉妬している可能性もある。あっ、トゥルが動き出した。止めるべきか?




 ……よかった。嫉妬はしていなかったようだ。どうやらトゥルとしては、サクラのモフり方が気になっていたようで、タマモはここをこう撫でられるのが好きだと、真剣にサクラに教えだした。


 もしかして、トゥルはサクラをモフモフ道に引きずり込むつもりなのかもしれない。赤ちゃんからそのモフモフにハマったら、抜け出すのが難しいだろうな。ある意味、悪魔の所業かもしれない。


「じゃあいくー」


 あっ、ベルがサクラとタマモを掴んで飛んでいってしまった。トゥルもサクラも、モフモフ談議に夢中だったから、突然のベルの行動にびっくりした顔をしていたな。


 ベルとしては一生懸命に説明をしていたから、ちゃんと伝わっていると思っての行動なんだよね。この場合は、どちらに非があるんだろう? ……まあいいか、ちょっとビックリしていたけど、すでにはしゃぎながら飛び回っているもんな。細かい事を考えるだけ無駄だ。


 さて、ベル達がサクラを案内している間に、俺もしっかりとお花見の準備をするか。あれ? サクラもご飯を食べるんだよね?


 生まれたばかりだからミルクが必要……赤ちゃんよりも少し大きい感じだから離乳食か? ルビーに相談したらなんとかしてくれるんだろうか?


 うーん、たしかちっこい歯は生えていた気がする。それに、赤ちゃんの浮遊精霊も普通にご飯を食べているし、普通に食べられるかも。これも確認しておくか。


 ***


「へー、こういうのも素敵ね」


 おお、なんだかシルフィが喜んでくれている。頑張った甲斐があったな。といっても、みんなに協力してもらって、精霊樹の枝の間に沢山の光球を浮かべただけなんだけど。


 でも、巨大で満開の桜の花を咲かせた精霊樹が、暗闇の中で優しく光っている姿は神秘的だ。


 ベリル王国の繁華街で見た、色付きの光球を浮かべようかとも思ったけど、今回はシンプルに普通の光球を浮かべて正解だった。桜の色がよく映えている。


「気に入ってもらえたのなら良かったよ。それで、なんでもうジョッキを持っているの? まだ準備は終わってないよ?」


 シルフィ以外の大精霊達も、すでに自家製のエールを氷で冷やして、ジョッキを持っている。飲むための準備は万端って感じだな。素敵だとか言いながら、お酒が待ちきれないらしい。花より団子……いや、シルフィ達の場合は、花よりお酒だな。


「ふふ、綺麗な桜を眺めながら、美味しいお酒を飲むのがお花見なのよね。そのためにしっかり準備をしているだけよ」


 ……ジョッキになみなみとエールを注ぎ、しっかりと右手に持っているから、宴会の準備は完璧だな。そこまでしているのに、ちゃんと飲まずに俺達の準備が終わるまで待っていてくれているから、俺としてはどう反応すればいいのかが難しい。


 これを律儀と言っていいのか、そこまでするならもう飲んじゃいなよとツッコむべきか……いや、単純に早く飲みたいってプレッシャーを掛けられているだけだな。ディーネとか今にもジョッキに口をつけそうだ。急ごう。


「裕太の兄貴、料理は並べ終わったんだぞ!」


 急ぐまでもなく、俺が話している間に準備を終わらせてくれたらしい。みんな、働き者だな。


「分かった、ありがとう。おーい、みんなー、ご飯の準備が終わったから戻っておいでー!」


 大声で精霊樹の周りを飛び回っている、ベル達とフクちゃん達、サクラに声を掛ける。


「ごはんー」「キュー」「おはなみ」「クー」「くうぜ!」「……」「「ホー」」「プギュ!」「ワフ!」「……」「たべる」


 ライトアップされた精霊樹に大興奮で飛び回っていたんだけど、一瞬で戻ってきたな。この子達も花より団子のようだ。


「さくら、ここー。べるがおねえちゃんー」


 ベルが俺の隣にサクラを誘導する。どうやらベルは、お姉ちゃんとしてサクラの面倒をみるつもりらしい。


「あう!」


 並べられている料理に目を奪われていたサクラも、ベルの声に元気にお返事をしてふよふよとこっちに飛んできた。宴会の準備をする間に、すっかり仲良くなったようだ。


「えーっと、じゃあ今日はサクラが綺麗なお花を咲かせてくれたから、サクラの歓迎会と合わせてお花見をします。向こうのテーブルはお酒を飲むテーブルだから、ちびっ子達は近づかないようにね」


 注意事項を伝えたあと、みんなでグラスをもって乾杯して、お花見を始める。


「さくら、これたべるー」


 お花見が始まって、速攻でベルがサクラに自分のお気に入りの料理を勧める。ドリーに聞いたところ、サクラは普通に俺達と同じものを食べても大丈夫って言っていた。でも、なにも大きな塊肉を勧めなくても、横に切り分けられたお肉があるよ?


「あい!」


 そしてサクラ、なんの戸惑いもなく、お肉に齧り付かないで。それって君の頭よりも大きいんだから、少しは躊躇ってほしい。あと、精霊樹って植物だよね。ドリーに聞いてはいたけど、お肉に齧り付く植物ってのも違和感が凄い。


 あっ、でも、食虫植物とかもあるし、お肉を食べるのはありなのか? むしろ、野菜の方が同じ分類だから共食いに近いのかもしれない。


「うまうま!」


 サクラが嬉しそうに口をもむもむさせながら、ベルに報告している。美味しかったらしい。そして、ベルが凄いドヤ顔をしている。


「キュキュー」


「ん? ああ、レイン、その串焼きが食べたいんだね。ちょっと待って」


 サクラのことも気になるけど、レイン達の面倒もみないとな。そう考えると、ベルがサクラの面倒をみてくれるのは、結構ありがたいことかもしれない。串焼きの串を外してレイン用のお皿に渡す。


「これもうまいんだぜ!」


 こんどはフレアが、ナポリタンをサクラに勧める。しかも、食べやすいようにフォークでクルクルとパスタを巻いて、あーんってしてあげている。


 フレアって豪快なイフに憧れているけど、細かいところに気がつくんだな。真っ赤な串焼きを食べて、のたうち回っていた姿がウソみたいだ。


 フレアが口元に運んだフォークにサクラがあぐっと食いつき、美味しかったのか手足をパタパタさせている。


「うまいか! もっとくえ!」


 次々とフォークでパスタを巻き取り、サクラの口元に運ぶフレア。サクラも次々に差し出されるフォークに連続でアグアグと食らいつく。まるで親鳥と雛鳥みたいな関係だな。


「さくら、これもたべるー」「キュー」「これもおいしいよ」「くー」「……」 


 ……ベルが再びお肉をサクラに勧め、それに続いてレイン達も自分のお気に入り料理をサクラに勧めだした。みんな、新しく仲間になった自分よりも年下のサクラに構いたいらしい。サクラも勧められるがままに、次から次へとたいらげている。食料が潤沢じゃなかったら心配になる光景だ。


「えーっと、サクラ、そんなに食べて大丈夫?」


「あう!」


 俺の質問に元気に返事をした後、再びベル達から勧められる料理に食いつくサクラ。あの調子なら全然大丈夫っぽいな。じゃあ俺もご飯を食べるか。そういえば、サクラの様子ばかりを見ていて、全然桜を見ていないな。


 せっかくのお花見なんだし、サクラを愛でるだけじゃなくて、しっかり桜を愛でよう。……なんだか少しややこしい。


読んでくださってありがとうございます。

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