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四百三話 どうしたらいいんだろう?

 迷宮都市から楽園に帰ってくると、挨拶もそこそこに酒島に連行された。酒島ではすでに飲み屋とバー、宿屋の大枠ができており、精霊達のやる気が少し怖い。


 どうなるんだろう酒島。醸造所もフル稼働しているし、蒸留酒も次々に仕込まれている。マリーさんのお酒の仕入れしだいだけど、酒に関してはこの世界で一番の歓楽街になるかもしれないな。


 バーの確認が終わったあと、買ってきた家具の設置とお茶会のために、シルフィに浮島に連れて行ってもらう。


「あらー、変わったテーブルね。裕太ちゃん、これ、何が素材なの?」


「おっ、ディーネ、いいところに気がついたね。このテーブルは家具屋のおばちゃんのお薦めで、外で使っても劣化しない素材で作られているんだって」


 魔物の骨の素材らしいから、お茶会場の家具にはどうかとも思ったが、ベッドも魔物素材だし、この世界では当たり前のことだから、気にしないことにしよう。


「ふふーん、お姉ちゃんは凄いのよー」


 大きな胸を張ってドヤ顔をするディーネ。ここまでくると、羨ましい性格だよな。たぶん、とっても幸せだと思う。ディーネを褒めつつ、家具のセッティングを済ませる。


 おぉ、なんかいい感じだ。精霊樹が間近にあるちょっとした大きさの浮島に、真っ白なテーブルと椅子のセット。紅茶が似合いそうな雰囲気だし、お茶会にはピッタリだ。名付けて精霊樹が見える浮島のお茶会場……そのまんま過ぎるし長いから却下だな。いい名前が思い浮かぶまでは、精霊樹喫茶でいいか。


「じゃあ、お茶とお菓子を出すから座ってくれ」


 大精霊達に座るように促して、お茶会の準備をする。えーっと、俺とシルフィとディーネ、ドリーにイフにヴィータだから、6人だな。ノモスはお茶より酒だって醸造所に行っちゃったからいない。


 とりあえず紅茶に、お菓子はクレープとプリン、アイスで好きなのを選んでもらおう。しかしあれだな、なんとなくお菓子類がお茶会って感じじゃないな。


 ベル達も喜ぶだろうし、お菓子類の開発にも力を入れよう。ケーキ関連が作れたら、バリエーションが広がるし、ルビーにお願したらなんとかなるかな?


 ……ケーキそのものがあればなんとかなりそうだけど、あいにく買い物した時にケーキは買わなかったんだよな。タブレットに入っている電子書籍には……ないな。せめて料理関連のレシピ集くらいは入れておけばよかった。


 ケーキは難しそうだし、クッキーとか焼き菓子のジャンルから開発をお願いするか。クッキーはこの世界にもあるし、俺の俄か知識でもヒントになるだろう。方針も決まったことだし、お茶会を始めるか。と言っても、紅茶を飲んでお菓子を食べて、お話しをするだけの、なんちゃってお茶会だけど。


 ***


「それでね、迷宮探索の間も、体術の訓練を受けているマルコとキッカの心配ばかりしているのよ。ヴィータを護衛につけただけでも過保護なのに、心配のし過ぎよね」


「あらあら、裕太ちゃんらしいわー。でも、小さい子を心配するのはいいことよ。お姉ちゃんは裕太ちゃんを褒めてあげるわー」


 お茶会っていうよりも、女子会だな。俺とヴィータは気配を消して、ただ、紅茶とお菓子を楽しんでいる。シルフィ達の会話は聞かない方が精神的に幸せなので、できるだけシャットアウトしよう。


「おい、裕太。体術を習わせるなら、なんで俺に頼まないんだ? 魔物の殴り方なら教えてやったのによ」


 シャットアウトしようとしていたら、俺の精神的防御をぶち破ってイフが突入してきた。なんだかとても不満そうな顔をしている。言い訳せねば。


「えーっと、イフが強いのも、殴るのが上手なのも知っているけど、俺がマルコとキッカに学んでほしかったのは回避の方法なんだ。イフはどちらかというと、正面から戦うだろ。まだ小さいマルコとキッカには、向かない戦い方だと思うんだ」


 何より、火の精霊と契約したマルコとキッカが、両手に炎を灯して魔物の体を燃やしながら殴り出したら、天国にいるであろう2人の親御さんに申し訳がたたない。


「ん? 俺の戦い方はちび達には向かないってことか。まあ、そう言われればそうかもしれねえな。しょうがねえ、大きくなってから鍛えてやるか」


「あはは、その時になったらね」


 なんとかイフも納得してくれたようだ。納得と言うか、問題の先送りな気もするが、マルコとキッカが大きくなってからなら、その時は自分達でイフに習うか決めてもらおう。大きくなっているんだから、自己責任だ。


 しかし、とっさのことにしては、上手な言い訳だった気がする。もしかして、これもレベルアップで知力が上がったおかげなのかな? 言い訳が上手になったことで、知力が上がったのを実感するって、なんか情けないな。


「裕太さん、始まりましたよ。精霊樹を見てください」


「始まる?」


 変なところでショックを受けていると、突然ドリーが不思議なことを言い出した。


「えっ、なんで精霊樹が光ってるの?」


 ドリーに言われたとおりに精霊樹を見ると、なんか光っていた。意味が分からん。


「ふふ、もうそろそろだと思っていたんですが、今回の精霊樹を見ながらのお茶会が切っ掛けになったようですね。見ていてください。精霊樹が花を咲かせます」


 花? 精霊樹の果実があるし、花が咲いても不思議じゃないけど、あの大木が花を咲かせるのか。


「でもドリー、なんで花を咲かせるのに光るの?」


「そうですね。普通に花を咲かせる時は光らないので、裕太さんに見せるために頑張っているんだと思います」


 頑張ると光るのか。さすが精霊樹、普通の木とはやることが違うな。妙な感心をしながら精霊樹を見ていると、枝一杯に生き生きと生い茂っていた葉っぱが、下から順にピンク色に変わり始めた。


「これは……桜?」


 精霊樹って桜の木だったの? でも、普通桜って花のあとに葉っぱが出てくるよね? でも、どう見ても桜だ。大きさを考えなければ……。




「ふふ、裕太さん、精霊樹の花は気に入りましたか?」


 あまりの光景に言葉を失ったまま桜を見ていると、ドリーが声を掛けてきた。


「う、うん。桜は俺の大好きな花なんだ。ビックリしたけど、とても気に入ったよ。それにしても、精霊樹って桜の木だったんだ。気がつかなかったよ」


「精霊樹は精霊樹ですから、桜の木ではありませんよ。でも、裕太さんの世界にも桜の木があるんですね。この世界にも桜が生えている島がありますよ」


「へー、この世界にも桜の木があるんだ。でも、あれってどう見ても桜の花だよね?」


「たぶんですが、裕太さんが桜を好きなので、桜の花を咲かせたんだと思います。普通の場合は真っ白な花を咲かせますからね」


「えーっと、なんで精霊樹は俺が桜を好きだって知っているの? 精霊樹って心が読めたりする?」


「いえ、精霊樹に心を読むような力はありません。前に裕太さんが庭で宴会をしている時に、裕太さんの世界のお花見について話していたじゃないですか。そのことを精霊樹も覚えていて、桜の花を咲かせたんでしょう」


「そうなんだ」


 うーん、宴会の時にお花見みたいだって思った気もするが、お酒が入っていたし、あんまりハッキリと覚えてないな。まあいいか。日本人にとって、桜は特別な花。それをわざわざ咲かせてくれたのなら、感謝して綺麗な桜を楽しもう。


 ちょこっとだけ気になるのは、俺が桃の花が好きだったりしたら、桃の花を咲かせてくれたのかな? 自由に咲かせる花を変えられるのなら、金木犀きんもくせいもお願いしたい。花は小さいけど、匂いが好きなんだよね。


「あら、それならお花見ができるわね。たしか、桜を見ながら飲めや歌えやって楽しむのよね?」


「シルフィちゃん。それ楽しそうねー。裕太ちゃん。お姉ちゃんもお花見がしたいわー」


「花見か。花を肴に酒を飲むってのも粋だな。裕太、花見をしようぜ!」


 ……お花見の話題にシルフィが食いつき、ディーネとイフが便乗した。ヴィータもニコニコと笑っているけど止めないし、宴会に賛成なんだろうな。さすが大精霊、宴会のチャンスは逃さない。


「裕太さん、すみません」


 自分の言葉が切っ掛けで宴会の話になったのが申し訳なかったのか、ドリーが謝ってきた。もう、その気持ちだけで充分です。癒されます。


「大丈夫だよ。お花見は俺にとっても楽しい行事だし、せっかくだから宴会をしようか」


 今から準備をして、夜桜を見ながら宴会ってのも楽しそうだ。前に精霊樹の近くで宴会したのは、大宴会の時だったな。あの時は遊びに来ていた精霊達も一緒だったから、大騒ぎだった。


 それを考えると、遊びに来ている精霊がいない今日、宴会するのはいいタイミングな気がする。大宴会も楽しいけど、ゆっくり桜が見られそうにないもんな。


「ふふ、それならよかったです」


「あっ、ドリー、また精霊樹が光りだしたんだけど……」


 なんでまた光るんだろう。もしかして、二段階変身? 次が真の姿で戦闘能力が爆上がりするとか?


「……あら、魔力が高まっています。おそらく精霊樹が意識体を生み出そうとしているんでしょう。普通よりもかなり早いです。楽園が気に入ったのか、早くみんなと遊びたくなったんでしょうね」


 そういえば、前にそんな話を聞いたな。精霊樹にも意思があって、なんちゃらって言っていた気がする。それが今、生み出されようとしているのな。しかも、早くみんなと遊びたいって理由っぽいんですが、それでいいんでしょうか?


 疑問に思っている間に、精霊樹の光がテーブルの上に集まりだした。なんだかベル達が自然の鎧を生み出す時に似ているな。自然の鎧も魔力が関係しているんだし、魔力が高まって意識体が生み出されるのなら、似たようなものかもしれない。


 でも、テーブルに魔力が集まるってことは、俺達の目の前に意識体が生み出されるってこと? お茶会に参加するつもりなのかな?


 俺と大精霊達が注目する中、凝縮された魔力が何かを形作るように動き、ポンッと小さな音をたてて何かが現れた。


「あう!」


 ……目の前で薄ピンク色の髪をした可愛らしい赤ん坊が、ふわふわと浮きながら、あうっと言ってピコッと小さな手を挙げている。


 浮遊精霊の赤ちゃんよりかは育っているかな? ベルと比べると浮遊精霊の赤ん坊よりで、ハイハイか掴まり立ちするくらいの子供……まあ、赤ちゃんだな。つぶらな瞳で俺をジッと見つめている。俺はどうしたらいいんだろう?


別作品でのお知らせになるのですが、

「精霊達の楽園と理想の異世界生活」の前に更新させていただいていた、

「めざせ豪華客船!!」を宝島社様から書籍化して頂ける事になりました。

それに伴い、明日、4/28日から「めざせ豪華客船!!」の更新を再開したいと思います。

十章を削除して、別の方向に話を展開できたらと思っておりますので、覗いて頂けましたら幸いです。

詳しい情報が分かりましたら、活動報告等でお知らせさせていただきますので、よろしくお願いいたします。


読んでくださってありがとうございます。


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